「昼飲み・お通し・ボトルキープ」在日外国人が「居酒屋」文化に触れる噺
2025,7,11 更新
訪日観光客からも注目されている「居酒屋」。日本人にはすっかりおなじみの業態ですが、外国人にとって「居酒屋」の魅力はどこにあり、彼らは何に惹かれるのか。海外赴任経験もある、「居酒屋礼賛」主宰の浜田信郎(しんろう)さんが、在日歴の長い外国人と酒を酌み交わしながら、世界に誇れる日本の文化「居酒屋」について語り合いました。
「居酒屋」の歴史について
いつ居酒屋が誕生したかについて正確な記録は残っていませんが、有力な参考文献といえるのが『続日本紀(しょくにほんぎ)』です。同書には、761(天平宝字5)年に平城京(現在の奈良県)の酒肆(しゅし。酒を売る、飲ませる店のこと)で起きた事件が記されており、これが居酒屋について書かれた最古の記録とされています。
大衆的な居酒屋は、中世~近世になってから根付いたと考えられています。1603(慶長8)年に江戸幕府が開かれ、町づくりのために全国から独身男性を中心に労働者が集まってきました。彼らの食事は外食が中心。仕事終わりには、現在のようにお酒を飲んで活力を養ったり、コミュニケーションを深めたりしていました。こうしたニーズに応える形で角打ち(酒屋の一角で飲むこと、または飲める酒屋のことなどを指す)の酒屋や飲食店が、現在の居酒屋へ進化して今に至ります。
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また、居酒屋のメニューは伝統的な日本の料理に加え、お店によっては洋食や中華、エスニックなど、独自のおつまみも食べられます。さらに、品数が豊富なことも魅力だと浜田さんは話します。
「居酒屋の代表的な組み合わせのひとつが、鮮魚の刺身を醤油とわさびで味わい、日本酒と合わせるペアリング。海外の日本料理店にも似たようなメニューはありますが、さすがに本場のおいしさには敵わないと思います。
そして、和洋中のどんな料理にも幅広くマッチするお酒が“チューハイ”。おいしくて自由度の高いメニューを、しかもリーズナブルな価格で味わえるわけですから、世界中から愛されているのだと思いますね」(浜田さん)
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“ファースト居酒屋”はチェーン店だった
浜田 お二人とも日本に来て最初に入った居酒屋はどんなお店でしたか?
フロリアン 焼鳥のチェーン居酒屋でした。そこはメニューの価格も均一で、すごく安くてお得だなーと驚いた記憶があります。当時を振り返っても、すごくリーズナブルなお店だと思いますし、今でもたまに行きますよ。
ガイル 僕もチェーンの居酒屋です。そのお店も安かったですね。チェーン店のよさは、お得なプライスと安定感のある味。あと、メニューリストがわかりやすいのも魅力です。写真付きで、英語で書かれていることも多いですからね。
浜田 確かにそうですね。僕も、昔は便利なスマホの翻訳機能がなかったから、外国のお品書きになんて書いてあるのかわからなくて苦労したことがありました。ということで、ドリンクを注文しましょうか!皆さん、焼酎ハイボール(チューハイ)でいいですよね。
三人 はい、カンパーイ!
