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「居酒屋は、街を元気にするツール」…京都南座裏にある、わら炙りが名物の酒場店主の噺

「居酒屋は、街を元気にするツール」…京都南座裏にある、わら炙りが名物の酒場店主の噺

酒にまつわる店主の思いを聞くシリーズ。京都の南座裏手の路地にある「松本酒場」の店主は、お酒や居酒屋は人を和ませ、知らない人同士が会話を交わすコミュニケーツール、ひいては街を元気にするツールだと語ります。

知る人ぞ知る大人の隠れ家

京都南座のすぐ裏手にある松本酒場。「こんな路地奥にお店が?」と思いながらも、大和大路通りから西に続く路地を突き当たりまで進むと、大きな提灯と紺地に白抜き文字の暖簾にたどり着きます。通りすがりに見つけることはほぼ不可能。知らないと訪れることは難しい、まさに隠れ家的酒場です。

2階まで吹き抜けの空間にむき出しの梁に焦げ茶の壁、一部分だけコンクリートの打ちっぱなしになっているカウンター…。木造長屋を改造した店内は、町家のテイストを生かしつつもモダンな雰囲気を醸し出しています。

「いらっしゃい」と出迎える店主の松本尚也(まつもと・なおや)さん。ねじり鉢巻きのいなせな姿が印象的です。籠目模様のシャツは「鯉口(こいくち)」といって、祭の装束。聞けば、松本さんはうなぎを祭神として祀る三嶋神社、八坂神社、松尾大社、上御霊神社(かみごりょうじんじゃ)などの大祭で神輿担ぎをしているのでこのスタイルにしたそうです。店内にはうなぎが躍る三嶋神社の大きな額も掛かっていました。

名物料理は「わら炙(あぶ)り」。創業時、オリジナルなメニューを考案していて思いついた逸品です。祭好きの松本さんは「家ではできないショーのような雰囲気を楽しんでもらいたかった」と言います。ブリキ缶のような寸胴の容器に、わらをぎっしり立てて火をつけると、ダイナミックに立ち上る炎。すぐさまその炎の中に串刺しにした鮮魚の塊を入れ、豪快に炙っていきます。その炎のパフォーマンスは、思わず「わあっ」と声をあげたくなるほど凄みがあります。じりじりと焼けはじめると、燻製のようないい香りが店内にあふれて、「早く食べたい!」と胸が高鳴ります。

「今の旬魚は、やっぱり脂ののった寒ブリ。ブリをわら炙りにしているのは、珍しいかもしれないね」と松本さん。なるほど、確かに高知県の名物、カツオのわら炙り(わら焼き)が有名なので、わら炙りといえば「カツオ」のイメージが一般的。ブリのわら炙りは珍しいかもしれません。松本さんもこの店を開店する前、わら炙りの本場、高知県の店を何軒もまわってリサーチしたとか。そして技を極めた現在は、春の初ガツオはもちろん、夏のハモ、冬は寒ブリなど、自由自在に旬の魚を炙っているそうです。

名物料理わら炙りを「豪快」の熱燗で

炙ったあとに串をすっと抜き、大胆に分厚く切り分けられた「ブリのわら炙り」。こんがりとついた焼き目の内側は、刺身で食べられるような美しいピンク色で、鮮度の良さがうかがえます。沖縄の雪塩、わさび、ポン酢が添えられ、それぞれが脂ののったブリの旨味を引き立てます。

まずは一口いただきます。口中が炙り魚独特の香ばしい味で満たされたところに、松竹梅「豪快」<純米>辛口を合わせます。熱燗にすることで、純米酒ならではの豊かな香りが鼻を抜けていきます。こってりとしたブリの旨味に、切れ味の良い爽やかな飲み口の「豪快」は、最高の相性です。香りと旨味に魅了され、もう一口!と、徳利からおちょこへ進める手が止まりません。

この店のもう一つの人気料理は「クリーミーなポテトサラダ」。
フレッシュな玉ねぎのスライス、さらに上にはカラッと揚げたフライドオニオンがトッピングされた、高盛りのポテトサラダです。クリームチーズを使っているので、味は至極まろやか。混ざっているベーコンの塩気が絶妙で、酒飲みにはうれしいところです。

この料理に合うのが、スパークリング清酒「澪(みお)<DRY>」。「澪」の上品な泡が、なめらかでクリーミーなポテトによく合い、サラダの濃厚さもまた、すっきりとした発泡酒の甘味を引き立てます。メインを待つあいだの最初の一杯に最適な、おすすめの組み合わせです。

メニューでもう一つ気になったのが、「厚揚げエレベーター」。
エレベーターの動作「上げ・降ろし」に引っ掛けて、油揚げ(アゲ)に大根おろし(オロシ)を添えた一品は、京都の居酒屋ではちょくちょく見かけるメニューです。松本酒場では、油揚げではなく、厚揚げを使っています。油分をさっぱりと流すソーダ割の全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」は、この料理に最高にマッチします。また、さつまいもを100%使用しているので、芋本来の華やかな香りと上品な味わいが楽しめます。

出版・広告業界から居酒屋に転身

松本さんは1971年、京都西陣の米屋に生まれ、大学卒業後は、広告業界で活躍しました。ディレクターも務めた京都のタウン誌の先駆け『クラブ・フェイム(CF)』には14年間携わり、関わったイベント企画も多数。
しかし『クラブ・フェイム』の休刊をきっかけに、41歳で飲食業界に転身。友人の居酒屋を手伝いながら修行をし、4年前、満を持して松本酒場を開店しました。それにしても、広告業界から、ガラリと違う飲食業界へ。しかも居酒屋なのは、なぜなのでしょう。

