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京都で味わう冬の名残“絶品ふぐ”の噺

京都で味わう冬の名残“絶品ふぐ”の噺

冬が来ると食べたくなるものと言えば、ふぐ料理。 今年は暖かな日が続いたため、ふぐが出回るのもなかなか時間がかかった模様。ようやく、白子も身も丸々と太った上物が登場してきたようです。 北大路魯山人をして「日本の食品中で、なにが一番美味であるかと問う人があるなら、私は言下に答えて、それはふぐではあるまいか」と言わしめたふぐ。 猛毒を持つふぐを特別な方法で調理し、無類の美味に昇華させた古の人々の努力には感服します。 今日、私たちがふぐに舌鼓を打てるのは、この執念とも言える技術の積み重ねのおかげ。 ならばその先人の努力に感謝しつつ、たまの贅沢に思いきり堪能したいものです。 そこで、今回は京都木屋町の老舗ふぐ専門店「末廣(すえひろ)」へ絶品のふぐ料理を求めて出かけました。

禁令の中、隠れてでも食べたいふぐ

ふぐの歴史は深く、今から6000年前の縄文時代にはすでに食べられていたそう。
もちろん、当時はふぐを安全にさばく方法は確立されていませんから、かなりの数の中毒者が出ていたと思われます。
その後も、ふぐの安全な調理方法はなかなか確立せず、安土桃山時代には豊臣秀吉が「ふぐ食禁止令」を発し、明治には全国的にふぐの販売が禁止されるなど“不遇”の時代は近代まで続きました。それは裏を返せば禁令をしかなければならないほど、人々はふぐに魅了されていたということでもあります。


ふぐを現在のように食すようになったのは明治時代以降。
初代内閣総理大臣の伊藤博文が下関を訪れた際、宿泊先の女将が罰を覚悟でふぐを膳に出したところ、伊藤博文がその美味しさに感じ入り、山口県令に働きかけたことがきっかけです。
時化(しけ)で魚が全く取れなかったため、ふぐを出したことで、現代の私たちは安心してふぐを堪能できるわけです。


今回、私たちが訪れた末廣は京都で約70年、3代にわたって続くふぐ料理の老舗。
京都の繁華街、四条木屋町を下がった松原橋(まつばらばし)の近くにひっそりと立つ風情あるお店です。

京都で専門店の暖簾を守るふぐの老舗


ふぐを注文する前にお話を伺ったのは、若女将の上田路実(うえだ・ろみ)さん。

「末廣はもともと居酒屋として始まったのですが、祖父の時代に淡路島から“担ぎ”(独自のルートで魚を仕入れて料理屋に卸す魚屋)の方が来ていて、その方の勧めでふぐ料理を始めたんです。その後、うちのふぐ料理は評判を呼び、30年ほど前からはふぐ一本の専門店になりました。祖父がふぐ料理を始めた頃から徐々に京都でもふぐを出す店が出来始めて、一時は多くのお店がふぐを看板に掲げていました。今では専門店として残っているのは、うちと数えるほどしかありませんね」と上田さん。


京都のふぐ料理の草分けであり、現在も専門店として暖簾を守り続けている末廣。
その理由を上田さんはこう語ります。

「一番はふぐの質。うちで使うふぐは長崎五島列島をはじめ、外洋で丸々と育ったトラフグだけを使用しているんです。そのため、満足のいくふぐが手に入りにくい、5月から8月頃にかけて休業します。今は内陸でふぐの養殖も盛んに行われていますが、やはり潮で揉まれたふぐは歯ごたえも、白子の美味しさもひと味違いますね。それから丁寧な調理、ふぐを安全に美味しく捌くのはもちろん、てっちりに欠かせないポン酢もうちの手作り。橙(だいだい)を絞ってそれを一年じっくりと寝かしたものをポン酢にしています。他にも、専用の雪平鍋(ゆきひらなべ)で長い時間をかけて乾煎りしたふぐひれを使うひれ酒や、旨味の詰まった骨周りやアラをこっくりと煮込んだオリジナルメニューなど、専門店ならではのこだわりを持ってふぐと向き合っています」。

めくるめくふぐ尽くしに、お腹も心も大満足


調理法だけでなく、産地までこだわり抜いた末廣のふぐ。
お話を伺っているうちに頭の中はふぐ一色になってきました。

まずお願いしたのは、ふぐ料理の定番中の定番・てっさ。

薄造りの身をポン酢でいただくと、最初は爽やかな橙の酸味と醤油のコクが舌に広がり、噛むうちにその奥からふわりとふぐの甘さと淡くて控えめな旨味が立ち上ります。
余計な雑味のない「末廣」ならではのポン酢だからこそ、十二分に感じられるふぐの端麗な美味しさ。一品目から脱帽です。

合わせるお酒は、食事の始まりにぴったりなスパークリング清酒・「澪」<BRUT辛口>。
ドライな口当たりと爽やかな酸味が、淡いふぐの味を心地よく膨らませてくれます。


