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「鞍馬の火祭」を思いながら、京都の老舗扇子屋の主人が家呑みする噺

「鞍馬の火祭」を思いながら、京都の老舗扇子屋の主人が家呑みする噺

京都をよく知る酒好きの人物が、京都の名所や歳時記とともに、酒の楽しみ方を語るシリーズ。語り手は前回に引き続き、京都の老舗扇子屋「宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)」社長の南忠政さんです。今回取り上げるのは、京都三大奇祭の一つといわれる由岐神社の「鞍馬の火祭」。今年1月にオープンした新ショップのアイテムをご紹介いただきつつ、鞍馬の名物をつまみに盃を傾けます。

伝統柄もポップに見える「BANANA to YELLOW(バナナとイエロう)」の扇子

南忠政さんは、創業文政6(1823)年の京扇子の老舗「宮脇賣扇庵」の8代目社長です。
2021年1月、扇子文化の原点を見つめ直し、現代のライフスタイルに合う新しい扇子のあり方を提案するファッションブランド「BANANA to YELLOW(バナナとイエロう)」を立ち上げ、新店舗をオープンしました。

そこに並ぶ扇子は、目にも鮮やかなポップな絵柄の扇子。しかしよく見ると、竹の骨組みは伝統的な製法で作られています。とりわけ、中央に三色の色違いの骨があるものは、古式の扇子からアイディアを採用。今にも通じるおしゃれさを感じます。
「世界的デザイナーの北川一成さんがプロジェクトに携わってくださり、伝統のモチーフや古い図案を現代風にアレンジすることができました。
そのほか、バンドGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーさんや、現代アート作家の大竹伸朗さんなど、多様なジャンルの方々とのコラボレーションを通し、これまでにない斬新なデザインの扇子が生まれました」と、語る南さん。

扇骨の本数は様々ですが、「バナナとイエロう」の扇子では一番ポピュラーで美しく見える18本を採用。男女兼用で使えるサイズだそう。
南さんの美しさへのこだわりはそれだけではありません。

京扇子の真髄は閉じたときの美しさ。
それを追求しているのが、「バナナとイエロう」の特徴です。
閉じた時に一際目立つ、骨を束ねる根元の「要(かなめ)」の部分は、「目」の模様が浮かび上がるようにアレンジ。また「天(てん)」と呼ばれる、閉じたとき先端になる部分にも「目」がうっすらと浮かぶようデザインされていて、閉じたときにもさり気ないおしゃれさが楽しめ、扇子がとても素敵なアイテムに感じられます。

「ご承知の通り、扇子は茶道や落語、将棋などでも必須のアイテムです。暑いときにあおぐだけでなく、普段もファッションの一部として常に持っていて欲しいアイテムですね。昔から扇子は、何気なく手に持つ、お守りにする、親しい人と交換するなど、さまざまなシーンで利用されていました。そんな風に若い人の生活にも馴染んでいってほしいですね」と、南さん。

トートバッグやTシャツにも、「バナナとイエロう」のオリジナルマークが施され、もちろん、扇子を入れるポケットもついています!

店をオープンした反響を聞くと「このマークにインパクトがあるので、皆さん驚かれます。また、一度見たら忘れられないと言う方も。若い人にもユニークだと好評です。従来から扇子を愛用されているお客様からも、扇子への意識を広く持ってもらえそうだという応援のメッセージをいただきました。反響はじわじわと広がりを見せています」。

京都三大奇祭の一つ「鞍馬の火祭」は、古い伝統を今に再現

※今年度の「鞍馬の火祭」は、新型コロナウィルス感染拡大防止のため中止となりました
さて、10月の京都の大きな行事といえば、毎年10月22日に行われる「時代祭」と「鞍馬の火祭」。そのうち「鞍馬の火祭」は、大小約500本の松明の炎が燃え盛る、なんとも勇壮で迫力のある京都三大奇祭の一つです。

夕刻になると、鞍馬の家々の前にかがり火が焚かれ、若者が大小さまざまな松明を担いで街道を練り歩き、鞍馬寺の山門前に神輿とともに集結。あたりは大松明の火に包まれます。これが祭のクライマックス。このあと神輿は集落をめぐり、御旅所に立ち寄って、夜半まで松明をともなった儀式が行われます。

この火祭の由来は、平安時代に遡ります。
かつて平安京の内裏(だいり)に祀られていた神様を都の北方守護のため鞍馬寺の麓に移すことになり、鴨川に生えていたアシを束ねてかがり火にし、遷宮の行列が続いたといいます。この遷宮(せんぐう)のことを忘れぬようにと再現しているのが「鞍馬の火祭」です。

「鞍馬の火祭は、勇壮な祭というイメージです。鞍馬山はパワースポットとしても知られていて、パワースポット好きな僕も何度か訪れています。実は鞍馬寺で授与されている『降魔扇(ごうません)』は、うちで作ってるんですよ」と語る南さん。

この写真が降魔扇ですが、天狗の姿をしているのが鞍馬寺の護法魔王尊、その横にいるのが遮那王(しゃなおう)こと牛若丸(のちの源義経)です。牛若丸は子どもの頃に鞍馬寺に預けられ、天狗に武芸を教えられて上達したという伝説があります。

