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難しく考えない、酒器の選び方の噺

難しく考えない、酒器の選び方の噺

2018,6,1 更新

酒器とは「お酒を飲む器」のこと。

なにやら専門的で、特別なイメージのある言葉ですが、普段私たちが使っているお猪口や徳利、ビールグラスまで、お酒を入れる器はすべて「酒器」です。何気なく使っているものだからこそ、ひときわ愛着が湧いて特別なものになる。

“仕事帰りの晩酌に使うグラスやコップはやっぱりこれ”なんて方もいるのではないでしょうか。
今回は、自分好みの酒器と出会うためのお話。

いつもの一杯を、ちょっとスペシャルにする。
そんな器と出会う秘訣を、京都は北大路で酒器専門店兼工房を営む「今宵堂(こよいどう)」の店主にうかがいました。

こだわりの酒器を作り続ける「今宵堂」とは?

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京都・北大路の閑静な住宅街の一角にある、陶器店兼工房の「今宵堂」。

京町家を利用した店舗兼住まいの引き戸を開けると、個性的な陶器や磁器の世界が広がっています。
この店を営むのは、にこやかな笑顔が印象的な上原連さん、梨恵さんご夫妻。

お二人は京都で陶芸を学び、結婚を機に「今宵堂」をオープンされました。
今宵堂が酒器専門店となったのは、連さん、梨恵さんともにお酒好きだったから。

ご結婚する際に毎日晩酌をしようと決め、今でも仕事がひと段落すると近所のスーパーに出かけては、お酒に合うお惣菜を探し、自分たちの作ったお気に入りの酒器で、のんびりと晩酌を楽しんでいるそうです。

そんなお二人が営む今宵堂の酒器の特徴は、ずばり「楽しいものが多い」こと。

お酒の器は楽しいものがいい

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このお店の魅力的なところは、商品全てが、「お酒やお酒のつまみを楽しむために作られている」ことです。

猪口や徳利に顔がついていたり、ネズミの顔をした徳利「注器(ちゅーき)」など、その形もネーミングセンスも実にユニーク。

なかでも、梨恵さんのお気に入りの酒器は、舞妓の顔に髪飾りのついた猪口で、その名も「おちょこはん」。底が丸く不安定なこの猪口は梨恵さんが押すと、くるくると回りだします。
「あ〜れ〜」と楽しそうにつぶやく梨恵さん。
これが意味するのは、もちろん、往年の時代劇であった、悪代官が町娘の着物を脱がすあの定番シーンの再現。

その様子を見ながら、連さんはこう話します。

「僕らは、自分たちのことを陶芸家とは思っていません。陶芸と聞くと、芸術的で気難しいイメージがあるでしょう? でも、酒器はそういうものではないと思っています。僕らは骨董の酒器を集めるのも好きなんですが、古くから酒器にはふざけていたり、思わず笑ってしまうような楽しいものが多いんです。例えば、「おちょこはん」のような杯は可盃(べくはい)といって、九州などに伝わるものです。これはわざと不安定なつくりで自立できなかったり、底に穴が空いていて一気に飲み干さねばならないという趣向です。ほかにも、酒器には遊び心の詰まったものが多いんですよ。私たちの想いも同じ。“お酒を飲む”という楽しい機会に使うものですから、酒器は遊び心があって面白いものがいい。そう決めて私たちは、酒器を作り始めました」

自分の物語にあった酒器で晩酌

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こだわりの酒器を数多く生み出す今宵堂のお二人に、「お気に入りの酒器を見つけるコツ」を伺ってみました。

「まずは自分が好きなものを選ぶのがいいですね」と梨恵さん。

「難しく考えることはありません。強いて言えばまずは手頃な杯や蕎麦猪口なんかがおすすめです。手に取って、好きになれるものを選ぶのがやっぱりいいんです。お店の人に聞いてみるのもおすすめですけどね」

連さんはこれに加えて、「シチュエーションで選ぶのもいいですよ。私は旅行先や訪れた酒蔵の名入れした器や、たまたま訪れたお店で見つけた酒器を買うようにしています。そうすると家に帰った後もその時の思い出とともに飲めますからね。同じように、“こんな場面で飲みたい”という気持ちは大切ですね。今宵堂に来るお客さんのなかには、“成人式の記念にお気に入りの器が欲しい”という女性から、ドラマのワンシーンで使われている酒器を再現したい”という方まで、いろいろなこだわりや物語を持った方が訪れます。大切なのは器の素材や飲み口というよりも、お酒の場面をどうやって楽しく飲みたいかという想いだと思います」

今宵堂のご夫婦は毎晩、晩酌をする。

この約束は結婚する時に決めたことであるのとは別に、もう一つの理由があるのだそう。
それは、お二人の子どものころの思い出、夕食前にナイターを見ながら晩酌をする父親の姿が、お酒にまつわる原風景となっているそうです。

父親の晩酌をする幸せそうな姿から、お酒への憧れを膨らませた二人は、今ではお子さんとともにゆったりと、夕食前の一杯を楽しんでいます。
では、あなたにとってお酒を飲む風景とは?
そこに、どんな器があったら楽しいと思うでしょうか?

それが思い浮かんだ時、お気に入りの酒器が見つかるかもしれません。
もちろん、お酒を飲む理想の風景が今はなくても、今宵堂へ足を運ぶのも一つの方法です。
ユニークで遊び心の詰まった酒器のなかには、きっと「これで飲みたい」と思える特別な器が見つかり、理想の風景ができると思いますよ。

酒器にこだわることで、何気なく飲んでいるお酒を改めて“おいしい”と感じられる体験をしてみてはいかがですか?

<取材協力>

酒器 今宵堂
住所:京都市北区小山上内河原町52-5
Webサイト:www.koyoido.com
※営業日は今宵堂Webサイトでご確認ください。
※取材データは2018年5月時のものです
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