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「重陽の節句」を前に、京都の老舗扇子屋の主人が菊酒を楽しむ噺

「重陽の節句」を前に、京都の老舗扇子屋の主人が菊酒を楽しむ噺

京都をよく知る酒好きの人物が、京都の名所や歳時記とともに、酒の楽しみ方を語るシリーズ。今回の語り手は京都の老舗扇子屋「宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)」社長の南忠政さんです。9月9日「重陽(ちょうよう)の節句」を前に、無病息災や不老長寿を祈念して菊酒をいただきます。

創業は江戸時代。京扇子の老舗を、思いがけず継ぐことに

南さんが社長を務める宮脇賣扇庵は、創業文政6(1823)年の京扇子の老舗。

京都の富小路(とみのこうじ)六角にある店舗は、当時の商家の風情をそのままにとどめます。
店内には古い扇の資料が多く所蔵され、富岡鉄斎、竹内栖鳳(せいほう)ら京都画壇の巨匠48名によって明治35年に描かれた見事な天井画は有名です。

南さんは1976年の大阪生まれ。幼い頃、京都は母方の実家として遊びに行くところでした。まさか自分がその京都の扇子屋を継ぐなんて、夢にも思わなかったそうです。

大学を卒業して、しばらく一般企業に勤めた後、老舗の伝統を守ることの大切さに気付き、家業に興味を持った南さん。扇子の可能性を思い描き、2000年に入社し、昨年、取締役社長となりました。
何も知らずに入った伝統工芸の世界でしたが、今や数多くの職人らを、8代目主人として統括し、経営者という立場で奮闘しています。

岩絵具で一枚一枚手描きされる「飾り扇」の扇面

扇子づくりの工程は87あると言われています。骨、扇面作りからはじまり、仕上げ作業まで、京扇子を名乗れるのは、すべての工程を国内で行ったものだけです。

書画に親しみ、文人墨客と交流があった宮脇賣扇庵3代目新兵衛は、工芸品としての「飾り扇」を考案します。その扇面は、この写真のように日本画特有の岩絵具で丁寧に描かれます。鉱石を砕いてつくられる粒子状の岩絵具は、扇面で美しい色を放ちます。

9月9日の「重陽の節句」を描いた飾り扇を添えて

9月9日は「重陽の節句」。菊の節句とも呼ばれます。中国由来の陰陽五行思想では、「9」という陽の数字(奇数)が重なることからめでたい日とされる一方、翌日からは陰の気が強まるため、災いを避けるため厄除けの行事も行われました。

また、菊の露には不老長寿の薬効があるという伝説から、「重陽の節句」に菊の花を飾り、菊酒を飲む風習が定着しました。

※お酒はイメージです。店舗での取り扱いはありません。
宮脇賣扇庵にも「重陽の節句」用に飾り扇があり、菊の花と茱萸袋(ぐみぶくろ)が描かれています。重陽の行事には、茱萸(しゅゆ・ぐみ)の枝も厄除けとして用いられ、茱萸袋を柱にかけて厄除けとしました。金色の扇を広げると、ぱっと周囲が華やかになります。

不老長寿の伝説もある菊酒をいただく

南さんは仕事関係でお客様とさまざまな店を訪れますが、ときにはプライベートで一人飲みを楽しむこともあるそうです。この日は馴染みの料理屋「祇園ろはん」に訪問し、特別に酒を用意してもらいました。

まずは、冷やの日本酒に菊の花びらを浮かべた菊酒をいただきます。菊酒は、京都の寺社の重陽の行事でもふるまわれます。

菊酒は由緒のあるお酒です。かつて中国の周の穆王(ぼくおう)に仕えた少年が罪を犯して流罪となりますが、菊の露を飲んで生き延び、やがて不老不死の仙人になりました。この仙人は菊慈童(きくじどう)と呼ばれ、日本では能の「枕慈童」がこれをテーマにしています。

「お能の世界では、扇は重要な道具の一つ。僕は伝統のことはあまり知らずにこの世界に入り、皆さんに教えていただきながら今も勉強中です。枕慈童もいずれ観てみたいです」と言いながら、南さんは菊酒を一献傾けます。

厄払いになる「9日の茄子」を味わいつつ、特撰松竹梅<純米大吟醸>を

菊酒とともにいただくアテは、焼き茄子の煮びたしです。
9月は秋茄子の美味しい時期。旧暦9月の9日・19日・29日の3回の9の日は、「三九日(みくんち)」と呼ばれます。この日に茄子を食べると無病息災で過ごせるという言い伝えがあり、茄子を食べる習慣があります。

