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【東京・大衆酒場の名店】「お太幸」の変形カウンターで、横須賀の味わいを満喫する噺

【東京・大衆酒場の名店】「お太幸」の変形カウンターで、横須賀の味わいを満喫する噺

2022,12,23 更新

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第9回。今回は東京を離れて少し遠征。京浜急行「横須賀中央」駅から徒歩1分の「酒蔵お太幸 中央店」を訪れ、その魅力を探っていきます。

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」門前仲町「だるま」船堀「伊勢周」門前仲町「大坂屋」に続く第9回は、横須賀の「酒蔵お太幸 中央店」にお邪魔します。

焼酎の量が多い「横須賀割り」で乾杯

本企画の第6回で登場した門前仲町「だるま」は、コの字カウンターの名酒場として紹介しましたが、今回訪れた神奈川の横須賀にある「酒蔵お太幸 中央店」もカウンターが個性的。
そこでこれまで同様、カウンター酒場に詳しい長谷川和之さんを講師に、生徒役のお酒好きタレント・中村 優さんと「酒蔵お太幸 中央店」の魅力に迫ります。
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中村 優さん(右)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。長谷川和之さん(左)の本業は編集者で、酒場のほか旅や温泉、鉄道など様々なジャンルに精通しています
中村 横須賀は久しぶりに来ました。駅のすぐ近くにこんな素敵な老舗酒場があって、レベルの高さを感じます!

長谷川 この辺は「ホッピー」も“横須賀割り”と言われるように、焼酎を濃いめで飲む文化の街として知られているんですよ。

中村 飲み方に地名が付いちゃうってスゴいですね。じゃあ、私の乾杯ドリンクはその「ホッピー」にしようかな。

長谷川 ええ! そしたら中村さんには「ホッピー」を、私は「レモンハイ」を注文しますね。
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レモンハイ(435円)。「酒蔵お太幸」では「宝焼酎」の飲食店専用商品を使用
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「ホッピー」(495円)
中村、長谷川 カンパーイ!

中村 ク~ッ! おいしい! でも、確かに焼酎が濃いかも。

長谷川 横須賀の飲み屋さんで提供されるチューハイは、基本的に焼酎の量が多いんです。
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「酒蔵お太幸」の焼酎は130ml〜140ml。「ホッピー」で割って飲む場合の一般的な目安は普通が70ml、濃いめが110mlなので、この量はかなり濃いです
中村 でも、なんで横須賀は焼酎が濃いんですか?

長谷川 真偽や出自は定かではないのですが、軍港や造船の街として栄えた歴史が関係していると聞いたことがあります。

中村 海の男たちが飲んだからってことですか?

長谷川 諸説あるんですけどね。海風で冷えた体を濃いお酒を飲んで温めたとか、酒に強い九州の人が船で出稼ぎにやってきていたからだとか。

中村 へぇ~。
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ワンショットメジャーに据え付けられた「宝焼酎」のほか、各種焼酎の一升びん
長谷川 とはいえ、お酒が好きでも強い人ばかりじゃないですよね。だから「ホッピー」みたいな割り材で楽しむ場合、「中(なか:焼酎)」と「外(そと:割り材)」の量を調整して飲むのがセオリーです。

中村 なるほど。自分好みに調整できるってのはイイですね! 続いておつまみはどうしましょう? オススメを教えてください!

長谷川 では、コチラのお店の名物を中心にいくつか注文しますね。

中村 楽しみです! ではおつまみが来るまでの間に、この特徴的なカウンターについて教えてください。

コの字とL字を組み合わせた「H型」ともいえる変形カウンター

長谷川 やっぱりこのカウンターは気になりましたか?

中村 ええ。お店に入った瞬間、圧倒されました! これも「コの字型」なんですね。
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長谷川 かなり独特ですが、ベースはコの字で、その拡張版ともいえますね。ダブル「コの字型」の、さらにダブル版のようなレイアウト。コの字とL字を組み合わせた「H型」という見方もあります。

中村 奥の厨房がなければ、8の字みたいな感じでもありますね。こんなにユニークな席配置のカウンターは初めてです。

長谷川 ここは2フロア制なんですけど、これだけの広さで1階すべてをカウンターにしいるケースは相当レア。普通はテーブル席も用意するんですよ。でもこちらの場合は、テーブルなどは2階に置きグループ向けに。一方で1階はカウンターのみにして、おひとり様や少人数向けの用途という風に分けているから、お互い気を使わずに飲めるのが最高なんです。

中村 お店側の接客もしやすそうですね。

長谷川 そう! オペレーション的にも秀逸なんです。細かいところでいえば、ほとんどのイスは床に固定されていますよね。イスが動かないということは、位置を直す必要がありません。

中村 あ、ほんとだ!
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長谷川 それに加えて1階は全席カウンターだから、その場でオーダーを聞いたり、配膳したりという所作ができます。客席側へ行かずにカウンター内で接客が完結するから、動きのロスがなくてスピーディーですよね。お客にとってもお店にとっても良いことずくめのゾーニング。これが大胆なコの字カウンターで実現されているんです。

中村 なるほど、奥が深い! ちなみに1階は何席あるんですか?

