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レモンサワー発祥の店「もつ焼き ばん」で語る、焼酎「割り材」の噺

レモンサワー発祥の店「もつ焼き ばん」で語る、焼酎「割り材」の噺

2022,11,25 更新

『古典酒場』編集長の倉嶋紀和子さんがナビゲーターとなって探っていく「意外と知らない焼酎の噺」。焼酎の「割り材」(※)として、前回は「ホッピー」を紹介しましたが、もちろんそれだけではありません。そもそも、どうしてお酒を『割る』のか?「割り材」の歴史や種類について、「居酒屋礼賛」主宰の浜田信郎(はまだ しんろう)さんとともに探ります。

※割り材:酒を割って飲むための炭酸や果汁などのこと

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●浜田信郎(右)/ブログ「居酒屋礼賛」の主宰。『酒場百選』(筑摩書房)『ひとり呑み』(WAVE出版)など大衆酒場に関する著作を数多く上梓
●倉嶋紀和子(左)/雑誌『古典酒場』の創刊編集長。大衆酒場を日々飲み歩きつつ、「にっぽん酒処めぐり」(CS旅チャンネル)「二軒目どうする?」(テレビ東京)などにも出演。その他にもお酒をテーマにしたさまざまな活動を展開中。俳号「酔女(すいにょ)」は吉田類さんが命名。令和4年(2022年度)「酒サムライ」の称号を叙任

「割り材」は吞兵衛の欲望から生まれた?

対談場所に選ばれたのは、レモンサワー発祥の店として有名な東京・目黒区にある「もつ焼き ばん 中目黒本店」。かつて割り材商品のヒントにもなった伝説の一軒で、今回のテーマにもうってつけです。まずは様々な割り材について、起源や歴史などを語ってもらいました。
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1958(昭和33)年創業の「もつ焼き ばん」。看板の左には「輩サワー」の提灯も
倉嶋「あらためて考えると、割り材っていろいろありますよね。水やお湯に炭酸、果汁(エキス/シロップ)、ジュースにお茶系などなど。でも私のなかでは、『フレーバーが付いているもの=割り材』というイメージが強いですね」

浜田「わかります。確かに『水割り』『お湯割り』っていいますから、水やお湯も割り材なんですけどね。でも倉嶋さんが『これは割り材なのかな?』という考えは、西日本の本格焼酎(乙類)文化と、東日本の甲類焼酎文化で見方が変わってくるのかなと思います」

倉嶋「そうですよね。原材料の風味が豊かな本格焼酎は、フレーバーが付いたタイプではあまり割りませんし、一方クリアな酒質の甲類焼酎は多用な飲み方で楽しむ人が多いお酒。ただそこに共通しているのは、より飲みやすく楽しみたい、おいしく飲みたいという人間の欲望なんだろうなって(笑)」
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浜田「ええ。いまも昔も呑兵衛の想いはそれですよね(笑)。倉嶋さんは熊本出身で、私も大学時代は福岡で過ごしましたから、若いころは本格焼酎文化に囲まれていたと思うんです。そうして振り返ると前割り(あらかじめ焼酎と水を混ぜ合わせてなじませる)があったり、鹿児島には『ぢょか』(注ぎ口が付いた陶磁器の土瓶のこと。千代香や茶家、黒千代香とも)でお湯割りにする文化が根強かったり。
いつ、だれがそうやって飲み始めたかはわからないのですが、九州では伝統的に水割りやお湯割りが親しまれていますよね。蒸留することでアルコール度数が高くなった焼酎を、そのまま味わうのでは強すぎて飲みにくいという人もいる。だから、自然発生的に割って飲むようになったんじゃないかなと思います」
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ぢょか
倉嶋「割ったほうがいろんな食事に合わせやすいという考え方もあるかもしれませんね。例外として、熊本県南部の人吉球磨(ひとよしくま)エリア(稲作が盛んで、米でつくる「球磨焼酎」が有名)では、米焼酎をストレートで飲む文化もあるそうですけど」

焼酎用エキスは大正時代から存在した

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浜田「一方の甲類焼酎は明治末期に誕生し、大正初期には東日本を中心に広まっていったといわれています。そこで面白いのが、早い段階で割り材としてエキスが生まれていること」

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倉嶋「当時は甲類焼酎の精製技術がいまほど高くなく、香りも強かったといわれていますもんね。その味をうまくなじませるために、エキスや炭酸割りが生まれていったという話もよく聞きます」