焼き茄子の煮びたしを、ひとくち。「これはおいしい! 細かくすり下ろした柚子の風味が良いですね」と言いながら菊酒を一杯。
「大吟醸の日本酒は香りが華やかで、冷やで飲むとよりおいしい。柚子が効いた焼き茄子の清涼感がさらに口いっぱいに広がって、爽やかにしてくれます」。

菊酒も焼き茄子も厄除けを願った風習です。扇子はもともと、貴重な紙の代わりに木や竹を短冊状に切って束ねて使われていた「木簡」が起源。その後、儀式的な持ち物として使われるようになり、後世あおぐ目的で使われるようになったそうです。

「扇の原型はシュロの葉とも言われ、邪気を払うという意味もあったのでしょう。祇園祭で巡行する鉾の先頭にも、扇を振る先導役がいます。山鉾巡行自体が厄払いの役割だといいますが、あの扇も厄払いの意味があるかもしれませんね」と、扇が主役になるシーンを思い浮かべ、お酒がすすむ南さんです。

貝をアテに芋焼酎のオンザロックをいただく

※お酒はイメージです。店舗での取り扱いはありません。
次のアテは「冷たい貝の炊き合わせ」。サザエ、ホッキガイ、バイガイなど、食感も風味も違う貝を取り合わせ、サザエの肝に青のりを加えた苦みのあるソースが添えられています。「残暑厳しい中、冷たい貝の取り合わせがよさそう」と南さんの好みをよく知る店主の、まさに渾身の一品です。

これには芋焼酎をオンザロックで。一口食べて、お酒を飲み、「これは合います。最高ですね!」と声があがる南さん。
「料理を食べてから飲むと、さらにお酒の味がスッキリ感じられます」。

全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」の赤ラベルは、赤芋を使用していて、赤芋本来の甘みと豊かな香りが楽しめます。「香りがとても良いですね。この芋焼酎はスッキリしていて、いけるなあ」と南さんもお気に入りのようです。

扇子屋の一年の節目の9月に、この一年を振り返る

お酒がすすむにつれ話が弾む南さん。「9月は扇子屋にとっては節目の月なんです」。扇子が売れるのはやはり夏場。そのため8月も半ばを過ぎるとその年のピークを過ぎるそうです。

一方、扇子は、能や日本舞踊、茶の湯などの伝統芸能の世界で必須アイテム。秋から冬にかけては公演や行事も増えていきます。そのため9月は扇子屋にとってはいろんな意味で節目の時期。この一年を振り返って、翌年の構想を練る時期なのだそうです。

南さんは今年1月、扇子の新しいあり方を提案するファッションブランド「BANANA to YELLOW(バナナとイエロう)」を立ち上げ、新店舗をオープン。伝統を継承しながら、新たに発展させていく取り組みを始めました。

伝統ある京町家の本店とは対称的な、ロックの流れるモダンな店内。扇子の香りを生かしたオリジナル香水や、オリジナルキャラクターのTシャツは、若い世代からも注目されています。

※お酒はイメージです。店舗での取り扱いはありません。
「あおぐだけではない、古来からある扇子の使い方を多くの人に知ってほしい」。舞踊、能、将棋、涼を取るだけでなく、日常のさまざまなシーンで用いられる扇子ですが、その昔、「手馴れぐさ」とも言われていたそうです。
「いつも自分の手に馴染んでいる。そんな文房具みたいに、扇子を使って欲しい」。コロナ禍でも、希望を持って事業を広げていこうとする南さんでした。

■宮脇賣扇庵ホームページ
http://www.baisenan.co.jp

■ BANANA to YELLOW(バナナとイエロう) ホームページ
https://banana-to-yellow.jp

<取材協力>

祇園ろはん
住所:京都府京都市東山区大和大路通四条上ル廿一軒町232 1F
電話:075-533-7665
営業時間:17:00~22:30
定休日:日曜日
URL:https://www.facebook.com/gionrohan/
※新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください。(取材日:2021年8月11日)

▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
●特撰松竹梅<純米大吟醸>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/junmaidaiginjo/

●全量芋焼酎「一刻者」<赤>
https://www.ikkomon.jp/


▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「京の歳時記と酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・先祖をしのぶ「五山送り火」を前に、京料理の名店で一献傾ける噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/gozan_okuribi_210806

・夏本番となるこの季節、祇園祭に想いを寄せつつ家呑みする噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/gion_matsuri_210702

・「夏越の祓(なごしのはらえ)」を前に、陶芸家が晩酌で半年を振り返りつつ、新たな作品に意欲を燃やす噺
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・新緑の美しい季節、酒をこよなく愛する陶芸家が葵祭に思いを馳せて家呑みする噺
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・大の酒好き、祇園祭の囃子方が京弁当をアテに飲む噺
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