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「酒とは料理の楽しさを倍増してくれるもの」…京都・西院の和中創作居酒屋店主の噺

「酒とは料理の楽しさを倍増してくれるもの」…京都・西院の和中創作居酒屋店主の噺

2020,11,6 更新

酒にまつわる店主の思いを聞くシリーズ。京都にある居酒屋かんなりは「居酒屋」という場であることが「自分の店の良い部分」と言い切ります。“酒は料理の楽しさを倍増するもの”、その言葉に込めた思いを探っていきます。

料理と酒とのペアリングは無限大

京都の嵐電西院(さい)駅からほど近くにある居酒屋かんなり。気持ちのいい接客と80年代のヒットソングが出迎えてくれます。

「僕にとってお酒は、料理の楽しさを倍増してくれるもの」、そう話すのは店主の大槻一就(おおつき・かずなり)さん。たとえば、仕事帰りに疲れをぬぐう1杯目の酒と、丈高でボリュームたっぷりのポテトサラダ。その日の仕入れで決まる新鮮なお造りは、きりりとした日本酒「豪快」がその味を際立たせてくれます。さらに大槻さんの料理人としての集大成ともいえる、スパイスが香るコクのある麻婆豆腐には「紹興酒はもちろん、日本酒にも合いますよ」。そう話す大槻さんは、なんだかうれしそうです。

「料理のおいしさを引き出すペアリングは無限大で、お酒との組み合わせの『正解』をお客様が探してくださる。それが料理人としてはうれしいんです。僕の料理にいろんな楽しみ方を見つけていただきたいから、うちのお店はビールからサワー、日本酒、紹興酒、焼酎まで幅広く揃えています」。

大槻さんは中華料理店で腕を磨いたのち、料理に定評のある居酒屋で経験を積みました。中華も和食もすべての皿は「一就(かんなり)が創作(クリエイト)した」という意味を込め、かつての自身のあだ名とともに「和中創作居酒屋かんなり」と名付けました。
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常連客が順調に増えて、2021年には10周年を迎えようという今、新型コロナに見舞われました。「でも、気づいたことがあるんです」と大槻さんは言葉を続けました。

自分の店の長所を生かす。生き残るために

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「気づいたことは『かんなりは居酒屋だ』というシンプルな事実でした」つまり、
「自分の店の一番いい部分を大切にすることが、生き残っていくために必要なんです」と、大槻さんは強調しました。

今年、2020年の春、西院の街も新型コロナの影響ですっかり人通りがなくなり、周囲のほとんどの飲食店がテイクアウトを始めました。「生き残って行くためにはランチのテイクアウトも必要だろう」。大槻さんもそんな雰囲気に押されるように、夜営業中心だった生活のサイクルも変更して、昼からのテイクアウトの挑戦を始めました。
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この挑戦は、大槻さんにとって「自分の強みはいったいなんだろう? なぜお客様はわざわざ足を運んでくれるのだろう」と見直す機会になりました。

振り返ってみると、かんなりの常連客の年齢層は比較的高め。自粛要請期間を経て、「ものすごく来たいんだけど……家族の心配もあって、なかなか来れなくてごめんね」とテイクアウトで声をかけてくれる、申し訳なさそうな、なじみ客がいます。
そこで気付いたんです、と大槻さんは続けました。

「できるだけの対策をしても来なくなった常連さんもいます。でも、テイクアウトをしてくれる人、『状況が許して、来れるようになったら来たい』と伝えてくれる人……そういったやりとりを通じて、お客さんとの心のつながりを見つけたんです。あらためて、うちは居酒屋であり、居酒屋という空間に来たいと思ってくれている人がいることに気付きました。それがありがたいですね」

お客さんと、こういうつながりがあることこそが大切なんだ。
お客さんが来たいと思う居酒屋であることが、自分の店「かんなり」の長所。
そう思うに至った大槻さんは「安心」とは何かをあらためて考えました。調理場と客席をカーテンで仕切り、消毒を徹底。スタッフの体調管理はもちろん、お客様に安心してもらえるためのあらゆる対策を講じて、居酒屋かんなりを開いています。
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大槻さんは、この苦しい時代を「かんなり」が生き残るために、居酒屋であることが、欠かせないと感じています。

1軒目の居酒屋だから、食事も酒も

食事が魅力のかんなりは、言うなれば「1軒目の居酒屋」。もし満腹なら、どこかのバーにお酒目当てでいけばいい。「おなかが空いていて、食べながら飲む。食事もお酒も楽しみたい」、そんな人におすすめです。

店内を見回してみると、席数を減らしたカウンターではゆっくり一人で飲みながら、刺身をつついているお客さん。しっかり仕切られたボックス席ではカップル、そして家族連れ。御座敷では仕事帰りでしょうか、サラリーマンらしき2人連れが静かに杯を交わしています。
 
早速、自慢の料理をいただきます。
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一番人気のユーリンチー(油淋鶏)は、揚げた鶏肉に、刻んだ長ネギと醤油ベースのタレをかけた中華の定番で、しっかりとした下味に香辛料がピリッと効いています。しかし、いわゆる中華料理店の油と酢の押し出しが強いユーリンチーとは違って、味わいに家庭的な「優しさ」があることに気付かされました。

