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先祖をしのぶ「五山送り火」を前に、京料理の名店で一献傾ける噺

先祖をしのぶ「五山送り火」を前に、京料理の名店で一献傾ける噺

京都をよく知る酒好きの人物が、京都の名所や歳時記とともに、酒の楽しみ方を語るシリーズの第6弾。8月の京都といえば、「五山送り火」。今回も、前回に引き続き会社経営者の林誠一郎さんに登場いただき、「五山送り火」にまつわる噺をお聞きしました。

「五山送り火」は、先祖の霊を送る行事

京都の夏の夜空を彩る8月最大の行事といえば「五山送り火」です。京都盆地を東・北・西と半円状に取り囲む5つの山々で、順に松明が焚かれ、炎で描かれた文字や形が浮かび上がります。この「五山送り火」で、お盆に戻ったお精霊(しょらい)さんと呼ばれる先祖の霊を再びあの世へ送り出すとされています。

8月16日夜8時、銀閣寺裏手にある「大文字」(東山如意ヶ嶽)から点火がスタートして、5分おきに、「妙・法」(松ヶ崎西山・東山)、「船形」(西賀茂船山)、「左大文字」(大北山大文字山)、「鳥居形」(嵯峨鳥居本曼荼羅山)と点火が続き、お盆の終わりの京都の夜が彩られます。

毎年、その様子はテレビなどでも中継され、多くの観光客を惹きつけていますが、本来はお盆で家に戻ってきていた先祖の霊を、送り火とともにあの世に送り出すための行事。

送り火の数日前から、先祖の名を書いたお焚き上げの護摩木を受け付けるところもあり、その護摩木を保存会の人が大切に山の上の火床まで運んで焚き上げます。送り火を見ながら手を合わせてお経を唱える人もいて、京都の人にとって五山送り火は、先祖の霊を送る行事として今も大切に守り続けられています。

五山送り火は、林さんにとって「先祖を意識する節目」

林さんは10代で米国へ渡り、カリフォルニアの大学を卒業して現地で就職した後、12年間の米国生活を経て京都へ戻りました。しかしカリフォルニアと京都では、環境や文化、考え方など何から何まで異なり、帰国後しばらくは孤独感を抱えていたそうです。

帰国翌年の8月、渡米中に亡くなった祖父母のお墓参りに一人で出かけ、お墓を掃除して手を合わせたそのとき、なんとお墓の後ろにある卒塔婆(そとば)が、風もないのにカタカタと動きだしたそうです。
子どもの頃に自分をかわいがってくれたおじいちゃんとおばあちゃんを懐かしみ、「僕が来たのがわかったのかなと、涙が溢れると同時に、すごく暖かい気持ちになりました」と語る林さん。

小さい頃、五山送り火は“お祭りの延長”だったのに、その印象的な出来事があって以降、近くの京都御苑から大文字を眺めていると、「おじいちゃん、おばあちゃんがお盆の間、本当にこちらに帰ってきてくれていたんだ」という気持ちになるそうです。

「二人がいつも見守ってくれているという安心感に包まれ、『自分は一人ではない』と感じて力が湧いてくる。今は、そんな特別な想いを送り火に感じています」と林さんは語ります。

林さんにとって、五山送り火の日は祖父母を身近に感じるとともに、先祖を意識する節目の日。先祖に想いを寄せるこの日は、毎年必ず家族と一緒に見ると決めているのだそうです。

五山送り火の日を前に、馴染みの店「木乃婦」で一献傾ける

五山送り火の日を前に、この日は昼から馴染みの日本料理店「木乃婦」でお弁当をいただきながら、先祖をしのびつつ一献傾けることにしました。
木乃婦の3代目主人高橋拓児さんとは、地域奉仕などで一緒に活動している間柄。古いもののよさを合理的に理解して常に新しいものへ挑戦する、という考え方が共通することもあり、気心が知れた仲です。

お弁当の蓋を開けると、彩り鮮やかな八寸、お造り、焚き合わせ…と、数々の料理が目に飛び込んできました。

祖父母を連想させる日本酒で先祖をしのび、鱧料理を楽しむ

※お酒はイメージです。店舗での取り扱いはありません。
夏の京料理に必ず登場する鱧。8月に入ると鱧は産卵の時期に入るため、「鱧の子」が旬の味となります。まずは鱧の子を、季節の野菜の焚き合わせとともにいただきます。

