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【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「大坂屋」の“牛にこみ”を三日月型カウンターで堪能する噺

【東京・大衆酒場の名店】門前仲町「大坂屋」の“牛にこみ”を三日月型カウンターで堪能する噺

2022,5,27 更新

東京にある大衆酒場の名店を巡る企画の第8回。今回は門前仲町の「大坂屋」を訪れ、その魅力を探っていきます。

大衆酒場は、その安さとウマさ、昔ながらの温かい雰囲気で、酒飲みの心をひきつけてやみません。なかでも東京では下町を中心に、根強い人気を誇る大衆酒場の名店が数多く存在します。そんな名店を巡り、お店の魅力と東京ならではの酒文化を深掘りしていくのが本連載。立石「宇ち多゛(うちだ)」篠崎「大林」京成曳舟「三祐酒場(さんゆうさかば) 八広(やひろ)店」八広「亀屋」四つ木「ゑびす」門前仲町「だるま」船堀の「伊勢周」に続く第8回は、門前仲町「大坂屋」にお邪魔します。
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約100年続く老舗はヒノキの「三日月型カウンター」が独創的

本企画の第6回で登場した門前仲町「だるま」と同じ通りにあるのが今回紹介する「大坂屋」。創業は、なんと大正13(1924)年という老舗で、2024年には100周年を迎えます。

これまで紹介した名店同様に様々な個性があり、独特な設(しつら)えのカウンターはひときわ印象的。今回もカウンター酒場について詳しい長谷川和之さんを講師に迎え、生徒役のお酒好きタレント・中村 優さんと「大坂屋」の魅力に迫ります。
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中村 優さん(左)は、タレントおよびマラソンランナーとして活躍。長谷川和之さん(右)の本業は編集者で、酒場のほか旅や温泉、鉄道など様々なジャンルに精通しています
中村 久々の門前仲町。こちらの「大坂屋」さんも素敵ですね!

長谷川 「大坂屋」は“東京五大煮込み”に数えられる名店で、カウンターについても語れる要素が満載ですよ。

中村 楽しみ! 今日もお酒が進みそうです。注文はどうしましょう?

長谷川 お酒は「焼酎」からいきましょう。中村さんにはチェイサーも用意してもらいましょうか。女将さんを紹介しますね、実川(じつかわ)佳子さんです。

女将 今日はありがとうございます。ゆっくりしていってくださいね。
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宝焼酎の一升びんを注ぐ女将の実川佳子さん
中村 はい! よろしくお願いします。ところで、乾杯からチェイサーをいただけるんですか?

長谷川 この焼酎は、宝焼酎のストレートに、梅エキスを足す「うめ割り」スタイル。アルコール度数が25%とかなり強いので、中村さんはチェイサーでやわらげながら飲むのがオススメです。
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焼酎に特製の“梅エキス”を加える
中村 お気遣いありがとうございます。そうですね。「うめ割り」は話に聞いていたので楽しみです!

長谷川 お、いいですねー。あと、今日は天気がいいので、氷もいただきオンザロックで飲みましょう。
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「焼酎」(450円)
中村 わ、これが「焼酎」の「うめ割り」ですね!

長谷川 はい。ではカンパーイ! 無理せず、少しずつ味わってくださいね。

中村 そうですね。まずはそのまま一口……。あっ、パワフルなコクがあって、ドライななかに甘みもありますね。キレも強くて、スゴく大人な味わい。でも、お酒がそこまで強くない私でもいけるおいしさです。

長谷川 よかった。ガツンとくるんだけど、飲みやすいんですよ。だからこそ、飲み過ぎないように注意が必要なんですけどね。では次に、ロックでどうぞ。
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中村 あ、氷で冷たくなるとまた味わいが変わりますね。すっきりした感じが強くなりました!

長谷川 お客さんのなかには、ストレートで飲む方も多いと思うんです。でもここは氷やチェイサーを用意してくれるので、お酒に強くなくても「うめ割り」を楽しめるんです。うれしい気遣いですね。

中村 では乾杯したところで、この素敵なカウンターについて教えてください!

