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京都に生まれる新しいブランドレモン「京檸檬プロジェクト」の噺

京都に生まれる新しいブランドレモン「京檸檬プロジェクト」の噺

すっかりお酒の定番メニューとなった「レモンサワー」。 レモンの産地と言えば、瀬戸内を思い浮かべますが、実は京都発のレモンブランドを立ち上げよう!という動きがあります。 今回はそんな「京檸檬」に熱意を注ぐ人たちの噺です。

飲食店でも、家飲みでもすっかり定番になった「レモンサワー」。
人気は今も止まるところを知らず、スーパーやコンビニエンスストアでも冷蔵ケースを埋め尽くすほど、数多くのレモンサワー商品が販売されています。
レモンサワー人気に火が付いた5年前、瀬戸内レモンの人気が高まった事もありレモン不足となりました。さらに寒波の影響もあり、品不足・価格高騰が深刻な年もありました。
こうした状況下で、京都の農家と食品加工業者、食品メーカー、道の駅、大学、行政等が繋がり合い、「京都の地をレモンの産地にしよう!」というプロジェクトが立ち上がりました。
その名も「京檸檬プロジェクト協議会」
この取り組みが行われている京都の南部に位置する久世郡久御山町にある村田農園へ、酒噺スタッフが取材に伺いました。

京都に新しいレモンの産地を!

2018年から始まった「京檸檬プロジェクト」。
その発起人となったのは、以前、酒噺でもご紹介した果実加工品を製造販売する「(株)日本果汁」代表取締役である河野聡(かわの・さとし)さんです。

以前、日本果汁に伺った際の記事はこちら
レモンサワーを美味しくする、「レモンの魅力」の噺

(株)日本果汁 河野さん
発足の経緯について「もともとは、近年のレモン不足に対して、私たちが会社を構える京都の地でレモンづくりができないかと考えたのがきっかけです」と河野さんは語ります。

「弊社がお世話になっている社会保険労務士の橋本將詞(はしもと・まさし)さんに相談したところ、彼が社労士業とともに野菜の集荷事業も行っており、地元の農家さんと強い繋がりを持っていることがわかりました。また、弊社工場がある木津川市の市役所にも話をしたところ、私どもの考えに強い興味を持って貰いました。そこから話が広がって、村田農園の村田正己(むらた・まさみ)さん、道の駅みなみやましろ村の森本健二(もりもと・けんじ)さんをはじめとして、多くの方と出会う事が出来ました。元々、懇意にしていた京都市北部の水尾でゆずを栽培する京都水尾農産の村上和彦(むらかみ・かずひこ)さんにも参加をお願いしました。実際に農家さんと話をしてみると、京都府には一部で後継者不足や耕作放棄地が急増している問題があることがわかりました。ならば、果樹栽培を通じて京都発のレモンブランドを立ち上げるとともに、耕作放棄地の有効活用や新規就農などの支援もできるのではないかと思い、このプロジェクトを企画し、活動をはじめました。
現在では、京都府の南は南山城村から、北は舞鶴まで26の農家さんが参画して、果樹栽培に取り組んでいます」(河野さん)。

技術とノウハウの集積を通じて、安定した収穫を目指す

左から京都水尾農産 村上さん、村田農園 村田さん、社労士 橋本さん
京檸檬プロジェクトでは、発足年の2018年にレモン果樹の定植を実施。果樹が育ち、収穫するまでの目標を丸3年後の秋に設定。つまり今年2021年の秋に収穫の予定を立てています。
この現状についてお話をしてくださったのが、「(株)村田農園」代表取締役の村田さんです。

「私の農園を始めとして6軒の農家より、レモンの果樹を定植した年から2年後の昨年、すでに2トン近くの収穫がありました。今年は26農家のうち、7〜8農家ほどで収穫を見込んでいます」と話してくださいました。

「しかし、現在はまだ安定した収穫ができているとは言えない状況です。私の農園でも、木ごとに付く実の数は一定していません。丁寧に世話をした木ほど実がならない、そうかと思えば、ほとんど目をかけていなかった木に実がたくさんなっていることもあります。生産技術に関しては、定植当初から広島のレモン農家さんに指導をしていただいていますが、瀬戸内でのレモン栽培のノウハウがそのまま京都の土地で使えるかというと、そういうわけにもいきませんからね」。

続いて果樹栽培の現状を教えてくださったのは、京都水尾農産の村上さん。

「私のところでは、水尾の柚子と同じ要領で、果樹園内に柚子とレモンを植えて栽培しています。肥料や草刈り、剪定なども同じタイミングで行なっていますね。順調に育っていますが、やはり気になるのは京都という土地の寒さ。日本におけるレモンの産地である瀬戸内一帯は温暖な気候ですが、南北に長く、寒暖差も激しい京都では、より慎重に検証を進めていかなくてはなりません。その土地の風土に合ったレモンの品種選びや寒さ対策、さらには農園を荒らす獣害対策まで、課題はまだありますね」。


「レモンをはじめとする農業の難しいところは、どんな作業も一年に一度しかできないということです」と話すのは、社労士の橋本さん。

「実を大きくするために、ついた花をどれくらい間引けばいいのか、剪定はどこまでするのがいいのか。試行錯誤をして試してみようと思っても、一年に一度しかできません。失敗したと思ったら、次の機会が巡ってくるのは翌年のこと。さらにこれまで京都ではレモンの栽培自体が行われてきた実績がほぼなく、本当にゼロからの出発です。現在は京檸檬プロジェクト協議会が指揮をしながら、各農家の事例をまとめ上げている段階です。このノウハウが蓄積できれば、そこから先はスムーズな収穫に繋げられる革新をもたらすでしょう。まさに今、“京都におけるブランドレモンの立ち上げなるか?!”という、一番苦しい時期ですが、ここを乗り越えれば耕作放棄地を使ったレモン栽培の拡大や、新規就農者への栽培支援が可能となるはずです」。

