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【関西食文化研究】京橋のアミューズメント酒場!?[酒房まつい]の錫器(すずき)で味わう日本酒の噺

【関西食文化研究】京橋のアミューズメント酒場!?[酒房まつい]の錫器(すずき)で味わう日本酒の噺

2024,1,19 更新

東京出身の酒場ライター・スズキナオさんと、関西の飲食店と日本酒の関係を探るシリーズの第2回。今回は大阪を代表する酒場密集地の京橋で出会った、珍しい酒器と、フレンドリーな人情酒場の噺。

酒好きの聖地・京橋に降り立つ。

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宝酒造の日本酒がどんなお店でどんな風に飲まれているかを取材していく当企画、今回は大阪・京橋にやってきました。

京橋と言えば、大阪を代表する一大歓楽街です。東京から移住してきた私が住んでいるのはその京橋からほど近い場所で、それゆえに普段から京橋でお酒を飲む機会が多いのですが、初めてこの街を歩いた時の衝撃は今も忘れられません。

駅の改札を出るとすぐに立ち飲み店や大衆酒場が軒を連ねるゾーンが広がり、明るいうちからお客で賑わっています。常にワイルドな活気に満ち、大阪らしい雰囲気が濃密に漂うこの街には、個人的にも楽しい思い出がたくさんあります。

そんな京橋を代表する立ち飲み店が[酒房まつい]です。JR京橋駅北口を東方向に出てすぐの、この上なく目立つ場所に店舗を構え、いつものれんの向こうに多くのお客さんの姿が見えます。

さて、京橋の賑わいを象徴するようなこの店で、宝酒造の日本酒「松竹梅」はどのように愛されているのでしょうか。

京橋で70年、人を惹き付ける憩いの酒場。

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[酒房まつい]の創業は昭和27年、70年以上の歴史を持つ老舗です。統括店長・高松裕二郎さんに伺った話によると、現在の店舗の近くに市場があり、創業当初はその市場の一画に店舗があったそうです。ほどなくして現在の場所に移転し、以来、今に至るまで京橋の顔として営業を続けているといいます。
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1階にはL字カウンターの立ち飲み席が、2階にはテーブル席があり、用途に合わせて使い分けられるようになっています。年中無休、大晦日でも元日でも営業するのがこの店のポリシーだそうで、それゆえに毎日のように通うご常連さんも多いとのこと。
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高松さんによれば、新年の一杯目から[酒房まつい]でお酒を飲み始めることをルーティンにしているお客さんもたくさんいらっしゃるのだそうです。開店時間は朝の8時。普段であれば、早い時間帯は夜勤明けの方やご高齢の常連客が多く、夕方以降になるとお勤め帰りの人々がよく来られるとのこと。もちろん一見のお客さんも大歓迎で、最近では若い女性グループや海外からの観光客もよく訪れるようです。

「常連さんにとって、うちは第二の家のような場所だと思ってもらっているんです」と高松さんは語ります。

銀鼠に輝く、味わいある錫のとっくりと酒器。

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[酒房まつい]で扱う日本酒は、宝酒造の松竹梅「豪快」(他に、“特級酒”として「特撰松竹梅〈本醸造〉」が提供されています)なのですが、その提供の仕方にこの店ならではの個性があります。
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「一升(1.8ℓ)ちょっと入ります」という大きな錫製の徳利から、同じく錫のコップに注いで出してくれるのです。これは、大の日本酒通だったという創業者の発案によるもので、[酒房まつい]の代名詞にもなっています。錫の器は使い込むうちに色合いが徐々に変化していき、なんとも言えず渋みのある銀鼠に輝いています。
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色合いと同じく、使われていくうちに形状も変わっていき、新品と見比べるとちょっと驚くほどです。錫の徳利でお燗するとお酒が柔らかな味わいになるのだそうです。
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ちなみに徳利もコップも伝統的に錫器を作ってきた大阪・松原市の工房に特注していて、特に徳利はできあがりまで半年かかるほど大事に作られているものだといいます。

錫器でいただく松竹梅「豪快」の味は?