長谷川 やっぱり、なんといっても独創的な“三日月型”の形に尽きます。しかも煮込みの釜と鍋が設えられているということでしょう。
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上から見ると良くわかる“三日月型カウンター”
中村 ものスゴいインパクトですよね。

長谷川 普通はL字型にしがちなんですよ。二辺だから造りやすくて、施工費も安価だからだと思います。あるいは、店にスペースがあればコの字型。

中村 L字やコの字は、これまで訪れたお店で勉強させてもらいましたね。

長谷川 でもここはそのどちらにもにも属さない三日月型で、きわめて珍しいんです。

中村 三日月型になることで、お店やお客さんにとってはどんなメリットがあるんですか?

長谷川 お店としては接客がしやすいでしょうね。お客さんの顔がすぐ近くに見えるから。一方で、常に見られてるという緊張感もあると思いますけど。

中村 ふむふむ、なるほど!

長谷川 皆さんの視線が煮込み鍋の方向に集中するので、お客さんにとってみれば、近くに座ってる人の表情がすぐわかるから、常連さんとかほかの方と仲良くなりやすいですよね。L字やコの字だと、こうはならないんですよ。

中村 確かに。体をひねったりのぞき込んだりしなくても、自然に近くの方の表情がわかりますね。

長谷川 そう、自然なんです。だから、なんとなく隣の席の会話に入りやすくて、溶け込みやすい。カウンターだけじゃなく、このお店の規模や雰囲気によるところもありますけどね。

中村 こぢんまりとした空間があっての三日月型カウンターだから、秘密基地みたいな雰囲気っていうんですかね。一体感があって、私は初めて来たとは思えない居心地の良さを感じます。

長谷川 広い店だと視線がいろんなところに行きますが、ここは釘付けになりますよね。目の前に名物の煮込み鍋が鎮座してるし。

中村 そうなんです。あと、カウンター奥の座敷も気になりますね。あちらも客席なんですか?

長谷川 客席ですよ。ただ僕は、何度も「大坂屋」に来ていますけど、あの小あがり席には行ったことないです。団体用でしょうね。とはいえ、詰めても3人ほどの席だと思いますが。
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女将さんの後ろにチラッと見えているのが奥の小あがり席
中村 カウンターも座敷も、アットホームですよね。満席でも10人ちょっとぐらいですか?

長谷川 三日月型カウンターが6席で、壁側のカウンターが4席。座敷が3人だから全13席ですね。でも、回転がすごく早いから満席でもちょっと待てば入れることもあるんです。

中村 そういえば、このカウンターは席によって奥行きが違いますかね。鍋のところの奥行きは広いような。

長谷川 そう。いつもみたいに計らせてもらいましょう。
なるほど! 鍋が38cmで、そこの奥行きは62cm。一方で、狭いところは53cm。鍋のところは手前にゆとりがないとお客さんが座ってもスペースがないから広げてある、特殊な設計になってるんですね。
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中村 よく考えられてるなー。あと、重厚感があるから板の厚さも相当ありますよね。

長谷川 うん、厚さは5.5cm。しかもこの素材はヒノキだから実に贅沢な造りです。高級寿司店とかのレベルでしょう。

中村 それに縁の部分も丸くなめらかに加工されていて、手触りが心地良く、落ち着きます。

長谷川 ヒノキの白木が醸し出す、凛とした佇まい。加えて、設えや世界観が全体的にやわらかいから、この店独特の和やかさが生まれるんでしょうね。

中村 女将さんの所作や醸し出す雰囲気も一役買ってると思います。華があって品もあるから、すごく落ち着くんですよね。

長谷川 そう。だから女将さんのファンも多いんですよ。

重厚なカウンターは二代目が設計

中村 お店の歴史はすごく長いと思うんですけど、このカウンターはまったく古さを感じさせませんね。創業時からあるんですか?

