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【京都・吟味屋 菜々色】常連に愛され続ける酒場の条件の噺

【京都・吟味屋 菜々色】常連に愛され続ける酒場の条件の噺

2023,3,31 更新

みなさんには「行きつけ」のお店がありますか?
ちょっと離れていても、そのお店に足を伸ばすのもいとわない。美味しいお酒と料理だけでなく、そこに集う人々の顔を見るとつい暖簾をくぐらずにはいられない。
そんなお店があるだけで、人生が少し色鮮やかになるものです。
今回の酒噺でご案内するお店「吟味屋 菜々色」(京都市下京区)も、そんな常連に愛され続ける酒場のひとつ。京都の繁華街から少し離れたところにあるこのお店に、地元の方に愛され、多くの人々が集う理由を酒噺スタッフが探ります。

住宅街の片隅で営む「大人のごはんや」

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1階のカウンター席
京都で酒場が集まる場所といえば、祇園や木屋町・先斗町のある四条〜三条界隈、ビジネス街の烏丸、大衆酒場の並ぶ西院など。しかし、今回訪れた「吟味屋 菜々色(なないろ)」はそのいずれの区画からも少し離れた、堀川通から程近くにあるお店。
大正時代の町家を改装した店内は、長いカウンターとその奥に控える厨房が広がり、古く太い梁が走る2階は、磨き抜かれた床と歴史を感じる調度品に囲まれたテーブル席が並びます。
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2階は宴会にも使える広めの空間。個室のように使えるテーブル席も完備。
風格も抜群なお店なのですが、はじめてこの辺りを訪れた人がお店を見つけるのは少し難しいかもしれません。
なぜならお店の周辺は閑静な住宅街で、店頭に品書きの書かれたパネルもなく、暖簾が掛かっているのみ。外からではそのお店の様子が伺えないのです。それにもかかわらず、平日・休日問わずお店は連日満員の大盛況。
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お店の外観
お店をオープンしたのは2010年。「かれこれ10年以上経ちますがうちは広告や宣伝をせず暖簾一本で勝負したいと思っています。それは、やはり“おいしかった”と思ってくださった方の口伝えで来てほしいから。」と話すのは、「吟味屋 菜々色」店主の林英作さん。
「どこの誰が書いたかわからない広告文章より、自分と付き合いの深い方が“あそこはうまいから、お前を連れて行きたいんだ”、“あそこはおすすめだから今度予約してみろよ”って言われる方が、真実味がありますよね。だから、あえて自分からお店を売り出しはしないんです。実際にお客さまの8割以上は、常連さんかそのお連れさんです。」

「時間を売る」酒場

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「料理とお酒だけに力を入れている店に、通い続けたいというお客さんってそんなに多くないと思っているんですよ」と話す林さん。

「酒席は、時間を楽しむものだと私は思います。料理やお酒はそれを盛り上げる道具ですが、もっと大事なのは人と人との楽しい交わりがあること。それはお客さん同士だけではなく、私や店のスタッフとの交流も同じ。一度行ったお店の料理がおいしくて、もう一回行った時にお店の主人が名前を覚えてくれて、“前回はこれを召し上がりましたから、次はこれなんていかがですか?”なんて話してくれたらうれしくなりませんか?だから、私やスタッフは通ってくださるお客さまの顔は覚えるようにしていますし、お迎えの言葉も“いらっしゃいませ”ではなく“お帰りなさい”です。料理人や店主にとって、厨房はいわば舞台。お客さまに楽しい時間を過ごしていただくための努力はなにも料理や酒だけじゃないんですよ。
接客・食材・飲み物・器・空間これら全てにこだわることで最高のおもてなしをご提供できると考えています。」
厨房で軽快に会話をしている中でも、林さんの手は忙しく動き次々と料理を生み出していきます。「さ、できました。楽しんでいってください」と声がすると、あっという間に注文した1品目がカウンターに運ばれてきました。

定番から季節品まで、豊富な日替わりおばんざいの盛り合わせ

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(左上から時計周りに)菜の花の辛子酢味噌、お茄子のピリ辛、万願寺とうがらしのおじゃこがけ、こんにゃくのきんぴら、ベビーホタテのチーズマヨ
菜々色では、地元の京野菜はもとより、福井県をはじめ全国各地から取り寄せた旬の食材を使用した和創作料理を提供しています。
この日の盛り合わせは、菜の花の辛子酢味噌、お茄子のピリ辛、万願寺とうがらしのおじゃこがけ、こんにゃくのきんぴら、ベビーホタテのチーズマヨ。季節を感じるものあり、京都で長く愛されている小鉢あり、かと思えばチーズマヨという捻り技もあり。
おばんざいは、いわば京都人の常備菜・お惣菜ですから、ちょっと現代風のアレンジがあるのも当然。トロリと炊かれ、噛むと出汁と共に辛味が広がる茄子も、ほろ苦さが嬉しい万願寺とうがらしや辛子酢味噌、いずれもお酒が進みます。

「おばんざいの内容は毎日変えていますよ。お客さんによっては、単品で頼まれることも多いので、内容が被らないように種類も多めに用意します。もちろん、お客さんが前いらした時に何を食べたかや好物・苦手な食べ物によっても品目は変えて提供します」と林さん。