茄子の焚き合わせは、「お精霊(しょらい)さん」の時期、先祖の霊を迎えて送る飾り物として供えられています。茄子は先祖の霊の乗りものとされ、茄子に乗って名残を惜しみながらゆっくりあの世に帰っていくといわれています。

木乃婦の主人・高橋さんにこの料理に合うお酒を聞くと、香りのシンプルな冷酒が良いとのこと。
「では、辛口の日本酒をいただきます。スタートにはぴったりですね」と冷やした日本酒を味わい、鱧の子に箸を伸ばす林さん。「最高の味です。ほのかな甘みと旨味、やわらかくて口当たりもいい。お酒がすすみますね」。

飲み進めながら、「この時期、日本酒といえば、やはり『松竹梅』を思い出します」と話す林さん。
祖父母の家は京都の太秦にあり、松竹の撮影所が近くにありました。だから、おじいちゃんとおばあちゃんを連想させるお酒というと、「松竹梅」なのだそうです。

お盆にちなんださつまいもを、芋焼酎のオンザロックでいただく

※お酒はイメージです。店舗での取り扱いはありません。
この日のお弁当の籠に入った盛り合わせの中に、さつまいもを夏向きにさっぱりと焚いた一品がありました。さつまいもは茄子と同様、先祖の霊の乗りものとされています。

「さつまいもには、芋同士ということで、芋焼酎がいい」と、林さん。
さつまいもを一口食べ、本格芋焼酎をオンザロックでいただきます。

「これはおいしい! さつまいもの甘さが際立ち、料理とお酒がお互いを引き立て合いますね」と笑顔で語り、口の中で広がる絶妙なコンビネーションに至極満足の様子です。

芋のアテに合わせるなら、全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」がオススメだそう。一刻者は、麴(こうじ)まですべてさつまいもで造られたこだわりの本格芋焼酎。さつまいもの香りそのものが贅沢に味わえる逸品です。
素材も味付けも選び抜かれた本格的な日本料理にぴったりです。

お酒がすすむにつれ、思いは過去から未来へ

京都では、6月末に夏越の祓、7月に祇園祭があり、8月の五山送り火で京都の暑い夏が終わるイメージがあるという林さん。
家族で五山送り火を見ていると、「今年の夏も終わるんだなぁ」と、先祖があの世に帰る寂しさも重なり、感慨深い思いに浸ってしまうのだそうです。

折しも、林さんはフランスの知人と調理器具を開発中で、「実は木乃婦のご主人・高橋さんに、この調理器具でしかできないような特別な料理を考案していただきたいと思っているんです」と、新たな事業の話を始めます。

「僕の本業は、航空機などに使う歯車を製造する会社の経営です。これからも自分が歯車となり、人と人をつなぎ、それが新しいビジネスへと発展するような関わり方をしていきたいですね」と語りながら、グラスを傾けます。

京都で古くから続く五山送り火は、先祖を思う日。ゆっくりとお酒を飲みつつ、先人の想いを受け継ぎながら、未来へと想いを馳せる林さんでした。

<取材協力>

京料理 木乃婦

住所:京都市下京区新町通 仏光寺下ル岩戸山町416
営業時間:昼の部 12:00~15:00(L.O.13:30)/夜の部 18:00~21:30(L.O.19:30)
定休日:不定休
URL:http://www.kinobu.co.jp/

※新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2021年7月9日)


▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
●松竹梅「白壁蔵」<生酛純米>
https://shirakabegura.jp/

●全量芋焼酎「一刻者」
https://www.ikkomon.jp/

▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「京の歳時記と酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・夏本番となるこの季節、祇園祭に想いを寄せつつ家呑みする噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/gion_matsuri_210702

・「夏越の祓(なごしのはらえ)」を前に、陶芸家が晩酌で半年を振り返りつつ、新たな作品に意欲を燃やす噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/nagoshinoharae_210611

・新緑の美しい季節、酒をこよなく愛する陶芸家が葵祭に思いを馳せて家呑みする噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/aoi_matsuri_210507

・やすらい祭のお囃子に浮かれつつ、春の宵にお酒を一献傾ける噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/yasurai_matsuri_210402

・大の酒好き、祇園祭の囃子方が京弁当をアテに飲む噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/hanami_bento_210305

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