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立ち飲みを楽しむためのマナーの噺

立ち飲みを楽しむためのマナーの噺

2018,9,7 更新

ちょっとレトロな街で夕暮れ時、あるいは昼下がりからお酒を楽しむ声が聞こえれば、そこにはきっと大衆的な立ち飲みの居酒屋があるはず。最近では、若い店主が経営するおしゃれな立ち飲みも多くなってきていますが、やはり訪れるのであれば昔ながらのお店にも行ってみたい。とはいえ、“常連客が多くてなんだか馴染めないのでは?”、または“お店独自のルールがあって気後れしそう”と思って二の足を踏んでいる人もいるかもしれません。
今回は、本当に老舗の立ち飲みには独自のルールがあるのか、またあるとしたら何のためにあるのかの疑問をひも解くお話。新世界でお店を開いて60年以上を数える老舗の角打ち「平野屋」で、その実態を調査してきました。

3人以上の入店はお断りする角打ち

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大阪のシンボル・通天閣のお膝元にある新世界。
訪れた平野屋は、この町で通天閣の建てられた昭和31年から立ち飲みの店舗を営んでいます。

のれんの奥に見える店内のガラスケースには、手作りの美味しそうなおつまみが盛られた小鉢がずらり。
“ポン!”と酒瓶の栓を抜く景気のよい音とともに、賑やかな笑い声が聞こえてきます。
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しかし、ご注意を。
この店の入店には“あるルール”があるのです。
それが“3人以上のグループでの入店お断り”というもの。

さらにこのルールのほかに、“泥酔しない”“過剰なサービスの期待は不可”“大声、大騒ぎ禁止”など、明文化されてはいないものの細かなマナーも。
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こう聞くと、やはりなんだか入りづらいと思ってしまいます。
しかし、店内でお酒を楽しむ人々はとても幸せそう。
このルール、一体なぜ設けられているのでしょうか。

すべては、みんなが気持ちよく飲むために

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このルールとマナーの理由を教えてくれたのは、平野屋のオーナー・上杉和功(うえすぎ・かずのり)さん。
「立ち飲みは知らない人とくっついて酒を飲む場所ですし、もともと新世界という町は大人が遊ぶ場所。真剣に遊ぶ大人は、遊びの息抜きとして、立ち飲みでサッと飲んですぐに立ち去るのが流儀。基本一人、多くても二人で来店するものだと思います。三人以上だとどうしてもグループとなって、そこに仲間だけの世界ができてしまう。酔っ払って話し込んだりすると、周りで静かに飲んでいる方の迷惑になる。これが三人以上の入店をお断りする理由なんです」(上杉さん)
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なるほど、店内をよく見てみれば常連同士で会話はするものの、来るときも帰るときもお客さんは一人の方がほとんど。
加えて、泥酔禁止や大声、大騒ぎの禁止については「気持ちよく飲んでいる時に隣にうるさい酔っ払いが来たら嫌でしょう? それに、泥酔するまで飲んだら帰りがけに怪我をするかもしれません。大声で騒いだり飲み過ぎているお客さんには、お酒を控えたら?と声をかけることもあります」とも。

また、過剰なサービスの禁止については「立ち飲みという営業の形態上、お酒の種類や料理は厳選して、少人数で切り盛りしています。そのため一人のお客さんの対応に時間をかけているとほかのお客さんに手が回らなくなってしまいます。それは失礼ですから」とのこと。

お客さん同士がつくる、人情溢れる新世界の立ち飲み

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平野屋のルールやマナーがお客さんにどう捉えられているかは、お店の様子をみれば一目瞭然。
誰もが静かに、それでも心から楽しそうにコップを傾けている様子からは、マナーの押し付けなど全く感じません。
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上杉さんはお店のルールについて語りつつ、こう話してくれました。
「ここでは誰もがいい距離感を保っているんです。また、店には実にいろいろな人が来ます。年齢もバラバラ、職業もバラバラ。でも、誰も隣で飲んでいる人の職業や素性なんて聞かない、気にしない。酒を飲みに来ている顔なじみで十分なんです。」(上杉さん)

また、一つ面白いエピソードも教えてくれました。
「あるとき、店でお客さんが倒れたことがあったんです。その時サッと素人離れした仕草で脈を測った常連さんがいました。また、倒れたときにお客さんはお店の配管にぶつかって壊してしまったのですが、私がお客さんを病院へ連れて行って店に戻ってきたときにはもう、配管はキレイに直っていました。これもまたプロならではの完璧さで。もちろん、配管を直してくれた人は名乗り出たりしません。でも、誰がやったかは薄々わかっている。この距離感やつながりが平野屋なんです。お店のルールは、今までこの店を大事に訪れてくれる人たちが作る空気を守り、気持ちよく明日も飲みに来てもらうためのものなんですよ」(上杉さん)

絶妙な距離感を楽しもう

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お酒の席では誰もが気持ちよく飲みたいと思うもの。
ましてや隣のお客さんと肩が触れ合うような立ち飲みであれば、お互いに心地よく飲むために、譲り合う気持ちが必要なのかもしれません。
酒場のカウンターに集うお客さん同士や店主のお客さんを思う心が自然と生んだマナーやルールを知り、守ること。
それはいわば、楽しい立ち飲みの空間を多くの人と共有するための通行証のようなもの。
みなさんもはじめての立ち飲みへ出かける時は、お店のルールを常連さんや店主に尋ねてみることをおすすめします。

<取材協力>

平野屋
営業時間:(火~土曜日)12:30~20:00
(日・祝日)11:30~20:00
※月曜日定休日
所在地:大阪府大阪市浪速区恵美須東3丁目5-2
 (307)

   

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