京都・南太秦の食を満たす、もの静かな店主の賑やかな酒場の噺
2020,9,4 更新
20歳のとき、たまたまアルバイトで入った居酒屋で、たまたま出会った店主に魅了され、28歳のとき、たまたま空いた地元の居ぬき物件で母の惣菜を肴にはじめた居酒屋おっぺけ亭。創業から24年が過ぎ、店主が思う理想の居酒屋とは?
提灯、筆文字、ビートルズ
かつては京都のハリウッドと称された太秦(うずまさ)大映通り商店街。大魔神の像が立つその通りから南西へ10分ほど歩いた、南太秦と呼ばれる住宅街に「おっぺけ亭」はあります。
「我流酒場」と赤字で書かれた提灯のほころびが、居酒屋の年季を感じさせます。偶然にも取材させて頂いた暑い日は、地元に馴染むこの店が満24年を迎えた日でした。カウンターには独り飲みの男性が一献をふくみ、奥では賑やかな女子会や家族連れ、カップルが楽しむ姿が見えます。
入り口に一升瓶がずらりと並び、壁に貼られた黒谷和紙には、思いのままを綴った荒い筆文字。
このイメージから想像もつかないビートルズのBGMが、なぜかこの空間にマッチしているから不思議です。聞けば、店主の大前龍哉さんが大のビートルズファンなのだそう。自分の大好きな曲をかける店。我流がもはや始まっています。
このイメージから想像もつかないビートルズのBGMが、なぜかこの空間にマッチしているから不思議です。聞けば、店主の大前龍哉さんが大のビートルズファンなのだそう。自分の大好きな曲をかける店。我流がもはや始まっています。
入店して、なによりも驚いたのは献立の数です。カウンターの上に、みっちりと150品ほど手書きで記されているのが定番メニューで、黒板には今月のおすすめが10品、その他にも日替わりメニューが80品ほどあります。
「たたきキューリ……パーよりグーでたたきます」「豚マヨ炒め……全国津々浦々のマヨラーたちに捧ぐ」など、一品ごとに添えられているコメントがとてもユニークで、献立への愛情を感じます。
師匠との出会い、創業秘話
おっぺけ亭を創業したのは、大前さんが28歳のとき。きっかけは「今思えば、たまたまが重なったんです」と、笑顔で振り返ります。20歳の頃、たまたまバイトを始めた居酒屋さんで出会った豪快な店主。この人が大前さんの人生を決定する大きな存在となりました。酒の飲みっぷりから、お金の使い方まで、いつも憧れを持って追いかけた師匠。「お金にも恋愛にもルーズないわゆる遊び人。でもよく遊ぶのに、仕事は絶対休まないんですよね」。料理はもちろん、その師匠の下で学んだ真面目さを、大前さんはいまも自分の店に受け継いでいます。
「たまたま」はその後も続き、数年後、地元の南太秦で寿司屋の居ぬき物件がタイミングよく見つかりました。「もし、師匠が八百屋を営んでいたら、僕はいま八百屋をやっていたと思います(笑)」。かくしてたまたま、師匠と同じ居酒屋を、24年前、大前さんは真剣に始めることになりました。
「たまたま」はその後も続き、数年後、地元の南太秦で寿司屋の居ぬき物件がタイミングよく見つかりました。「もし、師匠が八百屋を営んでいたら、僕はいま八百屋をやっていたと思います(笑)」。かくしてたまたま、師匠と同じ居酒屋を、24年前、大前さんは真剣に始めることになりました。
リサーチから生まれた、約200種の献立
開店当初、メニューを何にするか迷った大前さんは、「まずは自分が育ってきた味で、気に入ってるもの」を出すことにしました。現在、おっぺけ亭のアイデンティティーを構成する約200種もあるメニューですが、開店当初は、大前さんの母親が作るおばんざい数種のみ。