浜田「市販のエキスで有名なのが、1923(大正12)年に開発された『ぶどう液』。こちらは当時高価だったポートワインの味を焼酎で再現するために作ったそうですけど。
あとは、戦後のアメリカ進駐軍の駐屯地で飲まれていたウイスキーのハイボールをヒントに、『三祐酒場』の主人が焼酎とエキスを使って生み出したといわれる東京・下町の焼酎ハイボールも有名ですね。由来には諸説あるものの、これが酎ハイ=チューハイとなって広がっていったわけですよ」
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倉嶋「甲類焼酎の割り材としては、やっぱり焼酎ハイボールを抜きにしては語れませんよね。その後チューハイ用のエキスが多様化し全国へ広がっていったことは、以前、藤原法仁さん(2010年に、浜田さんと11月11日を「立ち飲みの日」に登録した、大衆酒場通)とお話しした際に、深く語り合ったのですが、まず1970年代に起こった『ホワイトレボリューション(白色革命)』がありますよね」

浜田「アメリカで起きたクリアな蒸留酒のブームですね。この波が日本に到来することを予想して、1977(昭和52)年に誕生したのが宝焼酎『純』です。『純』はきわめてピュアな味でありながら、自然なうまみと心地よい香りをもつ斬新なおいしさが特徴。焼酎市場全体を盛り上げる、まさに革命的なヒットとなり、1980年代のチューハイブームへとつながったといわれています」
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11種類の樽貯蔵熟成酒を13%の黄金比率でブレンドした、宝焼酎「純」

チューハイのカクテル化とともにお茶割りも全国へ

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倉嶋「私のイメージでは、ウーロン茶割りや緑茶割りが広まっていったのも1980年代以降という感覚です。というのも、日本初の缶入りウーロン茶は1980年、緑茶は1985年に誕生していまして。そして同時に、チューハイのカクテル化も進んでいた。こうしたチューハイの多様化とともに、ウーロン茶割りや緑茶割りも全国へ浸透していったと考えています」

浜田「お茶割りに関しては私もそう思いますし、ジュースなどで割ったチューハイも同様ですよね。あとは本格焼酎の世界でも、特に西日本では炭酸割りなんてほぼ飲まれていなかった印象ですが、近年は無糖炭酸が一般家庭に広まっていったことで、いまでは定着していると思います」

倉嶋「全国区となるとそういう感じですよね。地方では、昔からその地域だけにあった飲み方や、ご当地チューハイみたいなものがあるかもしれませんけど。例えば、地元の炭酸を使ったレモンサワーとか。私の経験では、神戸には兵庫鉱泉所の「マスコット レモンサワー」があったんですけど、広島の尾道など鉱泉所がある地域の大衆酒場では、その土地ならではのチューハイが昔から飲まれているのかもしれません。
また炭酸由来でなくても、京都の赤ワイン×焼酎カクテル『ばくだん』とか、同じく山梨で古くから親しまれているワインの焼酎割り『葡う酎(ぶうちゅう)』とか」
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浜田「確かに。私も広島でいえば、呉の『くわだ食堂』にはご当地炭酸ではないですが牛乳割りがあることを思い出しました。あとは同じく、呉に昔あった『あわもり』というおでん酒場では、泡盛の梅エキス割りが提供されていましたね。この店だけのオリジナルかもしれませんけど」