確かな目利きによる、鮮度の良いお造り盛り合わせ

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続いてはお造りの盛り合わせ。はしり物のカツオに旬真っ盛りのブリトロ、貝柱に赤貝と見るからにピンピンとした鮮度の良いお造りが盛り付けられています。これは錦市場にお店を構える、林さんと30年来懇意にしている魚屋さんの目利きによるもの。

「わさび醤油もいいですが、こちらもおすすめですよ」とおすすめいただいたのは、醤油ゼリー。もっちりとした食感に固められた醤油が、お造りの脂と一緒に舌で温められ、一体となって溶けていきます。こうしたちょっとした提案も嬉しいもの。林さんが「辛口でキレのある味わいは万人向けのおいしさです」と太鼓判を押す松竹梅 「豪快」といただきます。キリッとした飲み口で、魚や貝の香りをふくよかに広げてくれます。

あんの弾力と里芋の食感が抜群!福井県大野の里芋のあんかけ

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「次はこれ」と大ぶりの器で登場したのは、里芋のあんかけ。一見すると里芋にあんをかけたシンプルな逸品ですが口に含むと驚きます。大野名物の里芋を一度、食感が残る程度に荒く潰し味をつけた上で整形して、そこにモチモチになるまで練り上げたあんと生姜をたっぷりとかけてあるのです。シンプルな食材の素材を生かしつつも、よりおいしくするためにひと仕事加える。ちょっとした驚きの演出がある一品です。なにより、あんの弾力とねっとりとした里芋の食感のバランスが実に見事です。

里芋の優しい香りに合わせて、お酒も本格焼酎「よかいち」<芋>に変更。ふんわりとしたさつまいもの豊かな香りは、濃厚なあんと繊細な里芋の味わいをひき立ててくれます。

ジューシーな旨味とコリコリとした食感がたまらない!希少な赤エイの頬肉竜田揚げ

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「これはちょっと珍しいですよ」と登場したのは、赤エイの頬肉。
赤エイ1匹につき2つしか取れない希少部位で、北海道産の赤エイが入荷すると先述の魚屋に「全部買い占めて!」と連絡することで、お店で提供できる量を確保しているのだそう。
貝などを食べる赤エイの口の周りの筋肉は、発達しており淡白ながらも力強い味わい。フグにも似た旨味と、地鶏のようなしまった肉質。そこにコリコリとした軟骨の歯応えが加わります。これを目当てにいらっしゃる方も多いという、文句なしの名物料理です。

合わせるお酒は本格焼酎「よかいち」<麦>。竜田揚げの醤油ベースの味付けに寄り添う香ばしくも柔らかな香りが好相性です。

その日しか食べられない口売りメニューも

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「吟味屋 菜々色」には、通常メニューと季節の料理に加えて、口売り(店員が直接おすすめする)メニューがあります。
口売りなのは、その日の朝に林さんが伏見まで出かけ、朝採りの野菜を目利きしてくるため、直前にならないと献立が決まらないのです。またこの口売りも、お客さま同士や店員・林さんとの会話のきっかけになります。

この日用意されたのは、京都産ほうれん草のバター醤油。肉厚で旨味が詰まったほうれん草の葉、甘くほくほくとした茎や根。採れたての力強いほうれん草を、コクのあるバター醤油が受け止めます。シンプルだからこそ感じるこの味わい。一緒に炒められたプリっとした食感のブナシメジが名脇役を務めます。

店主 林さんの今後の目標

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林さんとの四方山話に花を咲かせ、料理とお酒に舌鼓をうっていると時間はあっという間に過ぎていきます。その中で林さんはこれからの目標について想いを語ってくれました。
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別棟にある“吟味屋 東三軒”。2階には宴会もできるほどの大きなスペースがあり、1階は立ち飲みスペースも完備。
「目標ですか…毎日進化していくことですね。同じ味の料理を作っていたら、飽きられてしまいますから。一つの料理でも、改善を続けて少しずつおいしくしていきたいですね。何度も訪れてくれる方には、そこまでしてやっと“いつ食べてもおいしいメニュー”だと認識してもらえると思いますね。だから、常に頭はフル回転させています。後は、目の届くところでもう一軒、お店を開きたいですね。今はこのお店の3軒隣に“吟味屋 東三軒”という店舗があるんです。この近さなら、本店から料理も運んでいけますし、おなじみのお客さまが来店した際も会いに行ける。このお店の時間を楽しみに来てくれた方がいるのに、私がいないんじゃ格好がつかないですからね。だから、もう一軒もすぐ近くで、目の届く範囲でオープンしたいですね。私はね、いつまでもお客さんに“お帰りなさい”が言いたいんですよ。」

行きつけにしたいお店の条件

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酒場を思い浮かべる時に、私たちは料理だけでなくその雑踏や、並ぶ酔客の楽しげな会話を思い浮かべるはず。良い酒場は、その空間で人を惹きつけるのでしょう。
そして、その雰囲気を作るのは、味やサービス、接客に真摯に向き合うお店の人と、その想いをしっかりと受け止め、お店を大切にしながら楽しみ、大切な人と共有するお客さまが共創するものなのかもしれません。
常連さんに愛され続ける「吟味屋 菜々色」。訪れる際は、事前のご予約を忘れずに。
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<取材協力>
吟味屋 菜々色
京都府京都市下京区綾小路醒ケ井東入ル北角
TEL:075-708-8832
営業時間:16:30〜23:00(L.O 22:00)
定休日:不定休

▽記事で紹介したお酒はこちら
松竹梅 「豪快」
「よかいち」<芋> 
「よかいち」<麦> 

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