京名物・黒七味屋当主が語る祇園祭の神事とお酒の噺
2022,6,24 更新
京都をよく知るお酒好きの人物が、京都の名所や歳時記とともに、お酒の楽しみ方を語るシリーズ。7月の京都といえば「祇園祭」。前回に続き、黒七味の老舗・祇園「原了郭(はらりょうかく)」13代目当主で、祇園祭の神事を担う「宮本組」組頭の原悟(はら・さとる)さんに話をお聞きしました。続編となる今回のテーマは、「祇園祭の神事」についてです。
原家に代々受け継がれる祇園祭の神事
祇園祭の期間は、7月1日から31日までの1ヶ月間。うち、「宮本組」が奉仕を務める儀式が開催されるのは7月10日から28日までとなります。
7月10日には、御神輿を清めるため行われる「神輿洗奉告祭(ほうこくさい)」があります。
この日に神様を乗せる御神輿3基が組み上げられ、八坂神社の舞殿に並びます。
原さんを含む宮本組の役員を先頭に、担ぎ手を含め約50名が白麻の紋付袴姿で集結。いざというときに神様をお守りするため、羽織を着ずに、軽装にしているそうです。
「神輿洗」松明を担ぐ宮本組
※中御座(なかござ):祇園祭の御神輿には、中御座神輿・東御座神輿・西御座神輿の3基がある。
「神輿洗」御神輿を八坂神社に収めるシーン
「一同で顔を下げますが、神様の方向に顔を上げるなんて、畏れ多くてとてもできないですね。神職の手に抱えられた神様が目の前を御渡りになる瞬間は、風がこちらにぶわっと吹くような感覚にいつもおそわれます」。
「神幸祭」御神輿3基の差し上げ(※2022年は中止)
御神輿を先導するのが、神様の宝物をお運びする「神宝奉持列(しんぽうほうじれつ)」です。そして、この「神宝奉持列」は古来より宮本組だけに託されており、唯一宮本組だけが神様のお宝に触れることができるのです。
「憧れの存在」であり続けるために
中学生になると「御神輿」を担ぐようになり、宮本組に入ったのは20歳の頃。
宮本組に入ってしばらくは祭りへの想いが希薄だったそうです。しかし、その気持ちは次第に変わっていきます。
「神様の宝物を乗せた御神輿を担がせてもらえるのは宮本組だけやで」
「ご奉仕させていただける俺たちは光栄や」。
宮本組の役員たちからそんな話を聞くにつれ、原さんは歴史を受け継ぐ重要性や責任を認識していったと言います。
「普通は触れられないものに触れ、とても貴重なことをさせていただいている。そうやって『神宝奉持列』の真髄を認識したころから祭への気持ちがさらに変わっていきました」。
その瞬間、当時の宮本組の組頭が、ものすごいスピードで御神輿の前に飛び出して立ちはだかり、追い越そうとする御神輿の行く手を決死の形相で阻止したのです。
宝物の行列には、神様を先導して神様をお守りする役目があり、なんとしてでも、神様が先に行くのを食い止めなければなりませんでした。
わが身の危険を顧みず、全身全霊で御神輿を止めた組頭の背中を見た原さんは、そのとき身震いするほどの感動を覚え、「自分もこの人のようになりたい」と思うようになりました。
毎年、同じ儀式の繰り返しですが、「少しでも気を抜くと、同じことでもできなくなる。そして、ただ繰り返すだけでは進歩がない」と、現在の組頭・原さんは語ります。
「宮本組は、町衆にとって憧れの存在であり続けたい。例えば、柏手の打ち方一つにしても、組の仲間たちとは、背筋を伸ばす、手の角度を変えて綺麗な音で打つなど、昨年よりも美しく見せて進歩していこうと申し合わせています。また、格好よさは内面から湧き出るものなので、神様への信仰心を高め、ご奉仕させていただいているという謙虚な気持ちを持つよう心がけています」。
コロナ禍で形は変われど、変わらず行われる神事
※神籬(ひもろぎ):神社や神棚以外の場所で祭祀を行う際に用いられる、臨時の神様の依り代。
「コロナ禍でも、祭の神事は変わらず行われました。ですから、自粛したとは思っていません。そもそも祇園祭は、疫病平癒のために始まったといわれる祭です。疫病時こそ、神事が必要です」と原さんは話します。
