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夏本番となるこの季節、祇園祭に想いを寄せつつ家呑みする噺

夏本番となるこの季節、祇園祭に想いを寄せつつ家呑みする噺

京都をよく知る酒好きの人物が、京の歳時記とともに、酒の楽しみ方を語るシリーズ。今回は、かつて長男が長刀鉾の稚児を務めたこともある林誠一郎さんが、酒を片手に祇園祭について語ります。

アメリカから帰国後、京都の伝統の素晴らしさを再認識

京都をよく知る酒好きの人物が、京の歳時記を語りながら、酒を楽しむシリーズの5回目。今回は下京区長刀鉾町にある会社経営者・林誠一郎さんの登場です。
忙しい林さんにとって至福の時間は、お気に入りの酒器で好きなお酒を飲むひととき。林さんが支援する漆芸作家の酒器で、酒を楽しみます。
7月は祇園祭の月。かつて長男が長刀鉾の稚児を務めたこともある林さんが、その経緯について酒を片手に語ります。

林誠一郎さんは、京都生まれの京都育ち。17歳で渡米してカリフォルニアの大学でマネジメントやITを学び、卒業後は現地で就職しました。そして12年間の米国暮らしののち京都に戻り、父が経営する会社に入社。現在は二代目社長を務めます。

忙しい会社経営のかたわら、在日フランス商工会議所アンバサダーやオハイオ州立大学歯車研究所スポンサーなど、世界各国との架け橋となる多彩な分野で活躍。一方で、漆芸作家・浅井康宏さんのサポートや、また西陣織を航空機のファーストクラスの座席に取り入れる企画に携わるなど、京都の伝統を世界に発信する活動もされています。

祇園祭の稚児となったわが子が、変化を遂げて「神の使い」となる

(写真提供;京都新聞社)
米国生活の長い林さんが、京都の伝統行事に強い関心を持ったのは、2017年。当時小学5年生の長男が長刀鉾の稚児を務めることになったことがきっかけでした。
「その頃の僕は米国生活の感覚が抜けず、祇園祭についてもさほど知らなかったので、伝統を継承される周囲の方に教わりながら、多くのことを学びました。とにかく緊張の連続でした」と述懐します。

長刀鉾の稚児は、祇園祭の中で最も注目を集める格式ある存在。林さん一家は、京都の伝統の真っ只中に身を置くことになったのです。

祇園祭の準備が始まる7月1日、長刀鉾町の役員一同は稚児とともに八坂神社で神事の無事を祈ります。
5日には、稚児舞が披露される、いわゆる「吉符入り(※)」の儀式があります。長刀鉾の会所(かいしょ)の2階を鉾に見立て、金の立烏帽子(たてえぼし)に水干(すいかん)姿で、顔を白く化粧した稚児が、本番同様の舞を一般にお披露目するのです。
※吉符入り:祭りの無事を祈願する儀式。

社参の儀正五位少将・十万石の写真。(写真提供;星野裕也)
7月13日、稚児は衣装をととのえ、白馬に乗って八坂神社へ社参し、十万石大名相応の「正五位少将」の位を授かります。この日を境に稚児は神聖な存在となり、注連縄(しめなわ)の貼られた部屋で過ごし、地面に足をつけずに強力(ごうりき)※に担がれて移動するようになります。
「周囲に稚児として扱われ、儀式を経ていくなかで、普通の小学生だった長男の様子が変わっていくんです。子どもはピュアで素直なので、神様が入りやすいのでしょう。わずか数日で、わが子が神の使いになったと感じました」と林さんは語ります。

そして7月17日、祇園祭山鉾巡行の日。路上を埋める大勢の人が、先祭(さきまつり)の山鉾23基の先頭に立つ長刀鉾を見守る中、会所から強力に担がれて稚児が登場します。
※強力:稚児を担ぐ人

(写真提供;星野裕也)
鉾の上から刀で注連縄(しめなわ)を切り、それを合図に山鉾巡行がスタートします。祇園祭で最も荘厳なシーンのひとつです。
「祇園祭の象徴のように思われる山鉾巡行ですが、山鉾の役割はあくまで、神輿(みこし)が通る道を清めること。祇園祭の最後を飾るのは八坂神社の神輿です。神輿が帰っていったとき、すっと風が抜けるのを感じたのは神秘的な体験でした」と、祇園祭で感じた見えないものに対する感動について語る林さん。
「鉾町に会社があることもあり、僕にとって祇園祭は一番身近なお祭りです。新型コロナウイルスの影響から、今年も山鉾巡行や神輿渡御は中止となりましたが、無事に巡行が見られる日が訪れることを楽しみにしています」と続けました。

