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「角を曲がれば景色が変わる」角田光代×倉嶋紀和子が語る、山と旅、そして下山酒の噺

「角を曲がれば景色が変わる」角田光代×倉嶋紀和子が語る、山と旅、そして下山酒の噺

2026,11,6 更新

作家・角田光代さんと倉嶋紀和子さん。『酒噺』では以前「東京・沿線ぶらり酒」で西荻窪の酒場を巡りながら、お酒の魅力について語っていただきました。そんなお二人が共通して愛するのが「登山」です。
山を歩く楽しさはもちろん、その土地ならではの景色や食、人との出会いもまた登山の大きな魅力。前編では千葉・鋸山(のこぎりやま)の登山を満喫したお二人が、続く後編ではフェリーで東京湾を渡り、神奈川・三浦半島の久里浜へ向かいます。下山後の一杯を楽しみながら、山と旅の共通点や心に残る出会い、そして次に歩いてみたい山について語り合っていただきました。

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●角田光代(右)/1990年に『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞してデビュー。2005年に『対岸の彼女』で直木賞を受賞。そのほか受賞作、著書ともに多数。夫でミュージシャンの河野丈洋さんとの共著『もう一杯だけ飲んで帰ろう。』や『あしたはアルプスを歩こう』など、酒や山にまつわる作品も多数手がける。近著は『明日、あたらしい歌をうたう』

●倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任。近著は『口開け酒場でひとり呑み』

東京湾をわたるフェリーで、「タカラcanチューハイ」を片手に乾杯!

前編で登った鋸山は、江戸時代から昭和にかけて続いた石切り場としての歴史を物語るダイナミックな断崖絶壁や、重厚な産業遺産の数々が訪れる者を魅了する低山。二人は休憩を挟みながら、約2時間の登山を楽しみました。

その後は、ふもとにある「金谷港」から東京湾フェリーに乗り込み、神奈川県横須賀市の「久里浜港」へ。約40分の船旅では海上から房総半島~三浦半島などの景観を満喫できるほか、晴れた日には洋上越しに雄大な富士山を望む絶景も楽しめます。
【前編はコチラ】
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乗船した二人はさっさく最上層のオープンデッキへ。
二人 まずは、カンパーイ!

角田 「タカラcanチューハイ」、やっぱりおいしいです。私このレモンが特に好きで、爽快感がたまりません!
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倉嶋 焼酎のコクとレモンの酸味、炭酸のシュワシュワ感が絶品ですね。昭和から続くロングセラーならではの安定感、そして角田さんと甲板で飲む、このシチュエーションも幸せです。

角田 鋸山から見えていた三浦半島に、本当に来ちゃいましたね。

倉嶋 ですね(笑)。角田さんの「フェリーで行ってみません?」という提案、大正解でした。

角田 こうして海から眺める景色もいいですね。久里浜もずいぶん久しぶりです。
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倉嶋 私も久里浜で飲むのは久しぶりなので、ワクワクしています。

角田 いまから向かえば、お店もちょうど口開けの時間ですよね。楽しみです!

港町の名酒場「海蔵」で、下山後の店選びを語る

漁業や海運の拠点として栄えた港町の面影を残す久里浜には、地元の人々に愛される魅力的な名酒場が随所に。今回はそのなかから、京急久里浜駅やJR久里浜駅から徒歩4~5分の場所にある「海蔵(みくら)」を訪れました。

同店は、地魚や三浦野菜を中心とした旬の味覚が自慢。山歩きの心地良い余韻に浸りながら杯を交わします。
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二人 あらためてカンパーイ!

倉嶋 全量芋焼酎「一刻者」もおいしいです! 芋ならではの甘やかな香りとうまみが、山歩きした後の身体にしみますね~。

角田 倉嶋さんはお湯割りですよね。私のソーダ割りは、フルーティーな風味と爽やかな飲み口ですっきり。

倉嶋 飲み方で味わいが変わる点も、本格焼酎の魅力ですよね!
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角田 それにしても倉嶋さん、こちらも素敵なお店ですね。登山後のふもとで飲むとなると初めての場所も多いと思うんですけど、「ここはいい店だ」と感じるポイントは何ですか?

