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「世界一のバーテンダー」が語る「日本と海外のバーの違い」の噺

「世界一のバーテンダー」が語る「日本と海外のバーの違い」の噺

スナック指南に続いて、同じく大人の社交場である「バー」に焦点を当てる本企画。元バーテンダーであるGetNavi編集部の鈴木翔子(すずき・しょうこ)がバーに詳しい人のもとを訪れて、バーの魅力や使い方などを聞いていきます。前回は洋酒の名店として知られる「目白田中屋」の栗林幸吉店長に話をお聞きしましたが、今回は東京・渋谷にあるバー「The SG Club(エスジー クラブ)」を訪れ、同店の設立者の後閑信吾(ごかん・しんご)さんにお話をうかがいます。

今回お話をうかがう後閑信吾さん。後閑さんは2001年より地元川崎でバーテンダーとしてのキャリアをスタート。2006年に渡米し、ニューヨークの名門「Angel’s Share」でヘッドバーテンダー兼バーマネージャーとして10年間勤務し、同店在籍中の2012年には「バカルディ レガシー グローバル カクテル コンペティション」の世界大会で総合優勝を果たします。2017年にはバーテンダーの頂点と言われる「テイルズ オブ ザ カクテル」で「インターナショナル バーテンダー オブ ザ イヤー」を受賞し、名実ともに世界最高のバーテンダーとしての地位を確立しました。
カクテルの世界大会で優勝を果たした「世界一のバーテンダー」として知られ、世界40か国以上でゲストバーテンダーやセミナー講師として活躍している後閑さんは、いまのバーシーンをどのように見ているのでしょうか。インタビューの第一弾となる今回は、海外のバーと日本のバーとの違いについて教えていただきます。

GetNavi編集部の鈴木翔子(左)が聞き手となって後閑信吾さん(右)にお話をうかがっていきます

海外のバーは日本における居酒屋でありスナックでもある

鈴木 今日はよろしくお願いします! 後閑さんは世界各国にゲストバーテンダーとして招かれ、上海でもお店を経営するなど、海外での経験を豊富にお持ちです。まずは、海外のバー事情について聞いていきたいのですが、日本のバーとはどんなところに違いがあるんでしょうか?

後閑 海外は、お客さんがバーという“店”を楽しむために行っているイメージ。一方、日本はバーテンダーという“人”を求めてバーに足を運んでいる印象があります。

鈴木 目的が違うということでしょうか?

後閑 そうですね。日本はお客さんが求めているものに応えて、バーテンダーがお酒を作るという世界観。これに対して、日本以外の国はかなり違いますね。というのも、海外のバーは用途が広いんです。フードのメニューが豊富で、日本における居酒屋やスナックのような使い方もされますし、家飲み感覚で訪れるお客さんもいますから。

鈴木 海外におけるバーは、何でも提供する「総合的な飲食店」というイメージでしょうか。

後閑 一方、日本はレストランの業態が非常に細かく分かれていますよね。寿司や天ぷらなど、その料理に特化した専門店がいくつもあります。この、世界屈指ともいえる食の多様性が、海外との違いを生んだのではないかと。こうした多様性は、「用途ごとに使う店を替える」という文化につながります。例えば、仲間とワイワイ楽しむなら居酒屋、ひとりや少人数でしっぽり飲むならカウンターの和食店、といった感じですね。

実は海外に「オーセンティックバー」は存在しない

鈴木 「用途ごとに使う店を替える」という流れで、バーの用途も限定されていった、ということですね。

後閑 はい。日本でのバーは、「こういうシーンでこういう使い方をする店」といったイメージが刷り込まれていると思うんです。「バーは食事のあと、ひとりで静かに飲む店」というような。

鈴木 たしかに「オーセンティックバー」と呼ばれるような、古典的でシックなバーはそういう印象がありますね。

「The SG Club」の地下1階のバー「Sip」でインタビュー。「Sip」はクラシックな雰囲気が魅力です

後閑 実は、海外に「オーセンティックバー」というジャンルはないんですよ。「オーセンティック(authentic=真正の/本物の)」という単語自体は存在しますが。

鈴木 えっ、「オーセンティックバー」は和製英語ということですか? それは知らなかったです!

