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京都の老舗料理旅館「八千代」の支配人が語る和食と日本酒の噺

京都の老舗料理旅館「八千代」の支配人が語る和食と日本酒の噺

2022,11,4 更新

京都をよく知るお酒好きの人物に、その人だからこそ知っているお酒の楽しみ方を語っていただくシリーズ。今回は、京都の紅葉スポットとして知られる南禅寺の料理旅館「八千代(やちよ)」の支配人・中西敏之(なかにし・としゆき)さんに、料理やお酒の楽しみ方をお聞きしました。11月 24日の「和食の日」を前に、職人技が光る料理と日本酒を堪能します。

紅葉が美しい老舗料理旅館「八千代」

南禅寺の参道沿いにある料亭旅館「八千代」(京都市左京区)。
もともとは、安土桃山時代に現在の上京区にあった料理屋で、豊臣秀吉が聚楽第で宴を催したときに用命を受けたという記録が残っているそうです。

八千代は戦後、南禅寺に移転し、料理旅館を営むようになりました。
建物4棟と庭のある敷地は、大阪歌舞伎の復興に尽力した中村卯之助氏の元邸宅です。
宿泊部屋は16室のみ。
趣ある日本庭園を臨む本館には、露天風呂やサウナ付きのラグジュアリーな部屋があります。
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また、敷地内にある食事処「料庭八千代」では、東山を借景とした庭園を眺めながら、四季折々の京料理や湯豆腐をいただくことができます。
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支配人の中西さんは、現社長である4代目の甥。
大学卒業後に八千代に入社し、接客や清掃、庭園の剪定に至るまで、調理以外のすべての業務を経験してきました。

旅館業に携わり約20年経った現在、八千代は、国内はもとより、海外の観光客にもリピートされる料理旅館へと成長しました。

旅館をとり囲む庭園は、明治から昭和にかけて活躍した造園家・7代目小川治兵衛(おがわ・じへい)が手がけたもの。明治・大正時代の政治家山縣有朋の別荘である無鄰菴(むりんあん)や平安神宮など国定名称指定庭園などを作庭した有名な庭師です。
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八千代の庭には草木がゆるやかに配置されており、自然そのままを切り取ったかのような美しい佇まい。庭の中に、中西さんが子どもたちと一緒に植えたもみじの木もあるそうです。

「旅館業を営むことは、長い年月をかけて歴史を作ることでもあります。
例えば秋には、庭の紅葉を眺めるたびに、今年の色づきはどうだろう、来年もっと美しく見せるためにどう手入れをしようか、と思いを巡らせています。その繰り返しが、歴史として積み重なっていくのだと思います」と、中西さん。
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11月は京都の神社仏閣や山々で紅葉が見ごろを迎えます。
八千代のある参道から、その先にある南禅寺の境内まで、紅葉で真っ赤に彩られる11月は、中西さんにとって1年で最も忙しい季節です。

旅館も食事処もお客様で溢れかえるなか、忙しく動き回り、汗だくになりながらふと参道に出ると、すっと涼やかな風が頬を通り抜ける。この瞬間が中西さんを心地よくクールダウンしてくれます。
紅葉を愛でる観光客から湧き上がる高揚感と色鮮やかな紅葉、そして少しだけ感じる肌寒さ。
「ああ、日本酒が飲みたいなぁ」。
中西さんがそう感じるのは、決まって11月の紅葉シーズンなのだそうです。

11月24日は「和食の日」。八千代の和食へのこだわり

気温が下がり、日本酒が恋しくなるこの季節。
11月24日は、“いい日本食”に因んで「和食の日」に制定されています。
この記念日は、2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」の文化について、実り豊かな秋に再認識するきっかけになるようにと、和食文化国民会議が制定しました。

その「和食」でお客様をもてなす八千代が、長い歴史のなかで磨き上げてきた、旬の食材を使った料理でのおもてなしと季節感溢れるしつらえ。そんな八千代の京料理は、和食の最高峰とも言われています。
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そして、「職人の手仕事でお客様をおもてなしする」という意味では、日本酒も同じなのだとか。

「和食と同様、職人の手で造られる日本酒は、日本文化の一つと言えます。
また日本酒は、その季節にしか飲めない銘柄があるなど種類も豊富。熱燗、ぬる燗、冷や、冷酒など、温度を変えることでさまざまな楽しみ方ができるのは、ほかのお酒にはない特徴です。
季節に合わせるだけでなく、お客様一人ひとりの好みにお応えできるという面でも、和食と日本酒には共通点がありますね」。