●ガイル・デルヘイ(右)/ベルギー出身。同じく日本人女性との結婚を機に移住し、10年目を迎える。ワイルドチャイルド社の共同創立者で、ロンドンでファッションカメラマンとして活躍していた経歴も。好きなお酒はビールで、濃厚なタイプや辛口を好む
フロリアン メニューでいえば、おいしさとバリエーションの豊富さ。料理はもちろん、お酒の種類も悩むぐらい多い。ワインとか、ウイスキーやジンもあったりしますからね。
ガイル そう、悩む悩む(笑)。レシピも店それぞれですよね。
浜田 うんうん。煮込みひとつとっても、野菜の有無や、醤油味か味噌味かでも違いますもんね。
お客さんとの一体感が「居酒屋」の魅力
フロリアン にぎやかで楽しいところ。日本は平和でいい国だなーって感じます。
ガイル おしゃべり好きの店主や女将さんがいるお店ってあるじゃないですか。積極的に話しかけてくれると、私たちの緊張もほぐれるのでいいなって思います。
ガイル お客さんとの一体感も魅力だね。ベルギーやロンドンにも、スタンディングのパブやスポーツバーに行けば一体感があるんだけど、日本の居酒屋はテーブル席でもそれがある。だから知らない人とも仲良くなりやすいし、新しい出会いも生まれやすいと思います。僕自身、居酒屋でできた友達がいるし。
浜田 短冊メニューや一体感の魅力は、老舗の大衆酒場になるともっと感じられるかもしれません。
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フロリアン そうですね。あと、ローカルの居酒屋にも。地方には都会と違ったご当地料理があるし、お酒も九州は焼酎、沖縄は泡盛と、地域色が出て面白いです。もちろん、東京のご当地居酒屋にもその魅力はあるんですけど、現地の本場感はまた格別!
ガイル 東京にも時々タイムスリップしたような古い居酒屋があって、デザイン的にもすごく興味深いです。あとは、店主の趣味がテーマになっているお店もあって面白い。「ここはベースボール好きなんだな~」とか。
浜田 ふたりともすごい! よく観察してますね。では、日本の居酒屋で、一番驚いたことは?
浜田 なるほどね。では母国についてだけど、フランスやベルギーにもいくつかの和風レストランや日本料理店はあるかもしれません。でも、もっと大衆的な居酒屋はありますか?
フロリアン パリなどの大都市には数軒ありますけど、メジャーではないですね。ただ、日本の食文化は年々人気が拡大しているので、居酒屋も徐々に増えていく気はします。
ガイル ベルギーも同じかな。コース主体の高級日本料理店や、寿司、ラーメン、天ぷらなどを提供する日本食レストランのほうが主流で、家庭的な料理をつまみながらお酒を楽しむ大衆居酒屋となると、まだ少数かと思います。
浜田 僕が赴任していたブラジルのレシフェもそう。スシバーとかはありましたが、大衆的な居酒屋はほぼなかったです。サンパウロなど、日系移民が多い地域にはありましたけどね。
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海外にはボトルキープの仕組みはない?
フロリアン 常連のお客さんがいるお店は欧米にもたくさんあるんですけどね。でも、ボトルキープは珍しい文化だと思いました。少なくとも、私がフランスにいたときは見たことがありません。ワインだって、飲み切ることが前提ですから。
ガイル 私も、日本以外ではボトルキープって見たことないです。
浜田 南米もそうですね。例外として、日系移民が多い地域の居酒屋やカラオケ店にはあったような。でも「ボトルキープ」という言葉自体、和製英語なのかもしれませんね。
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不思議な「お通し」というスタイル
浜田 確かにそうですね。外国のほうが、食べる店と飲む店とが、目的別にもっとはっきり分かれてる気がします。
浜田 最初の「とりあえず○○」みたいな考え方も、日本独自かもしれないですね。
フロリアン フランスだと、レストランやビストロは食事が主目的で、バーはお酒がメイン。ブラッスリー(ビストロよりもカジュアルな、ビールを主体とした酒場)や、お酒も提供するカフェなどでは追加オーダーもしながら楽しみますが、日本ほどの気軽さで頻繁に注文はしないですね。
ガイル 欧米でも例外があるとしたら、スペインのバルじゃない? バルは小皿のタパスやピンチョスをちょこちょこオーダーするから、居酒屋とシステムは似てるかな。
浜田 お金や支払いに関する習慣といえば、お通しも日本の、特に居酒屋に多い気がします。どう思いますか?
