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古来より日本人に親しまれる“お米の神様”の噺

古来より日本人に親しまれる“お米の神様”の噺

お酒にまつわる神様を巡る旅。今回訪ねたのは日本酒をはじめ、お酒にとって大切な原材料の一つであるお米の神様を祀る、千本鳥居で有名な伏見稲荷大社。商売繁昌の神様というイメージが強いですが、実は五穀豊穰を司る神様だということを皆さんご存知でしたか? 今回は知られざる“お米の神様”【伏見稲荷大社】の噺。

数多くの諸説が舞う“伏見稲荷大社”の伝承

京都駅から電車で約5分と交通アクセスも良く、国内外の参拝者で賑わいをみせている伏見稲荷大社。

世界最大の観光口コミサイトで「外国人に人気がある日本の観光スポット」として5年連続第一位を獲得し、世界約70カ国から参拝者が訪れています。

今回は伏見稲荷大社ご担当者様に、その魅力についてお話を伺ってまいりました。

711年(和銅4年)の奈良時代に御鎮座されたと云われる伏見稲荷大社。
1300年以上前から京都を見守り続けています。

伏見稲荷大社の御祭神は、主祭神である【宇迦之御魂大神(うかのみたまのおおかみ)】(「宇迦(うか)」とは、食物を表し古くから穀物・食物の神様と信仰されています。)、【佐田彦大神(さたひこのおおかみ)】、【大宮能売大神(おおみやのめのおおかみ)】、【田中大神(たなかのおおかみ)】、【四大神(しのおおかみ)】。

これら五柱の神様を総称して“稲荷大神”とし、全国に約3万社ある稲荷神社の総本宮として崇敬されています。

深く歴史を積み重ねる伏見稲荷大社の創建に関して、「山城国風土記」の逸文にこんな伝承が残っています。

“秦伊侶具(はたの・いろぐ)という人が稲や粟など穀物を積み豊かに暮らしていた。裕福さからおごり高ぶった秦伊侶具は、お餅を的にして矢で射ったところ、餅は白い鳥になって山に飛んでいった。その白い鳥を追って山に向かうと、そこには稲がなっていた。

このことから、【イネがナル(稲が生る)→ イネ・ナリ(稲生り)→転訛してイナリ(稲荷)】という社名になったと云い伝えられています。

【伏見稲荷大社内にある“神田”。現在もご神事に使用する稲を育てている。※写真提供:伏見稲荷大社】

渡来人で、日本に農耕技術やお酒作りを教えたという秦氏一族は、この出来事から稲荷大神をお祀りしました。
また、社記によると秦伊侶具が元明天皇の勅命を受けて三柱の神様を稲荷山の三ヶ峰に祀った年が豊作になり豊かな富を得たという記述も残っています。

お米と関係の深い伏見稲荷大社では、4月に苗代田に籾種を播く水口播種祭(みなくちはしゅさい)、6月ご神前に日々供饌(ぐせん)されるご料米の稲苗を神田へ植える“田植祭”、10月に成長し稔った稲を刈り取る“抜穂祭”が行われています。

旨酒作りのために人々が群がった? 1月の祭典“大山祭”

【大山祭にて、御饌石に中汲酒を盛った斎土器を供える様子。※写真提供:伏見稲荷大社】

伏見稲荷大社では、毎年1月5日に行われる珍しい祭典“大山祭(おおやまさい)”があります。

この例祭は、稲荷山七神蹟(古くから残っている神様に祈りを捧げていた場所)の外玉垣に注連縄(しめなわ)を新しく張り替える「注連縄神事」。御饌石(みけいし)と呼ばれる霊石の上に中汲酒を盛った斎土器(いみどき)を供えて祭典が行われます。

「今でこそ、斎土器はお供え品として授与されていますが、これを得れば福がくるという信仰と、井戸の水が澄むことから良質のお酒が作れるという信仰があり、昔は各地の酒造会社が奪い合っていたそうです。
当時は、斎土器を手に入れようとする人とそれを一目見ようとする人のすごい人だかりができる行事。酒造会社の人たちは、若い人たちを雇ってこれを奪い合ったそうですよ。」 (伏見稲荷大社担当者)