倉嶋 「海蔵(みくら)」さんの場合は、まずは「海」と「蔵」の店名に惹かれました。港町ならではの新鮮なお魚と、お酒にこだわっていそうじゃないですか。

角田 確かに! 入口には杉玉(古くから酒蔵の軒下などにかけられてきた、いわば酒造りのシンボル)も飾ってありました。

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倉嶋 今日みたいな港町の場合はお魚がフックになりますけど、基本的には木造建築や看板建築など、長年愛されてきた雰囲気のお店が好きです。特に登山後は、食堂によく行きますよ。
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角田 必ずしも居酒屋ってわけじゃないんですね。

倉嶋 もちろん居酒屋も最高なんですけど、山は早朝から登ることが多いですよね。となると、下山して飲み始めようと思っても、まだ外が明るい時間だったりするじゃないですか。

角田 なるほど。その時間だと、まだ開いていないお店も多そうですね。

倉嶋 はい。食堂はお昼から開いていますし、アイドルタイムを設けず夜まで通し営業をされているケースもありますから。そういったお店で、おかずをつまみながらお酒を飲むんです。

角田 ごはんは頼まずに?

倉嶋 そうですね。お米が自慢の食堂であれば白米をつまみに飲むこともありますけど。でも、お味噌汁は飲みたいです。大好きなので(笑)。
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角田 定食は副菜やお新香もセットだから、ちょこちょこつまめていいですよね。

倉嶋 そうなんです。アテのフルコースといいますか(笑)。角田さんの場合、下山後のお店選びはどうされているんですか?

「帰宅までが登山」派の角田さんが惹かれる店とは

角田 帰宅までが登山だと考えているので、ふもとの町で飲むことはほぼないんです。ただ、私も長年愛されているお店に惹かれます。

倉嶋 ですよね。老舗イコール、人気があるから続いている証ですもんね。

角田 たたずまいにも惹かれます。匂い立つ風格があるというか。あとは、お品書きに並ぶ実直な献立とか。

倉嶋 メニュー名ですか?

角田 下山後は、「○○をまとった○○の○○仕立て」のような情報量の多いメニューよりも、シンプルでわかりやすいほうが刺さります。でも、私は倉嶋さんほどの経験値はないので、もし行くとしたらしっかり調べてから入ると思います。「量は多すぎないかな」とか「一人でも入れそうかな」とか。
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倉嶋 角田さんは小食なので、量は大事ですよね。とくに食堂となると、サービス満点のお店も多いですから。

角田 倉嶋さんは、これまで下山後に行ったお店で印象に残っているところはありますか?

倉嶋 最近ですと、ハイキングのあとに行った飯能駅(埼玉県飯能市)前の「おらく」さんです。先代が寿司職人で、その名残を感じる居酒屋ですね。お魚の質はさすがで、特にお刺身が絶品でした。角田さんは、下山後にはあまり飲まないっておっしゃっていましたよね。

角田 でも帰路に、中央線沿線まで戻ってくれば飲むこともありますよ。特に登山やマラソンのあとは疲れているからか、自分でも驚くほど食べられるんです。数品つまんだあと、ごはんもので締めることもあって。

倉嶋 え! 角田さんがそういう飲み方をされるのはよっぽどですね。お店はどちらに行かれるんですか?
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角田 たとえば前にご一緒した西荻窪ですと、数年前まで駅の北口にあった「立呑み晩杯屋」は明るい時間から開いていて飲みましたね。あとは、もう閉店しちゃったんですけど、素敵な中華酒場があって、そこではチャーハンまでいただきました。

倉嶋 締めのチャーハン、いいですね!