長谷川 僕が最初に来たのは20年ほど前ですが、そのときにはもうありましたね。昭和のころからあると思いますが、詳しいことは女将さんに聞いてみましょう。

女将 カウンターは、二代目である私の祖父が設計しました。みなさんの席の上に飾ってある写真が祖父です。
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長谷川 いい写真ですよね。僕が初めて来た時は、もう大女将(女将さんのお母さん)の時代だったから、二代目に会ったことはないんですけど。

中村 ということは、女将さんは四代目? 初代はひいお祖父さんですか?

女将 はい。屋号の「大坂屋」も、初代店主が名付けました。創業時の相方が大阪出身だったと聞いています。「阪」ではなく「坂」な理由まではわかりかねるのですが。

長谷川 へえ~これは貴重なお話ですね。

中村 お店は創業時からずっとここにあるんですか?

女将 大正13年に、この近くで屋台の煮込み屋さんを開いたのが始まりだと聞いています。その後、戦時中は満州鉄道にいたため一時休業していたとか。そして終戦後にまた門前仲町で「大坂屋」を再開したそうですよ。

長谷川 それで屋台から店舗をこの地に構えて、二代目がヒノキのカウンターなどを設計して現在に至ると。そういえば、僕がここに通い始めた当初は、カウンターの隅に黒電話があったかな。今は電話をなくして、そのぶん1席増えましたよね。

女将 はい、長い歴史のなかで変わらない部分もあれば、そうでないところもありますね。お品書きは基本的にずっと変わっていません。お店には、今は基本的に私が立っていて、母が元気な時はふたりでやってます。
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串タイプの名物「牛にこみ」は3種の部位が楽しめる

中村 すっかりお話に聞き入っていたら、お腹がすいてきちゃいました! おつまみも注文していいですか?

長谷川 そうですね。では、まずは名物の「牛にこみ」を1本ずつひと通りお願いします!

女将 はい、では準備しますね。
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中村 こちらの煮込みは串タイプですけど、私初めてかも!

長谷川 そう、串になっているのはかなり珍しいですよ。部位はシロ(腸)、フワ(肺)、ナンコツ(喉)の3種で、味は味噌ベース。これがまたウマいんだ!
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女将 ではどうぞ。お通しも召し上がってくださいね。
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「牛にこみ」(1串180円)とお通し
中村 わあっ、間違いなく味が染みてるやつですね。シロからいただきます!
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中村 はー! プルッとやわらかくて脂に甘みがあって、おいしい!

女将 シロは一番人気ですね。

長谷川 うん、今日も安定のおいしさ! シロはおかわりする方も多い部位ですよ。

中村 次はフワ。あ、これはムチムチッと押し返すような弾力で、お酒に合う味と食感ですね。初めて食べたかも。

長谷川 フワは、部位がランダムに入った煮込みにもよく使われるので、ほかのお店で無意識のうちに食べてるかもしれません。

中村 そうなんだ! でも単品で食べると独特な食感がクセになりますね。
では、最後はナンコツを。おおっ、これまたパワフルなコリコリ感で、鶏のナンコツとはまた違いますね。

長谷川 けっこう硬めの部位なんですけど、丁寧に包丁が入れられてるので食べやすくなっているんです。このひと手間もおいしさの秘訣です。

中村 それぞれの部位に個性があって、味付けも最高においしかったです! 煮込み時間は長いんですか?

女将 意外にそこまで長くはないんですよ。2時間ぐらいですね。
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長谷川 この煮込みのスープがまた絶品なんですよね。「うめ割り」にもベストマッチな味で。

中村 はい! 甘塩っぱい味噌の味が、ほんのり甘い焼酎にドンピシャです。あと、このお通しもさっぱりしていておいしいです。私が一番好きなぬか漬けの味!

長谷川 さっぱり系だと、オニオンスライスもオススメです。女将さん、注文よろしいですか?

女将 ありがとうございます。いまの時期は新玉ねぎでおいしいですよ。どうぞ。
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「オニオンスライス」(300円)
中村 これもすごくおいしい! 辛みがなくて、シャキシャキで。おかかとポン酢醤油の味付けも、うまみと爽やかさが加わっていいですねー! これは止まらないです!

長谷川 ヘルシーなオニオンスライスは、いわば呑兵衛の免罪符。これがおいしい店は本当にありがたい!