長谷川 今は2席埋めていますが、MAXで48席。そもそも、空間が広いというのも魅力で、コの字カウンターながら背中がすぐ壁ってわけでもないですよね。

中村 はい。人がスムーズに通れるスペースが確保されてますね。それに、天井の高さにもゆとりがあって開放感も。

長谷川 「コの字型」は、狭い店内スペースを有効活用するために設けるケースが多いんですけど、ここはそうじゃない。心地いい雰囲気とかオペレーション効率を狙って、あえてこの形にしたという、開業当時の店主の美学を感じます。

中村 長谷川さんとしては、いま座っている場所がポールポジションですか?
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長谷川 ええ。適度に目線が外せて、店内も広く見られるこの位置はふたりで飲む際のベストですね。

中村 シチュエーションで変わるんですね。ひとりの場合はどこですか?

長谷川 店内を最も俯瞰して見られる、手前の角にある席かなぁ。まあ角の席は目立つから、上級者向けかもしれませんけど。

中村 うん、確かに角の席は特徴的かも。

長谷川 でも、カウンターのすべての角をわざわざ斜めに切断して、そこに席を設けているのもこの店独自の工法だと思います。

中村 細かいところまで、手が込んでいますね!

長谷川 美学を感じるでしょ?

中村 はい! お店に入るとき、「創業65年」って書いてあったんですけど、歴史も気になります。

長谷川 そしたら、ちょうど現共同代表の上原公一社長と宮下栄一郎社長がいらっしゃるので聞いてみましょう。

長野出身の青年が横須賀で意気投合。理念は三代目へ

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左が上原公一社長、右が宮下栄一郎社長
中村 はじめまして! 代表がふたりいらっしゃるんですね。

上原 もともとは、私と宮下の祖父が1957(昭和32)年に起業したのがはじまりなので創業65年です。代々長男に受け継がれており、私たちで三代目ですね。

宮下 ともに長野の出身なのですが、ふたりの創業者は長男ではなかったので実家を出る必要がありました。そういった背景から、私の祖父が最近までこの近所にあった「メガネ・時計・宝石のヤジマ」さんに丁稚に来て、そのあと上原の祖父も働くことになり出会ったと聞いています。

上原 ただ、やがて戦争となりふたりとも出征。でも生きて帰ってこれたので、復員後に「もらった命だし、せっかくの人生。日本に帰ったら好きなことやろう」とあらためて意気投合し、お金をためて1957年に創業したそうなんです。

長谷川 最初から飲食店だったんですか?

上原 いえ。仕入れ先の開拓などができていなかったため、飲食店ではありませんでした。上野のアメ横などへ仕入れに行き、当時珍しかったものや流行っていたものを仕入れて販売する小売業のようなビジネスをしていたそうです。

中村 ということは、スタートは「酒蔵お太幸」じゃなかったんですね。

上原 向かいの建物が自社ビルになっているのですが、ここで始めた寿司店がルーツです。この業態がヒットして、日本料理、居酒屋、中華、洋食などを展開していきました。いまの建物と「酒蔵お太幸 中央店」ができたのは、私たちが小学生のときなので1960年代後半~1970年代前半だと思います。
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濃いめの「横須賀割り」が進む食の“幸”

長谷川 他業種を手掛けた経験があるから、お店のメニューもバラエティー豊かなんですね。

中村 勉強になるなぁ。ちょうどおつまみもそろったので、いただきましょう!

長谷川 じゃあまずは「湯豆腐」から。10月~ゴールデンウィークまでの季節限定で、横須賀特有の味わいになっているのも特徴です。
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「湯豆腐」(475円)
中村 ”横須賀の湯豆腐”ですか?