鞍馬寺の説明では、この扇子は禍(わざわい)を払い清め、よこしま(邪:正しくないこと。道にはずれていること)を正す祈りが込められているそうです。まさに邪気払いの扇子! ちなみに、この絵を描いているのは、大正から昭和初期に京都画壇で活躍した柴田晩葉(しばた・ばんよう)です。

古きものと新しきものの融合を思わせるスパークリング清酒「澪」で乾杯

南さんのこの日の家呑み、最初の一杯は、スパークリング清酒「澪(みお)」。「やはり最初の一杯は、シャンパン代わりに、よく冷えた発泡性の日本酒がおいしいですよね」と澪をグラスに注ぐ南さん。

「澪」は、伝統的な日本酒づくりの中で、革新的な技術を用いて生まれたスパークリング清酒。酵母によるフルーティーな香りとお米由来のやさしい甘み、はじける泡が心地よい新感覚のお酒です。

「伝統的な扇子の製法を基盤にしながら、『バナナとイエロう』というニューブランドを立ち上げたことと、このお酒との共通性も感じています。新しい日本酒という感じで甘くて飲みやすいですね。しかも乾杯酒としても最適です」と南さんは目を細めます。

鞍馬名物「木の芽煮」をつまみに、人肌燗に温めた日本酒を

晩酌の最初のつまみは、鞍馬の火祭の話にちなんで、鞍馬名物の「木の芽煮」。鞍馬では昔から、集落の人が木の芽などの山の幸を佃煮にしていました。
この日の木の芽煮は、山椒の実と葉を昆布と醤油でしぐれ煮風にして、それをさらに刻んで山椒の香りがたつようにした珍味です。

「食感がコリコリ・プチプチと不揃いで、歯ごたえがあって美味しい。これには日本酒が合いますね」と、純米酒を人肌燗に温めて飲む南さん。少し肌寒くなった夕刻には、この温かさがやさしく感じられます。

「佃煮の辛い味が、お酒を飲んだ瞬間にふわっと緩まり、風味が心地よく残ります。しっかりと味わえて、最初の突き出しにはぴったりですね」と、鞍馬の里の風景を思い浮かべながら、南さんはひとり静かに晩酌をすすめます。

鞍馬の人が祭の日に食べる「鯖寿司」を芋焼酎のロックで

鞍馬の人たちにとって、一年のうちで最も大きなイベントである火祭の日には、鯖寿司と赤飯が欠かせないそうです。
地元の方がよく注文するという名店の鯖寿司をまずは一口。
「これには甘みのある芋焼酎のロックがよさそうですね」と言いながら、南さんは氷の入ったグラスに全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」<赤>を注ぎます。

麹も含め材料がすべて芋、というこだわりの芋焼酎。赤芋を使用した「一刻者」は、赤芋独特の豊かな甘みが感じられます。
「たちのぼる甘い香りが最高です」と言いつつ、もう一度鯖寿司を口にする南さん。
「抜群の相性ですね。この甘さが鯖寿司や紅生姜の酸味とよく合います。しばらくこのあと味の余韻を味わっていたいなあ」。

鞍馬の火祭は、平安時代からの伝統を守りながら、今にも通じるダイナミックさが魅力の祭で、若い人が守り継いでいます。
古きものを守りながら新しい扇子を創造する――そう考える南さんにとって、火祭にちなんだ味覚を楽しむ一人呑みは、さらなる新しいアイディアを巡らせてくれるひとときとなったようです。

次回は、引き続き南さんに登場いただき、秋以降に持つ扇子の役割について教えていただきます。
行きつけの京都中華の名店で、おすすめの紅葉スポットについても語っていただきます。
ご期待ください。


■宮脇賣扇庵ホームページ
http://www.baisenan.co.jp

■ BANANA to YELLOW(バナナとイエロう) ホームページ
https://banana-to-yellow.jp



▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら

●松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング清酒
http://shirakabegura-mio.jp

●松竹梅「飲みごたえ純米」
https://www.takarashuzo.co.jp/news/2021/TS21-049.htm

●全量芋焼酎「一刻者」<赤>
https://www.ikkomon.jp/


▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「京の歳時記と酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・「重陽の節句」を前に、京都の老舗扇子屋の主人が菊酒を楽しむ噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/choyo_sekku_210903

・先祖をしのぶ「五山送り火」を前に、京料理の名店で一献傾ける噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/gozan_okuribi_210806

・夏本番となるこの季節、祇園祭に想いを寄せつつ家呑みする噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/gion_matsuri_210702

・「夏越の祓(なごしのはらえ)」を前に、陶芸家が晩酌で半年を振り返りつつ、新たな作品に意欲を燃やす噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/nagoshinoharae_210611

・新緑の美しい季節、酒をこよなく愛する陶芸家が葵祭に思いを馳せて家呑みする噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/aoi_matsuri_210507

・やすらい祭のお囃子に浮かれつつ、春の宵にお酒を一献傾ける噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/yasurai_matsuri_210402

・大の酒好き、祇園祭の囃子方が京弁当をアテに飲む噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/hanami_bento_210305

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