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京都の和菓子職人が語る、和菓子と酒の噺

京都の和菓子職人が語る、和菓子と酒の噺

2022,9,9 更新

京都を拠点に第一線で活躍されている匠が、お酒の楽しみ方を語るシリーズ。今回は、和菓子の老舗・長生堂(ちょうせいどう)の中村雄作(なかむら・ゆうさく)さんに、和菓子と一緒に楽しめるお酒について教えていただきました。

茶人がひいきにする和菓子店

1919(大正)年、京都・四条大宮で創業した和菓子店「長生堂」。現在は、左京区下鴨・植物園前に店舗と茶房を構えています。
四季折々を表現する和菓子はどれも繊細で美しく、絶品。表千家・裏千家の茶人もひいきにする名店です。
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中村雄作さんは長生堂3代目の菓子職人です。幼いころの遊び場は、祖父や父親の仕事場である和菓子工場でした。
「小学校の卒業文集には『和菓子職人になって、一級技能士の国家検定を取りたい』と書いていました。そのうち家業を継ぐんやろなあとぼんやり考えていたら、大学受験に失敗。高校の卒業式が終わって3日後には父親の工場で働いていました」。

先代は昔ながらの職人気質で、菓子作りを手取り足取り教えることはなかったそうです。そのため、ひたすら目で覚え、手を動かして菓子を作る日々が続きました。

転機が訪れたのは30歳前後のこと。呉服販売会の会場で和菓子の実演販売を行なった際、中村さんは客席のすぐ傍にあるバックヤードで作業をしていました。
すると、衝立の向こうから、和菓子を口にしたお客さまの声が聞こえてきたのです。
「美味しい」「いや、これはちょっと…」。
それまで、工場にこもりきりだった中村さん。お客さまの感想はお店に立っているスタッフから聞いていたものの、お客さまの生の声を聞いたことがありませんでした。

自分は、何のために和菓子を作っているのか?
お客さまに喜んでいただくためではないのか?
でも、喜んでいないお客さまもいるではないか。
「これではアカン」。

中村さんはそれを機に、和菓子の作り方を一から見直したそうです。
例えば、あんこ。原料は、小豆・砂糖・水のみと、素材がシンプルなだけに、炊き方によって味も食感もまるで変わってしまいます。
材料や配合を変え、試行錯誤を繰り返した結果、ようやく「長生堂のあんこ」が出来上がりました。
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「生菓子は、作りたてが一番美味しい。だから、作り置きは極力していません」と、中村さん。
ショーケースには、あくまでサンプルとしての菓子を並べ、来店客が選んだものを、奥の作業場で仕上げてお渡します。また、予約注文の商品も、来店時間から逆算して、間際に作っています。

和菓子のアイデアは賀茂川散策で生まれる

中村さんが、和菓子作りで何よりも大切にしているのは季節感です。
長生堂には、上生菓子、干菓子など、その季節にしか出合えない和菓子が多くあります。

店頭に約2週間並ぶ菓子もあれば、葵祭がある5月15日限定の「葵上用(あおいじょうよう)」、中秋の名月の日だけの「月見団子」のように、1年のうち1日しか販売しない商品もあります。

茶人たちは、長生堂に茶会で出す菓子の相談に訪れます。
茶会の時期や趣旨、依頼主の意向に合わせ、中村さんは茶菓子のイメージを考案し、何度もやり取りを重ねた末に、茶会で出される一期一会の和菓子を完成させています。

※上生菓子:季節感を表現した上等な和菓子。こなし(白あんに小麦粉を混ぜ、蒸した生地を使って作られる菓子)、きんとん(玉状のあんを求肥などで包み、そのまわりにそぼろ状にしたあんをつけた菓子)、薯蕷(じょうよ)饅頭など
※干菓子:粉や砂糖を固めて作った、水分の少ない菓子
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毎年、秋はやってきますが、まったく同じ秋はありません。
そのときの季節の移ろいを肌で感じて和菓子に反映させるため、中村さんは店のすぐそばにある賀茂川畔を歩きます。

「賀茂川の水の流れ、草木の様子、風の香り、空の色、虫の声、月のかたちなど、すべてがインスピレーションの源になります」と、中村さん。
今、この瞬間に感じた自然の移ろいを、その季節にしか食べられない和菓子に仕立てる。それが中村さんの和菓子作りの真髄なのです。
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今年の9月の新作上生菓子の菓銘は「月夜(つきよ)」。
イメージしたのは、ススキ越しに眺めた、昇り出したばかりの明るい月。薄い緑色に染めた備中白小豆は、うすら明るい夜の木々の緑、上にかけられた白い氷餅がススキです。中心には小倉大納言のつぶあんが入っています。
氷餅:水に浸して凍らせた餅を乾燥させたもの

9月は残暑と秋の訪れを感じる穏やかな気候が入り混じる季節。ほのかに広がる爽やかな風味ときんとんのやさしい甘さは、それを見事に表現しています。
見た目もさることながら、味からも季節感を感じられる、傑作です。

和菓子とお酒の美味しさは「鼻に抜ける余韻」で決まる

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そんな中村さんは、大のお酒好き。「仲間と過ごす時間を楽しく盛り上げるのに、お酒は欠かせません」と、話します。
普段は、和食・イタリアン・フレンチなどの料理に合わせてお酒を選んだり、友人が飲む焼酎や日本酒にお付き合いしたりしているそうです。

