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お酒の旨さ、呑む楽しさをさらに引き上げてくれる果実の噺

お酒の旨さ、呑む楽しさをさらに引き上げてくれる果実の噺

2019,1,11 更新

春夏秋冬と、豊かな自然の恵みをもたらす四季がある日本。それぞれの時期に収穫される「旬」の野菜や果物は、高い栄養価やその美味しさだけでなく、季節の訪れや移り変わりを感じさせてくれるものです。近年では、年間を通じて農産物を生産する周年栽培の技術が開発され、お店に行けば旬の時期以外でも多くの野菜や果実を購入することができます。このように便利な世の中になったものの、やはり食材は旬のものを味わいたいと思われる方も多いのではないでしょうか。毎日の食卓に当たり前のように並ぶさまざまな食材。しかしそこには、私たちの知らない生産者の苦労や、ものづくりへの想いがあるのです。今回は11月下旬~12月頃まで収穫最盛期を迎える京都の柚子産地「水尾」を訪問し、生産者の方にお話を伺いました。

厳しい環境が育む、香り高く風味豊かな水尾の柚子

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京都、嵯峨嵐山から西北へ約10キロ。愛宕山(あたごやま)の麓に広がる静かな山里・水尾。この地の歴史は古く、古代より山城と丹波の両国を結ぶ要所として栄え、平安時代前期の第56代清和天皇(850~880年)がこよなく愛した地としても知られています。



水尾の里が柚子の栽培地になったのは、鎌倉時代後期の頃。


第95代花園天皇(1297~1348年)の命によって柚子が植えられたことが始まりと伝えられています。以来、水尾の里は“日本の柚子栽培発祥の地”と言われることも多く、日本を代表する最高品質のブランドとして、全国にファンがいるほどです。



水尾の柚子の特徴は、何と言っても他を圧倒する豊かな香りと風味にあります。



京都盆地特有の寒暖差の激しい気候と愛宕山の清らかな伏流水など栽培地に適した条件が重なり、接ぎ木をする産地が多いなか、種から約20年もの長い年月をかけて育てる柚子が今なお多く残っているのも、水尾ならではと言えます。

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愛宕山山麓の急斜面に生える柚子の木は、夏場はたっぷりの陽を浴びてたわわに実り、完熟期を迎える頃には厳しい寒さから実を守るために皮がふっくらと厚みを増します。


大ぶりに育ちながらもその実はたっぷりの果汁をたたえ、香り高く甘酸っぱい濃厚な風味を醸しだします。

長い歴史の中で受け継がれた技と絶え間ない努力

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今回お訪ねしたのは、そんな水尾の里で代々柚子栽培を手掛けておられる村上和彦(むらかみ・かずひこ)さん。定年を機に本格的に活動を開始し、現在、末の息子さんと共に柚子の栽培から加工品の企画・開発に取り組んでおられます。
【高所での収穫の様子】

【高所での収穫の様子】

急斜面に柚子の木が生える水尾では、枝が伸び高い場所に実が成ります。そのため、「四間梯子」(よんけんばしご)と呼ばれる高さ約7~8mの手作りの梯子が、収穫には欠かせないのだとか。しなやかな檜と頑丈な栗の木で造られた梯子を柚子の木に立てかけ、足だけで体を支え作業を行うのはまさに匠の技。
【柚子の木に生える棘】

【柚子の木に生える棘】

「柚子の木には棘があるのですが、その棘はひときわ鋭く長靴も貫通するほど。溶接用の頑丈な手袋をはめていても、棘が刺さり怪我をすることも少なくありません」と村上さん。
それでも、柚子の実が傷つかないよう一つひとつ人の手で摘み取っていき、できるだけ美しい状態を保てるよう細部にまで心をくだきます。

一粒一粒にしっかりと光と風が当たるよう細やかで丁寧な剪定作業を重ねるなど、良い柚子を育てるには並々ならぬ苦労があるそうです。



「厳しい環境ですが、だからこそ水尾の柚子はどこにも負けない豊かな香りと風味を醸します。丹精込めてつくる柚子を、ぜひ味わっていただきたいですね」と笑顔で語ってくれました。

水尾の柚子の魅力を手軽に楽しむには

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一般的なお店ではなかなか見ることのできない希少な水尾の柚子ですが、実は気軽に楽しめるのが柚子を使った加工品です。



水尾柚子の果肉をまるごと搾った果汁を使ったチューハイは、豊かな香りと風味を手軽に味わえる一品。そのほか、柚子味噌や柚子胡椒、柚子の甘露煮、柚子マーマレードなどの食品はもちろんのこと、柚子果皮から抽出した精油を使った石けんや保湿クリームなど化粧品分野にも広がりをみせています。

「現在、柚子農家を営むのはわずか25軒ほど。日本の多くの山村や農家と同じように、水尾の里でも高齢化と後継者問題が大きなテーマとなっています。これら加工品の企画開発を通して一人でもたくさんの方に水尾の柚子を知っていただき、地域の活性化につなげていきたいと考えています」。(村上さん)
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その一貫として行っているのが、新鮮な柚子を使った「柚子風呂」と京都産の地鶏・野菜を使った鳥鍋や鳥すきの提供です。



村上さんが営む「直八」をはじめ、9軒の農家が一年を通して予約を受け付けているので、柚子の里を訪ね、深い山間の中で爽やかな香りと風味を楽しむのも一興でしょう。
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長い歴史と厳しい自然が育んだ最高品質の柚子を、次の時代に受け継いでいこうと絶え間ない努力を続ける生産者の方々。何気なく手に取った商品には、作り手たちの深いドラマが込められているのです。



商品を手に取り、口にする瞬間、生産者たちの熱い想いや情熱に想いを馳せれば、そのありがたみを再認識し、より深い味わいや感動で心が満たされることでしょう。


<取材協力>

農事組合法人京都水尾農産
URL:http://kyoto-mizuo.or.jp/mizuonousanntoha/
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※直八をご利用の方はこちらをご確認ください
※取材データは2018年11月時のものです
   

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