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「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 

「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺 

2022,1,28 更新

【意外と知らない焼酎の噺02】
日本酒と並ぶ日本の伝統的なお酒・焼酎。ただ、その製造方法などは、あまり詳しく知られていないかも。そこで、焼酎のいろはから専門的なコトまで、『古典酒場』の倉嶋紀和子編集長がナビゲーターとなって探っていきます。

焼酎の定義や歴史を学んだ前回に続く第2回のテーマは「甲類焼酎のつくり方」。そこで、日本最大級の焼酎製造場である宝酒造の松戸工場(千葉県松戸市)を訪問。工場長へのインタビューと製造現場の見学を通して、甲類焼酎の魅力に迫ります。
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●倉嶋紀和子:雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名
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宝酒造・松戸工場。全国に6か所ある宝酒造の製造拠点のうち最東の基幹工場で、主に東日本全域の商品供給を担っています

「醸造酒」と「蒸留酒」の違いとは?

倉嶋 本日はよろしくお願いします。今回は甲類焼酎のつくり方がテーマですが、まずは基本的なところで、醸造酒と蒸留酒の違いから教えてください。

森山 はい。「醸造酒」は、穀物や果実などの原料を酵母によりアルコール発酵させたお酒のことです。そして、この醸造酒を蒸留してつくるお酒が「蒸留酒」です。
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森山龍士工場長
倉嶋 分類すると、日本酒、紹興酒、ビール、ワインなどが「醸造酒」。焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウォッカなどが「蒸留酒」ですよね。
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森山 はい。具体的なところは醸造酒からお話ししましょう。醸造酒のなかでも原始的なのはワインです。ぶどうを搾った液体を放置して、ぶどうの皮の酵母がぶどうの糖分を食べてアルコールに変えることで、ワインができ上がります。
ワインはぶどうの糖分が豊富なのでそのまま醸造できるのですが、日本酒やビールの場合は原料の米や麦が糖分が少ないので、そう単純にはいきません。そこで麹菌や麦芽を使ってでんぷんを糖に変え、その後酵母を加えて発酵させ、アルコールを含んだもろみ(発酵液)へと変えていきます

倉嶋 焼酎の場合も、まずは芋や麦などを発酵させてもろみをつくり、そのあと蒸留させるという工程ですよね。麹は米、麦、芋などが原料ですか。

森山 そうですね。原料と麹と水で液体をつくって、発酵させたもろみを蒸留機で沸騰させ、蒸発した気体を冷却することによってアルコール度数の高い液体ができあがります。こうして原料の風味やアルコールを凝縮させた蒸留酒が焼酎です。
単式蒸留の仕組み

単式蒸留の仕組み

水とエタノール(アルコール)の沸点の差を利用する。水より沸点の低いエタノールが先に気化し、その気体を凝縮することでアルコール度数が高い液体が抽出できる
倉嶋 蒸留の際に、連続式蒸留機を使えば「甲類焼酎」に。単式蒸留機を使えば「本格(乙類)焼酎」になると。

森山 「連続式蒸留機」は蒸留塔にもろみを連続投入し、十数本の蒸留塔で蒸留を何度も繰り返すことで純度の高いクリアな味になるのが特徴です。もろみには穀物のほか、さとうきびもよく用いられ、甲類焼酎はさとうきびの糖蜜が主原料となります。
一方の「単式蒸留機」は複数回蒸留する連続式蒸留機と違い、1工程における蒸留は1回。そのため、蒸留後の液体のアルコール度数もそこまで高くなりません。その分、素材の風味が生きた、個性的な焼酎がつくれるのも特徴で、もろみには米・麦などの穀類やさつまいものほか、そば、黒糖、ごまなど様々な原料が使われます。
連続式蒸留機の仕組み

連続式蒸留機の仕組み

単式蒸留を繰り返すのと同じ効果が得られ、下段の蒸気が上段の液体を温め、またその液体が蒸気になってさらに上段の液体を温めていく。中央部から入れられた原料は、蒸気の熱によって低沸点成分であるエタノール(アルコール)と高沸点成分(水)に分離。気化した低沸点成分(エタノール)は上段にいき、液体のままの高沸点成分(水)は下段にいく。上段にいくほどエタノールが濃縮され純度が高くなる
倉嶋 そして、松戸工場のシンボルともいえるのが、あの大きな連続式蒸留機ですよね。改めて、甲類焼酎のつくり方も教えてください。

森山 主原料となるのは、さとうきび糖蜜等がベースの粗留アルコール(※)。こちらを連続式蒸留機の蒸留塔に供給し、蒸発、分縮、還流という作用によって純度の高い原料用アルコールを生成します。そしてこの高純度アルコールに割水(加水してアルコール度数を調整)し、精製することで一般的な甲類焼酎が完成となります。

※粗留アルコール:穀物、サトウキビ等を発酵させて蒸留したアルコール。現在は主に海外(ブラジル等)で生産されたものを輸入している。
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倉嶋 このあと、蒸留塔も見学させていただけるとのことで、ワクワクしています。

国内最大級の蒸留塔は最大約35mの高さ!