「『クラブ・フェイム』時代、取材を兼ねて京都全域の飲食店をたずねました。特に木屋町の居酒屋やバーは毎晩通いましたね。そんな中で、大きなつながりもできて飲食業界への思い入れが強くなったんです。居酒屋っていいな、自分だったらこんな居酒屋がしたいな、というイメージも、その頃から持っていました」と松本さん。なるほど、松本さんが居酒屋を営むことは「転身」というより、前職の「自然な発展形」だったのかもしれません。

「店名をあえて“酒場”としたのは、ここに集う人に喜んでもらえる“酒の場”を作ろうと思ったからです。お酒ってコミュニケーションツールですからね」と話を続けます。
松本さんが「居酒屋っていいな」と思ったのは、単にお酒が好きだったからではありません。広告業界とはまた違う、「人と人をつなぐ役割」があると思ったから。「おいしかったよ、ありがとう」の言葉も、居酒屋ならダイレクトに受け取れる。お客さんの嬉しい反応を直接もらえることは、この職特有のものです。だから、お酒や居酒屋は「楽しさを生み出す」ツールでもあるのです。

居酒屋は街を元気にするツール

「居酒屋やバーで飲む酒と、家で飲む酒は違う」と、松本さんは言います。
「街に出て、気に入った店で酒を酌み交わす。そこにはいろんな出会いがありますよね。客同士が仲良くなれば、店もまた潤います。お洒落して出かければ違う業界の経済活動にも貢献する。だから、お酒や居酒屋は、ある意味で街を元気にするツールだと思うんです」。
バブル時代から、夜の街の活気を知っている松本さんならではの分析です。

(写真/「ハンケイ500m」vol.42掲載)
確かに、居酒屋は家飲みとはまた違うエネルギーをチャージしてくれます。友人や家族だけでなく、ビジネスに関わるコミュニケーションも生まれるかもしれない。コロナ禍では少し難しいですが、松本酒場をオープンカウンターにしたのも、当初はお客さんと会話することが楽しみだからだったそうです。
「スタッフも私も、一人で飲みに来たお客さんには、なるべく声をかけるようにしています」。これは、お客さんが退屈しないよう配慮するだけではありません。お客さんのことをよく知って常連にご紹介したり、松本酒場をきっかけに、お客同士がつながってほしいという密かな願いもあるそうです。こういう楽しみが、松本さんが居酒屋を切り盛りしている原動力かもしれません

京都らしい色気のある場所

松本酒場には、常連客や、その紹介客が多いものの、最近はネットで調べて初めて来る人も増えています。一見(いちげん)さんも大歓迎で、40~50歳代が多く、4割くらいは女性なので誰もが入りやすい和やかな雰囲気です。

入りやすいのは、路面店であることも大きな要素です。実は、これには松本さんの大きなこだわりがありました。
「ビルの中の一室でなく、古民家を思わせる木造家屋を探しました。店を改装して今後10年、20年と続けていくうちに、経年優化、すなわち、いい具合に古びていってくれるといいなあと。そこに“京都っぽい色気”があると思うんです」。
“京都っぽい色気”は、松本さんならではの美意識です。この美意識の延長線上に、暖簾のロゴもあります。かつて西陣で松本さんのお父さんが経営していた米屋のロゴを素敵にアレンジして復元。今は亡き父の店を別のかたちで継承していく、という思いが込められています。

松本さんによると、京阪祇園四条駅の南東にあたるこのエリアは、祇園花見小路近くでありながら、祇園そのものとは違う場所。ましてや鴨川対岸にある木屋町の飲み屋街とも違う。おもしろく雑多な店が集まる、ある種、下町情緒がある場所だと言います。
「自分も若い時はよく飲み歩きましたが、ここは“通の大人”が集まるエリアだと思うんです。うちで一杯ひっかけて花見小路の割烹へ行ってもいいし、どこかで飲んだあと、うちに流れて来てくれてもいい」。
なるほど、そんな松本さんの話を聞くと、このエリアは独特のカルチャーを育んでいる街に思えてきました。

最後に、「居酒屋は、お客さんが主役。この店で飲んで、元気になって笑顔で帰ってほしい。『こういう店に行きたかった』と思ってもらえるように、長く続けていきたい」と松本さんは今後の思いを語り、話を締めくくってくれました。

<取材協力>

松本酒場
住所:京都市東山区大和大路通四条下ル1丁目大和町18-18
営業時間:18:00~24:00
定休日: 日曜(不定休有り)
URL: https://www.instagram.com/matsumoto.sakaba/?hl=ja
※新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2021年1月6日)

▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
・松竹梅「豪快」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/gokair/

・松竹梅白壁蔵「澪」<DRY>
http://shirakabegura-mio.jp

・全量芋焼酎「一刻者」
https://www.ikkomon.jp/
▽そのほか、『ハンケイ500m(https://www.hankei500.com)』コラボ記事はこちらから

・「お酒とは、身体も心も和ませてくれるもの」…京都のサラリーマン街にある、やかん酒が名物の居酒屋店主の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/anji_210108

・「お酒とは、人と人とをつなぐもの」…京都の住宅街にあるお寿司が美味しい居酒屋店主の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/marufuku_201204

・「酒とは料理の楽しさを倍増してくれるもの」…京都・西院の和中創作居酒屋店主の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/kiydg

・上賀茂の新鮮野菜で味わう本格タイ料理の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/xDxYY

・京都・南太秦の食を満たす、もの静かな店主の賑やかな酒場の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/SPpCe

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