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【関西食文化研究】 京都[わらじや]で、日本酒と味わう「うなべ」と「うぞふすい」の噺

【関西食文化研究】 京都[わらじや]で、日本酒と味わう「うなべ」と「うぞふすい」の噺

2023,12,22 更新

「酒噺」でもおなじみの、酒と酒場を愛するライター・スズキナオさんによる新連載シリーズがスタート。今回の連載のテーマは日本酒と関西の食文化。街と店が醸成してきた関西の食の面白さを、日本酒をお供に“しっぽり”と探っていきます。

日本酒から探る、関西の食。

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こんにちは。お酒が大好きなライターのスズキナオと申します。私は約10年前に東京から大阪へと生活の拠点を移したのですが、関東と関西では食文化が大きく違い、色々なところに差異を見つけるたびに新鮮な驚きを味わってきました。

当「酒噺」でも、「関西チューハイ事情」と題したコラムシリーズを連載し、関東とはまた違った大阪や京都でのチューハイの飲まれ方について取材してきました。

さて、「宝酒造といえば焼酎!」「焼酎ハイボールシリーズ最高!」と常に思ってきた私なのですが、宝酒造はその長い歴史の初期段階から日本酒を大事にしてきた企業でもあります。

そもそも、宝酒造のルーツは、1842年に京都・伏見の四方(よも)家が日本酒の製造を始めたことにあります。また、1933年になると、宝酒造は、灘の酒造家であった井上信次郎氏の経営をサポートする形で傘下に「松竹梅酒造」を設立し、以来、「松竹梅」という日本酒の銘柄を大切に守り、磨き上げ続けてきたのです。

……と、それ以上に詳しい話は折を見て掘り下げていくとして、これから数回に渡って、宝酒造の日本酒がどんなシーンでどんな風に楽しまれているか、関西各地の魅力的なお店を訪ねつつ探っていきたいと思います。

文豪も愛した京都屈指の老舗の敷居をまたぐ。

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今回やってきたのは、京都市東山区にあるうなぎ料理専門店[うぞふすい わらじや]です。その創業は1624年、400年近くもの歴史を持つ老舗です。
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取締役を務める上原知人己(ちとみ)さんによると、[わらじや]はそもそも旅籠(はたご)※を営んでいたそうです。豊臣秀吉が大仏を安置するために創建した方広寺がすぐ近くにあり、秀吉がお参りに来るたびにここに寄って一度休憩し、わらじを脱いだことから、いつしか旅籠は[わらじや]と呼ばれるようになったといいます。
※江戸時代の宿駅などで武家や一般庶民を宿泊させた食事付きの宿屋。
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その[わらじや]が現在のようにうなぎ料理の専門店になったのは、戦後間もなくのこと。時代が戦後の復興に向かっていく中で何をしようかと先代が知恵を絞った末、うなぎの雑炊が生まれたのだそうです。
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少し時代が戻りますが、1933年、文豪・谷崎潤一郎が日本特有の美的感覚について書いた『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』の中に、この[わらじや]が登場します(文中では「わらんじや」と表記されています)。
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谷崎潤一郎が夜の[わらじや]で食事をしながら、ロウソクの灯が照らし出す漆器の色合いに美を見出す場面が綴られているのです。そしてなんと、谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』の中に書いたその部屋が、今も残っているのです。光栄なことに、今回、その部屋で食事をさせていただくことができました。