倉嶋「やっぱり割り材って奥が深くて面白いですね。それに、各地で様々な割り材が生まれているのも甲類焼酎の魅力だと思います」

元祖レモンサワーの「ばん」をヒントに生まれた「ハイサワー」

浜田「『もつ焼き ばん』はレモンサワー(462円)の元祖として有名ですね。その味も、まさにお手本といえるおいしさ。焼酎と炭酸とレモンのバランスが最高なんですよね」
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「もつ焼き ばん」のレモンサワーは、焼酎、炭酸、レモン1個(スクイーザー付き)のセットで提供
倉嶋「私は、レモンが半分ではなく贅沢にも1個丸ごと提供いただける点がすごく嬉しいです。それに、手で搾るときに正気に戻れるというか(笑)。でも1個丸ごとですからそのぶん味も爽快で、クエン酸もたっぷり。おまけに宝焼酎もたっぷり濃いめ。これがおつまみにも合うんですよ」
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「もつ焼き ばん 中目黒本店」では宝焼酎25%を使用
浜田「ほんとにそう! おつまみのメインはもつ焼き(121円)で、その前にまず食べたいのが、『レバカツ』(308円)と『激辛豚美(とんび)豆腐』(495円)と『ぬか漬け盛り合わせ』(308円)。この3点セットですね」
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左上より時計回りで、『もつ焼き』(1本121円)『レバカツ』(308円)『ぬか漬け盛り合わせ』(308円)『激辛豚美(とんび)豆腐』(495円)
倉嶋「そして、レモンサワーとしての割り材といえば『ハイサワーレモン』が有名ですが、そのルーツが『もつ焼きばん』というのも、業界内では常識といえるでしょう。このエピソードをより詳しく知るべく、『ハイサワー』のつくり手である目黒区武蔵小山の飲料メーカー・株式会社 博水社の田中秀子社長にお話を伺ってきたんです」
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浜田「それはそれは! 確か秀子社長は三代目で、博水社はもともと品川で創業したんでしたっけ?」

倉嶋「はい。創業は1928(昭和3)年で、その後1954(昭和29)年にいまの目黒に工場を移転したそうです。もともとはラムネやみかんジュースなどをつくっていたそうですが、戦後に外資系の飲料メーカーが上陸するなど、ソフトドリンク市場が激化していったとか。そこで新たなヒット商品を作ろうと、まず手掛けたのがハイボール用の炭酸。そして二代目を中心に、ビアテイスト飲料も開発したんだそうです」
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株式会社 博水社・田中秀子社長
浜田「ビアテイスト飲料ということは、ホッピーみたいな割り材を目指していたんでしょうね」

倉嶋「試行錯誤を繰り返し、開発には約6年をかけたそうです。でも、時間をかけすぎたため当初の原材料を調達できず、とん挫してしまったと。ただ、それでめげることはなく、気晴らしと視察を兼ねて米国カリフォルニアの団体旅行に家族で行ったとき、そこで見た光景が、市民のだれもが気軽にカクテルを楽しむ姿。それが『ハイサワー』開発のきっかけになったとおっしゃっていました」
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1980年に初登場した「ハイサワー」
浜田「なるほど。当時の日本におけるカクテルは高嶺の花だったでしょうし、街なかで気軽に提供しているお店も多くはなかった。その違いにカルチャーショックを受けるとともに、日本における商機を見出したんですね。そのうえで『もつ焼きばん』のレモンサワーがヒントになったと」

倉嶋「特に着目したのは季節を問わないという点。というのも、博水社は長年『もつ焼きばん』に炭酸を納品しているのですが、同店は寒い冬でもバンバン売れている――。なぜだろう?と。
そこで当時の営業さんが実地調査に行ったとき、いまではおなじみの、レモンを搾るスタイルで一緒に炭酸を提供されていた。つまり、レモンはチューハイをおいしくする果汁であり、そのエキスが入った割り材があればより手軽にレモンサワーが楽しめることに気付いたということですよね」

浜田「それで『ハイサワー』が誕生したと。フレーバーは最初がレモンで次がライムだったかな。6種ぐらいありましたっけ?」

倉嶋「基本はそうですね。レモン、ライム、青りんご、うめ、グレープフルーツ、ホップ&レモン(ほろにが)。あとは、40周年を記念して発売された『ハイサワースンチー杏仁檸檬(あんにんれもん)』とパクチー&レモン(業務用のみ)の8種類ですね。それにローカロリーの『ダイエットハイサワー』があったりと、バラエティー豊かですよね。
ちなみに、田中社長にハイサワーのオススメの割合を伺ったら『焼酎1:ハイサワー3』とのことでした。それと、最近はハイサワーをウイスキーや泡盛で割る人もいるようですが、やはりハイサワーには甲類焼酎がいちばん合うとおっしゃっていました」
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業務用の地域限定のガラス瓶。左からレモン、グレープフルーツ、パクチー&レモン、青りんご、スンチー杏仁檸檬、うめ
浜田「いまでは家庭でもおなじみですし、『わ・る・な・ら・ハイサワー』のCMも有名ですけど、当初は飲食店を中心に展開していたんですよね。でも、けっこうなご苦労をされたと聞いています」

倉嶋「はい。まずは本社がある目黒区を中心に一軒一軒訪問して、地元のドリンクとして提供する飲食店が増えていったとか。それがやがて、まだインターネットのない時代にお客さんを通じて評判が広まり、口コミだけで全国展開へと拡大していったそうです」

