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酒造りの安全を祈願する「酒まつり」の噺

酒造りの安全を祈願する「酒まつり」の噺

2019,12,27 更新

神社での結婚式では、新郎新婦が同じ盃でお神酒(みき)を酌み交わす三献の儀(さんこんのぎ)や、祭祀の後に捧げられたお神酒を参列者がいただく直会(なおらい)など、日本の信仰とお酒は切ってもきれない関係にあります。

その中でも特にお酒と関わりが深いのが、奈良県桜井市三輪にある大神神社(おおみわじんじゃ)。

日本最古の神社とも呼ばれる大神神社は、酒造りに深いゆかりのある神社でもあります。
特に、11月に行われる「醸造安全祈願祭(酒まつり)」では、日本全国から酒造関係者が集まり一年の酒造りの無事を祈願します。
その様子を拝見するために、祭祀で賑わう大神神社へと出かけました。

大神神社とは?

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三輪そうめんで有名な地にある大神神社は、大物主大神(オオモノヌシノオオカミ)が鎮坐する三輪山そのものを神体山として祀る日本最古の神社。
大物主大神は、別名を大国主命(オオクニヌシノミコト)としても知られており、『古事記』などでは少彦名命(スクナヒコナノミコト)とともに、日本中を旅して農業・工業・商業から医学・酒造などさまざまな文化を伝えたとされる神様です。

『日本書紀』によれば崇神天皇の御代、疫病や災害などが日本に蔓延した際、夢の中で大物主大神のお告げがあり、神酒を造る掌酒(さかびと)として高橋邑(むら)の活日命(イクヒノミコト)を任命しました。
この活日命はたった一夜にして非常に優れたお神酒を造り、これを振る舞ったところ疫病が治ったといいます。

この出来事は国家繁栄の瑞兆(ずいちょう)※として喜ばれ、その後、この地で始まった酒造りが各地へと伝播していきました。

※瑞兆:めでたいきざしのこと

日本各地の酒造家が集合

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こうした経緯から、三輪の大物主大神は酒造守護の神様、活日命は杜氏(とうじ)の祖として信仰されるようになり、大神神社はお酒にまつわる神社として、全国各地からその崇敬を集めることとなりました。
新酒の仕込みにあたる毎年11月の「醸造安全祈願祭(酒まつり)」の日は、そんな大神神社の一大行事。灘や伏見などの酒処はもちろん、全国の酒蔵や洋酒会社、さらにはお醤油やお酢関係に大学の先生など、多彩な顔ぶれが集まり、醸造安全を祈願します。
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祭礼の日、朝早くから大にぎわいの境内

全国各地から寄進された菰樽(こもだる)や酒瓶がずらりと並び、ふるまい酒が行われ、酒造家だけでなく飲食店の経営者やお酒好きの旅行者、地域の方まで、さまざまな参詣者が拝殿に手を合わせ、時には升酒を口に運びながらのどかに過ごしています。
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祭礼でにぎわう境内の中。
特に目を引くのが、拝殿と祈祷殿に取り付けられている大杉玉です。
その大きさは直径1.5m、重さはなんと200kgにもなるそう。
大神神社では、この祭祀に合わせて毎年大杉玉を作り、架け替えを行っています。
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拝殿内での“うま酒みわの舞”

昼前になると、酒造関係者が拝殿の中へと進んでいきます。
宮司がおいしいお酒の醸造と参列された酒造り関係者の方々の安全を祈願した祝詞を奏上した後、三輪の神杉をかざした四人の巫女が登場。
厳かな空気の中、神杉を手に舞う“うま酒みわの舞”と呼ばれる神楽が奉納されました。

“うま酒みわの舞”は、毎年4月に開催される「春の大神祭」とこの酒祭り「醸造安全祈願祭」でのみ舞う、大神神社で古くより伝えられる神楽。

「この御酒(みき)は わが御酒ならず 倭(やまと)なす大物主の醸(か)みし御酒 幾久(いくひさ) 幾久」という歌に合わせて、四人の巫女が神酒を神前に捧げ、神杉を手に舞います。
この歌は、掌酒(さかびと)となった活日命が一夜で造った神酒は大物主神の神助によるものだと讃えたもの。
こうした歌の存在もあり、大神神社の祭神・大物主大神が酒造りの神様として敬われることになりました。

お祭りは酒盛りの後で!? 人と地域と神様をつなぐ“酒”の役割

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お祭りがひと段落した後で、私たちは権禰宜(ごんねぎ)を勤められる山田浩之さんにお話を伺うことができました。

山田さんは今回の祭りの始まりに関して、こう解説します。

「現在の醸造安全祈願祭に続く祭典が始まったのは大正4年。もともと、大神神社には大正3年結成の報本講社(ほうほんこうしゃ)と呼ばれる信仰団体がありました。ここから分かれ、酒造関係者からなる酒栄講(さかえこう)となり、この組織が醸造安全祈願祭の中心となりました。醸造安全祈願祭では、酒造関係者の酒造りの祈願が行われていますが、この祭り以外にもこの三輪の地では、今も祭祀とお酒は密接な関係を持っているんです」。

山田さんのお話では、奈良の三輪山や宇陀といった地域では、現在もお酒をたっぷりと飲んでから祭祀を始める風習を守っている地域が多いそう。
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「酒まつり」でふるまわれる樽酒

「昔から“お神酒上がらぬ神はなし”というほど、神様とお酒は切ってもきれないものです。大神神社でも、神職が中心となって古来の方法を守りながら濁酒(だくしゅ)を醸しています。この濁酒は神饌田(しんせんでん)と呼ばれる、お供物を作るための特別な田で取れた米を使って醸しており、実際に祭祀のためのお酒として使っています」(山田さん)。

さらに、山田さんはこう続けます。
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「古代より、日本では国が税金を割いてまで祭祀のために酒造りをしてきました。これは、酒を飲んで酔うことで神様に近づけると昔の人々は考えたからでしょうか。それに、お祭りの場で地域の人々が思いを一つにして集まり、お酒を飲むというのはコミュニケーションの面からも非常に重要です。
私も祭祀のために三輪山麓の地域を回ることが多いのですが、お酒があると一気に場が和んで地域の長老格の方と打ち解けたお話ができます。祭りのことや儀式のこと、さらには地域の生活のことまで。桜井や宇陀の地域では事前に“酔っ払って”祭祀を始める地区もありますが、一般的な神社でも直会といって神様に捧げたお神酒を参列者が飲むことがありますよね。これもきっと、神様とつながるだけでなく、そこに居合わせた人たちをつなぐ役割があったのではないでしょうか」(山田さん)。
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古代から続く神社の祭祀で使われるお酒には、現代の飲み会にも通じる人と人、そしてさらに人と神様をもつなぐ、大切な力と役割があったのです。

酒造関係者が酒栄講という組織を構成し、一丸となって酒造りを祈願するのも、きっと神頼み以前に清く明るい心で、神様や仲間とつながり一年の酒造りに邁進する気持ちを新たにするためなのでしょう。

日本最古の神社である大神神社は、お酒本来の役割や楽しみを教えてくれる場所でした。

毎年11月に行われる「醸造安全祈願祭(酒まつり)」。
来年は皆さんも、良いお酒との出会い、またお酒の神様や素敵な酒飲み仲間との出会いを願ってこの神社を訪れてみませんか?


そのほか、お酒と神様に関する記事はこちら

古来より日本人に親しまれる“お米の神様”の噺 
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