名物の前に一品「鰻の白焼き」と「澪」で口開け。

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「ちょうな」という、斧に似た大工道具だけで造られたという建物の一室に通してもらい、「この部屋に谷崎潤一郎がいた時があったのか……」と感動を噛みしめます。『陰翳礼讃』は海外にも翻訳されているため、世界中からこの部屋を目指してファンが訪れるそうです。
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そんな素晴らしい空間で一品目にいただいたのは「鰻の白焼き」です。鰻を蒸すのではなく生の状態からじっくりと焼き上げたもので、わさび醬油をつけて味わいます。皮目の香ばしさとパリッとした食感、そしてふっくらとした身の旨味に、思わず目を閉じてうっとりしてしまいました。
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そこに合わせたのは宝酒造の「澪」。“スパークリング日本酒”の先駆けで、国内だけでなく、海外でも40カ国以上で販売され、世界でスパークリングワインに代わって愛飲されているという銘柄です。
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フルーティーで華やかな香りと、酸味と心地いい微炭酸の刺激とのバランスが素晴らしく、「鰻の白焼き」の上質な脂の旨味によくマッチしてくれます。今日のように贅沢な食事の席での最初の一杯にふさわしい味わいだと感じました。

唯一無二! 「うなべ」の味わいとは?

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次に部屋に運んでいただいたのは、井桁に組まれた木枠に乗せられた黒い土鍋です。こちらは[わらじや]の名物料理の一つ、「うなべ」というもの。
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かつおと昆布でとったお出汁に、筒切りにしたうなぎと、白ネギ、お麩、春雨が浮かぶ美しい一品で、思わず顔を近づけると、湯気とともに立ち上る生姜のいい香りが鼻を抜けていきます。
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早速うなぎからいただいてみると、熟練の技で中骨を丁寧に抜いているため、筒状に切られた身はどこまでもふくよかな食感で、その旨味が繊細なお出汁の香りとともに口の中に広がっていきました。

松竹梅「豪快」の熱燗が「うなべ」と相性抜群な理由。

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「うなべ」に合わせるのは、松竹梅の辛口タイプである「豪快」の“山田錦 特別純米辛口”です。少し熱めにお燗をつけていただいたのですが、香りがすーっと立ち、後味はあくまでキリッとしていて素晴らしい味わいです。
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その後味を惜しむようにじっくりと堪能しながら、再び「うなべ」をいただきます。それにしてもこのお出汁と、松竹梅「豪快」の味わいの相性のいいこと……。
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「うなべ」には宝酒造の料理清酒のほかに、「豪快」も使われていると、上原さんが教えてくださいました。なるほど言われてみると、出汁の風味の中に日本酒の香りも感じられるような気がします。お客さんの中には松竹梅「豪快」の熱燗を注文し、出汁の中に注ぎ入れて味わう方もいるんだそうです。
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出汁にも酒香る「うなべ」だからこそ、「豪快」とこんなによく合うのだな、と合点がいきました。

芯から温まる名物「うぞふすい」で締める。

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「うなべ」を食べ終えたところに、別の鍋が運ばれてきました。こちらが店名に冠されている「うぞふすい」です。
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一品目にいただいた「鰻の白焼き」同様、開いて焼かれたうなぎが入った贅沢な雑炊で、そこに、ごぼう、にんじん、しいたけ、お餅まで加えて卵でとじ、三つ葉を散らしてあります。

山椒を少しかけ、ハフハフと熱いうちにいただいてみたところ、お出汁の味わいは先ほどの「うなべ」とはまた全然違い、非常に奥ゆかしく、滋味深いものに感じられました。

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うなぎから出た旨みをはじめ、一つ一つの食材の香りや歯ごたえが柔らかなお米とお餅と渾然一体となって、まさに至福の味わいです。しっかりと食べごたえがあるのもうれしいところ。この「うぞふすい」も、もちろん「豪快」との相性が抜群です。
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「うぞふすい」も「豪快」も、あまりに美味しくてどんどんいただいてしまいつつ、一方で、京都の歴史とこの部屋の陰翳を感じながら、もうしばらくはこの空間に身を置いていたいと、わがままなことを思ってしまうのでした。
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<取材協力>

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うぞふすい わらじや
京都府京都市東山区西之門町555
075-561-1290
営業時間 11:30~15:00(ラストオーダー14:00)、16:00~20:00(ラストオーダー19:00)※土・日・祝の夜は17:00~
定休日 火曜日
(取材日:2023年11月15日)

▽記事で紹介したお酒はこちら
・松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング日本酒
・松竹梅「豪快」


   

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