
現代の酒器を装う、伝統と革新の工芸品の噺
2019,7,12 更新
パーティーなどお酒を飲むシーンで自分のグラスが他の人のグラスと混在して分からなくなってしまったという経験は何度かおありだと思います。
そこで今回ご紹介するのが、ワイングラスやシャンパングラスなどお酒やドリンクを入れるグラスに目印を付けるアイテムがグラスマーカーと呼ばれるもの。
最近は、特に京都で作られるグラスマーカーに国内外から注目が集まっています。
このアイテムに使われているのはなんと京友禅(京都府で主に生産される伝統工芸品。絹織物に複雑な模様を染める技法)。生み出すのは、「金彩」という友禅の装飾工程を手がける職人で、グラスマーカーの他にコースターなども手掛けておられます。グラスと京友禅、無縁とも思えるこのふたつが出合ったきっかけとは?
その秘密を探るべく、京都嵯峨野の工房「takenaka kinsai」さんを訪れました。
京友禅に一層の花を添える“金彩”

この着物へ金箔などを使った装飾を行うのが、金彩(きんさい)。今回訪問した「takenaka kinsai」さんも、この金彩を専門に行う工房です。
金彩の発祥は、膠(にかわ:獣類の骨・皮・腸などを水で煮た液を乾かして固めたもの)や漆を接着剤として使い生地を金箔で装飾する「印金」であるとされ、その技法は中国から日本に室町時代の頃伝わった後に独自の発展を遂げて着物などの布の製品に使われるようになったと言われています。現在でも能の女役が身にまとう装束の一つは摺箔(すりはく)と呼ばれており、この摺箔は金彩と同じ技法のことを指しています。



金彩の工房へ

このグラスマーカー誕生を支えたのがお父様である、竹中秀美(たけなか・ひでみ)さん。50年以上の職歴を誇る熟練の職人で、これまで多くの打掛や留袖、振袖から個人の作品まで数々の品物に、金彩を施してきました。

金彩は、糊と金属粉を混ぜたもので輪郭を描いたり、染め上がった生地の上に糊を置き、その上に金箔や金粉を落として接着した後に余分な箔を取り除くことで着物の上に、表情豊かな装飾を施していく技術。
見学している間に、フレーク状の金箔から砂子と呼ばれる細かな金粉までを巧みに使い装飾を仕上げていきます。


コンペにおいて高い評価を獲得し、すぐに人気商品となったグラスマーカーやコースター。それは職人である父とデザイナーである子、それぞれの関係性がうまく噛み合ったからこそ、生まれたものなのかもしれません。
暮らしに寄り添う新しい製品を

「島津藩の定め小紋である「大小あられ」や尾形光琳の「光琳水」など、古くから使われている文様には、現代にも通じるデザインの美しさがあります。それだけでなく、それぞれの文様には意味や縁起などもありますから、引っ越しした方に送るものなら火事除けの意味を込めた流水紋など、思いを伝えるのにもぴったりです。こうした伝統や文化の意味を、より現代の暮らしに寄り添う形で伝えていけたら嬉しいですね。パーティーシーンだけでなく、日々の暮らしの中で使っていただけるようこれからも新しい製品を作り出していきたいと思っています」。

古き良き伝統を継承するだけでなく、現代の生活や事物に合わせて変化と挑戦を続けていく「takenaka kinsai」。これからどのような製品が生まれていくのでしょうか。
テーブルにあるだけで、その場を華やかに演出する金彩のグラスマーカーやコースター。皆さんも、日々の食事や晩酌の場に、大切な方へのプレゼントに選んでみては?
【取材協力】
「takenaka kinsai」
住所:京都市右京区嵯峨大覚寺門前八軒町20-12
URL:http://takenaka-kinsai.jp/
ONLINE SHOP:http://takenaka-kinsai.shop/
グラスマーカーやコースター以外にも、箸置きやパスケース、リフレクター(反射鏡)などの製品も購入可能です。
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