作家・角田光代×倉嶋紀和子が鋸山を歩きながら語る、「山と酒」の噺
2026,10,23 更新
作家・角田光代さんと倉嶋紀和子さん。『酒噺』では以前「東京・沿線ぶらり酒」で西荻窪の酒場を巡りながら、お酒の魅力について語っていただきました。そんなお二人が共通して愛するのが「登山」です。
そこで今回のテーマは登山とお酒。前編では千葉県の鋸山(のこぎりやま)を歩きながら、山の楽しさとお酒との付き合い方について語り合っていただきました。
●倉嶋紀和子(右)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任。近著『口開け酒場でひとり呑み』
鋸山について
標高は329.5mと親しみやすい高さながら、山名の由来となった“ノコギリの刃”のような岩肌を残す採石場跡のダイナミックな断崖絶壁や、大仏や千五百羅漢像が鎮座する日本寺(にほんじ)などを有し、見どころ満載。山頂付近まではロープウェーが運行しているため、観光や散策目的の短時間滞在からしっかりとしたハイキングまで柔軟に楽しめます。
晴れた日には、東京湾越しに富士山や伊豆半島、三浦半島などを一望できる絶景が広がり、歴史的遺構と古刹の趣、さらに自然美が調和した独特の景観は、訪れる人々を魅了してやみません。
いざ、鋸山へ!
「産業遺産巡りコース」のスタート地点は、JR「浜金谷駅」から続く「車力道(しゃりきどう)コース」との分岐付近。まずは石を運び出した重厚な切出し痕が残る圧巻の岩壁群を目指して歩き始めました。
※2026年10月23日現在、JR内房線は、台風25号による土砂崩れの影響で「姉ケ崎駅 ~ 長浦駅間」が不通となっています。最新の運行状況はJR東日本の公式サイトをご確認ください。
角田 私も! 前々から「こんど行きましょう」なんて話してましたけど、ついに実現しましたね。楽しみです!
倉嶋 今日の鋸山は共に初体験ですし、観光の面でも見どころ満載のスポットですから、ますます楽しみです。
角田 アクセスもすごくいいですよね。「浜金谷駅」から徒歩10分程度で登山口まで来られましたし。
倉嶋 駅前の雰囲気も、のどかで素晴らしかったです。東京からのアクセスも、電車やバスを乗り継いで2時間程度と遠すぎず、日帰り旅の目的地としても魅力的です。
角田 鋸山、詳しく調べてなかったですけど、この「産業遺産巡りコース」は絶景スポットが豊富で、面白い景色がたくさん見られそうですね。
角田 まずは、途中の絶景スポットを目指していきましょうか。
登山のきっかけと、思い出の山
角田 はい。最初はテレビ番組の仕事で登った、イタリアのドロミテ山脈でした。2003年なので、もう20年以上経ちました。
倉嶋 そうそう、著書でも書かれていましたよね。でも、最初がイタリアとはすごい!
角田 すごく贅沢な体験をさせていただきました。でも当時はハマらず、しばらくはまた登りたいと思わなかったですね。倉嶋さんの初登山は?
倉嶋 私は、類さん(酒場詩人、イラストレーターの吉田類)にお誘いいただいて、高尾山に登ったのが最初です。もう人生が変わるような体験で、下山後のお酒もふだん以上においしくてハマっちゃいました!
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倉嶋 奥高尾もいいですよね。私、景信山(かげのぶやま)も大好きなんです!
角田 あの景色は最高でしたね。そのときは晴れていたから、小仏峠付近で視界が開けた瞬間に相模湖がパッと見えて感動しました。初めて山の魅力を知って、それ以来、山を登ったり走ったりするようになったんです。
倉嶋 今日もときどき海が見えるスポットがあって、この雄大な景色も鋸山の魅力ですね。
倉嶋 去年の夏に行った、富山の立山雄山です。飲み友であり、登山仲間でもある菖蒲さん(菖蒲理乃/しょうぶ あやの。テレビ東京「二軒目どうする?」の“おつまみさん”としても参画している)と一緒に行って、初めて山小屋に泊まったんです。美しい満天の星、そしてなんといっても夜空を眺めながら飲む酒が最高でした。
角田 いいですね! 実は私、まだ1泊した経験はなくて。なんとなく、山小屋ってストイックなイメージがしていたので。
倉嶋 私もそう思っていたんです。でも私たちが泊まった室堂(むろどう)の山小屋はお酒も料理も充実していて、初めての方にもおすすめしたい快適さでした。角田さんの思い出の山はどちらですか?
