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気鋭の中華レストランでおいしく学ぶ!「紹興酒と至福のペアリング」の噺【後編】

気鋭の中華レストランでおいしく学ぶ!「紹興酒と至福のペアリング」の噺【後編】

2020,9,25 更新

中国のお酒・紹興酒(しょうこうしゅ)の基礎を学ぶ企画。今回は、紹興酒に詳しい識者と飲食店のマネージャーにお話をうかがいながら、中華料理と紹興酒のペアリングを堪能します。

おうち時間が増えて中華料理をテイクアウト、あるいはデリバリーすることも増えたはず。そこで、この機に中華料理と相性のいい中国のお酒・紹興酒の楽しみ方を学ぼうというのが本企画です。

前編では歴史や製法、おすすめの飲み方などに触れていきましたが、後編となる今回は、都内の中華レストランを実際に訪れ、料理と紹興酒のペアリングを学んでいきます。今回のガイド役は「酒文化研究所」の山田聡昭(やまだ・としあき)さんと、中華レストラン「みこころ 無添加チャイナ935」の吉田正洋マネージャー。聞き手は紹興酒のビギナーであるGetNavi web編集部の小林史於(こばやし・しお)です。
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酒文化研究所の山田聡昭さん。様々な媒体で連載をもつほか、『酒席に役立つ読む肴 サラリーマン酒白書』(紀伊国屋書店)など編集や執筆に携わった著書も多数

気鋭の中華レストランで中華料理と紹興酒のペアリングを学ぶ

今回、取材に協力してくれたお店は、2019年11月にオープンした神保町の「みこころ 無添加チャイナ935」。オーナーシェフの井上貴士さんは、「トゥーランドット游仙境(ゆうせんきょう)」に「銀座 芝蘭(チーラン)」と、上海・四川料理の名店を経たのちに本場四川の成都(チェントゥ)で修業。帰国後は広東料理の技も会得した名シェフです。マネージャーは、様々な中華の名店でサービスの極意を会得し、紹興酒への造詣も深い吉田正洋さん。この両者による気鋭のレストランだけあって、中華料理と紹興酒のペアリングの妙も存分に楽しめるはず。
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JR御茶ノ水駅より徒歩約5分、東京メトロ・神保町駅より徒歩約6分に位置する「みこころ 無添加チャイナ935」。明治大学のはす向かいにあります
小林 山田さん、吉田マネージャー、本日はよろしくお願いします! 本場の中華料理と紹興酒がどんなマッチングを見せるか、楽しみで仕方ありません!

山田 よろしくお願いします。さて、早速ですが吉田マネージャー、今日はペアリングがテーマということで、どちらの紹興酒を選ばれましたか?
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吉田正洋マネージャー。初めて店長を務めた中華レストランで、「何かでオンリーワンになりたい」という決意から紹興酒を極めようと思ったそう
吉田 紹興酒は、「塔牌」(とうはい)という銘柄を中心に用意しています。「塔牌」は、最も水の状態が良いとされる冬にだけ仕込んでいて、昔ながらの手造りで甕(かめ)仕込み、甕貯蔵にこだわっています。当店では、8年熟成、10年熟成、15年熟成と多彩な商品を用意していて、今回は、当店で最もスタンダードな8年ものの「塔牌」2012年<福(フータオ)>に合わせて料理をお楽しみいただこうかと。ちなみに<福(フータオ)>は、ボトルではなく甕入りのものから汲み出す“甕出し”を使っています。
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同店で提供している15年の長期熟成を経た特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年>(左)。“甕出し”の「塔牌」2012年<福(フータオ)>は、「塔牌 紹興酒」とプリントした専用のデキャンタ(右)に入れて提供しています
山田 “甕出し”は、開封してからの味の変化という面でも楽しみがありますよね。

吉田 ええ、おっしゃる通りです。その点も考慮して、当店の“甕出し”は、開けたての酸が立った状態でお出しすることはありません。半分ずつ別のボトルに移してあえて空気に触れさせ、一週間ほど置いておくことで、香りを際立たせるようにしています。

手ごろな紹興酒で料理酒・飲用の兼用も

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山田 なるほど、手がかかっていますね。ちなみに、ボトルに移すときには、甕の底に沈む澱(おり)も取り除くということですか?