未だ道半ばではあるものの、京檸檬プロジェクトは少しずつ「実を結びつつ」あるようです。その現状を確認するため、酒噺スタッフは村田さんがレモンを栽培する果樹園を見学させていただきました。

他のどこのレモンとも似ていない、京檸檬の豊かな香り


村田さんの果樹園に着くと一面にレモンの木が植えられていました。
その樹高は3mほどで、近づくと茂った葉の中に丸々とした緑色のレモンが実っているのがわかります。



ここで育てられているのは、ユーレカ種とリスボン種(※)の2種類。

「木を見ていただくとわかるのですが、実がよくなっているものとそうでないものがありますよね。この原因がどこにあるのか、現在検証しているところです」と村田さん。


※ユーレカ種・リスボン種…共に最も広く栽培されている品種。

ユーレカは、カリフォルニア原産の品種。従来のレモンに比べてトゲが少なく葉が尖らず、丸みがかっている。果実は長いボールのような形や、卵を逆さにしたようなものがあり、果肉は柔らかくジューシー。 リスボンは、ポルトガル原産の品種。レモンの中では最も寒さに強い。トゲはやや多く葉は尖っているのが特徴。果実は先がすぼんだ楕円形。皮の表面は少しざらつきがあり、中の果肉は緑色がかった黄色。ジューシーで酸味が強い。



これに対して村上さんは「今年よく伸びた枝にはレモンがついていませんね。やはり生育に力を使った木には実がなりにくいんでしょう。ただ、それ以外にも品種や花の付き方によっても条件は異なってきそうです」と、自身の経験を踏まえて解説してくださいました。


現在実っているレモンはまだ緑の状態ですが、この段階で収穫して、日本果汁で搾汁し、ジュースにすることもあるとのこと。私たちも実際に、木から獲ったばかりのレモンをその場でスライスし、レモンサワーをつくってみました。
ハサミを使って、実を取ろうとして気づくのは、その鮮烈な香り。実だけでなく、葉からも清々しいレモンの香りが辺り一面に漂います。

では早速、獲れたての新鮮な京檸檬でつくったレモンサワーをひと口。
口から鼻に抜ける香りは、市販のレモンとは全く別物。ツンとする酸っぱい刺激は控えめで、みずみずしい青い香りの中にほのかな甘みを感じます。

味わいに感動している私たちを見て笑顔になる河野さん。

「これが京檸檬の特徴です。京都の気候風土によって、こうもレモンの味が違うのかと私も驚きました。京都府各地でこうした味のレモンを安定して作ることができれば、他にはない唯一無二のレモンとして、日本だけでなく世界に誇ることができるでしょうね」。


未来に向けて進み続ける「出口の見えるプロジェクト」


京檸檬プロジェクト協議会では、村田さんが収穫したレモンをはじめ、すでに数トンのレモンが出荷のため準備されています。これらは日本果汁へと卸され、レモンサワー用のシロップとしても市販されています。
しかも、このシロップで作ったレモンサワーを一昨年に京都競馬場で販売したことがあり、その時は800杯ものレモンサワーがすぐに完売したそうです。

この成功事例を元に、河野さんはプロジェクトの未来をこう語ります。

「味わいや品質に関しては手応えを感じています。あとはこれをしっかりと物流に乗せていくことが大切です。京檸檬プロジェクト協議会では、生産者だけでなく、私たちのような加工業者や大学、食品メーカー、道の駅や小売店などにも協賛・参画いただいています。これはプロジェクトの出口を用意するための試みでもあります。生産したものの行く末を生産者が目にすることができ、企業や消費者が生産現場を理解して、利用・消費ができる仕組みを作ることで、京都の農業を未来へと進めていきたいんです」。


生産者である村田さんも「これまで生産者と加工業者やメーカーが話し合う場はほとんどありませんでした。あくまで生産者とお客さんの関係だったんです。それが京檸檬プロジェクト協議会によって、こうした方々が果樹園に足を運んで、生産現場を見ていただく機会が生まれるようになりました。さらに京都競馬場での試験販売のように、生産者が消費者の姿を見ることもできるようになったんです。これは生産者として、農業を続けていく上での大きなモチベーションになると感じています」と、プロジェクトに期待を寄せます。

また、長年果樹園を営んできた村上さんも「私の農場でも、レモンや柚子を購入される方に必ず果樹園に来ていただき顔を合わせて会話をし、生産スタイルを理解していただいた上で購入していただくようになりました。京檸檬プロジェクト協議会がこれから先、生産者と企業、消費者の距離をより近づけるものとなるために、私も頑張っていかなくてはなりませんね」と笑顔を浮かべていました。


大々的に「京檸檬」が市場に出回るにはもう少し時間がかかるようですが、その生産現場には熱意と、京都の農業の未来を考える強い志がありました。

今回、果樹園でいただいたレモンサワーはまさに別格の味わいでした。
あと数年後にはきっとみなさんもその味に驚くことになるでしょう。ぜひご期待ください!
次回は、レモンを使った自宅で簡単に楽しめる「旬の果実酒作り」についてご紹介します。
こちらもお楽しみに。