揚げ物ですが、定番の炭酸ではない「酒」と合いそうな気が。この店のユーリンチーの「優しさ」は、酒を待っているのかもしれない。100点満点の組み合わせを求め、ピリッとしたソースと油が、いかに酒とマッチするのか試してみます。
日本酒「豪快」の燗を口に含むと、甘みもあってキレもある。絶好のタイミングで、ユーリンチーをパクリ、さらにお猪口をぐっとあおります。
これぞ、圧巻のおいしさ。100点を超える、120点クラスです!
ああ、これが「酒とは料理の楽しさを倍増してくれるもの」、大槻さんの言いたかったことなのかと、納得しました。
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そう気付いて、あらためてかんなりのメニューを見回してみると、どれもお酒を選ぶのが楽しくなる料理が並んでいます。季節に応じて旬を楽しめる日替わりメニュー、この日は「水タコと九条ネギ酢ミソ和え」と「小芋の唐揚げ」。
「いろどり野菜炒め」はあっさり、さっぱり。「お豆腐とキノコマリネのサラダ」はひと手間がかけられた野菜がたっぷり。

かんなりに共通するのは、素人くさいという意味ではなく、相手を思いやるという意味での「家庭的な」やさしさがあることです。ていねいなのに、気取らない、まさに居酒屋の料理なのです。
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そして、お客さんがお酒と料理の組み合わせを探し出すという、呑み助&食いしん坊にはたまらないおもしろさが広がっています。
大槻さんが、品数が増えるとオペレーションに手間がかかるのにも関わらず、ビールからサワー、日本酒、紹興酒、焼酎まで幅広くお酒を揃えると決めた理由がとてもよくわかりました。

かんなりの自慢は「気持ちのいい接客」

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他にも看板料理を挙げるなら、土鍋に入って登場するアツアツの麻婆豆腐。運ばれてきた瞬間から、スパイシーな良い香りに包まれ、食欲が刺激されます。豆腐は柔らかく、とろっとした餡とよく絡み合います。辛さは控えめで、何度も食べたくなる絶妙な味わい。常連も必ず頼む、人気の一品です。
これもまたユーリンチー同様に、お酒との組み合わせを試したくなります。大槻さんはハーフサイズの注文も厭いません。
「できる限りは対応します。だって、自分も1人で行ってもいろんな味が食べたくなりますもの。手間は増えますが、お客さんが『食べたい』と思ってくださる。その気持ちがうれしいです」。

高校卒業後、建築の専門学校に進み、一般企業で働くが違和感がぬぐえず、飲食の道に進んだ大槻さん。いちど違う道を歩んだことがあるからこそ、食べる側の喜びを知っています。
「誰かにつくってもらうのは、外食のいちばんの楽しみですから」。

意外だったのは「『かんなり』が一番大切にしているものはなんですか?」という質問への答えです。「気持ちのいい接客です」と迷うことなく大槻さん。
「ホールを担当してくれるアルバイトの皆さんへの教育は、かなり厳しいかもしれません。でもね、料理場にいる僕よりも先にお客さんに会うのは彼ら。彼らがこの店の顔だからです」と大槻さんは力強く語ります。
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確かに、はきはきとして気持ちのいい接客をしてくれるスタッフが揃っていて、店内は活気にあふれています。ホールを担当し、アルバイトを教育するのは、大槻さんのパートナーの理恵さん。
「二人三脚でやってきました。彼女が一緒にやってくれなかったら、今の『かんなり』なかったですね、まちがいありません」と大槻さんは少し照れ臭そうに笑って、さらに続けます。

「どんなに最高のお料理とそれに合うお酒が揃っても、それ以前に、気持ちのいい接客がなければ、料理の味なんて感じてもらえませんから」。
それが大槻さんの持論であり、目指す居酒屋像なのです。

あらためて、食事、接客、酒、雰囲気。行き届いた居酒屋というのは絶妙なバランスで成り立っているからこそ居心地がいいのだということに気付かされました。そこで酒が果たす役割は小さくありません。
居酒屋かんなりで聞いた、「酒とは料理の楽しさを倍増してくれるもの」の噺。その真意に、店主大槻さんの「居酒屋」というスタイルに賭ける決意をみました。

<取材協力>

居酒屋 かんなり
住所:京都市中京区壬生西土居ノ内町20−5
営業時間:17:00~24:00(L.O.23:00)、日曜のみ17:00〜23:30(L.O.23:00)
定休日:火曜
URL: https://kannari.gorp.jp

▽今回「ユーリンチー」「麻婆豆腐」と一緒にご紹介したお酒はこちら
・松竹梅「豪快」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/gokair/
▽そのほか、『ハンケイ500m(https://www.hankei500.com)』コラボ記事はこちらから

・「居酒屋は、街を元気にするツール」…京都南座裏にある、わら炙りが名物の酒場店主の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/matsumoto_210205

・「お酒とは、身体も心も和ませてくれるもの」…京都のサラリーマン街にある、やかん酒が名物の居酒屋店主の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/anji_210108

・「お酒とは、人と人とをつなぐもの」…京都の住宅街にあるお寿司が美味しい居酒屋店主の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat4/marufuku_201204

・上賀茂の新鮮野菜で味わう本格タイ料理の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/xDxYY

・京都・南太秦の食を満たす、もの静かな店主の賑やかな酒場の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/SPpCe
   

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