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【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

【東京・大衆酒場の名店】船堀「伊勢周」で、L字カウンターの機能美を楽しむ噺

2022,3,25 更新

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第7回。今回は船堀の「伊勢周」を訪れ、その魅力を探っていきます。

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」門前仲町「だるま」に続く第7回は、船堀の「伊勢周」にお邪魔します。

家族で営む創業70周年の老舗は「L字」が極めて個性的

今回訪れた「伊勢周」は、都営新宿線「船堀駅」から15分ほど歩いた、船堀街道沿いにある老舗。創業は昭和27(1952)年とちょうど70周年を迎え、店内には開店時の写真が飾られています。
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前回の「だるま」は「コの字型」カウンターの名酒場として紹介しましたが、「伊勢周」は、「L字型」カウンターを語るうえで欠かせないお店。これまで同様に、カウンター酒場について詳しい長谷川和之さんを講師に、生徒役のお酒好きタレント・中村 優さんと「伊勢周」の魅力に迫ります。
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中村 優さん(左)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。長谷川和之さん(右)の本業は編集者で、酒場のほか旅や温泉、鉄道など様々なジャンルに精通しています
中村 長谷川さん、今日もよろしくお願いします。まずは乾杯ですね!

長谷川 はい。ここは「伊勢周ハイボール」が名物なので、それを飲みましょう!

中村 へえ~、お店の名前が付いた酎ハイなんですね。

長谷川 宝焼酎をベースに、下町酒場御用達のエキスと強炭酸水が決め手の酎ハイです。

中村 何杯もイケるやつだ! さっそく来ましたね、カンパーイ!
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長谷川 お通しの煮込みもどうぞ。

中村 おいしそう!このお店は煮込みがお通しなんですね?

長谷川 しかも0円なんですよ! ありがたいですよねー。

中村 えースゴい、お通しが無料! そして想像以上においしいです! モツはやわらかくて、味付けは濃すぎず薄すぎずの味噌味。ちょうどいい塩梅で酎ハイも進みます!
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「伊勢周ハイボール」(450円)
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お通しの煮込み(0円!)を手にする中村さん
長谷川 でしょ? ここはお酒も料理も抜群においしいんですけど、まずはカウンターのことからお話しさせてください。

中村 L字型ですよね。ほかのカウンターに比べて、どんな特徴があるんですか?

長谷川 ひとつは、最も一般的な形だということですね。L字型はほかの形状に比べて少スペースでも設置できますから、採用しているお店も多いです。

中村 確かに、L字型のお店はよく見かけるかもしれません。

長谷川 あとは、厨房に沿ってカウンターが造られていることが多いです。カウンターの中に厨房があるお店もありますし。「伊勢周」の厨房はカウンターの奥ですけど、お通しやドリンクは目の前で作って提供していますね。
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中村 そういえば以前訪れた「三祐酒場 八広店」「亀屋」「ゑびす」も厨房は奥でしたけど、L字型でしたよね。カウンター越しにお酒を作ったり、配膳したりしていたことを覚えています。

長谷川 そうそう。「ゑびす」は一緒に行きましたよね。あそこはカウンターと厨房の間にちょっとした設えがあるだけで、ほぼオープンキッチンといっていいでしょう。

中村 でも、「伊勢周」ってかなり個性的なL字型ですよね! 私、内側に座れるタイプは初めてかもしれません。

長谷川 やっぱりそうでしたか。内側に席があるL字型のお店はほかにもあることはありますけど、極めて珍しいんですよ。スペースがないと内側に席を設けられませんし、そもそも内側ってある意味“聖域”ですから。

中村 カウンター上のスペースの広さも関係してますよね。ここは奥行きにゆとりがあるから、対面になっても圧迫感がないし。

長谷川 ちょっと測ってみましょうか。おお~、65cmもある。そしてコーナーは89cm! 商店建築の教科書的な書籍によれば適性の奥行きは45~65cmなので、ここはかなり広いですよ。
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中村 長谷川さんお得意のメジャー、今日も冴えてますね! でも、なんで両側から座れるようにしたんですかね?

