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京都の老舗のご主人が、紅葉を愛でながら京都中華をアテに酒を楽しむ噺

京都の老舗のご主人が、紅葉を愛でながら京都中華をアテに酒を楽しむ噺

2021,11,5 更新

京都をよく知る酒好きの人物が、京都の名所や歳時記とともに、酒の楽しみ方を語るシリーズの第9弾。今回も、京都の老舗扇子屋・宮脇賣扇庵の南忠政さんに話をお聞きしました。11月は茶人の正月とも言われる「炉開き」が行われる季節。暑い時期を過ぎても、扇子は季節を問わず重要な役割を持つそうです。南さんオススメの知られざる紅葉の名所もお聞きしながら、「京都中華」をアテに酒を楽しみます。

秋以降の扇子の役割とは

秋も深まる11月、茶道では「炉開き」が行われます。
炉開きは、茶室の床下に備え付けた「炉」に火をおこして釜をかけ、何事もなく1年が迎えられたことに感謝するおめでたい行事。今春に収穫して熟成を迎えた新茶の封を切る「口切の茶事」も行われます。
お茶会は、暑い夏が過ぎたこの時期から本格的に始まります。
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「例えば、将棋の棋士は対局の際に必ず扇子を持っていますが、茶人も必ず扇子を身に着けています」と南さん。
写真の右下が通常の扇子ですが、茶道用の扇子(茶扇)は小ぶりで、女性用は5寸(左上)、男性用は6寸(上)のものを用いるそうです。

茶道では、扇子で結界をつくる

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茶道では、扇子は常に身に着けているもの。
挨拶やお道具拝見などの際には、自分の前に扇子を置いて使用します。このときの扇子は、相手と自分の間を仕切る結界の役目を担っています。また、扇子はあくまで仕切りなので、美しいデザインでも開いて使用されることはないそうです。

南さんによると、炉開きのある11月は扇子屋にとって、年始の茶道行事「初釜」で配られる茶扇づくりで忙しい時期なのだとか。
「新年の初釜では、お師匠さんが新しい扇子と懐紙をお弟子さんに配る習慣があるんです」。
配られる扇子は流派によって異なり、デザインも扇面に絵画や師匠の書が入るなど、それぞれ異なるそうです。

紅葉の季節の飾り扇子も

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扇子には観賞用のものもあり、この時期の扇子として南さんが紹介してくださったのが、見事な紅葉の飾り扇。
「床の間や玄関、その他の場所にも、この扇子を飾るだけでぱっと華やぎます。これも扇子の役割の一つですね」と南さん。
新年に向けては干支の飾り扇子もあるそうで、今まさに店頭に並んでいるそうです。

忙しくても、紅葉の季節には紅葉を愛でる

季節の移ろいを扇子に表現する仕事柄、どんなに忙しくても紅葉の季節には紅葉を愛でたいという南さん。
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「子どもの頃は、祖父母が北野天満宮の近くに住んでいたので、遊び場でもあった北野天満宮の御土居の紅葉は外からよく眺めていました。成人してから御土居の内側のもみじ苑に初めて入り、その圧倒的な量に改めて驚きましたね」と思い出を語ります。

南さんが近年訪れた場所で印象深かったのは、金戒光明寺の紅葉。「くろ谷」という小高い丘の上にある寺院で、たまたま会合で訪れたそう。
市内の見晴らしがよく、かつて法然上人がここに草庵を結んだ場所。幕末には会津藩が本拠を置いて新選組発祥の地にもなりました。

「いわゆる紅葉の名所というのとは違いますし、あたり一面が紅葉というのでもない。でも山門の両側や、枯山水の庭の紅葉に何とも風情があり、家族ともう一度見に行ったくらい、この場所が好きになりました」と南さんは語ります。
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金戒光明寺 紫雲庭紅葉(写真:水野克比古)
「埋め尽くすような紅葉よりも、数は少なくてもあたりに彩りを添える紅葉のよさ。それが金戒光明寺の紅葉の魅力ですね」と南さんは教えてくれました。

祇園白川沿いを散策しつつ、行きつけの中華の店へ

通りすがりの紅葉を眺めて辺りを散策する―これが南さんの好きな紅葉狩りのスタイルです。

最近は、祇園白川沿いにある紅葉の色彩がお気に入りだそう。
白川疎水の流れに沿って揺れる、両岸の柳。心地よい風に吹かれながら知恩院を過ぎて北へ向かう道中に、行きつけの中華料理の店があります。
それが「ぎをん森幸」です。

南さんにとっては、数年前、先輩に連れてこられて以来の馴染みの店。
「身体が冷えてくるこの季節、温かくて優しい味わいの中華が恋しくなるんです」と、のれんをくぐります。
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「このお店の特徴は『京都中華』がいただけること。一般的な街の中華料理とも違うし、ホテルに入っているようなフォーマルな中華料理とも違う。“京都独特の中華料理”というジャンルがあるんですよ」と語る南さん。
一体どう違うのでしょう?