祇園祭といえば鱧料理。まずは「鱧の落とし」に大吟醸酒を冷やで

祇園祭と深い縁ができた林さんにとって、この季節の酒の肴に欠かせないのが鱧料理です。祇園祭には「鱧祭」の別名もあり、暑い夏が到来すると、京都人は真っ先に鱧料理を思い出すのだとか。
子どもの頃は骨が気になって鱧が苦手だったという林さん。
今は、骨切りした鱧を湯に落として、くるっと茹で上がった「落とし」が大好きです。
「表面が美しいし、すごくおいしい」と、梅肉とわさびを添えながらいただきます。
合わせるお酒は、「特撰松竹梅<大吟醸>磨き三割九分」。陶製のお猪口に冷やで注ぎます。「このお酒は、淡白な鱧の味を邪魔しないから、しっくりきますね。辛口と甘口の中間で、やさしい味わいです」と、お酒がすすみます。

「鴨肉のロース」をアテに、純米大吟醸をお気に入りの漆酒器で

続くアテは、鴨ロースのスライス。「特撰松竹梅<純米大吟醸>」をお猪口に注ぎます。香りのよい純米大吟醸を口に含み、鴨肉を少し食べてひとこと、「実に幸せですね」と林さん。

「ワインの場合は、ヴィンテージや香りなどあれこれ議論されますが、日本酒は多くを語らず、ただ美味しく楽しめます。まさに日本人の気質にも通じる“黙らせて納得させる”味わいですね」。
旨味のあるやわらかい鴨肉と、すっきりとした純米大吟醸。この最高の相性に言葉は要りません。

鴨ロースに合わせる日本酒を注ぐために選んだのは、林さんが支援する漆芸作家・浅井康宏さんの蒔絵酒器「夜の唄」。
「この漆黒の酒器は、中に金色と青の螺鈿(らでん)があり、お酒をなみなみと注ぐと、その模様が浮かび上がります。口へお酒を運ぶ際、絵柄が揺らいで見えて、その美しさには毎回感動しています」。
美術品ともいえる酒器により醸し出される、至福の時間に浸る林さんです。

夏の京野菜の代表格・賀茂なすの田楽には、よく冷えたスパークリング清酒を

盛夏の京野菜料理は、やはり賀茂なすの田楽。甘みのある味噌に合わせて、よく冷やしたスパークリング清酒「澪」をグラスに注ぎます。
「澪は、普段からよく飲んでいます」と言う林さん。今回は限定品であるいちご風味の澪を試していただきました。
「香りはいちごですが、味はいつもの澪そのもの。フルーティーでやさしい甘みとほどよい酸味があります。澪は、二口目を飲むとまた味が変わったように感じられて、どんどんおいしくなるんです。賀茂なすの田楽によくマッチしますね」と、舌つづみを打ちます。アルコール度も5度とビール並みなので、口当たりも爽やかです。

気分が乗ってきたので、豪華にして繊細な金の漆酒器を取り出して

「蒔絵螺鈿高坏(まきえらでんたかつき)『光華』」の名がついていますが、盃部分は金漆、それを三本の繊細な金細工のステムが支えます。
器の内側には金と青の螺鈿細工が。清酒を注ぐと、あたかもフランスの大聖堂のステンドグラスのように、螺鈿模様がキラキラと浮かび上がってきます。

「初めて使うので緊張します」と言いながら、絵柄の揺らぎときらめきを楽しみつつ、最高の日本酒を、最高の酒器でじっくり、ゆっくり味わう。酒器が素敵だと、お酒の味もいつもにも増して格別に。酒器のアートにも酔いしれて、リラックスタイムを締めくくる林さんでした。

次回は、林さんが行きつけのお店で酒を楽しみながら、8月の京都の風物詩「大文字の送り火」について語る予定です。お楽しみに!


▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
●特撰松竹梅<大吟醸>磨き三割九分
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/daiginjo_migaki39/

●特撰松竹梅<純米大吟醸>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/junmaidaiginjo/

●松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング清酒(レギュラー・イチゴ※期間限定)
http://shirakabegura-mio.jp

▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「京の歳時記と酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・「夏越の祓(なごしのはらえ)」を前に、陶芸家が晩酌で半年を振り返りつつ、新たな作品に意欲を燃やす噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/nagoshinoharae_210611

・新緑の美しい季節、酒をこよなく愛する陶芸家が葵祭に思いを馳せて家呑みする噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/aoi_matsuri_210507

・やすらい祭のお囃子に浮かれつつ、春の宵にお酒を一献傾ける噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/yasurai_matsuri_210402

・大の酒好き、祇園祭の囃子方が京弁当をアテに飲む噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/hanami_bento_210305