後閑 もちろん、海外にも静かに飲むためのバーはありますし、そこに行く人もいます。外国人が日本に持ち込んだバー文化がたまたまそういうタイプで、それがやがて「オーセンティックバー」になっていったんでしょうね。ただし、海外で「ひとり静かに」といったタイプはごく少数派。仲間と会話しながらお酒を楽しむという使い方が多数ですし、バーを利用する人の割合も日本に比べて圧倒的に多いんです。

鈴木 海外と日本で、こうした違いが生まれるのはなぜでしょうか?

後閑 理由のひとつに「収容人数の違い」があると思います。アメリカでは小さい箱(箱=お店の規模)といっても何十人も入れるくらいの十分な広さがあることが多いですし、大箱になると何百人も入れる広さがあります。

鈴木 たしかに、お店が百人規模の大きさで複数の仲間と語りながら飲むスタイルだと、バーテンダーに会いに行くことが店を選ぶ理由にはなりにくいですね。

日本のバーは「技術ベース」で立ち位置は寿司店に近い

後閑 一方で日本のバーは、物理的な規模が小さい傾向にあります。これはスペースが限られているという問題もあるでしょうし、さきほどの「オーセンティックバー」に見る「バーはこぢんまりしているもの」といった固定概念も関係しているでしょう。

鈴木 そうして小さい空間になればなるほど、自然とお店のスタッフとの距離も近くなりますよね。

後閑 はい。それともうひとつ、「“人”を求めてバーに行く」という背景には技術ベースの文化があると思います。たとえば、バーと同じカウンター業態の寿司店では「この店は大将の握る寿司が一番」みたいな感覚がありますよね。バーも同じで、日本だと「この人のカクテルが飲みたい」という思いがあるでしょう。しかし、「同じカクテルでもバーテンダーによって味が変わる」という概念は、海外では基本的にありません。

鈴木 え? そうなんですか! 日本では一般的な考えだと思うのですが……。

後閑 「同じレシピで作ればだれもが同じ味になる」というのが海外の考え方。日本は逆ですよね。だから日本の場合、その人がいないと店が成り立たなくなってしまう。マスターの対応人数が20人であれば、それ以上の席数にはできないんです。

鈴木 たしかに、日本では「目が行き届かないから」と規模を制限する店は多いでしょうね。

後閑 これに対し、「人ありき」「技ありき」ではなく、「箱ありき」の海外のバーはテーブル席を配したレストランの考え方に近いかなと。レストランの場合、キッチンは店の奥にあって客席からは見えず、オーナーシェフは料理を作らず司令塔に回ることも珍しくありません。この違いが、バーに反映されているともいえるでしょう。

鈴木 使い方の違いや規模の違い、技術に対する認識の違いなど、日本と海外では違いがたくさんあるんですね。日本のバー文化は海外から見て特殊なのかも……。今回は目からウロコのお話をたくさんしていただき、ありがとうございました!

次回は後閑さんに、バーにおけるふるまい方や楽しみ方を指南してもらいます。お楽しみに!

<取材協力>

The SG Club

上海に「Speak Low」「Sober Company」をオープンしてきた後閑信吾さんが、世界3店舗目として渋谷にオープンしたのが「The SG Club」です。“1860年、幕府の命でアメリカに派遣された侍たちが、その文化を持ち帰って日本にバーを開いたら?”というのがコンセプト。店内は異なるテイストの3フロアで構成。1階はカジュアルなスタイルでカクテルが楽しめる「Guzzle」(ガズル=英語で“ごくごく飲む”という意味)、地下1階はクラシックな雰囲気の「Sip」(シップ=“ちびちび飲む”という意味)となっており、この頭文字を採り入れて店名を「The SG Club」と命名しました。2階は会員制のシガーバー「Savor」(セイバー=英語で“味わう”という意味)で、和とキューバの粋が溶けあう空間となっています。

住所:東京都渋谷区神南1-7-8 B1~2F
アクセス:JRほか「渋谷駅」徒歩8分
営業時間:日~木11:30~翌2:00、金土11:30~翌3:00(B1「Sip」は18:00~)
定休日:不定休

▲1階の「Guzzle」

▲地下1階の「Sip」

▲2階の「Savor」