女将 うれしいです。そういえば、祖父が好きで飲んでいたことから置くようになった缶チューハイがあるのですが、飲まれますか?

中村 あ、定番缶チューハイのかわいいサイズ! ぜひいただきたいです。
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二代目が愛飲していた「タカラcanチューハイ」(450円)を注いでもらう中村さん
長谷川 「タカラcanチューハイ」の250ml缶ですね。じゃあ僕もいただこうかな。

中村 うん、レモンの酸味と炭酸の刺激が心地いいです。すっきり爽快でおいしい!
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「大坂屋」が東京五大煮込みである噺

長谷川 ではそろそろシメですかね。「玉子入りスープ」をお願いします!

女将 かしこまりました。では5分ほどお待ちくださいね。
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「玉子入りスープ」は生の卵を直接鍋に入れる
中村 へぇ~、卵はこうやって温めるんですね。面白い!

長谷川 そう、こちらも「大坂屋」独自の逸品。ほかのお店では食べられないんじゃないかな。

中村 そういえば、「大坂屋」さんが“東京五大煮込み”の一軒だという話、詳しく教えてください。

長谷川 “東京五大煮込み”は、グラフィックデザイナーで居酒屋探訪家としても有名な太田和彦さんが、著書『居酒屋大全』で提唱して広まりました。もう30年ぐらい前の本で、酒場好きのバイブル的な一冊ですね。

中村 『居酒屋大全』とはすごい! 興味深いです。

長谷川 そこで書かれているのが、東京三大煮込みは北千住「大はし」、森下「山利喜(やまりき)」、月島「岸田屋」を指し、さらに立石「宇ち多゛」と門前仲町「大坂屋」を加えて、東京五大煮込みと呼ぶということ。

中村 あ、確か「宇ち多゛」は、以前このシリーズの名店として紹介されてましたよね。

【関連記事】
【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺

長谷川 はい、基本的に取材を受けない「宇ち多゛」のあの記事は貴重ですよ。あと、五大名店のなかで串煮込みなのは「大坂屋」だけですね。いずれにせよ、これらレジェンド店が健在していることも酒場ファンにとっての魅力なんです。

中村 私もいつか全店行ってみたいです!

長谷川 お、そんな話をしていたら、そろそろ「玉子入りスープ」が出てきますよ。
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中村 わっ、半熟玉子に煮込みのお汁をかけて味わうんですね。これは確かに珍しいです!

長谷川 ですよね! 玉子に十字の切れ込みが入っているので、お好みで混ぜながら食べてみてください。
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「玉子入りスープ」(350円)
中村 わー、絶妙なとろとろ具合。これはたまんない。いただきますっ!
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中村 ……見た目は濃い味なのかなと思ったけど、まろやかでスゴくやさしい! スイッと飲めちゃうおいしさで、これまた止まらないです!

長谷川 お品書きがシンプルで明朗だからこそ、絶品煮込みのおいしさがより研ぎ澄まされる。そこに焼酎を合わせて、サクッと粋に楽しめるのが「大坂屋」の魅力なんです。

中村 はい!「牛にこみ」のモツも、「玉子入りスープ」も最高のおいしさでした。“東京五大煮込み”というのも納得です!

長谷川 煮込みは東京の酒場を代表するアテで、焼酎との相性も抜群なんですよね。五大名店はもちろん、ほかの酒場でも独自に趣向を凝らした煮込みがあるので、いろいろ巡ってみるといいですよ。

中村 はい、今日も楽しかったです。カウンター酒場に煮込みの魅力と、またいろいろ教えてください!
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「三日月型カウンター」についても勉強した中村さん、次回はどんなカウンターと出合うのか? ご期待ください。
<取材協力>
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大坂屋
住所:東京都江東区門前仲町2-9-12
営業時間:16:00~20:00 (L.O.19:30)
定休日:月、木、日曜日

※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年5月11日)
記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/
・タカラcanチューハイ
https://www.takarashuzo.co.jp/products/soft_alcohol/regular/
   

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