長谷川 以前の「伊勢周」はコの字型だったんですけど、このL字型にした理由は僕も気になってるんです。女将さんに聞いてみましょうか!
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「伊勢周」の女将、尾崎貞子さん。二代目にあたる尾崎成春さんの奥さまです
女将 2011年に建て替えた際、店内も大きく改装したんです。そのとき、お兄ちゃん(三代目の浩之さん)のアイデアを反映してL字型カウンターにしました。当時は、回転寿司店のようにお皿やボトルの数で勘定計算をしていたんです。だから、ゆとりがあったほうがお客さんも使いやすいと思って広く設計したんですよ。

長谷川 いまは逐一お皿を片付けて普通にチェックされてますけど、確かに改装前の会計はそうでしたね。

女将 女性のお客さんのためにテーブルの高さを少し低くしたり、ボトルキープ用の棚を造るためにカウンター内の鍋台をひとつにしたり。ほかにもいろいろ変えました。

長谷川 そうそう、懐かしい! 改装前はコの字型カウンターの中に鍋台がふたつ並んでて、ひとつが煮込み、もうひとつはお通しの湯豆腐でした。台がひとつになって、煮込みがお通しを兼ねるようになったんですね。

中村 ということは、煮込みの鍋台は変わらず残っているものなんですね。歴史を感じます! 三代目がお店に立つようになったのはいつからなんですか?
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女将 1995年です。お兄ちゃんは和食だけでなく洋食や中華も作れたから、お品書きのバリエーションも増えていったんですよ。でもお父さん(旦那さんで二代目店主の成春さん)も作るの好きだから、いまや料理の数が120種類以上にもなりました。

中村 確かに、そそられるおつまみがいっぱいあります! じゃあ天ぷらと、ポテトサラダと……。

長谷川 そしたらあとは、スパグラをお願いします!

中村 スパグラ? あ、壁に貼ってある「スパグラタン」のことですね!
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長谷川 はい。スパゲッティ入りのグラタンで、こんがりとオーブンで焼くからちょっと時間がかかるんですけど、そのぶん絶品ですよ。Instagramでも大人気で、若い人もコレ目当てに訪れているみたいです。

中村 映えるってことですか。楽しみです!

創業時の70年前は酎ハイも刺身も30円だった

長谷川 女将さん、「伊勢周」という店名の由来って何から来てるんですか?

女将 お店を創業したおじいちゃん(初代の尾崎周平さん)が、亀戸の福神橋あたりにある「伊勢元」というお店で働いてたからです。修業先の「伊勢」に、自分の名前の「周」を付けて「伊勢周」にしたんですって。

長谷川 なるほど、やっぱり「伊勢元」が関係してたんだ! 江東区や江戸川区だけでも「伊勢元酒場」とか「大衆酒場 伊勢元」とか、何軒かありますからね。

女将 お父さんは高校生のころからこの「伊勢周」で働いていて、そのあと私がお見合いで新潟から昭和35(1960)年に嫁いできました。入口のところに、もう一枚写真がありますでしょ? あれは創業のころだからそれより前。左からおじいちゃん、お手伝いさん、おばあちゃんと並んでて、座ってるのがお父さんです。若いでしょ!
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中村 きれいに撮れてますし、スゴくいい写真。あ、焼酎も刺身も煮込みも30円だったんだ!

長谷川 これは資料としても貴重ですよ。

女将 料理、お待たせしました。どうぞ召し上がってください。

中村 うわー! このポテサラ、スゴく豪華でボリュームもたっぷり!

長谷川 来ましたねー。これがまたウマいんですよ。
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「ポテトサラダ」(450円)
中村 具材が盛りだくさんですね。珍しいところだと、かにかまに、シェル型のマカロニ。いろんな味が楽しめます。

長谷川 お次は天ぷらですね。こちらも人気メニューです。
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「天ぷら盛り合わせ」(850円)
中村 わお! えびが2尾入ってて、豪華ですね~。これで850円はうれしい!

女将 ありがとうございます。お魚はお兄ちゃんが豊洲に行ったり、お付き合いのある魚屋さんで仕入れたりしているんですよ。

中村 ほかにはイワシ、いか、ししとう、まいたけですね。うん! お魚はふわふわで、いかはプリプリ。感激!

長谷川 お待ちかねのスパグラもやってきましたよ! フォークを入れてみてください。

中村 わっ、スゴ! チーズがたっぷりで伸びる伸びる! これは確かにフォトジェニックです。スパゲッティは、ナポリタンですか?
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「スパグラタン」(700円)
長谷川 そうです。しかも作り置きじゃなくて、一から作ってくれるんですよ。それもおいしさのポイントです。

中村 こちらも具だくさんですね。ベーコン、玉ねぎ、えび、ソーセージが入っていて。でも、どうしてこのメニューができたんですか?