「和菓子といえばお茶が定番ですが、意外ながら、お酒にも合います。和菓子には、甘みが少なく、個性を主張しすぎないすっきりした味わいのものが良いですよ」。
そう話す中村さんが、9月のきんとん「月夜」に合わせたのは、全量芋焼酎「ISAINA(イサイナ)」です。

「ISAINA」は、炭酸割りならフルーティな香り、ロックなら焼き芋のような甘い香りと、飲み方によって異なる楽しみ方ができる本格芋焼酎です。
お酒をこよなく愛する中村さんは、「ISAINA」と炭酸水を6:4の濃いめで割って飲むのがお気に入りだとか。

「芋焼酎は芋の主張が強く、和菓子に合わないと思われがちですが、意外によくマッチします。特に『ISAINA』の炭酸割りは香りがシャープに立ち、小豆によく合います。このきんとんとも最高のマッチングです。きんとんに限らず、ようかんや干菓子との相性も素晴らしい。『ISAINA』と和菓子の組み合わせは、もっと多くの人に知ってもらいたいですね」。
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続いては、長生堂の代表銘菓である「かも川」です。

「かも川」は、丹波寒天で賀茂川の涼やかな水を、じっくりと炊き上げた丹波大納言小豆で小石を表現したお菓子です。
賀茂川そばに店を移転した際に、先代が「この場所にある、この店ならではの菓子を作ろう」と考案しました。
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「かも川」は、平成20年に全国菓子大博覧会で茶道家元賞を受賞。
表面を薄く覆ったこはく寒天はパリッ、大きな小豆はふっくらむっちり、と異なる食感が楽しく、シンプルな素材だけで作られた上品な甘さが特徴です。

賞味期限が2週間と長めなため、京都の常連さんは自宅用のお茶菓子としてだけでなく、遠くに住む方への贈答品としても「指名買い」されます。
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「かも川」と合わせたのは、松竹梅「昴(すばる)」<生貯蔵酒>。
中村さんは初めて「昴」の香りをかいだとき、「これは本物だ」と確信したそうです。口をつける前からワクワクが止まらなかったのだとか。

「フルーティな香りと清涼感がありながら、日本酒らしさをしっかり感じられます。最初に飲んだとき、『こんな日本酒があるんだ』と驚きました。すっと飲める喉ごしの良さ、鼻腔に抜ける香りの高さ、すべてが最高です」と、中村さんは絶賛します。

「『昴』の爽やかな香りが、『かも川』の自然な甘さを引き立てます。『昴』をひと口、次に『かも川』をひと口、と続けるとお互いが調和するのがわかります」。

中村さんが、和菓子でもお酒でも美味しさの基準にしているのは、“鼻のヌケ”。
まず舌で味わい、その後に鼻に抜ける余韻があるかどうか確かめます。
「ああ、美味しかった」と感じるのは、その“鼻のヌケ”が楽しめるものだそうです。
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2020年10月に登場した「かも川 プレミアム抹茶」は、「かも川」のこはく寒天に宇治・丸久小山園の抹茶をたっぷりと加えた、贅沢な和菓子です。
常連さんに何度も試食してもらい完成させたというエピソードから、中村さんの「お客さまの声を大切にしている」という姿勢がうかがえます。
店頭では毎月17日のみの販売ですが、インターネットでは常時販売。旅行や対面販売が憚られたコロナ禍初年度に誕生したお菓子は、いつでもどこでも楽しめる銘菓として愛されています。

「かも川 プレミアム抹茶」の濃い抹茶の香りとほのかな苦味を引き立てるのは、スパークリング清酒「澪」<DRY>。
甘さ控えめですっきり爽やかなキレのある飲み口の澪<DRY>は、リンゴのようなやわらかい“鼻のヌケ”が感じられるとか。

「スパークリング清酒の『澪』は、シャンパン感覚で飲めるのが新鮮です。単体で飲むのが一番美味しいんじゃないかというほど完成度が高いですね。
和菓子と合わせるなら、甘さ以外の味わいも楽しめるものがおすすめです。苦みを含む抹茶系のお菓子や、塩大福なんかが合うと思います」。

お酒とともに過ごす秋の夜長、この時期にしか味わえない極上の和菓子を選ぶのもオツなもの。
ぜひ皆さんも、和菓子とお酒のさまざまな組み合わせを、ご自宅での晩酌に取り入れてみてくださいね。

<取材協力>

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長生堂
住所:京都市左京区下鴨上川原町22-1
URL: https://chouseido.com/
▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
●全量芋焼酎「ISAINA(イサイナ)」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/isaina/

●松竹梅「昴(すばる)」<生貯蔵酒>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/subaru/

●松竹梅白壁蔵「澪」<DRY>スパークリング清酒
http://shirakabegura-mio.jp/

▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「匠×酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・京都の老舗料理旅館「八千代」の支配人が語る和食と日本酒の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat2/japanesefood_221104

・10月1日は「日本酒の日」―北野天満宮と日本酒との深い縁の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/sakeday_220930

・漬物屋お勧めの漬物と酒で、夏の晩酌を楽しむ噺
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・京名物・黒七味屋当主が語る祇園祭の神事とお酒の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/gionfestival_220624

・京名物・黒七味屋当主が語る祇園祭とお酒の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/gionfestival_220603

・宇治の有機茶園社長が語る「新茶」とお茶割りの噺
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・京都の老舗豆菓子屋主人が語る「ひなまつり」の豆菓子と酒の噺
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・京都の老舗豆菓子屋主人が語る「京都の節分と酒」の噺
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