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会館飲み実践編③ 京都木屋町・たかせ会館の噺

会館飲み実践編③ 京都木屋町・たかせ会館の噺

2024,3,1 更新

大好評の会館飲みシリーズ、今回は京都一の飲み屋街・木屋町にある「たかせ会館」をご案内します。「会館」とは、ひとつ屋根の下にいくつもの小さな飲み屋が集まる飲み屋街のこと。たかせ会館は京都でも歴史ある会館の一つです。中でも、今回は音楽好きが集う店2軒を訪ねて会館の魅力を聞きました。

京都最古とも言われる「たかせ会館」

阪急の京都河原町駅から徒歩5分、夕刻から人通りが増え始める西木屋町通沿いに「たかせ会館」があります。
雑居ビルのように見えますが、木造2階建て。京都最古の会館と言われています。
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当時では珍しい、全店舗が水洗トイレ完備で、超高級物件といわれたそう。1~2階にバーや飲食店が10数店並び、いずれもカウンター形式の気取らないお店ばかりです。

かつてこのあたりは高瀬船の船着場として、綿を運ぶ人々で賑わった場所。会館の「たかせ」にはそんな風情も残ります。

音楽好きが集うバー「booze.k(ブーズ・ケイ)」

最初に伺ったのは「booze.k(ブーズ・ケイ)」。なんともオシャレな店名は、英語のスラングbooze(酒)と、マスター山本晃史さんのファーストネームにちなむそうです。
「でもお客さんからはシンプルに『こうちゃんの店』って呼ばれてるよ」と山本さん。
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棚にずらりとお酒が並ぶ店内には、ロートレックのパブミラーや、山本さんのラガーマン時代のラグビーシャツが飾られています。
フォークやロック、クラシックなどのレコードやCD、本もたくさんあり、目を惹くのは、全国のバーや飲食店のコースター。
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「自分の好きなものばかり。自分の部屋の延長です」と笑顔で話す山本さん。なるほど、まるで友人の家に招かれたような、温かな雰囲気が漂います。

お店を始めたのは25年前。サラリーマン生活2年を経て、友人の紹介で木屋町のバーテンダーに。
「酒はおもしろい」とのめり込み、木屋町の老舗クラブやパブで働きながら、世界中の酒やカクテルについて猛勉強。当時買い求めたという海外の酒の文献は、何度も読まれ、使い込まれた跡がありました。
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木屋町に戻り、独立したのが39歳のとき。「音のあるバー」として、さまざまなセンスあふれる音楽をBGMに「booze.k」をスタートしたそうです。

「自分が音楽好き。そしてバーは会話を楽しむ場所。音楽好きが集まり、曲を聴いて、お喋りをする。そんな店を目指しました。おかげさまでたくさんの方に来ていただき、多くの出会いが生まれましたね」。

過去にはここでシンガーソングライターのあがた森魚(もりお)さんがライブを開催したこともあるそうです。
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懐かしの曲はもちろんのこと、若いアーティストの最新曲まで流れる店内で、居合わせた女性客はこう話してくれました。
「こうちゃんって古い曲も詳しいけど、新しくてカッコいい曲を、流行る前にキャッチしている。すごいなあ、といつも感心します」。

店のメニューも、もちろん山本さんの「好きなものばかり」。
まず目に入ったのが、バーのラインナップとしてはちょっと異質な全量芋焼酎「一刻者(いっこもん)」。
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「もともと芋焼酎が好き。ある日、麹もすべて芋なんて珍しい、と試してみたら、驚くほど華やかで深い味わいで、『これや!』と思った」。以来、焼酎は「一刻者」ひと筋だそう。

「一刻者」に合わせるおつまみには、一見バナナチップスのような分厚いポテトチップス。サワークリームとオリーブ、パセリを乗せて、ザクッとした食感でいただきます。「サワークリームの酸味がクセになる」というリピーターもいるそう。じゃがいもの旨味と一刻者の香りが口に広がります。
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軽くローストした「殻付きマカデミアナッツ」も人気のおつまみです。
専用クラッカーで自分で割るという楽しさもあり、ある営業職の常連客は、1人で50個も割って、周りのお客さんに配ってまわったとか。「ストレス解消にもピッタリの、魅惑のおつまみ」だそうです。

飲めない人のためも、柳桜園のスペシャルなほうじ茶や緑茶も揃います。これならハシゴ酒の「中休み」にもうってつけですね。
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「booze.k」の魅力について、常連の男性にお尋ねしました。「なんといってもこうちゃんの人柄。何でも知っていて、話がおもしろい。だから皆、集まってくるんやね」。

山本さんおすすめの日本のジャイブ(ダンス)系ミュージック、藤井康一の「チャンポンダマンボ」が流れると、店内では曲に合わせて歌ったり手拍子ありの即興ライブの様相に。