角田 私は、山形と秋田にまたがる鳥海山(ちょうかいさん)。こちらも仕事で4~5人の登山だったんですけど、高山植物の花が咲いていたり、遠くに凛々しい木があったりと、移り変わる景色が楽しくって。
角田 山頂エリアがカルデラに囲まれていて、2つの異なる山頂があるんですよね。そこまで行くかどうかという、体力や度胸が試される山でもあるんですけど。あとは、ふもとの温泉も最高でした。
倉嶋 下山後はお酒も至福ですけど、お風呂も格別ですよね。私も、立山雄山下山後すぐの温泉はめちゃめちゃ気持ちよかったです。
「観音洞窟」に到着! 次に登りたい山は?
角田 ところどころ、日本っぽくない雰囲気もありますよね。これが江戸時代から昭和にかけて形づくられたとは!
倉嶋 いやぁ本当、思っていた以上に面白い山ですね。今日は角田さんも一緒だし、絶対思い出に残る登山になりますよ!
倉嶋 八ヶ岳です。山ももちろんなんですけど、最南端の編笠山(あみがさやま)と権現岳(ごんげんだけ)の間に「青年小屋」という山小屋があるんですね。こちら、赤ちょうちんをぶら下げているらしく、お酒も充実してるということで。
角田 すごい! 倉嶋さんは絶対行くべきですね。
倉嶋 はい。それもあって、八ヶ岳は目標としている山のひとつです。角田さんの行きたい山はどちらですか?
倉嶋 秩父は私もイチローズモルトの秩父蒸溜所に仕事関連で行ったぐらいしかなく、登山となるとまだなんですよ。
角田 池袋から秩父までは最短で80~90分と、けっこう近いんですけどね。
倉嶋 自然が豊富なのはもちろん、盆地なのでちょっと高台に行っただけでもジオラマのような街の景色が見られたりして。下山後には秩父ホルモンや秩父そば、みそポテト、みそおでんなどご当地グルメも豊富です。おまけに温泉も充実してますから、登山するしかない! 私も行きたくなってきました!
角田 次にご一緒するなら、秩父に決まりですね!
倉嶋 角田さんは、関東近辺の有名な山は経験済みかと思ってました。トレランもやってらっしゃいますし。
角田 いやいや、今日の鋸山も初めてですし、そうでもないんですよ。
登山中は何を考える? 登山・トレラン・マラソンの違い
角田 たぶん普通ですよ。ところどころで、滑らないように気を付けようとか、景色がきれいだなとか。さっきも、これを登ったら次は日本寺方面だなとか考えてました。
倉嶋 そうなんですね。もしかしたら、こういう環境だと作品のアイデアが浮かびやすいのかな?と思いまして。
角田 それはないかなぁ。いや、降ってきてくれたらいいんですけどね。まあ基本は無心です。倉嶋さんもそうじゃないですか?
倉嶋 確かに無心かもしれません。でも私はやっぱりお酒のことも脳裏によぎりますね。これだけ登ったんだから、下山後の乾杯はうまいに決まってるとか(笑)。
角田 隙あらば飲む、の倉嶋さんらしいですね(笑)。
角田 違いますね。トレランや登山に比べると、フルマラソンは楽しくないかな。
倉嶋 でも、フルマラソンの大会にも出てらっしゃいますよね? 続けている理由は、やっぱり健康維持のためなんですか?
角田 それだけじゃないんですけど、辞めたらもう一生走らないだろうなっていう危機感があるので習慣にしてるんです。
角田 そう、定期的に参加してるのはNAHAマラソン。あの大会はお祭りみたいな雰囲気や熱量が楽しくて好きなんです。
倉嶋 そうなんですね。走ったあとのお酒もおいしそう!
角田 格別ですよ! それで、トレランがマラソンよりいいのは、登りは歩いてもよくて、下りも辛かったら歩いてOKなところ。基本的にコースが山なので、景色がきれいなところも楽しいポイントです。
倉嶋 確かに、登山に通じる部分もあるイメージです。
角田 それこそ登山は走らなくていいから、気軽で楽しいです。ゆっくりでいいし、休憩したり食べたり飲んだりするのも自由だから、お子さんからお年寄りまで楽しまれていますよね。トレランやマラソンがスポーツ的である一方、登山はレジャーの側面がある。そこが違いなのかなって思いますね。
展望台で乾杯!
