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【TRANSIT×酒噺】旅の“宝噺”<昭和編>

【TRANSIT×酒噺】旅の“宝噺”<昭和編>

2021,3,19 更新

トラベルカルチャー雑誌「TRANSIT(トランジット)」では、毎号特集した国や地域の旅の思い出を編集部と制作に携わった取材クルーが語りあう「旅の宝話」という企画を連載しています。ここ「酒噺」では、「TRANSIT」とのコラボ企画として不定期に、その内容を「旅の“宝噺”」
としてご紹介します。

今回TRANSIT51号・東京特集の中で「昭和編」記事を取材したのは、写真家・大森克己さん。彼との東京旅は、下町情緒の色濃く残る墨田区曳舟からスタートしました。
雑誌でも幅広く活躍し、東京を舞台に数々の作品を発表してきた大森さんが今改めて辿り着いた昭和らしさとは?

■プロフィール

大森克己(写真家)おおもり・かつみ
1963年神戸市生まれ。1994年、第3回写真新世紀優秀賞受賞。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)ほか、数々のグループ展に加。近著に『心眼 柳家権太楼』(平凡社)など。

昭和の旅の“宝噺”

編集部(以下T):大森さんは普段から東京を中心に撮影されていますよね。

大森克己(以下O):そうですね。ただ今回は久しぶりに時間をかけて雑誌の撮影ができて楽しかったです。

T:初日からものすごい天候でしたよね(笑)

O:途中で雨が吹雪に変わったね(笑)。あれも記憶に残る思い出です。

T:暖をとるため立石の小料理屋に駆け込みましたね。今回は昭和らしさを探して東京を撮影してきましたが、とくに印象的だった場所はありましたか?
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東京に残る数少ない民生食堂である下総屋食堂
O:両国にある下総屋(しもふさや)食堂は圧巻でした。東京に残る数少ない民生食堂の一つで、昭和7( 1932 )年からつづくあの風格には今ではなかなか出合えない。お母さんの手料理も本当においしかったし、以前は対岸の柳橋に料亭がずらりと並んでいて、芸者さんがお酌をする様子が見えたって話も感慨深かったよね。ニュー新橋ビル前で靴磨きをしているおばあちゃんにも出会えたし、やっぱり新橋付近は景色自体に昭和らしさを感じます。あと水上タクシーに乗って日本橋川から見上げた首都高と日本橋にはテンション上がりました!

T:大森さん、川に落ちないか心配になるほど夢中で撮影していましたね。
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ニュー新橋ビルが屋台だった頃からつづくジューススタンド。創業時は八百屋だった
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大森さんもビル前で靴磨きを体験
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日本橋川から首都高と日本橋を見上げる
O:立石の横丁や東京タワー、代々木体育館も昭和だし、今回は行けなかったけど前川國男の東京文化会館や黒川紀章の中銀カプセルタワービルも昭和。建築だけ見ても、いかに昭和が多様な時代であったかを辿れるね。
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芝方面から見た東京タワー
T:昭和という時代を一括りにすることはできないですよね。
昭和前期は、東京大空襲を経験した悲惨な時代でもあります。ただ、結果として隅田川の左右でかろうじて焼け残った戦前の景色と焼け野原になって再興された下町の景色が共存していたり、木造長屋もあれば首都高のようなコンクリートの建造物もあったり、さまざまな時間軸が同時代的に発生しているのは、今の東京のおもしろさであるとも感じました。

O:帝国ホテルや京王プラザホテルのバーなんかは華やかな昭和を象徴しているね。
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水上タクシーは日本橋川を経て東京湾へ。ゆりかもめがエサを求めて自然と集まる
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ニュー新橋ビルの階段の踊り場。ビルのあちこちに昭和を感じさせるデザインが見られる
T:今回、前半は戦後のヤミ市や空襲経験者の取材で下町を中心に歩いてきましたが、酒場では決まってもつ煮と焼酎でしたよね。大森さんが呑んでいた焼酎ハイボールも、戦後間もない頃、私たちが訪れていたような下町の大衆酒場で誕生したといわれています。

O: 焼酎といえば、強烈な思い出があって。1977 年に宝焼酎「純」が発売されたでしょ。そして1980 年のCM にデヴィット・ボウイが登場したんだけど、あれは衝撃だったね〜。ボウイが京都の枯山水庭園に座って焼酎を呑んでる、その破茶滅茶さがたまらない。その絵の隣に来る「時代が変わればロックも変わる。」ってキャッチコピーにもびっくりしたなぁ。俺はその時まだ未成年だった訳だけど、お酒の呑める大人ってかっこいいなぁと思ったことを覚えてる。今ではいろんなお酒を飲むけど、焼酎に関してはあのCM の影響もあるかもしれない。

T:そういうお酒への入り方はうらやましいです!
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O: 昭和時代は大胆なC Mが多かったよね。とあるファッションの広告でも忘れられない一枚があって。でもこの話をするにはちょっと時間が足りないから、それはまた別の機会に(笑)

T:つづきは大森インスタグラムで、ですかね(笑)
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焼酎ハイボールが誕生したと言われる、戦後間もない頃の東京下町。今も昔ながらの風情を残して賑わう浅草や墨田区周辺の酒場では、肉豆腐やもつ焼き、ハムカツなどお酒の進むメニューが豊富。

TRANSITとは?

世界のさまざまな風景や歴史、ファッション、食、音楽などの文化を、“旅”と
いうフィルターを通して紹介する、大人のためのトラベル・カルチャー・マガ
ジン。美しいビジュアルと土地の空気感をとらえた文章により新たな視点の旅
を提案しています。
URL:http://www.transit.ne.jp/

■クレジット

編集部=文  大森克己=写真  酒航太=写真(人物、料理)
   

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