歌と酒とお喋りのつきない「booze.k」。
お客さん同士の垣根もあっという間に消え、楽しく夜は更けていくのでした。

中島みゆきファンの聖地「きさらぎ」

お次は2階の「きさらぎ」へ。
会館1階入口の「今日は 中島みゆき かけてます」の手書きポスターに、ぐっと心をつかまれます。
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※このお店は、楽曲の商用利用の許可を得て営業されています。
「中島みゆきファンの聖地」として全国にも知られるこのお店。一体どんなところなのでしょうか。

「いらっしゃい!」と迎えてくれたのはスタッフの和田さん。
もと常連さんで、人手が足りないと手伝っているうちに「中の人」になったそう。

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「会社勤めの帰りによく飲みに来ていました。仕事とは全く関係のない人に出会え、マスターとお喋りができる。それがリフレッシュになるんですね」。

この店は22年前、オーナーの相馬さん夫妻が屋号の由来である「如月」(2月)に開店しました。
現在、お店は妻のさゆみさんと和田さん、もう一人のスタッフさんで回しています。夫の利光さんは時々客席について飲んでいるそうです。
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相馬さんはもともと大学時代に、河原町のバーで学生オーナーをされていたそうです。
一般企業に就職するも脳梗塞を見舞われてやむなく早期退職。「60歳になったら飲み屋をしたい」という夢を20年早く実現されました。

「音楽を酒のつまみに」と、開店当初は70年代フォーク全般をかけていたそうです。いまや名物となった「今日は 中島みゆき かけてます」のポスターを貼り出したところ、ぐっと客数が増えたといいます。

ポスターは、相馬さんがカレンダーの裏に手書きしたもの。風に飛ばされて落ちているのを見た常連さんが、わざわざ買ってきたガムテープで貼りなおしてくれたこともあったのだとか。
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ちなみに来店客のうち、熱烈な中島みゆきファンは6~7割ほど。同じ頃に流行った井上陽水や吉田拓郎、浅川マキ、甲斐バンドもリクエスト可という、ディープな昭和へタイムスリップできる貴重なお店です。
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お店の壁や天井にはお客さんの記念写真がズラリ。ボトルキープのびんにも顔写真が貼ってあります。
「最初はビックリしましたが、こんなに常連さんがいる店なら安心」と、カウンターで飲んでいた若い女性客が話してくれました。確かに壁にびっしり敷き詰められたおびただしい数の写真からは、「こんなにいろんな人が集う店なら間違いない」という安心感が伝わってきます。

心を裸にできる、それが「会館飲み」の良さ

先の「booze.k」でも話題になりましたが、会館にはいわゆる迷惑客や酔客はゼロ。
それは店のマスターやお馴染みさんが、そうした客にはやんわりと対応し、気持ちよく飲みたいお客さんのテリトリーを守っているからだそう。

「壁ごしに隣の店の気配がある。それも会館の心強いところですね」と和田さん。
思い返せば「booze.k」の山本さんも、たかせ会館に集う店を順番に紹介をしてくれました。同じ会館内では、お店同士も良い関係が築かれているようです。
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女性でも安心して飲める、旅行客も一見さんも、ようこそ。店がいっぱいになると、常連さんがスッと立ち上がり、カウンターの中に入って飲むこともあるのだとか。

「次はどこへ行けばいい?」と客が問えば、「こんな店があるよ」とマスターや常連さんが上下左右の店を教えてくれる。ゆるやかなつながりのある会館には、気配りも親切も常備されています。

和田さんは続けます。
「何よりここは皆さんが『心を裸にできる』場所。誰かが誰かに説教をしている光景は見たことがありません。立ち寄ってくださったお客さんが、日中の緊張から解き放たれて、和らいだ表情になってくれるのがうれしいですね」。
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和田さんの話を聞いていた先客さんが、こう話してくれました。
「僕は夜11時に会社を出て、明日は7時から仕事、という日でも、たかせ会館に立ち寄ります。たとえわずかな時間でも、ここに座ると気持ちが落ち着くんです」。

「たかせ会館」内の各店舗の営業は、だいたい18時から真夜中2時頃まで。昼間の裃を脱ぎ、素の自分に戻る。そんな解放感を、ひとりではなく誰かと共有する。
「たかせ会館」で、人の温もりを感じながら飲む、お酒の楽しさ、やさしさを教わりました。

<取材協力>

【たかせ会館】
〒604-8024
京都市中京区西木屋町通四条上る紙屋町367-2

協力店舗
○booze.k
○きさらぎ
▽記事で紹介したお酒はこちら
全量芋焼酎「一刻者」
   

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