御神輿に代わる御神霊が老人ホームの前を通ったときのこと。10年以上ぶりに、神様を目にしたお年寄りは、みな御神霊に向かって手を合わせて拝み、涙を流して喜んでくれました。
老人ホームに入居していると、御神輿の通る沿道に出ることができないため、神様とお会いする機会はありません。
深い信仰心を持ち続け、コロナ禍で思いがけず神様に出会えたことに喜び涙するお年寄りの姿を見た原さんも感涙し、「本当にやってよかった」「コロナでも、工夫すれば、違った喜びが得られる」と大きな感動を覚えたそうです。
祇園祭の別名は「鱧祭」
流通が発達していない時代、内陸の京都ではなかなか活魚が食べられませんでしたが、生命力が強い鱧だけは瀬戸内から京都まで活きたまま運ぶことができるので、重宝されたそうです。
鱧は7月頃に旬を迎えることから、祇園祭は別名「鱧祭り」とも言われています。
淡白ながらしっかりとした食感が特徴の鱧。京都ではこの時期に、お造りや鱧しゃぶ、天ぷらなどさまざまな食べ方で旬の鱧を堪能します。
原さんも、祇園祭の時期に仲間たちと集う際には、京都の夏の味覚である鱧をお酒とともに楽しんでいるのだとか。
「鱧の落とし(湯引き)には、梅肉和えかワサビを合わせるのが好きですね」と、原さん。さらに原了郭の黒七味をふんわり振りかけると、山椒や黒胡麻などの豊かな風味が口の中に広がります。
冷酒でいただくなら、冷蔵庫から出して5分ほど置くと、ふくよかな味わいと華やかな香りをしっかり感じられる飲み口になります。
蒸し暑い夜は、鱧の落としをアテに、爽やかに喉を通る冷酒をいただき、涼を感じてはいかがでしょうか。
醤油とみりんで味付けされたほどよい甘さの鱧寿司は、全量芋焼酎「ISAINA(イサイナ)」の炭酸割りと一緒にいただきます。
「ISAINA」は麹まで芋を使用した全量芋仕立て。ロックなら焼き芋のような甘い香り、炭酸割りはりんごのような果実の香りが楽しめるという二面性を持つ本格芋焼酎です。
鱧寿司のようにしっかりした味付けの料理には、フルーティな炭酸割りが好相性です。
原さんにとって祇園祭のしめくくりは、祭の打ち上げである29日の直会(なおらい)です。仲間たちとお酒を酌み交わし、互いの労をねぎらう宴は、原さんの大きな楽しみの一つです。
直会の翌日からは、また毎日、次の祇園祭のことに思いを巡らせる原さん。1年のうち364日が祇園祭の準備期間だと原さんは言います。
毎月のように仲間と集まり、お酒を酌み交わすと、自然と祇園祭の話題に。祇園祭、仲間、お酒は原さんの生活の一部であり、生きがいそのものなのです。
御神輿のミニチュアが原了郭に登場
御神輿は、サイズが小さいことを除いては本物とまったく同じ造りになっているのだとか。釘を1本も使わないなど細部にまで実物にこだわり、専門の職人さんが手作業で作ったそうです。
<取材協力>
住所:京都市東山区大和大路通神門前下ル西之町216-1
URL:http://www.hararyoukaku.co.jp
▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
●上撰松竹梅
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/shochikubai/
●全量芋焼酎「ISAINA(イサイナ)」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/isaina/
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com)
・京名物・黒七味屋当主が語る祇園祭とお酒の噺
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