続いては、ちょっと趣向を変えて焼きふぐをいただきます。
京都ではなかなか見かけない食べ方ですが、大阪では意外と一般的なのだとか。
ただし、大阪などではニンニクを使うことが多いそうですが、末廣ではポン酢と一味のすっきりとした下味でいただきます。


焼くことで凝縮された旨味に、香ばしくついた焼き目。
ぴりっと舌に感じる唐辛子が抜群のアクセント。控え目なてっさが打って変わって、滲み出るふぐの肉汁に驚かされる、力強い旨味を感じる一品です。


ふぐの身の旨味を堪能するのであれば、忘れてはならないのが唐揚げ。
サバフグなどで見かけることが多い調理法ですが、トラフグを使った旨さはまさに段違い。
さくりと歯に当たる衣が破れると、舌の上にふぐの身から染み出した絶品のジュースが飛び出します。

食べる前までは、「高級なトラフグを揚げてしまうなんて、罰当たりな」などと思っていましたが、食べた後であれば断言できます。たとえ罰が当たっても食べる価値のある一品です。

唐揚げの濃厚さには、力強いお酒が最適。
ふぐの旨味が口に広がったところで、全量芋焼酎「一刻者」(いっこもん)のロックを一口。
一瞬ふわりとふぐの味が花咲いて、後味に芋の香りが心地よく、さらりと喉へ流れていきます。


淡白な身は抜群に美味しいものですが、やはりふぐを食べにきたなら絶対に欠かせないのは白子。
ぷっくり丸々と太った白子を、焼き白子でいただきます。

ぷつんと皮が破けるとトロリと流れる白子。その濃密さと甘さ。
口に入れたら飲み込むのが勿体ないほどです。
ふぐの身を湯に泳がせても脂がひとしずくも浮かないのは、白子に全ての栄養を凝縮しているからとも言われています。

焼き白子のパートナーは、日本酒を置いて他にありません。
銘柄は松竹梅「焙炒造り」。
甘く柔らかな白子の味の輪郭を、超淡麗辛口の熱燗が一層くっきりと際立たせてくれます。


感動し通しの料理が続いたところでひと休み。
先ほど若女将に「長時間かけて焼き上げる」と解説していただいた、ひれ酒をいただきます。

専用の酒器にひれを入れ、松竹梅「焙炒造り」の熱燗を注いだら、フタをして待つことしばし。
フタを取ると、酒器の中は黄金色に代わり、香ばしい湯気が広がります。
熱燗の湯気とともに、鼻の奥に抜ける無類の旨味。
思わずこぼしたため息すら美味しいと感じられます。


ひれ酒でひと休みしたら、いよいよ真打ち登場。
ふぐの醍醐味、てっちりをいただきます。

艶やかに光るふぐの身を鍋に入れ、すぐにも食べてしまいたいところをぐっと我慢。
白く色づいてきたら食べ頃です。


脂の乗った魚は旨いと言います。
しかし、脂のほとんどないふぐがなぜ、こんなににも旨いのでしょうか。

ホロリと崩れる身、骨と身の間から感じるふくよかな味わい。
雑味を極限までそぎ取った、旨味の塊のようなふぐを口にしていると、言葉を発するのも思わず忘れてしまいます。

冬を見送る名残のふぐを味わいに出かけませんか?

若女将と大女将のせつ子さん。お二人の人柄の良さに惹かれる常連も多い

「毎年冬になると常連さんから“そろそろ良いふぐ入った?”って連絡が来るんです」と上田さん。

末廣には、上田さんのお爺様の代から3代・4代にわたって通われている常連さんも多いそう。その皆さんが口を揃えて言うのが「ここのふぐを食べないと冬が来ない」という一言。

「毎年心待ちにしてくれていると思うと本当に嬉しいですね。年に一回と決めて来てくださる方もいらっしゃって、“ああ、今年もお顔が見れられた”とほっとします。これからも、皆さまのためにリーズナブルで美味しい、本当のふぐ料理をお届けしていきたいですね」(上田さん)。

今年はまだふぐを味わっていないという方。
そろそろ冬も開ける時候、たまにはちょっと贅沢に専門店で名残の絶品ふぐを味わってみませんか?


<取材協力>
末廣
住所:京都市下京区材木町430
営業時間:17:00~22:00  
定休日:不定休(夏季休業あり)

■料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
・松竹梅白壁蔵「澪」<BRUT辛口> (飲食店・宝酒造オンラインショップ限定商品)
http://shirakabegura-mio.jp/lineup/

・全量芋焼酎「一刻者」
https://www.ikkomon.jp/ 

・松竹梅「焙炒造り」
https://www.takarashuzo.co.jp/tkr-shohin/cmn_p_list.php?p_BrandID=3

■そのほかの、冬の名残を楽しむ料理とお酒の噺はこちら

一度味わうと虜になる“白味噌もつ鍋”の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/PLpAe

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