吉田 澱も楽しみたいというお客様には、そのままの状態でお出しすることもありますが、基本的に澱は除いた状態で提供します。ただし、澱は旨みの塊でもあるので、当店では料理に活用していますね。

小林 それは興味深いです。例えば、どんな料理に使っているんですか?

吉田 場合によっては杏仁豆腐にかけることもありますが、基本的には食材を紹興酒漬けにするときに使います。活きたエビを漬けておく「酔っ払いエビ」や上海ガニがイメージしやすいかもしれませんね。
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紹興酒に漬け込んだエビ
小林 なるほど。料理に使ったお酒と同じお酒を合わせると相性がいい、というのは聞いたことがあります! ならば、家庭で手始めに紹興酒を楽しむなら、手ごろな紹興酒を一本買って、料理酒と飲用の兼用で使うのもアリですか?
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手ごろな1本として知られる「塔牌」花彫 <陳五年>
吉田 もちろんです。日本のご家庭でも、料理酒として紹興酒を常備している方はいらっしゃいますよね。まずはそこから気軽にペアリングを楽しんでいただくといいですよ。

小林 そうこうしているうちに、何やらおいしそうな香りがただよってきました。シェフの料理が完成したようです!

酸味や辛味などの刺激を、紹興酒がまろやかにしてくれる

吉田 当店の定番である8年ものの「塔牌」<福(フータオ)>は汎用性が高く、前菜、副菜、メインと合わせやすいのが特徴です。本日はその魅力を存分に楽しめるよう、調理時に紹興酒を使った3品を井上シェフと考えてご用意しました。
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オーナーシェフの井上貴士さん。四川料理を最も得意とし、そのほかの地方の中華や自身の独創性を生かした一皿も提供しています
小林 ありがとうございます! それでは、ここからは井上シェフも交えてお話をおうかがいしていきましょう。

山田 井上シェフ、さきほどのお話にもありましたが、「料理酒としての紹興酒」と、「お酒として味わうための紹興酒」のペアリング、そこに重点を置いたということでしょうか?

井上 そうですね。基本的には仕込みの段階で、紹興酒に食材を漬け込むといった使い方をしています。ただ、一緒に合わせる素材や調味料によって香りや味の広がり方、感じ方が変わってくると思いますよ。まずは、当店のランチや夜のコースなどでもよく提供している「よだれ鶏(蒸し鶏の麻辣ソース)」からお召し上がりください。
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「よだれ鶏」は、日本でもポピュラーな四川料理の一皿。同店では濃淡2種類のラー油を使い分けて奥行きを演出。ニンニクやカシューナッツをトッピングしてアクセントにしています
山田 すごくおいしい! お肉はしっとり柔らかく、鮮烈な香りとともにピリッとした刺激と絶妙なシビレ感があり、酸味や甘みも感じます。

井上 お口に合ってよかったです!「あべどり」という銘柄鶏のモモ肉をゆでて冷ましてから、ゆで汁と紹興酒と花椒(ホアジャオ)などを混ぜた塩水で半日以上漬けています。このマリネが味の決め手ですね。

山田 ペアリングのポイントとしては、酸味や辛味などの刺激のある要素を、紹興酒がキャッチしながら緩和させている点ですね。

小林 確かに! 紹興酒と合わせると、刺激がまろやかになって旨みがアップする印象です。四川料理のような刺激的な一皿に合わせるのも、ひとつのセオリーというわけですね。勉強になります!

山田 味付けとお酒の熟成のニュアンスが同じ方向性なので、その点でも考えられています。非常に心地よいマリアージュですね。

香ばしさと旨みの強い料理が紹興酒と相性バツグン

吉田 では、次はシェフの独創性を生かした魚介の一皿、「巻き海老とホタテと桜海老の香り炒め」をどうぞ。
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「巻き海老とホタテと桜海老の香り炒め」。エビとホタテは紹興酒で漬け、エビはそのまま、ホタテは片栗粉をまぶして揚げています
山田 香ばしい風味に圧倒されます。この香ばしさが紹興酒の熟成香と合いますね。エビにしみ込んだ紹興酒の風味も、口のなかで鮮やかに広がります。

小林 エビの紹興酒の風味と、これを迎える紹興酒が絶妙にマッチしています。このハーモニーは素晴らしい!