長谷川 はい。豆腐に塗ってある辛子がポイントです。昆布やサバ節などのダシで炊き、生姜ではなく辛子と薬味で味わう湯豆腐なんですよ。
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中村 おいしい! やさしいダシとふわっとした絹豆腐に、辛子がピリッとしたアクセントになってますね。ネギの爽やかさと、醤油を吸ったかつおぶしもいい一体感で。

長谷川 長年愛されているメニューで、少食になった常連さんのために「湯豆腐 半丁」(320円)も用意されているんです。では次に、中華料理店時代の技が活きた「シューマイ」をどうぞ!
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「シューマイ(4個)」(315円)
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中村 食感はプリッと、肉汁はジューシーでこれも絶品! やさしい甘みですね。爽快な「ホッピー」ともよく合います!

長谷川 「酒蔵お太幸」といえば、中華まんも必食です。横須賀にちなんだ「スカマン」の愛称で県外でも親しまれている「肉まん」をどうぞ。
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「肉まん」(200円。テイクアウトは170円)
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中村 うんうん! ふわっと甘い香りがあって、濃いお酒に合いそう。ホロッとしたなかにコリッとした食感がある餡(あん)もおいしいです!

長谷川 肉まんの皮は自家製で、酒まんじゅうのような香りもしますよね。具材はキャベツを甘めに炊いて、たけのこを生姜煮にして肉と混ぜているんだそうです。中華料理にここまでこだわる大衆酒場もそうはないですよね。中華まんは手土産にも人気なんですよ。そして最後は「うなぎの玉子とじ」。土鍋で提供する本格派ながら、リーズナブルな価格で大人気なんです。
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「うなぎの玉子とじ」(695円)
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中村 これもおダシが効いた、ほんのり甘めの味付けでお酒が進みます。うなぎと玉子はふっくらしていて、ごぼうのシャキシャキ感や三つ葉の爽やかさもイイ!

長谷川 どれも、「ホッピー」の横須賀割りや濃いめのチューハイに合うおいしさですよね。

中村 はい! 至福のフードペアリングです。横須賀で飲む際の一軒目は駅前で早くから営業している「酒蔵お太幸 中央店」で決まりですよ!

1階カウンターと趣を異にする2階は200席の大フロア

長谷川 ひと通りお店の解説をしましたが、ここは2階席も見逃せないんですよ。ちょっと行ってみません?

中村 ぜひぜひ! あ、階段のところにやたら味のある案内板が。でも、テーブル席と「さじき」ですか?
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長谷川 そう、漢字で「桟敷」と書きます。この桟敷も「酒蔵お太幸 中央店」の特徴。こちらも広いですよね。2フロア合計で200席ぐらいあるとか。

中村 200ですか! スゴい。そういえば、桟敷と座敷ってなにが違うんですか?

長谷川 お祭りの見物席や、日本式の劇場などの上等席などを桟敷といいます。よく居酒屋などの小上がりのことを座敷といいますが、本来の座敷は部屋のことを指すんです。先ほど社長に伺ったら、かつて営業していた日本料理店には床の間付きの客間や大広間など、個室があってこれらは座敷と呼んでいたそうです。日本料理店の座敷とも区別するために桟敷としたのではないかと。
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中村 なるほど! 歴史があるからこその桟敷なのかもしれませんね。でもグループで宴会するにはこちらの席のほうが楽しめそう。さっき長谷川さんがおっしゃっていましたが、大小のニーズに合わせてそれぞれにメリットがあるのはイイですね。

長谷川 これだけ大箱なのに、おひとり様が押し寄せるのにはワケがあるってことなんですよ。

中村 そういえば、1階カウンターの奥行きはどんな感じですか?

長谷川 測ってませんでしたね。ではチェックしてみましょう。

中村 今日もメジャーが冴えますね!
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長谷川 ほうほう、46.5cmか。45cm~50cmという造りが最も多いので、ここは標準サイズです。

中村 狭すぎず広すぎずってことかぁ。使い勝手がよさそうですね。

長谷川 今日は角度を測れるメジャーもあるので、角もチェックしてみますか。うん、こちらは140度ぐらいですね。他店のサンプルがあまりないのでよくわかりませんが、エッジは十分にとれてると思います。
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中村 今日も勉強と驚きがあって、楽しかったです。カウンター酒場の魅力、またいろいろと教えてください!
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変形コの字カウンターについても勉強した中村さん。次回はどんな大衆酒場の楽しみをみつけられるでしょうか?


<取材協力>
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酒蔵お太幸 中央店
住所:神奈川県横須賀市若松町2-7
営業時間:15:00~22:00、金土祝前日15:00~22:30(日曜祝日は1階のみ13:00~22:00)
定休日:12/24、12/31~1/2
※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年12月5日)

撮影/鈴木謙介


記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/

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