一度味わうと虜になる“白味噌もつ鍋”の噺
2020,2,14 更新
冬の夜に「仲間と一緒に美味しいものを楽しみたい」。
そう思い立った時にぴったりなのが鍋料理。
手軽でボリューミーかつ体の芯から温まり、ついついお酒も進みます。同じ鍋を囲んで、話を弾ませながら食材に箸を伸ばすのは、得も言われぬ楽しさがあるものです。
寄せ鍋に、水炊き、すき焼き、湯豆腐と数ある鍋物の中でも、こってりとした味わいで、この季節に楽しみたい鍋のひとつとして人気なのが、もつ鍋。
もつ鍋と言えば九州・博多の名物ですが、実は、京都にも知る人ぞ知る、この土地ならではの絶品もつ鍋があるのです。
今回はそんな京都で人気の味を求めて、烏丸(からすま)にある“もつ鍋屋”を訪れました。
白味噌仕立ての濃厚もつ鍋
冬の宵闇が迫る京都の街。
ビジネス街・四条烏丸をほんの少し南に下った綾小路新町に掲げられた大きな提灯。
これが今回訪問するもつ鍋「行天」(ぎょうてん)の目印です。
京都の街らしい祇園祭の手ぬぐいを使った暖簾の奥で、この店の店主・行天昌錫(ぎょうてん・しょうしゃく)さんが私たちを出迎えてくださいました。
もつ鍋と言うと、塩や醤油ベースに“あご出汁”を使っているものなどを想像しがちですが、それは九州・博多のもつ鍋の話。
この店のもつ鍋は、白味噌をはじめとした合わせ味噌がベースです。
ほんのりと甘くて香り高く、なによりトロリとコク深い味噌が、もつの旨味を上手に引き立ててくれる、京都らしい味わいが特徴。
この店のルーツは、京都・先斗町にあるもつ鍋の名店。
そこで修行を積んだ行天さんが店の味を受け継ぎ、さらに自らのアレンジを加えたのがこの店オリジナルのもつ鍋なのです。
常連が週5で通っても飽きない味を求めて
開店と同時に、カウンター・テーブルともに続々と席が埋まっていきます。
「おかげさまで、全国各地、時には北海道からも足を運んでくださるお客様もいらっしゃいます。夏の行楽シーズンや冬の鍋物の季節は、観光客の方もたくさんいらしてくれますが、何より嬉しいのは地元の常連さんが来てくださることですね」と行天さん。
聞けば、常連さんの中には週に5日も通い詰めるほどのファンもいるのだとか。
「アルバイトよりも頻繁に顔を合わせていますよ。本当に有難いことです。ただ、週5日来ていただくとなるとこちらも気を抜けなくなります。毎回同じメニューをお出しするわけにはいきませんから、日替わりメニューもできるだけ新鮮味が出るように苦心しているんです。工夫を凝らしたメニューを気に入っていただけた時は嬉しいものです。ただ、時折いつものもつ鍋を選んでいただき、“やっぱりこれがいい”と笑顔で喜んでいただくのが一番ですけどね」(行天さん)。
もつ鍋だけでなく焼き鳥や一品料理、先ほどの日替わりメニューなど、名物料理のバリエーションが揃う「行天」。
しかし、常連がそれほどまでに通い詰める理由はきっと、お料理とともに味わうこの店の雰囲気や行天さんの温かなもてなしにあるのでしょう。
もつ鍋を待つ間に、名物の数々を堪能!
気になるもつ鍋が出来上がるまでには少し時間がかかります。それを待つ間に、もつ鍋と並ぶこの店の自慢、鶏料理の数々を楽しむことにします。いずれも紀州のブランド鶏“うめどり”の朝挽きを仕入れ、その日の内に使い切るので鮮度は抜群です。
“軟骨一味揚げ”は、少し強めに振られた塩と強烈な一味の辛さで、お酒が進む一品です。熱々を口に頬張ると、口の中に広がるコリコリとした食感と溢れる肉汁、そして一味の刺激。
鼻の頭に汗が浮いてきたその瞬間に、宝焼酎「タカラリッチ」とたっぷりのレモンを使った、ビター&フレッシュな「大人のレモンサワー」を流し込みます。
熱さと辛さでいっぱいの口の中がレモンサワーの冷たく爽快な刺激で一変、実に幸せな組み合わせといえます。
続いては、鶏のたたき。
表面に軽く火を通したササミはもっちりと柔らかく、噛むほどに素直な肉の旨味が現れます。
淡白ながら肉本来の力強さも感じさせるこの一品には、全量芋焼酎「一刻者」(いっこもん)のロックを。
芋の香りが喉の奥から鼻へと抜けていくと、鶏肉の持つ甘みの余韻が舌の上に残ります。
焼き鳥も、全てこの店で解体し、串打ちしているもの。
いただいたのは、ハツ、せせり、うずら卵、キモ、ネギマの焼き鳥です。
ぷりっとした食感と口当たりが楽しいハツ、しっかりと火が通っているのにムースのように柔らかいキモ、焦げ目のついたネギとモモ肉がジューシーなタレにたっぷりと絡んだ、これぞ焼き鳥というべきネギマなど、焼き加減に行天さんの腕の冴えが感じられます。
合わせるのは、最近このお店でも人気が高まってきたという、「一刻者」の炭酸割りを。
はじける炭酸とともに、芋本来の香りとすっきりとした味わいがさらに際立ち、焼き鳥の甘辛いタレとの相性抜群、思わず笑みがこぼれます。
もつ鍋が3分ごとに味わいを変える!?