浜田「いまでは武蔵小山と西小山近辺は“ハイサワー特区”と命名して盛り上げていますよね。コロナ禍で最近はお休みしているようですが、本社倉庫では名物イベントの『倉庫飲み』も開催されていますし。『ホッピー』もそうですけど、メジャー商品ながら地元を大切にするというのが東京出身の割り材の愛らしさでもありますよね」
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コロナ禍で『倉庫飲み』は現在はお休み中ですが、田中社長もいずれ再開させたいとのこと

東京独自の発展を遂げた「割り材」はほかにもある

倉嶋「東京発といえば、『ホッピー』や『ハイサワー』を筆頭に、ほかにも愛らしい割り材があります」

浜田「ええ。例えば“幻の割り材”ともいわれる『ホイス』や、コダマ飲料の『バイス』など。ブランドも味わいも個性的でおいしいです」

倉嶋「ちょうど『もつ焼きばん 中目黒本店』には両方ともメニュ—にあるので、飲んでみましょう!」
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ホイス
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浜田「あ~『ホイス』は久しぶりに飲みましたが、こちらもおいしいですね!」

倉嶋「私、あらためて考えてみたんです。なぜ東京にはこんなに独自の割り材が多いのだろうって。もちろん人口が多いマーケットなので、それだけ多様な商品が生まれる土壌があったということなんですけど、それだけじゃないと思うんです。やっぱり大きなポイントは、先ほど浜田さんがおっしゃった、西日本の本格焼酎(乙類)文化と東日本の甲類焼酎文化の違いかなって」

浜田「はい。いまや本格焼酎は東日本にも浸透していますが、それでも割り方は水やお湯割りが王道でしょう。甲類みたいに、多様な割り材のベースとして本格焼酎を飲むことは少ないですもんね。これは、西と東の嗜好の違いも多少はあるかもしれませんが、そもそも焼酎の味わいの違いが関係しているのだとも思います」

倉嶋「あとは舶来文化の影響力が東日本は強かったという点。もちろん戦前にも「焼酎用のエキス」はありましたが、米軍駐屯地で提供されていたウイスキーハイボールの味に感銘を受けて、東京・下町の焼酎ハイボールが生まれたというエピソードは、まさにその例なのかなと思います」

浜田「東京は特にそうですよね。人口だけでなく米軍の施設も多く、昔は六本木に基地があり、代々木には住宅がありましたから。それだけ外国の文化に触れる機会も多かったでしょうね」

倉嶋「ええ。特に『ホイス』は洋酒っぽい味わいですし、『バイス』は甘めのテイストでまた独特のおいしさです」
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バイスサワー
浜田「うん! 『バイス』の甘みは絶妙ですね。ちょっと濃いめのおつまみを食べたくなる、ちょうどいい塩梅で」

倉嶋「唯一無二なんですよね。イメージは梅しそのフレーバーなんでしょうけど、しそ割りとも、梅しそ割りとも違うし」
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浜田「でも倉嶋さん、『ホッピー』と『ハイサワー』の社長に取材したのであれば、『ホイス』や『バイス』の会社にも行ったほうがいいんじゃないですか?」

倉嶋「実は、ここに来る前に取材してきたんです! どちらも面白いお話をたくさん伺えました!」

浜田「えー? さすが倉嶋さん! どんな話が聞けたのかとても興味深いですね」


ということで、次回は「ホイス」と「バイス」のメーカー本社に突撃したレポートをお送りします。各割り材の奥深い歴史や魅力を深掘りしていくのでお楽しみに!

<取材協力>
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もつ焼きばん 中目黒本店
住所:東京都目黒区上目黒2-14-3
営業時間:11:30~翌4:00
定休日:正月
※価格はすべて税込みです
※営業時間等に関しましては、店舗にお問い合わせください(取材日:2022年11月8日)

撮影/鈴木謙介

記事に登場した商品の紹介はこちら▼
・宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/
・宝焼酎「純」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/jun/

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【意外と知らない焼酎の噺01】「焼酎って何?」その定義やルーツをお酒の専門家に聞く噺
【意外と知らない焼酎の噺02】「甲類焼酎の製造方法」を工場で学ぶ噺
【意外と知らない焼酎の噺03】いろんな「甲類焼酎」を飲み比べて味わいの違いを実感する噺
【意外と知らない焼酎の噺04】芋焼酎のつくり方を知り、味わいを楽しむ噺
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