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十数本の蒸留塔を有する、松戸工場の巨大な連続式蒸留機
倉嶋 近くに来ると、いっそうすごい迫力ですね。

森山 最も高い塔は約35m、直径約2.5mあり、内部は最多で60段もの棚段に分かれています。日本最大級の連続式蒸留機だと思いますよ。内部をお見せするので、ついてきてください。
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蒸留塔の中で森山工場長の説明を受ける倉嶋さん
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倉嶋 管がひしめき合っていて、バルブの数も多いですね。先ほどおっしゃっていた、連続式の蒸留がこの塔の中で行われているんですか?

森山 はい。下段の蒸気が上段の液体を温め、またその液体が蒸気になってさらに上段の液体を温めます。こうして蒸留を繰り返すことで不純物を除きながら、最終的に純度99.99%以上(水を除くエタノールの純度)のピュアなアルコールをつくります

倉嶋 純度99.99%以上! 雑味がほぼ皆無だから、苦みや辛さといったトゲのないクリアなおいしさが生まれるんですね。

森山 そうなんです。では中身の製造工程の次は、詰口(充填)のエリアへ行きましょう。まずは「壜(びん)詰場」へ案内します。
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広大な松戸工場内を徒歩で移動。工場内を縦横無尽にパイプが走っています
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移動の途中で見つけた巨大な製品貯蔵タンク

甲類焼酎の製造現場最前線へ!

倉嶋 こちらも広いですね!

森山 液体の種類や容器ごとにラインが分かれていて、焼酎のほかにもみりんと料理清酒のライン、ウイスキーのライン、一升びんのライン、紙パックのラインなどもあります。焼酎は360mlびんから4Lペットボトルまでがここで詰められています。
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この日は大定番商品である「宝焼酎」の4Lペットボトルの詰口が行われていました
倉嶋 回転している機械がフィラー(容器に中身を詰める機械)ですか?

森山 そうです。いまご覧になっているフィラーは4Lのペットボトルに焼酎の中身を詰め、キャッピングしたら検査。その後ラベルを貼って、段ボールの箱に梱包する流れです。
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「宝焼酎」4Lのペットボトルを持つ倉嶋さん
森山 次は缶の詰口ラインをお見せしましょう。

倉嶋 缶チューハイですか! 楽しみです!

人気のタカラ「焼酎ハイボール」の詰口ラインに潜入!

森山 缶の工程も、基本的にはびんと一緒。充填したら「巻締(まきじめ)」という手法で封をして、殺菌と検査、そして箱詰めします。いまは350mlの缶に充填しているのですが、500mlより容量が少ない分、満充填されるのが早いので、全体の動きもよりスピーディですね。

倉嶋 たしかに、ものすごいスピードですね!
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高速で回転しているフィラー
森山 スピードが速いので、ずっと見ていると目が回るから気をつけてください(笑)。

倉嶋 ホントですね、いま流れているのはどの商品ですか?

森山 タカラ「焼酎ハイボール」のレモンですね。缶チューハイの場合は3~4倍の濃縮液と水と混ぜ、同時に炭酸ガスも充填します。
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こちらは500mlの缶胴と缶ブタのサンプル。中身の充填後に「シーマ」という巻締機で密封します
倉嶋 その工程を、缶チューハイ用のフィラーで行っているんですね。

森山 はい。フィラーで充填したら巻締し、次は検査です。X線検査機で中身がしっかり入っているかをチェックしたら、パストライザーという装置で殺菌。その後、X線で再検査します。

倉嶋 X線検査は2回行うんですね。

森山 2回目は缶を上下逆さまにしたり、水を噴射して缶が通る空間を洗ったりしながら、異常や漏れなどがないかを隅々までチェックします。

倉嶋 そして最後は箱詰めですね。

森山 はい。詰めたら施設の隣にある物流センターへ運び、そこで保管します。蒸留とボトル・缶それぞれの詰口説明は以上となります。

倉嶋 製造現場を見学させていただいたことで、より焼酎をおいしく楽しめそうです。貴重な体験をありがとうございました!
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松戸工場からお届けした【意外と知らない焼酎の噺】第2回はここまで。第3回は、焼酎の開発担当者から甲類焼酎の歴史や味の特徴を伺います。


※宝酒造・松戸工場では通常、工場見学は行っておりません。


【関連記事】
「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺


記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/
・タカラ「焼酎ハイボール」
https://shochu-hiball.jp/
   

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