女将 あるとき常連さんに、スパゲッティとグラタンの両方を食べたいから一緒にしてってお願いされたんです。それでお兄ちゃんが作ってみたら、大好評で。
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中村 うん、このメニューは洋食レストランでもあまりない組み合わせじゃないかな。それに、ホワイトソースがナポリタンとひとつになって、ヤミツキになるおいしさ! 天ぷらもそうでしたけど、専門店顔負けのクオリティです。

長谷川 質も量もハイレベルで価格もお手ごろ。長年愛されている理由のひとつなんでしょう。

中村 女将さん、創業時からのメニューで人気なのはどれですか?

女将 お酒はやっぱり「伊勢周ハイボール」。おつまみなら、煮込みや天ぷらですね。酎ハイの味はずっと変わってないです。炭酸も、根岸・宮岡商店の「ヤングホープ」を特注で強炭酸にしてもらってますし。煮込みのモツも変わらず、大腸と小腸とガツを亀戸の肉問屋さんから仕入れています。

中村 お酒も料理も多彩で絶品。お仕事中に飲みたくなってしまいませんか?

女将 ああ、うちはみんな下戸なんです。だからそこまで飲みたい気分にはならないんですよ。

長谷川 えっ、そうなんですか! 初めて知りました。

中村 意外ですけど、かえって話題性がありますね。
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女将 私は接客が好きで、お父さんやお兄ちゃんは料理を作るのが好きだから、飲めない分それぞれの仕事に集中できていいんじゃないかしら。

長谷川 お酒のつくり手のなかにも、下戸ながら銘酒を生み出すプロフェッショナルはたくさんいますもんね。

中村 それに、お店の方が下戸であれば、お酒が弱い人でも安心して飲めますよね。お酒のことがよくわからない、二十歳になりたての人にもオススメの名酒場ってことだ!

L字型カウンターの作法と楽しみ方

中村 長谷川さん、今日は私が内側に座らせていただきましたが、普通は何度か通ってから座るべきなんですよね?

長谷川 内側はそうでしょうね。初めてでそっち側に行ける人は、かなりの度胸の持ち主でしょう。作法としては、最初はやっぱりお店の人に「どこの席なら大丈夫ですか?」と聞くといいと思います。ほかの席が空いていても、常連さんの定位置があったりしますから。おっ、そんな話をしていたら、常連さんがいらっしゃいましたね。

中村 ちょっとあいさつに行ってきます! ……初めまして、中村 優と申します。今日は取材を兼ねてお邪魔していまして。

常連さん そうなんだ! ゆっくりしてってね。まあ乾杯でもしましょうよ。

中村 ありがとうございます。ではカンパーイ! そういえば、いつもこの席に座ってらっしゃるんですか?
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常連さん うん、基本的には厨房に近いカウンターの席が多いかな。内側に座ることもあるよ。

中村 そうなんですね。じゃあ次来た時にいらっしゃったら、また声かけさせてください!

常連さん うん! 待ってるよ。

中村 この雰囲気が大衆酒場の醍醐味ですね! そういえば、長谷川さんは何度か来られていると思うんですけど、ふだんはどの辺に座るんですか?

長谷川 いま座ってる角の席か、L字の長いほうの真ん中が僕は好きです。入口付近も全体が見渡せるので好きですよ。
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中村 「伊勢周」さんは壁のお品書きが豊富だから、これが“借景”になりますよね。
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お店の至るところにメニューが!
長谷川 まさにそう! 僕の場合、「伊勢周」ならお品書きを眺めているだけで20分は楽しめます。

中村 ここは内側があって個性的ですけど、L字型カウンターのお店は多いので、長谷川さんのアドバイスをもとに今度実践してみます。今日もいろいろ教えていただきありがとうございました!

長谷川 今日も楽しかったですね! 次の個性派カウンターの大衆酒場、どこに行くか考えておきます。
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左から、二代目店主の尾崎成春さん、女将の貞子さん、中村さん、三代目の浩之さん
コの字カウンターに続きL字カウンターについても勉強した中村さん、次回はどんなカウンターと出合うのか? ご期待ください。


撮影/我妻慶一


<取材協力>
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伊勢周

住所:東京都江戸川区松江3-3-4
営業時間:16:00~23:00
定休日:木曜日

※価格はすべて税込みです。
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年2月22日)
   

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