神聖な神社のものを奪い合うなんて、まったくイメージが湧かないお話。

【大山祭で参拝者に配られる斎土器。写真は2018年度のもの。中汲酒が白く残っている。】

実際に、神主さんが殺気を感じるほどだったそうで、「神主が斎土器を置いた瞬間に人が殺到し、神主の衣の袖を破られる事態が起きたこともあってやめました。」と、今では笑い話として語られているそうです。

空調などもなく醸造環境を整えるのが難しかった当時は、まさに神にもすがりたいという思いだったのでしょうか。

古来より多くの人を魅了。狐をお使いとする“お稲荷さん”

伏見稲荷大社といえば、狐をイメージされる方も多いのでは?
神様のお使いを白狐とされているため、境内のいたるところに狐がいるのが特徴的です。

実は、境内で見かける狐は、全て同じではなく、口に咥えているものが4種類と違いが見られます。宝珠を表す「玉」と米蔵の「鍵」、五穀豊穣を意味する「稲穂」、知恵の象徴である「巻物」。

伏見稲荷大社には、“玉鍵信仰”と呼ばれるものがあります。「玉」は稲荷大神の霊徳の象徴を表し、「鍵」はその霊徳を身に付けようとする願望とされており、「玉と鍵」の二つは、陰と陽、天と地といった万物が二つの働きによって生み育っていく理を表すとされている伏見稲荷大社の稲と合わせて象徴的な考えです。

江戸時代に実在し、花火が打ち上がった時の掛声としても有名な花火屋「玉屋」と「鍵屋」の屋号を付けた由来でもあるとか。
火事が多かったされる江戸時代では、火伏祈願として屋敷神として伏見稲荷大社が個人的に祀られることが多かったそうです。

この一節からも、古くからお稲荷さんが町の人々にとって、とても身近な神様であったことがわかります。

また、稲荷山を登っていくとたくさん遭遇する「石に神様の名前を刻んだお塚」も個人的に建てていたもの。膨大なお塚の数を見れば稲荷大神がどれだけの方々に愛されているのかがわかります。

優しい甘さで癒される“稲荷名物 きつね煎餅”。美味しいご飯とお酒で〆る大人な伏見散策も忘れずに。

参拝者で賑わう伏見稲荷大社周辺は、名物グルメもたくさんあります。
ちょっと小腹が空いた方にオススメなのは、神幸道を出てすぐ右側にある、狐の顔に甘い煎餅が名物の「総本家いなりや」さん。
白味噌・胡麻・砂糖の優しい甘みは疲れた体をほっこりさせてくれますよ。

【“辻占煎餅”を割ると中からオリジナルのおみくじが出てきます】

また、伏見稲荷名物といえば、いなり寿司を思い浮かべる方も多いのでは?
稲荷山を登拝されて、さらにお腹が空いている方にはこちらがおすすめです。

「祢ざめ家」(ねざめや)は豊臣秀吉が店名を名付けたとされる創業1540年の老舗食事処。
こちらでは麻の実が入ったいなり寿司の他に、うずらの丸焼きもいただけます。
どちらもしっかりした味なので、日本酒のアテにオススメです。

時代を超え、人々に愛され続ける“みんなのお稲荷さん”

【登拝者だけが一望できる稲荷山から見える京都。いつもと違った京都を発見できます。】

日本を訪れる海外観光客が目指したい場所だと口を揃えていう“伏見稲荷大社”。
狐のお出迎えと朱い鳥居が所狭しと並ぶ佇まいは、いつ訪れても圧巻で参拝者に幻想感を感じさせます。

狐が神様のお使いになった由来や神様の御鎮座など、諸説がたくさんある伏見稲荷大社の噺。
「本当のことは今となっては分からない。でも、人知の及ばないことであるから尊いのではないですかね。」(伏見稲荷大社担当者)

真実は謎に包まれたままですが、時代だけでなく国境を超えても人々に愛され続けているのは確かなこと。
京都を訪れた際は、パワースポットである伏見稲荷大社を訪れ、英気を養ってみはいかがでしょうか?