山田 魚介と野菜、それぞれの食感のメリハリも絶妙で、凝縮された旨みが印象的ですね。油とともに熱せられることで素材の魅力が前面に出ています。前編でも話しましたが、紹興酒は旨みの強い料理とも相性がいい。紹興酒の旨みと料理の旨みが重なって、相乗効果が生まれますから。これはその典型です。

紹興酒の乳酸が料理の油っこさを切ってくれる

吉田 ありがとうございます。最後は「水煮牛肉」(スイジュウニュウロウ)をお召し上がりください。
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濃厚な味わいが魅力の四川伝統の煮込み料理「水煮牛肉」
井上 お肉は国産牛のモモで、やはり下味に紹興酒を使っています。花椒は直接入れておらず、自家製の唐辛子粉に入れたものを使っているので、シビレはやや少なめ。ただ唐辛子粉のほかに自家製ラー油もたっぷり使っているので、辛さはしっかり感じられると思います。

山田 こちらは濃厚な味付けにとろみと辛味が加わり、極めて豊かな味わいですね。油もたっぷり使われていてこってりしていますが、紹興酒を飲むと口の中が適度にスッキリして、また次のひと口が食べたくなります。紹興酒の乳酸が油っこさを切ってくれている証拠ですね。

吉田 そうおっしゃっていただけるとうれしいです。また、この料理はとろみがあって温かいので、お酒を同じ程度に温めると、さらに親和性がアップするのでオススメですよ。一方で真逆のアプローチもあって、暑い季節はオンザロックの紹興酒を合わせてさっぱり楽しんで頂くのもいいと思います。

小林 なるほど。真夏は断然そのほうがいいですね!

料理の味わいの濃淡に応じて、熟成期間を選ぶのもオススメ

吉田 あとは、料理の味が濃くなるほど、その旨みに負けないよう、熟成期間が長い紹興酒を合わせるのがオススメ。今回は「水煮牛肉」が最も濃厚に感じられたかと思うのですが、この味わいなら、より長く熟成させた紹興酒を合わせてもいいと思います。
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店内には「塔牌」の長期熟成酒の華やかな甕が飾られていました
山田 中華のコース料理で考えると、前菜からメインに向かうにつれて、紹興酒の熟成年数を増やしていくのも手ですね。

吉田 おっしゃる通りです。序盤の軽めの料理には熟成年数が浅いものを、一方でメインの濃厚な一皿には熟成の深いものを選んだ方がマッチするでしょう。

小林 なるほど。吉田さん、井上さん、ありがとうございました。大変勉強になりました! 今回のペアリングで学んだことを簡単にまとめると、 紹興酒は、料理酒として紹興酒を使った料理と相性がいいこと、辛い料理やシビレのある料理をまろやかにしてくれること、香ばしい料理や旨みの強い料理に相性がいいこと、紹興酒の酸味が料理の油っこさを切ってくれること、料理の濃淡に応じた熟成年数を選ぶのがオススメ……といったところでしょうか。山田さん、こうしてみると、紹興酒はかなり万能なお酒なんですね。

山田 まったく、その通りですね。読者のみなさんも一度お試しいただいたら、その使い勝手の良さがわかるはず。「よく知らないから」と敬遠せずに、自宅でもお店でも、様々な料理に気軽に合わせてほしいです。 いやあ、それにしても、今日はすべておいしかった。ありがとうございました!
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<取材協力>

みこころ 無添加チャイナ935
住所:東京都千代田区神田小川町3-22 細野ビル 2F
営業時間:11:00~14:00(L.O.)、17:00~23:00(L.O.21:00)
定休日:日曜、祝日

記事に登場したお酒の紹介はこちら▼

・紹興酒「塔牌(トウハイ)」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/touhai/

・紹興酒「塔牌」花彫 <陳五年> 600ml
https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=2275

・紹興酒「塔牌」 2012年<福(フータオ)>5L甕
https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3208

・紹興酒「塔牌」2012年 <福(フータオ)>9L甕
https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=3209

・特撰紹興酒「塔牌」<陳十五年> 500ml壷
https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_detail.php?p_prodid=2270
   

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