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【関西チューハイ事情】 京都ならでは!?[お好み焼 吉野]で味わう「赤」の噺

【関西チューハイ事情】 京都ならでは!?[お好み焼 吉野]で味わう「赤」の噺

2023,9,15 更新

東京出身の酒場ライター・スズキナオさんとともにめぐる「関西のチューハイ事情」。第4回は京都へプチ遠征して、[お好み焼 吉野]などで愛される「赤」と呼ばれる未知なるチューハイを調査します。

前段 京都独自の文化?

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「京都のお好み焼き屋には“赤”というドリンクメニューがある」と、そんな話を聞きました。私はこれまで京都駅周辺のお好み焼き専門店に何度か飲みに行ったことがあって、美味しく飲んで食べて、すごく楽しかった記憶があるのですが、「赤」というものを注文した覚えはないような……。きっと見落としてしまっていたんだと思います。

その「赤」は、京都のお好み焼きシーンには欠かせない定番ドリンクだそうで、どうやら甲類焼酎をベースにしたものらしい。関西におけるチューハイ文化を探り歩いているこのシリーズとしてはそれを取り上げずにおくわけにはいきません!

そんなわけで今回は、京都市東山区の路地の奥にある創業53年の老舗[お好み焼 吉野]をたずね、お好み焼きと一緒に味わうのに最適だという「赤」の正体に迫ってみることにしました。

路地裏で53年、[お好み焼き 吉野]へ。

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[お好み焼 吉野]がある上池田町へはJR京都駅から徒歩20分ほど。観光地としても有名な三十三間堂もほど近い場所ゆえ、バスでのアクセスも可能なのですが、歩いた方が最初の一杯がより美味しくいただけそうです。
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下町風情の漂う一角に路地の奥へと誘うお店の看板を見つけ、ずんずんと歩いていくと「吉野」の白いのれんが見えました。この店を始めて53年、鉄板の前に立ち続けている店主・吉野久子さんが「こんな路地の奥の店でびっくりしたやろ?」と笑顔で出迎えてくれます。
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久子さんによれば「お店を始めたのは生活のため。それまで飲食の仕事をしたこともなかったけど、どうにかやってきてん」とのこと。親戚である吉川智(とも)仁(ひと)さんとお二人で切り盛りしてきたそうです。現在では週末になると行列ができ、関東など遠方からこの店の味を求めて来る方も多いという人気店になっています。

「何を焼きましょう?」と聞いてくれる久子さんに対し、メニューを眺めて思わず迷ってしまいつつ、「えーと、まずは『赤』を飲んでみてもいいでしょうか?」と答えました。

宝焼酎「純」を使ったチューハイ「赤」とは?

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運ばれてきたのは、その名の通り赤い色をしたドリンクです。久子さんによると、「これは宝焼酎「純」の35度を強炭酸で割って作ったチューハイに、赤玉ワインを加えたもの」だそう。

なるほど、チューハイに赤ワインと聞くと、「ばくだん」という名のお酒が思い浮かびます。「ばくだん」もまた京都のローカルドリンクとして知られている飲み物で、その通称として「赤」という呼び名も使われているようです。つまり「ばくだん」も「赤」もおおよそは同じものを指すわけですね。
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とはいえ、その作り方にはお店によって細かな違いがあり、ワインの種類も違えば、甲類焼酎を炭酸水ではなくソーダ水で割って甘くするスタイルもあるそうです。[お好み焼 吉野]では、「赤」を含むチューハイメニューはすべて「甘い」「甘くない」のどちらかが選べるようになっています。「甘い」を選ぶと、炭酸水のかわりにサイダーで割るんだそうです。ただ、久子さんのおすすめは、断然、炭酸水を使って割る「甘くない」タイプ。
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特製のディスペンサーを使い、宝焼酎「純」の35度とパワフルな強炭酸を混ぜ合わせ、その上から絶妙な量の赤玉ワインを注ぎ入れる。そうすることで、どっしりとした飲みごたえとキリっと爽快な後味が生まれるのです。
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「この辺は昔からお好み焼き屋が多くて、たいていどこでも『赤』は出してたね。うちも創業の時から出してるんやけど、うちは『純』の35度と強炭酸にこだわってる。これでないとあかん」と、久子さんが語ってくれるのを聞きながら飲む「赤」は格別です。

粉もんの前に絶品ホルモンでスタンバイ。

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久子さんが教えてくれたように、このエリアには昔からお好み焼きのお店が多くあり、そういう土地で新たに店を始めるにあたって、この店ならではの特色を出そうと考えたそうです。
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「同じものを売ってるだけでは売れへんでしょう。私の兄弟がホルモンを扱っていて、新鮮なのが手に入ったから、それでいこうと思った。でも、昔はホルモン食べたことない人も多かったからね、最初はお好み焼きを焼いてる少し脇の方でホルモンも焼いて、試食してもろうたんよ。それでお客さんが『美味しいな』ってゆうてくれたらお好み焼きにも入れるの(笑)」

