【TRANSIT×酒噺】 旅の“宝噺”<キューバ編>
2019,4,5 更新
トラベルカルチャー雑誌「TRANSIT(トランジット)」では、毎号特集した国や地域の旅の思い出を編集部と制作に携わった取材クルーが語りあう「旅の宝話」という企画を連載しています。「酒噺」では、「TRANSIT」とのコラボ企画として不定期に、その内容を「旅の“宝噺”」としてご紹介します。今回は
西から東へと駆け抜け、キューバ横断の旅を終えた写真家をゲストに迎え、カリブの味を肴に乾杯! 今宵は一体どんな旅の宝噺が聞けるのでしょうか。
■プロフィール
見知らぬ世界への出会いの喜びの一方で、何かが失われている、そんな直感と予感を胸に、シャッターを押す。写真展やイベント等を通し、世界の多様さを伝える。本誌ではキューバを横断し、歴史を遡る旅をした。
キューバの旅の“宝噺”
山西(以下Y):初めてキューバに訪れたのが12年前。当時はまだフィデル・カストロが生きていた時代で、彼の引退が囁かれていたり、アメ車の数がどんどん減っていたりと、僕らが思っている、いわゆる「キューバらしさ」がだんだんなくなりつつあるといわれていました。だったらそれが失われる前に自分の目で「キューバらしさ」を見てみたいと思い、ギリギリセーフで駆け込んだんです。
T:12年ぶりの再訪でキューバにどんな変化がありましたか?
Y:ハバナの空港を降りて街へ繰り出せば、まさに『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』みたいな世界がブワーっと広がっていて、どこからか軽快な音楽が聞こえてきて、モヒートやラムに葉巻、カラッとした気候……「ああ、キューバに来た!」ってすぐに満腹になってしまうのは相変わらずでした。ですが以前の訪問に比べると、僕らがイメージする「キューバらしさ」がより色濃くなっていたように感じます。平たく言えば観光地化。当時何台かに1台だったアメ車が今ではそこかしこをビュンビュンと走っているし、現地の人も観光客に慣れたのか、前ほど絡まれなくなりましたね。
T:旅のなかで印象的だった出来事を教えてください。
Y:ハバナから長距離バスで6~7時間の距離にある、トリニダーという街を訪れたときのことです。キューバで最も古い街のひとつに数えられ、昔ながらの石畳の道が残っていたりする観光名所でもあるのですが、かつては黒人奴隷市場の中心でもありました。といってもただその場所を歩いているだけではどうもピリッとこない。なので宿の人にガイドをお願いしたんです。スペイン系の白人である彼の話を聞きながら、ゆっくりと散歩をしていると観光客用の土産物店の前でふと足を止め、黒人をモチーフにした人形を手にとり、彼はため息混じりにこう言ったんです。「黒人っていうのはいまだに商品にされているんだよ」と。この国の源流を探すという旅をする僕にとって、この言葉はとても印象深いものでした。
T:人との出会いが旅を色濃くしてくれたんですね。
Y:現在、人種差別が比較的少ないとされるこの国に生きる人が、過去の迫害の歴史をどう考えるか、どういった目線でとらえているのか。それらを知ることができたときに、初めてこの国の歴史に触れることができるんじゃないかな。単にその地を巡るだけではなく、現代に生きる人びととのかかわりも旅の醍醐味だと思いますね。
TRANSITとは?
URL:http://www.transit.ne.jp/
■クレジット
(雑誌に掲載されている文章と一部異なる部分があります。)