山も酒場も「行ってみないとわからない」

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角田 ところで倉嶋さんは、山登りと酒場巡りをほぼワンセットで楽しんでいるじゃないですか。共通点はありますか?

倉嶋 山も酒場も、行ってみないとわからない面白さがありますよね。巡り合わせも大きいと思います。

角田 それはありますね。私の場合は相性も大きいです。名峰に登ってもピンとこないことがあるし、逆に期待していなかった山がすごく好きになることもあります。

倉嶋 酒場も同じですね。有名店だから好きになるとは限らないし、偶然入ったお店が忘れられなくなることもある。

角田 そう考えると、山と酒場って似ていますね。私の場合、「また行きたい」と思う山もあれば、「もう十分かな」と思う山もありますし。

倉嶋 なるほど。

角田 まあそれでも、富士山には二度と行かないでしょうね(笑)。

倉嶋 富士山は登山客の方が本当に多いですからね。行列や混雑が苦手な人には向いてないかもしれません。

角田 そういう意味でも、自分に合う場所との出会いって大事なんでしょうね。

倉嶋 酒場との巡り合わせは、地方だとなおさらです。一期一会のケースも多いですし、訪れた日が定休日だと、そもそも出会えませんから。
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角田 出会いといえば、これまで行った山や、地方の酒場で思い出に残っている人はいますか?

倉嶋 登山中に会った方からおすすめの山を教えてもらったり、下山後の名酒場を聞いたり。そうした出会いは本当にうれしいです。それで行ってみると、どれも私好みでバッチリ合うんですよね。

角田 山は「登る」という共通の目的があるから、初対面でも会話が弾みやすい気がします。

倉嶋 そうなんですよ。角田さんは私より登山歴が長いし、これまで素敵な出会いもたくさんあったんじゃないですか?

角田 自分から話しかけるタイプではないんですけど、人生初登山のイタリア・ドロミテ山脈でガイドをしてくれた、ルイージ・マリオさんとキヨカさんはいまも鮮明に覚えています。

倉嶋 著書『あしたはアルプスを歩こう』にも登場する、クライマーのご夫婦ですね。

角田 はい。直火式のエスプレッソメーカーでコーヒーを淹れたり、ワイン用の立派なグラスを持ってきていたりと、イタリアらしいブラボーなお二人で、贅沢で楽しい旅でした。

倉嶋 それは楽しそう! お酒の味も格別だったでしょうね。

「角を曲がれば景色が変わる」登山と旅の共通点

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角田 倉嶋さんは、ふだんと下山後とで飲み方は変わりますか?

倉嶋 いちばんはやっぱり、飲みすぎないように意識することです。いつもより朝早く起きますし、登山後は疲れているので、飲むペースには気を付けています。

角田 私も登山後はもちろん、出張のときはそうなります。馴染みのない土地は緊張するので、自然と控えめになりますね。

倉嶋 角田さんは国内外さまざまなところへ行き、旅に関するエッセイもたくさん書かれているじゃないですか。登山と旅にはどんな共通点があると思いますか?

角田 たくさんの共通点があります。あの角まで行ったら景色が変わるかもしれないと思って進むんですけど、着いてみたらまた次の角がある(笑)。その繰り返しなんだけど、それが魅力だったりして。実際にそこまで行かなければ見られない景色もありますし。とはいえ、必ずしもそれが、人生をより良くしてくれるわけじゃない。でも、「わあ!」って思える瞬間があれば、それでいいと思います。
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倉嶋 うんうん。それが旅や登山の醍醐味でもありますね!

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山を歩いて、その土地を味わう

下山後にお酒を堪能するとしたら、どんな楽しみ方がおすすめなのでしょうか。山を歩いた先にある、その土地ならではの味覚や一杯の魅力について語り合っていただきました。

角田 倉嶋さんは食堂飲みがおすすめとおっしゃっていましたけど、下山後はどんなものを頼むことが多いんですか?

