焼酎をもっと楽しくする、自分だけの切子と出会う噺
2022,10,28 更新
11月1日は「本格焼酎&泡盛の日」です。お酒を楽しく飲むためには、料理やシチュエーション、そして何よりお酒を飲む器「酒器」の存在が欠かせませんよね。中でも、お酒好きの方を惹きつけてやまないのが、「薩摩切子」など「切子」のグラス。酒噺では、これまでに「江戸切子」や「天満切子」などの噺をお伝えしてきましたが、実はそれ以外にも切子細工は各地に存在しているのです。 今回はそのうちのひとつ、大阪市生野区で造られている「たくみ切子」の工房のお噺です。
まずは「切子」の歴史のおさらい
幕末になると、薩摩藩の第27代藩主、島津斉興(しまづ・なりおき)が江戸から職人を招聘。さらに28代藩主島津斉彬(しまづ・なりあきら)が、藩の産物とすべく生産を奨励したのですが、斉彬が夭逝(ようせい)してしまったことから、一度はその技法が絶えてしまいました。
しかし、薩摩切子の技術は職人たちが大阪に居を移したことで細々と受け継がれていくことになります。昭和になって鹿児島で薩摩切子の復活を望む声が上がり、かつて島津家であった島津興業が指揮を取り、若い鹿児島の職人たちと、大阪の切子職人らが薩摩切子の技術再現に尽力。こうして、薩摩切子は見事に復興したのです。
一方、酒噺でもご紹介した天満切子は薩摩切子の復活に尽くしたカメイガラス (1980年当時、日本最大のガラス商社)で技術を磨いた職人、宇良武一(うら・たけいち)氏が平成になって立ち上げたものです。
薩摩切子は透明なガラスの上に色ガラスをかぶせた厚手のグラスを使い、緩やかにカッティグすることでグラデーションのような「ぼかし」が堪能できます。
切子はこれ以外にも各地に存在しており、それぞれ独自の進化を遂げているのです。今回お邪魔させていただいた、「たくみ工房」(大阪市生野区)もそのひとつ。
大阪で誕生した創作切子「たくみ切子」の魅力
工房の代表を務める高橋 太久美(たかはし・たくみ)さんは、1958年より伯父の経営するガラスカッティングの工房に入り腕を磨いた作家。1980年代に薩摩切子の復活に尽力したカメイガラスの由利精助氏に学び、自身も同じ事業に携わりました。
やがて、薩摩切子の技法を離れ、独自の視点から新たなカッティグやデザインを生み出し確立。これを「切子」として新たな切子の可能性を模索しています。
たくみ切子の作品には網代・ほたる・星屑・モザイクなどの銘がつけられており、それぞれのモチーフが感じられるユニークなデザインとなっています。これらの多くを高橋さんが考案しているのだそう。
ただし、使用しているのは「ちょっと出来が悪かったもの」なのだそうで、苦々しくも出来の悪い我が子のようで愛おしいのだと言います。
創作切子で焼酎を楽しもう!
窓のように開いたカッティングから、氷が緩やかに溶けていくのがわかります。モダンなようでどこかレトロな感じも味わえる不思議なデザインの「モザイク」。さらに氷が溶けていくに従い、焼き芋のようなほっこり甘い香りが堪能できるのも楽しいところ。
たくみ切子が生み出される工房
体験教室と銘打っていますが、使用する機材は全て高橋さんが作品づくりに使う時と同じ物。道具の手入れなども丁寧に教えてくれるので、出来上がる切子はまさに自分だけの作品です。
教室へ長く通っている方の中には、プロに近い技量を持った方もおられ、自分で模様やデザインを考案しながら、グラスを仕上げているそう。
カッティングの手を止めてそう笑って答えてくれた一瞬後には、真剣な眼差しで再びグラスに刃を当てていました。
伝統も革新も魅力的な、切子の可能性
11月1日の「本格焼酎&泡盛の日」は、ぜひ切子で本格焼酎を楽しんでみてはいかがでしょうか。
【取材協力】
大阪府大阪市生野区勝山南1-2-33
06-6717-9668
Webサイト:https://kiriko-takumi.com/
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