フロリアン お通しは、すごく不思議ですね。好みに関わらずおつまみが出てきて、お金を取られますから。でも、欧米も国によってはテーブルチャージ料やサービス料みたいなものが大衆的な店でも発生するし、アメリカやイギリスなどはチップの習慣も色濃いですよね。それが居酒屋の場合、お通しにあたるのかなって思ってます。
ガイル たとえばイタリアには「コペルト」というテーブルチャージみたいな習慣があるんですけど、その概念と紐づいてパンが自動的に提供されるんですよ。それがお通しだと考えれば腑に落ちます。それに、日本は水が無料ですからね。
浜田 海外の飲食店であれば、飲料水は有料という考えが一般的ですもんね。欧米では「水は、スティル(無炭酸)にしますか、スパークリング(炭酸入り)にしますか?」と聞かれることもありますし。
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二人が選んだおつまみは?
フロリアン お酒は、ビールとチューハイ、あとはやっぱりワイン。チューハイは、レモン入りのフルーティーなタイプが好きです。すっきりさっぱりしていて、あっさりした料理にも濃い味にも、すごく合いますね。おつまみは刺身が好きで、特にサーモンとマグロが好物。
ガイル 私はビール党ですけど、日本酒やチューハイもクール! おつまみは、タコワサが好きです。
ガイル ヨーロッパ人はほとんどタコを食べないから、最初は私も苦手意識がありました。でも日本に来て食べてみると、食感もワサビの辛さもクセになる味。お店でタコワサがあったら、必ず注文します。
ガイル はい(笑)。このお店にタコワサがあれば、マストでいってますよ!
フロリアン ちなみに、私の大好きなお刺身は、日本酒と一緒に注文するために温存してます。
浜田 お! わかってるね~(笑)。では次の注文でいきましょう! 「ポテトマカロニサラダ(煮卵付き)並」(539円)をオーダーした理由は?
ガイル ポテトサラダは、多くの居酒屋さんにあるじゃないですか。お店のこだわりを感じられると言いましたけど、もっといえば、どんな工夫をしているかなど、そのお店の力量がわかると思うんですよね。ポテトサラダがおいしいお店にハズレはないと思っています。
フロリアン 私が「若鶏の唐揚げ」(748円)を注文した理由も、それに近いですね。お店ごとに個性が出るじゃないですか。こちらのお店は大ぶりで、サクサク感の強い衣で、すごくおいしい!
フロリアン はい。醤油ベースだったり、生姜を使っていたり。もちろん、スパイスフルなフライドチキンも好きですけど、唐揚げはチューハイやレモンサワーにもすごく合います。
浜田 「辛味噌きゅうり(旨辛コチュジャン)」(440円)をオーダーしたワケは?
フロリアン あっさりヘルシーな、野菜系のおつまみがあったほうがいいなと思って。
外国人の「居酒屋」の楽しみ方
フロリアン はい、仕事仲間と行くことがほとんどです。ファミリーで食事をするときは、子どもやお酒を飲まない人もいるので、普通のレストランに行きますね。
ガイル 私も、居酒屋には友だちや仕事仲間と行くことが多いかな。うちは家族で出かける時はだいたい車移動で、私が運転を担当するんですよね。だからお酒は飲めないし家族とは居酒屋に行かないですね。
浜田 お店はどうやって探してますか?
ガイル スマホで調べたり、住んでる街ならママ友パパ友などからオススメを聞いたり。地方に行ったときは、その地の仕事関係の方から教えてもらいます。予約はあまりせず、するとしたら混みやすい金曜ぐらいですね。
浜田 では、居酒屋に「こうなったらもっといいのにな」って思うことはありますか?
フロリアン ベジタリアンやヴィーガンの友人がけっこういるので、そういったメニューが充実している店があれば、彼らと飲む際に行きやすいなって思います。
ガイル キャベツをおかわりできるお店が、もっと増えたらいいなって思います(笑)。
<取材協力>
住所:東京都荒川区西日暮里5-15-8 今井ビル1F
営業時間:16:30~24:00、日曜祝日15:00~22:30
定休日:なし
※価格はすべて税込みです
取材・文/中山秀明 撮影/鈴木謙介
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