ペラ紙1枚で収まるほど少なかったそうです。しかし徐々に「我流」は拍車をかけ、メニューは年々増えていきました。「自分が入った店で美味しいと思ったものは、作り方を教えてもらってメニューに加えます」。ときにはバイトスタッフからの提案にも耳を傾け、お客様のリクエストにもどんどん応えます。24年間、さぼらずにリサーチし、積み上げてきた歴史が、メニューの豊富さとなって店に表れています。
若い女性にも大人気なのが、サクサクと香ばしい海老天を、ほんのり甘味のあるマヨネーズで仕上げた「エビねーず」。さっぱりとしたオニオンスライスと一緒にいただくと最高です。
また、本格的な味が評判の「焼きギョーザ」は、中華に詳しい厨房スタッフがレシピを考案したもので、おっぺけ亭のロングセラーになっています。
ごま油が効いた「シラスみょうが和え」はシンプルですが組み合わせの絶妙さが際立つ人気メニューの一つです。「うちのメニューは、基本的に家庭でもできる料理ばかり。でも素材の組み合わせや味付けが少し変わっていて、他にはない一品にしています」。どの料理も、ありそうでなかった新鮮さに包まれ、一口食べるごとに酒を恋しくさせます。
創業以来、酒だけは自分セレクト
一方で、合わせる酒はあえてリサーチせず、自分が飲みたいものを硬派に選んでいます。ということで大前さんが好きな焼酎と日本酒は種類が豊富です。
師匠の店の時代から置いている日本酒は、松竹梅「豪快」。すっきりとキレのある辛口が、どんな料理にも合わせやすく、大前さんの気に入っているところです。
師匠の店の時代から置いている日本酒は、松竹梅「豪快」。すっきりとキレのある辛口が、どんな料理にも合わせやすく、大前さんの気に入っているところです。
開店当初からある母の味の代表格、「牛すじハリハリ」。甘辛く濃い目の出汁で柔らかく煮込んだ牛すじと、たっぷり入った京水菜の相性が抜群。キリッとした辛口の「豪快」とよく合います。
常連9割、毎日来ても飽きない店
1人でも、家族でも、老若男女が楽しめる居心地の良さが、地元の人々から愛されています。初めてきたお客さんのリピート率が高いのもおっぺけ亭の特徴です。
「この店は常連さんが9割です。でもやっぱり新規のお客さんが入店されたら、ワクワクしますね。その人が楽しんで常連になってくださったら本当に嬉しいです」。昨日のメニューに数品だけ足されたり、季節によって献立の素材が少し変化していたり。「毎日うちのメニューを見比べたら、きっと間違い探しになりますね(笑)」
「この店は常連さんが9割です。でもやっぱり新規のお客さんが入店されたら、ワクワクしますね。その人が楽しんで常連になってくださったら本当に嬉しいです」。昨日のメニューに数品だけ足されたり、季節によって献立の素材が少し変化していたり。「毎日うちのメニューを見比べたら、きっと間違い探しになりますね(笑)」
お客様が連日来られても、飽きずに楽しんでもらいたい。ちょっとずつでもメニューに変化を持たせるのが、口数少ない大前さんの誠実さです。
「そんなに大きな挑戦はもうできないだろうけど、『南太秦のまかない』を担っていきたい」。次の四半世紀も、おっぺけ亭ではビートルズが流れ続け、メニューはまだまだ増え続けていくのでしょう。
「そんなに大きな挑戦はもうできないだろうけど、『南太秦のまかない』を担っていきたい」。次の四半世紀も、おっぺけ亭ではビートルズが流れ続け、メニューはまだまだ増え続けていくのでしょう。
<取材協力>
おっぺけ亭
住所:京都府京都市右京区太秦樋ノ内町11-12
営業時間:17:00〜24:00(L.O 23:00)
定休日:月曜日
住所:京都府京都市右京区太秦樋ノ内町11-12
営業時間:17:00〜24:00(L.O 23:00)
定休日:月曜日
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