そして登山はここで終わり、あとはロープウェーで下山するだけ。ということで、休憩を兼ねてタカラ「焼酎ハイボール」で乾杯することに。
二人 カンパーイ!
角田 炭酸のシュワシュワと、辛口ならではのキレもイイ! 爽やかで、すごくおいしいです。
倉嶋 鋸山の感想としてはどうでした?
角田 そうですね。この山、岩肌のゴツゴツしてる場所があったり、大木が転がっていたり、急な斜面が出てきたり、思ったよりワイルドでした。
倉嶋 山の高さは300mちょっとですけど、絶景スポットの観光面に加えて、岩山を登る冒険の要素もあってよかったですね。
角田 今日は暑すぎず寒すぎず、たまに吹く風が心地よくて天候にも恵まれました。これがもうちょっと暑かったら、もっとキツかった気がします。
角田 マイナスイオン効果的な、ね。心身が癒されるなか、お酒がよりリフレッシュとリラックスをさせてくれるのかもしれません。あと私は、倉嶋さんが一緒だから余計にお酒がおいしいです!
倉嶋 うれしい! 角田さんはふだん日中にお酒を飲まれないので、今日みたいな機会は特別だと思いますが、もし山頂で飲むとしたらどんなお酒がいいですか?
角田 そうですね。あえて挙げるなら、やっぱりシュワシュワした爽快なお酒ですね。レモンサワーがいいかな。
倉嶋 私も、登山後すぐならチューハイやレモンサワーですね。で、1泊して夜に飲むなら日本酒とかがいいなって思います。
登山を続ける理由と、これから始める人へのアドバイス
角田 あらためて、鋸山は楽しかったですね。ダイナミックな岩壁の圧倒的なスケール感は、来る前と後ではだいぶ印象が違ったし、やっぱりこういった絶景は来てみないと本当のよさはわかりませんね。
倉嶋 もっといろんな山に登ってみたいと感じました。でも、角田さんが山登りを続けている理由ってなんですか?
角田 健康維持の面としては、多分おばあちゃんになっても楽しめるので、細々とでもやっていきたいなと。だから続けています。メンタル的にも、だれかと一緒にできるアクティビティとなると私の場合はやっぱり登山がいいなって。倉嶋さんはどうですか?
角田 わかる!
倉嶋 約5年前に登山を始めた当初は、ハイキング程度で楽しめればいいなっていうライトな感覚でした。でも最近は山小屋の楽しみも覚え、もっと1泊登山に挑戦したいと思うようになりました。
角田 慣れてきて、心の余裕が出てきたっていうことですか?
倉嶋 あっ、それはもうシンプルに山小屋で飲むお酒がうまいからです。
角田 あはは、やっぱりそっちでしたか!
倉嶋 でも、角田さんはもっと長く山と向き合ってこられて、心境の変化とかはなかったですか?
角田 私の場合はイタリアで初登山して、そのあとはしばらく興味が湧かず、後年友人に誘われて登った富士山の大混雑や景色の映えなさに、むしろ山=楽しくないという時期がありました。ガラッと変わったきっかけは、やっぱり奥高尾のトレランです。
倉嶋 先ほどおっしゃっていたお話ですね。
角田 そう。登山の印象って、どこの山に行くかとか、その日の天気によってまったく違うと思うんです。今日も、もし悪天候だったら、ここまで素敵な景色は楽しめなかったじゃないですか。
倉嶋 確かに。天気は安全面も左右しますし、とっても大事ですよね。
角田 だから、もしこれから登山を始めようとされる方には、何度か経験してから、自分に合うかどうか判断してみるといいと思います。あとはしっかり準備することですね。
倉嶋 うんうん。靴や服装はもちろん、事前の下調べや当日に向けての体調管理なども大切です。
倉嶋 いいですね! 実は久里浜で気になっている居酒屋があるんですよ。
角田 さすが(笑)。もう次のお店まで決まっているんですね。
倉嶋 いやいや、だって今日は登山のご褒美の日ですから。まずはランチしながら作戦会議しましょう!
角田 リアル「二軒目どうする?」ですね。ぜひ行きましょう!
登り切ったあとの達成感と心地よい疲労感をわかち合いながら、山の魅力について語り続けるお二人。後編では、「金谷港」からフェリーで東京湾を横断し、三浦半島・久里浜へ。居酒屋で杯を重ねながら、下山後に味わうお酒の格別なおいしさについて語り合います。
記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・タカラ「焼酎ハイボール」
https://shochu-hiball.jp/
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取材・執筆/中山秀明 撮影/鈴木謙介



