酒の味を丸くする?錫器の噺
2019,4,19 更新
近頃ではちょっとこだわりのある飲食店で見かけることの多い、錫(すず)を使った酒器。この錫器の多くは、大阪府大阪市で作られているのをご存知でしたか? 現在では、「大阪浪華錫器(おおさかなにわすずき)」として伝統工芸品に指定され全国的な知名度も高まりを見せている、この器の製造現場を訪問。その歴史から、“お酒の味を丸くする”というその力の秘密を伺いました。
江戸時代から続く、大阪浪華錫器
今回訪問したのは、大阪市東住吉区にある「大阪錫器株式会社」。
創業は江戸後期まで遡り、現在では国内で流通している錫器の約2/3を1社で手がけているトップメーカーです。お話を伺ったのは、代表取締役社長の今井達昌(いまい・たつまさ)さん。
創業は江戸後期まで遡り、現在では国内で流通している錫器の約2/3を1社で手がけているトップメーカーです。お話を伺ったのは、代表取締役社長の今井達昌(いまい・たつまさ)さん。
「大阪錫器・大阪浪華錫器と言いますが、その始まりは1300年以上前の京都に遡ります。
遣隋使・遣唐使によって中国からもたらされた錫の器が、宮中で神器や酒器として使われるようになったのがきっかけ。それからしばらくは京都の公家社会で錫器の製法は受け継がれていましたが、江戸時代になると大阪を中心に裕福な商人たちの間にも錫器が広まるようになります。大阪に錫器の職人が登場するのはこのころ。当社はこうした京錫の職人の一人であった、初代伊兵衛を祖とし、以来これまで技術の継承と発展に努めています」(今井さん)と、大阪での錫器の発展の歴史を話してくださいました。
遣隋使・遣唐使によって中国からもたらされた錫の器が、宮中で神器や酒器として使われるようになったのがきっかけ。それからしばらくは京都の公家社会で錫器の製法は受け継がれていましたが、江戸時代になると大阪を中心に裕福な商人たちの間にも錫器が広まるようになります。大阪に錫器の職人が登場するのはこのころ。当社はこうした京錫の職人の一人であった、初代伊兵衛を祖とし、以来これまで技術の継承と発展に努めています」(今井さん)と、大阪での錫器の発展の歴史を話してくださいました。
錫は酒の味を柔らかく丸くする
「かつて宮中では、お酒のことを”お錫“と呼んでいました」と今井さん。
「これは、宮中での酒器に錫が使われていたことに由来します。ではなぜ、この錫が重用されたか。それは錫の持つ特性に依るところが大きいんです。錫は非常に化学物質と反応しやすい金属です。例えば、毒物などを酒に入れて飲ませようとすると、それに反応して錫の表面に艶がなくなる。こんな理由から、錫は重宝されていたんですね。」(今井さん)
「これは、宮中での酒器に錫が使われていたことに由来します。ではなぜ、この錫が重用されたか。それは錫の持つ特性に依るところが大きいんです。錫は非常に化学物質と反応しやすい金属です。例えば、毒物などを酒に入れて飲ませようとすると、それに反応して錫の表面に艶がなくなる。こんな理由から、錫は重宝されていたんですね。」(今井さん)
今井さんは続けて、「もちろん今ではそんな物騒なことはありません。ただ、この錫の性質はお酒好きにとってとても嬉しい効果につながるんです。日本酒などに含まれる雑味の成分、こういったものが錫と反応することで取り除かれて、角が取れた優しい味になるんです。錫と反応する量はほんのわずかですから飲み終わった後に、器を洗えば流されてしまいますので安心してください。私も日本酒を飲むときはもちろん、錫器と決めています。外に飲みに行くときにも、自分の猪口を持っていくようにしているんですよ」と、社内に陳列してある錫器を持ちながら嬉しそうに話してくださいました。
錫の製造現場を訪問!
大阪錫器株式会社の工房では、現在20人ほどの職人が働いています。
工房入り口に見えるのは山と積まれた錫の地金。ひとつ10kgでぐい呑であれば100個ほどの量になるのだとか。
工房入り口に見えるのは山と積まれた錫の地金。ひとつ10kgでぐい呑であれば100個ほどの量になるのだとか。
この錫を融点である230℃まで溶かしたら、杓ですくって鋳型(いがた)へと流し込みます。錫が程よく冷えたのを確認して型を外すと、鈍い輝きの器が登場。
「冷え過ぎれば取り出しにくく、冷ましたりなければ変形します。このタイミングが難しいんですよ」(今井さん)
「冷え過ぎれば取り出しにくく、冷ましたりなければ変形します。このタイミングが難しいんですよ」(今井さん)
鋳型で形を取られた錫器は、次の工程でロクロに掛けられて、切削されていきます。回転する錫器に鉋(かんな)やノミの刃が当たると、見る間に私たちの慣れ親しんだタンブラーや猪口、急須などの形が現れます。
形が削り出されたら、次は仕上げの作業。取手などを取り付ける「蝋(ろう)付け」や槌(つち:物をたたく道具)を当てて表面に細かな模様を作る「槌目打ち」、絵付けなど、数多くの技法を凝らされて個性豊かな錫器が出来上がります。
美しくキメが整えられ、絵や模様で装飾された錫器は、美術品と呼べる出来栄え。これでお酒を飲めたら…と、見ているだけで想像が膨らみます。
時代とともに変わる、錫器の魅力
「当社では戦後くらいからの鋳型はすべて残してあります。もういくつあるんでしょうかね。そのいくつもの鋳型を見て思うのは、人の暮らしとともに錫器も変化しているのだということ。例えば今より少し昔、御膳で食事をしていた時代には、お酒の器は平たい猪口が主流でしたが、今はぐい呑のような背が高いものが主流です。これはテーブルと、御膳での高さの違いによって器の持ち易さが変わってくるからなんです。現代の私たちの生活や、使う方の思いに合わせてこれからも錫器は変化していきます。
ただ、その中でもやっぱり大事にしたいのは、人の手仕事。手に持った時のしっくりと馴染む肌触りは、機械で均一に作ったものでは出せないもの。職人の勘所がモノを言うんです」と手にした錫器を愛おしげに眺めながら今井さんは語ります。
ただ、その中でもやっぱり大事にしたいのは、人の手仕事。手に持った時のしっくりと馴染む肌触りは、機械で均一に作ったものでは出せないもの。職人の勘所がモノを言うんです」と手にした錫器を愛おしげに眺めながら今井さんは語ります。
【徳利・チロリ・ぐい吞み。日本酒を燗でも冷でも楽しむことができる。】
皆さんも、百貨店や食器・酒器専門店に出かけた際は、錫の酒器を探してみては?
しっかりとした職人の作品を選べば、しっくりと手に馴染み、いつものお酒を一層美味しくしてくれる、そんな一生物のお気に入りと出会えるはずですよ。
<取材協力>
大阪錫器株式会社
住所:大阪市東住吉区田辺6丁目6番15号
http://www.osakasuzuki.co.jp/
※取材データは2019年3月時点
様々な素材の酒器の噺はこちらから、
お酒を美味しくする、江戸切子の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/zEAdA
難しく考えない、酒器の選び方の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/3EAZy
大阪錫器株式会社
住所:大阪市東住吉区田辺6丁目6番15号
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※取材データは2019年3月時点
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