倉嶋 やっぱり郷土料理ですね。今日歩いた鋸山のある房総エリアでしたらアジフライやなめろう、久里浜でしたらマグロ料理とか。その土地ならではのものは、できるだけ食べたいです。
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地元で獲れた「鰺の揚げ出し」。
角田 わかります。せっかく来たんだから、その土地の名物を味わいたいですよね。

倉嶋 あとは漬物も好きなんです。地元の野菜を使った自家製のものだと、なおうれしいですね。

角田 私は量をたくさん食べられないので、一人で入ったお店なら軽めの前菜とか、ポーションの小さいものを選ぶことが多いです。でも食堂で定食を食べるなら、やっぱりその土地ならではのものを選びたいですね。

倉嶋 お酒もできるだけ地元のものを飲みます。特に生酒があると飲みたくなりますね。

角田 下山したあとって、どんな順番で飲むんですか?

倉嶋 最初はチューハイなどの炭酸系のお酒で喉を潤してから、焼酎でほっこりしたり、その後は地酒でしっぽり飲んだり、というスタイルが多いかも。

角田 私はふだんからレモンサワーなどの炭酸系が多いですけど、特に運動したあとはシュワシュワ系でリフレッシュしたくなりますね。

倉嶋 わかります! 今日のチューハイも最高でした。やっぱり、疲れたあとだと、よりおいしく感じるのかもしれません。
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角田 振り返ると、今日は本当に最高の一日でした。山あり、緑あり、海あり、船あり。そしておいしいおつまみとお酒もあって。

倉嶋 ですね。登山を始めてまだ5年ほどですけど、山を歩いてフェリーに乗って、そのあと港町で飲むというのは、過去イチかもしれません。

角田 鋸山は首都圏からのアクセスも良いし、標高も高すぎないので歩きやすく、観光の側面もあるので初心者の方にもおすすめだと思いました。

倉嶋 はい。今回はフェリーで久里浜に来ましたけど、房総の富津エリアにも素敵な食堂や酒場がたくさんありますからね。

角田 ほかに初心者向けの「登山と酒場」のコースとなると、どの山がいいでしょうか?

倉嶋 首都圏なら、まずは高尾山ですね。アクセスがよくて、下山後のお店も充実しています。

角田 確かに。それで慣れてきたら、JR藤野駅(神奈川県相模原市)から景信山や陣馬山といった奥高尾コースに挑むのもいいかもしれませんね。

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倉嶋 角田さんと一緒に奥高尾も歩いてみたいです。以前、角田さんが書かれた奥高尾のコースについてのエッセイを読んで、「いつかご一緒したいな」と思っていたんですよ。

角田 それはうれしいですね。またぜひ行きましょう!

倉嶋 ほかには神奈川の大山、埼玉の宝登山(ほどさん)、茨城の筑波山なんかもおすすめです。ケーブルカーやロープウェイを利用できるので、気軽に楽しめますよ。
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角田 宝登山って秩父の長瀞(ながとろ)でしたっけ?

倉嶋 そうです。低山で歩きやすいし、寳登山神社や岩畳など観光も楽しめるんですよ。

角田 荒川上流の、渓流下りで有名なやつだ。紅葉とセットで行きたいですね!

倉嶋 いいですね! 下山後は温泉や秩父ホルモン飲みを楽しむコースがいいかもしれません!

角田 それだ!
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運動とレジャーを兼ね備え、お子さんからお年寄りまで楽しめる登山。美しい自然に恵まれた日本には、初心者でも歩きやすい低山が数多くあります。山を歩き、その土地の景色や名物を味わい、ときには下山後の一杯を楽しむ。そんな旅気分もまた、登山の醍醐味のひとつかもしれません。

鮮やかな紅葉に彩られる秋は、まさにベストシーズン。しっかり準備を整えて、まずは気軽なハイキングから始めてみてはいかがでしょうか!

<取材協力>
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