肌寒い季節に楽しみたい「湯豆腐×日本酒」

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湯豆腐発祥の地といわれる南禅寺。
禅寺での食事は、肉や魚を使わない精進料理が基本です。
そもそも湯豆腐は、炊き出しとして出されていた料理。大きな鍋に大量の焼き豆腐を入れて、大人数をもてなしたのが始まりだとか。現代の湯豆腐は絹ごし豆腐が使われますが、炊き出しの大鍋調理では煮崩れしにくい焼き豆腐が最適だったのでしょう。

八千代の湯豆腐には、地元の老舗豆腐店から取り寄せた絹ごし豆腐が使われています。
その豆腐に合わせるつゆは、「日本酒を美味しく飲むためのアテ」としておいしくいただけるよう濃い味付けで仕上げられています。湯豆腐をメニューに加えた約60年前から、つゆの味付けは変わっていないのだそうです。
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土鍋で、まずは水から昆布を入れて出汁をひいた後、豆腐を入れて蓋をして着火。沸騰したらすぐに火を止めます。

「賞味期限5分の心づもりで、召し上がってください」。
時間の経過でなめらかな食感を損なわれるため、中西さんはいつもそうお勧めするそうです。

アツアツの湯豆腐は、八千代特製の甘辛いつゆにつけていただきます。
醤油とたっぷりの酒を使って作られたつゆは、日本酒に合う濃いめの味付け。豆腐がつるっと喉を通り、身体が温まったところで、熱燗を口に含みます。
舌の上に残るつゆの風味。そこにお酒の香りがふわりと漂う瞬間はまさに“口福”です。
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「観光でお越しになったお客様は、京都の地酒を飲みたいとおっしゃいますね。京都のお酒は甘口が多いので、甘辛い味付けのつゆがよく合うと思います。
調理には、そのまま飲んでも美味しい日本酒を使用しています。
飲用としても、料理にも八千代にとって日本酒は、なくてはならない存在ですね」。

ちなみに八千代では、宿泊客が自由に飲むことができる日本酒をロビーに設置しているのだとか。
なんとも太っ腹なサービスですが、中西さんは「八千代の使命は日本文化を伝えること。職人が造る日本酒も、広めていきたい日本文化のひとつなんです」と、その想いを語ります。

乾杯シーンや若年層に選ばれる日本酒・スパークリング清酒「澪」

「和食には日本酒」が基本の八千代ですが、乾杯のシーンや、定番の日本酒が苦手な若いお客様からは、スパークリング清酒「澪」をリクエストされることが多いのだとか。
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湯豆腐コースの最初に出される八寸は、旬の食材を料理人が心を込めて仕上げた、鮮やかな彩りの品々。シュワっと爽やかな「澪」が宴のスタートを盛り上げます。

熱い湯豆腐をふうふうといただくときにも、冷えた「澪」がすっと心地よく喉を通ります。お米の甘みが余韻となり、豆腐をもうひとすくい……と、止まらなくなりそうです。

ちなみに中西さんは、大のお酒好き。
地方に出向いた際には酒蔵に立ち寄り、日本酒を試飲したり説明を聞いたりするのが楽しいと話します。
そんな中西さんが、数ある日本酒の中でも、特にお気に入りなのが「澪」だそう。
「お酒好きの男性数人で集まると、食前酒の澪を一瞬で飲み干してしまいます。欲を言えば、一升瓶タイプを販売してほしいぐらいですね(笑)」。

狙い目の時期・時間は? 秋の京都の満喫する裏技

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最後に、秋の京都を満喫するコツを中西さんにお聞きしました。

「紅葉の最盛期である11月は特に、京都の観光地はとても混雑します。
近年は紅葉の色づきが遅くなっているので、12月1週目ごろまで紅葉を楽しむことができますし、人出のピークが過ぎたころにお越しになってもよいでしょう。
もうひとつは、夕食を17時くらいに食べ始めること。神社仏閣などのライトアップを見てから夕食を摂ろうとすると、どのお店も混んでいるので、早めに食事を済ませた後、ゆっくり観光されることをお勧めします」。

紅葉を堪能できる秋は、季節の食材も豊富で、料理とお酒を存分に楽しめるシーズンでもあります。
「和食の日」には、季節の和食やほっこり温まる湯豆腐をいただいたり、日本酒を楽しんだり……。あらためて日本の食文化を感じてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>

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八千代
住所:京都市左京区南禅寺福地町34
URL:http://www.ryokan-yachiyo.com/
▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら

●スパークリング清酒「澪」
http://shirakabegura-mio.jp/

▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「匠×酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・10月1日は「日本酒の日」―北野天満宮と日本酒との深い縁の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/sakeday_220930

・京都の和菓子職人が語る、和菓子と酒の噺
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・漬物屋お勧めの漬物と酒で、夏の晩酌を楽しむ噺
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・京名物・黒七味屋当主が語る祇園祭の神事とお酒の噺
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