そんな風に久子さんが話してくれている隣では、智仁さんが見るからに新鮮なホルモンを丁寧に処理しています。

「うちのお客さんはまずホルモンを焼いたのをつまんでお酒を飲んで、それからお好み焼きで締める人が多い」と聞いたので、それを真似させていただくことにします。「スジ焼き」「ホソ焼き」「上ミノ焼き」「レバー焼き」など色々ある鉄板焼きメニューの中から、おすすめの「ホソ焼き」をいただいてみることに。
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もやしやキャベツと一緒に甘辛い特製ダレで炒められた「ホソ焼き」はふわふわとした食感で、噛むほどに脂の旨みがしみ出してきて絶品です。新鮮そのもので、ホルモン焼きを看板にしているお店でもなかなか出会えないほどの美味しさだと思いました。
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後味にピリッと辛みを感じるタレの風味と「赤」との相性が抜群です。これだけで何杯も「赤」をおかわりしてしまいそうですが、35度の『純』と赤玉ワインとが混ざり合った飲み物なので、早くもほろ酔い状態に。

重ねて焼く京都のお好み焼きにも「赤」は好相性。

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「お好み焼きはどうします?うちはみんな油かすとかホソとか、トッピングを色々して食べはるけどね。とりあえずそば入りに、スジでも入れよか?」と、久子さんのおすすめを焼いてもらうことに。
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このあたりのお好み焼き店では、小麦粉を溶いた生地をクレープのように円形に薄くひき、そこに具材を乗せ、さらに蓋をするようにもう一度生地をひくという、「ベタ焼き」と呼ばれるスタイルが多いそうですが、この店もそれに近い焼き方です。
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長年使い込まれた鉄板を使い、久子さんがじっくりと焼いてくれている様子を眺めているだけでもお酒が進みます。お好み焼きには仕上げに甘いソースが塗られ、そこにお客さんが好みに応じて辛いソースを塗り重ねて食べるんだそうです。
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刺激的な辛みを感じるソースと甘いソースが融合した味わい、そして、生地に挟まれた具材の多層的な食感が素晴らしく、これもまた、この上なく「赤」に合うのでした。

実は「赤」より人気? 抹茶ハイも。

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飲み物のおかわりのタイミングをうかがっていると、久子さんが「うちはね、抹茶チューハイも人気なんですよ」と教えてくれました。もちろんそちらも飲んでみることにします。
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粉末の抹茶を「採算がとれないほど」たっぷり使っているそうで、その風味は濃厚そのもの。抹茶の豊かな香りに強炭酸を合わせているのが新鮮に感じました。これもまた、すっきりとした後味でお好み焼きにぴったりです。

ちなみにこの店の抹茶チューハイが生まれたきっかけは、元プロ野球選手で、現在は製茶店を営んでいる堀井恒雄さんにあるのだといいます。

「堀井さんは京都の人で、高校生の頃からうちに食べに来ててん。それで、自分のお茶屋さんで作ってる抹茶を持ってきてくれたの。堀井さんの近所の居酒屋がこれで抹茶チューハイ作ったら好評やったってゆうんでね。それでうちもやってみたら人気になったんよ」

多くの人に長年に渡って愛されてきたこの店だからこそ生まれた一杯だと思うと、余計に美味しく感じます。創業53年の[お好み焼 吉野]ですが、新型コロナウイルスの影響で延期になっていた50周年の祝賀会を去年ようやく開催できたそうです。創業当初から通う大の常連さんや、この店のファンである各界の著名人など、たくさんの人が集まってくれてうれしかったと久子さんは微笑みます。
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「私もね、もう年やから明日どうなるかわかれへん。でもお客さんがたくさん来てくれはるから、まだ頑張りますよ」という久子さんの言葉が、ほろ酔い気分にじんわりしみてくるのでした。

<取材協力>

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お好み焼 吉野
京都府京都市東山区大和大路通り塩小路下ル上池田町546
075-551-2026
営業時間 11:00~21:00(ラストオーダー20:30)
定休日 月〜水曜日
(取材日:2023年8月4日)

▽記事に登場したお酒の紹介はこちら
・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

▼「関西チューハイ事情」バックナンバーはこちら
【第1回】大阪チューハイ文化のパイオニア、ヨネヤ「純ハイ」の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/yoneya_230623

【第2回】東京スタイルで関西に上陸!「立呑み晩杯屋」の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/banpaiya_230721

【第3回】串かつを大阪名物に押し上げた[串かつ だるま]と、「だるまハイボール純」の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/kushikatsu_daruma_230908
   

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