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会館飲み実践編① 四条大宮・新宿会館の噺【前編】

会館飲み実践編① 四条大宮・新宿会館の噺【前編】

2023,10,6 更新

京都市内を中心に、密かに人気を集める「会館飲み」。
前回の「京都で注目を集める「会館飲み」って何だ!?の噺」では、会館飲みの定義や流行の背景について探ってきました。2回目となる今回はいよいよ実践編。前編と後編に分けてお届けします。
京都市内の会館を舞台に、それぞれの店舗の思いや、お酒を酌み交わす人々のお話を聞いてきました。

行きは怖い、帰りは楽しい「新宿会館」

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今回は阪急電鉄「大宮駅」から徒歩5分ほどの場所にある「新宿会館」を訪問します。

駅からぶらぶらと歩くと、住宅街の隙間にポッカリと現れる細い路地。
いかにも京都らしい、いわゆる「うなぎの寝所」ですが、ここが新宿会館の入り口です。
見えるのは狭く薄暗い廊下の先、わずかばかりの看板と2階へ続く階段。知識を持たずに訪れたら、思わず二の足を踏んでしまいそうな場所ですが、これこそが会館の魅力。
最初の洗礼を乗り越えて、会館の中へと踏み込めば、そこには大人のための美味しくて楽しいアミューズメント空間が広がっているのです。

まずは鮮魚&名物コロッケで一杯「魚酒うどん マルキ 」

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午後6時、間口から続く走り庭(廊下)の先にはすでに赤提灯に火が入り、ワイワイとしたざわめきが聞こえてきます。
その酒場の雑踏を聞きながら、向かったのは2階にある「魚酒うどん マルキ」。
歴史を感じる建物の中にあって、明るい照明と白木のドアは眩しい目を引く一軒です。
「マルキ」の魅力は、長年鮮魚店に勤めていた大将が目利きをした魚介類を使ったお料理とうどん。なんでも大将のご実家がうどん屋であることから、この屋号になったのだとか。
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この日わたしたちを迎えてくれたのは、店員のノリコさん。
「マルキ」が新宿会館に店を構えた6年前からカウンターに立ちはじめ、「会館でのお客さんとの距離感が好き」でずっと勤め続けていると語るベテランさんです。

「もともとこの店は、他の場所にあったんですけど、当時はトイレのない不便な建物でした。移転を考えていたときに知り合いから紹介を受けて、新宿会館に来たんです。
こういう場所ですから、空き店舗が出ても、あまり不動産情報サイトとかには載らないんですよ。飲食店同士やお客さん同士の口伝えで、“どこそこの店、空いたみたいやで”と、本当にローカルな横のつながりで縁が生まれたんですね」と話してくださいました。
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とはいえ、目ぬき通りからも離れて、建物の奥まで入り込まないと辿り着かないこのお店、どのようなお客さんが来店されるのでしょうか。

「年配さんや常連さんもいらっしゃるんですけど、大学生や社会人になりたての若い方まで本当にいろんなお客さんに来ていただいているんです。最近は、私たちもお客さんもSNSで情報発信することが多いですが、それを頼りに来てくださいますね。
それに、一度新宿会館に来たら、一軒で帰らないっていう方多いんです。どの店舗に行っても、明るく礼儀正しく飲んでいれば、“はしご”のチャンスが生まれるんですよ」とノリコさんは語ります。
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はしごのチャンスとは…と考えながらも、まずは駆けつけにご自慢のお料理をいただきます。
いただいたのは、関西では高級魚とされるマナガツオのお造りと、店の名物・手作りコロッケ。マナガツオは、上品で淡白な味の奥に確かな旨味を感じる逸品。コロッケは、貝柱やエビがたっぷりと入ったクリーミーさで、お酒との相性も抜群です。

「最近の会館飲みでは、はしごされる方が多いですからね。この後も楽しんでください。隣の“Achi’ ”さんもいいですよ」と話すノリコさんとお料理に後ろ髪を引かれつつ、マルキさんのすぐ隣にある2軒目へと向かいます。

ハシゴのお作法と会館でのお客の心得を知る「すたんでぃんぐBarAchi’」

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マルキさんの格子戸から出て、小さな廊下の曲がり角を曲がり、5歩で辿り着いたのが「すたんでぃんぐBarAchi’(アチ)」。
こちらはマルキさんとはうってかわって、お酒と軽食をメインにしたバー空間です。

店主の五十棲敦子さんは、凄腕の元百貨店美容部員。
「ずっとお客さん相手に、折り目正しく笑顔で対応していたら、本当に自分の好きなコトをやりたくなって…」と語る五十棲さん。
新宿会館には何度か飲みに来たことがあり、2階がずっと空いていることも知っていて、どうしても四条大宮でお店を開きたいという想いから思い切って転身したんだそう。
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チャキチャキと手際よく全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」のロックと、宝焼酎「純」のフレッシュシークヮーサー割り、さらには、ピリッと辛口のカレー風味が効いたホットドッグ、ナスの浅漬けを用意しながら話してくださいました。
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「昔の新宿会館は、今よりおどろおどろしい感じでね。口が悪い人は“妖怪屋敷”なんて呼んでいましたけど、今はずっと明るくて楽しい場所になりました。
そのきっかけは1階にある『てら』って焼き鳥屋さん。あそこが入ってから、会館内がパッと明るくなりました。京都市内の他の会館もそうなんですが、『てら』のように、新しい風を吹き込む若い店主が店を構えると、あっという間に新陳代謝が起こるんです。ウチの常連さんはちょっと年配の方が多いですけど、皆さん本当にいい方ばかりですよ」。
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これを聞いてカウンターに並ぶ常連さんたちがニンマリ。
「お客さんは、あっちゃん(五十棲さん)と僕らが選びますからね。泥酔していたり、乱暴にドアを開けたりする方は入店をお断りすることもあります。
初めてのお客さんでも、外国のお客さんでも、きちんと引き戸を引いて“やってますか?”って聞いてくれる方は歓迎します。
会館の中のお店って狭いでしょ? ひとりでもマナーの悪い方がいたら、お店全体が楽しくなくなっちゃう。だから、“この人なら安心”、“この人となら一緒に飲みたいかもしれない”って方を、自然と選ぶようになるんです。
それは“はしご”の時でも同じ。どこかの店で隣り合って飲んでいて、“いい人だな”と思ったら、自分が次に行くお店を紹介して、そこで連れ立って行って飲むことも多いんです。
会館に集って飲む常連には、それぞれルートやテリトリーみたいなものが自然と出来上がっていて、紹介したりされたりする中で、ゆるーくつながっていける。そうすると、“あいつは今この店にいるな”とか“この時間はあいつが来てる”なんてことがわかってくる。これがいいんですよ」
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「怖がらなくてもいいですよ。お客さん同士、無理強いせず、自分勝手に振る舞わないのは、どの酒場でも一緒ですから。気軽に来てくださいね」と話す五十棲さんに見送られて、次のお店へ向かいます。


前編はここまで。
後編ではどんな出会いがあり、どんな話が聞けるのか。
会館飲みの魅力はまだまだあります! ご期待ください。

<取材協力>

【新宿会館】
〒604-8366
京都府京都市中京区七軒町470-32

協力店舗
〇魚酒うどん マルキ
〇すたんでぃんぐBarAchi’
   

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