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いざ、その松竹梅「豪快」を味わってみます。錫の徳利から、カウンターの端に置かれたコップになみなみと注いでいただくと、横でそれを見ていたご常連さんが「まずはこうやって飲むんやで」と、コップに直接口を近づける動作を真似てくれました。
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「そうそう! あ、ちょっとこぼれたな、まだまだや(笑)」と指導を受けながら味わった一口目の風味は、教わった通りにふわっと柔らかく、お燗のつけ方や器によってこんなにも味わいが変わるものかと感動してしまいました。
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「美味しい!」と思わず声に出すと、「な、うまいやろ?」とご常連さん。この気さくなやり取りもまた、「豪快」の味わいを高めてくれるのだと感じました。
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[酒房まつい]で働くようになって14年が経つという高松さんが京橋の印象について「フレンドリーでめちゃくちゃいい街ですよ。本当に落ち着きます。ミナミや梅田に行くとちょっと緊張しますもん(笑)」と語ってくれるのも納得の、この街だからこその親しみやすい雰囲気を感じつつ「豪快」ならではのキリッとした後味を堪能しました。

名物料理×常連のアイデアで生まれる新メニュー。

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この店には、松竹梅「豪快」の芳醇な味わいに合わせたいおつまみが数多く存在します。白味噌とザラメを入れて煮込むことでエグみのないまろやかな味わいに仕上げているという「どて焼き」は大定番で、多くのお客さんが注文するとのこと。
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また、同じくこの店の不動の人気メニューがおでんで、あっさり甘みのある出汁(「この出汁だけ持って帰りたい」というお客さんもいるほどだとか)に、多くの具材の旨みがしっかり溶け込んでいます。

ちなみに、そのおでんから派生したおつまみもたくさんあるそうで、その代表作の一つが「おでポテ」だというのでいただいてみることにします。
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「おでポテ」は、おでんのじゃがいもと玉子をマッシュして作り上げるポテトサラダで、10数年前、高松さんと当時の店員さんたちとで「サラダがわりに注文できるおつまみを作ろう」と考案されたものだそう。自家製の練りがらしや黒コショウを隠し味に使うことで、後を引く風味に仕上げています。「日本酒とめちゃくちゃ合うでしょう!」と高松さんが言う通り、おでん出汁がベースになっているからか、松竹梅「豪快」の味わいとの相性も抜群です。

聞くところによると、「おでポテ」というメニューの名付け親はボクシングトレーナーの亀田史郎さんで、「おでポテ」にさらにおでんの牛すじを加えた「肉いおでポテ」というバリエーションもあるそう。
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その他、ご常連のリクエストによって生まれたメニューも多く、「おでんの大根を揚げて欲しい」と言われて応じたものが定番化した「煮大根の串カツ」や、同じくおでん種を揚げた「梅焼きの串カツ」「ねぎまの串カツ」など色々あるようです。
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お客さんの要求に柔軟に対応し、それをメニューにしてしまうあたりがまさに「酒房まつい」らしい遊び心だと感じます。

ブームの予感!? 締めは「おでん出汁割り」

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美味しいお酒とおつまみをたっぷり堪能したところで、高松さんがおすすめしてくれたのが「おでん出汁割り」です。

これは、5年ほど前に高松さんが東京の飲食店を食べ歩いて研究した中で持ち帰ったもので、日本酒におでんの出汁を注いで飲むというメニューです。
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「おでん出汁割り」を味わうためには、まず、「豪快」を注文してコップの半分ほどを飲み進めます。そこで、「おでん出汁割り、お願いします!」と注文すると、[酒房まつい]特製のおでん出汁をコップに注いでもらえるのです。

高松さんによれば「うちの出汁は豪快との相性が本当にいいので、ここでしか味わえない出汁割りになっていると思います。最近はこの味がかなり浸透してきて、日本酒を飲むお客さんはだいたい締めに飲んで行かれますね」とのこと。
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出汁の旨味と豪快の風味が完璧なバランスで溶け合い、優しいスープのような味わいに昇華した「おでん出汁割り」が胸に沁みます。
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「うちのお客さんはみんな優しいですし、そういうお客さんにとって気楽にくつろげる店にしたいと思っています。常連さんも一見さんもみんなでワイワイ楽しめるような、アミューズメントパークなんですよ。ユニバみたいな店、大人のユニバですね(笑)」という高松さんの言葉を咀嚼(そしゃく)しながら、店内に流れる演歌と、お客さんたちの賑やかな話し声に耳を傾け、錫のコップをいつまでも握っている私でした。

<取材協力>

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酒房まつい
大阪府大阪市都島区東野田町3-5-1
06-6353-3106
営業時間 8:00〜23:00
定休日 無休
(取材日:2023年12月8日)

▽記事で紹介したお酒はこちら
・松竹梅「豪快」

▼【関西食文化研究】バックナンバーはこちら
・京都[わらじや]で、日本酒と味わう「うなべ」と「うぞふすい」の噺

   

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