「『京都中華』は、基本的に香辛料もにんにくも使わず、あっさりした味つけ。あえて言うなら、和食のような中華なんです」とそっと教えてくれたのは、ぎをん森幸のおかみさん。

聞けば、「京都中華」というジャンルには歴史があるのだとか。かつて京都在住の中国人が中華料理店を開業したことから始まり、その後、京都で地元の味を取り入れながら、独自の発展を遂げた料理だそうです。
昭和30年に開業した森幸もその1つです。

京都中華の春巻きを、まずは紹興酒で

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南さんの大好きな「京都中華」の定番、春巻きが運ばれてきました。
「京都以外の人がウチの春巻きを見ると驚くようです。1本が長くて、8つに切って食べるんです」と語るおかみさん。

春巻きの中には、タケノコ、カニ、焼き豚、白ねぎ、椎茸がぎっしり!
皮はもちろん手作り。前の晩に皮を焼いて、生の具材を包んで軽く揚げておき、お客様に出す直前にもう一度サッと揚げるのだそうです。
これにはまず、常温の紹興酒を合わせます。
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醤油にからしと酢を加え、春巻きをつけて一口でほおばる南さん。「いつもの味です。やっぱりおいしいですね!」と思わず笑みがこぼれます。
続けて紹興酒を一口。「間違いない組み合わせです」としみじみ語ります。

ちなみに南さんの後方に見える孔雀の絵は、京都が生んだ壁画絵師「キーヤン」こと木村秀輝氏の作です。

次なる春巻きのお供は、京都限定の柚子チューハイ

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大きな春巻きを食べ進めるにつれ、のどごしが爽やかな酒が欲しくなりました。
そこでチョイスしたのが、京都水尾の柚子を使った京都エリア限定の寶CRAFT<京都ゆず>。お店でも大人気のチューハイだそうです。
「柑橘の香りが心地よくて、甘さは控えめ。さっぱりしていて春巻きに合いますね」と、お酒も食事もどんどん進みます。
ボリューム満点の春巻きですが、具がさっぱりしているので、一人で軽く1本を食べられるそうです。

れんこん饅頭には、麦焼酎を水割りで

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次なるアテは、紅葉の時期限定のメニュー「れんこん饅頭 松茸と湯葉のあんかけ」。この料理には麦焼酎の水割りを合わせます。

「もちもちの食感がたまりませんね。優しいれんこんの風味も感じられます。松茸の香りと湯葉のやわらかさも重なって、何とも言えないおいしさです」と絶賛する南さん。

そこに、麦100%の麦焼酎「麦よかいち」の水割りを一口。
「まろやかで飲みやすく、余韻がしっかりありますね。中華料理にはいろんな味つけの料理がありますが、麦焼酎は口の中をさっぱりリセットしてくれる。そこが魅力なんです」と、料理と麦焼酎の相性を語ります。

海鮮3種と銀杏と舞茸のXO醬炒め。日本酒を燗酒で

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この日の最後の料理は、「海鮮3種と銀杏と舞茸のXO醬炒め」。
XO醤炒めは一年を通して人気のメニューですが、紅葉の時期は、えび・ほたて・いかの海鮮に、季節の銀杏と舞茸をとり合わせます。
この料理には燗酒を合わせました。

「いかにも『京都中華』らしいこの料理は、出汁が効いていて上品な味わいです。あっさりしていておいしいですね」と舌鼓を打つ南さん。
「肌寒くなってくるこの季節は、やはり温かい日本酒がいい。甘からず、辛からず、まろやかでちょうどいい味わいです」と盃を傾けます。

散策後の身体をやさしく温める京都中華と酒

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お腹が満たされ、心地よいほろ酔い気分。散策で冷えた身体もすっかり温まりました。
扇子屋が忙しい時期の束の間の外飲み。「あっさりした味わいが楽しめる『京都中華』を選んで大正解でした」と南さん。

「京都を彩る紅葉に、素材の味を生かした優しい味わいの京都中華、そして料理を引き立てる数々のお酒。素朴ながら、どれも11月の京都になくてはならない存在ですね。これからも、このひと時を大切にしたいです」と、南さんは盃を置きました。


■宮脇賣扇庵ホームページ
http://www.baisenan.co.jp

<取材協力>

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ぎをん 森幸
住所:京都市東山区白川筋知恩院橋上ル西側556
営業時間:11:30~14:00(L.O.13:30)/17:00~21:30(L.O.21:00)
定休日:水曜(祝日の場合は営業) ※月に1回不定休あり。
URL:https://www.morikoh.com
※新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2021年10月11日)

▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら

●「寶CRAFT」<京都ゆず>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/takara_craft/

●本格焼酎「よかいち」<麦>黒麹25°
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/yokaichi/kuromugi/

●上撰松竹梅
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/shochikubai/
▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「京の歳時記と酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・「鞍馬の火祭」を思いながら、京都の老舗扇子屋の主人が家呑みする噺
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