鶏料理とお酒に舌鼓を打ちながら待つことしばし。
「それでは、看板メニューのもつ鍋を召し上がってください」と行天さんがテーブルに戻ってきました。
卓上のIHコンロに火が入ると、くつくつと鍋が小気味好い音を立て始めます。
「行天」のもつ鍋は、煮込む時間で濃厚さが大きく変わるのだそうです。
店内の注意書きによれば、点火して13分が「あっさり」、15分が「スタンダード」、18分ほどになると「濃厚」な味わいになるのだとか。
行天さんに鍋の加減を見ていただいて、まずはあっさりめの13分でいただいてみます。
小鉢に盛った鍋の具に、ゴマや鰹節を振るのがオススメ。
もつはあらかじめ丁寧に下茹でをして、余分な脂や臭みをしっかり抜いてあるので、もちの甘みを感じつつ、どこか爽やかで歯ごたえも抜群。あっさりとした白味噌の味わいは野菜との相性もばっちりです。
15分になると味噌の香りがふわりと香り、脂の旨味とマッチ。
野菜からも甘みがしっかりと出てバランスの良い仕上がりです。
18分になるともつはさらにしなやかに変化し、スープに溶け出した脂が艶やかに光る濃厚な仕上がりに。
柔らかな野菜とちょっと鍋肌で焦げ付いた味噌の香りが良いコントラストです。
さらにもつや野菜も絶品ですが、スープが十分に染み込んだ油揚げがまた美味しいのです。
刻一刻と変わるこの鍋の味わいも、いつまでも飽きることなく食べ続けられるのが、ここ「行天」のもつ鍋の魅力です。
味噌&チーズの魅惑の組み合わせて〆を楽しもう
鍋の〆といえば、雑炊。
「行天」のもつ鍋も、雑炊&中華そばでこのたっぷりと旨味が抽出された鍋のスープを味わい尽くせるのですが、今回お願いしたのはこのスタンダードな2品ではなく“チーズリゾット”。
鍋のスープに、ご飯とともに卵とたっぷりのチーズを入れると、たちまちそれまでの親しみある味噌とは違う、華やかなチーズの香りが立ち上ります。
コショウをたっぷりとかけていただくと、思わず目をみはる美味しさ。
チーズのほのかな酸味に卵がプラスされたコクのある濃厚な味わいが、もつ鍋を全く別の料理に変えてくれます。
鍋の〆と言うと時として味に飽きてしまうことがありますが、これなら最後まで新鮮な驚きとともに食事を楽しめます。
常連も一見さんも“帰ってきた”と思える店作りのために
「観光のお客さんが来るシーズンになると、常連さんは気を使ってちょっとだけお店に来る回数が少なくなるんです」と行天さん。
「寂しくなりますが、その心遣いが有難くもあります。観光で来られた方に最高の料理を提供するのはもちろん、常連の方がまた戻ってこられた時にも、この店で心からくつろげるように、守るべき味は守り、新しい美味しさへの探求も忘れず努力を続けたいですね」と笑顔で話してくださいました。
湯気が煙る鍋の向こう、それぞれのテーブルの上にお客さんの笑顔が並ぶ「行天」。
皆さんも底冷えする京都を訪れたら、この店の手ぬぐいをくぐって店内へ。
スタッフのもてなしと鍋の湯気が、皆さんの心と身体をほっこりと温めてくれますよ。
<取材協力>
行天
営業時間:17:00~24:00
定休日:不定休
住所:京都府京都市下京区綾小路通新町東入ル四条町369 コーポ綾小路 1F
■料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
・宝焼酎「タカラリッチ」(飲食店限定商品)
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takararich/
・全量芋焼酎「一刻者」
https://www.ikkomon.jp/
白味噌もつ鍋の噺のあとは、こちらの“もつ”に関する記事もどうぞ
焼酎との相性抜群、70年続く老舗もつ焼きの噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/HrOce