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どう違う? 酒場ライターが「関東と関西の酒場事情」を語り合う噺【前編】

どう違う? 酒場ライターが「関東と関西の酒場事情」を語り合う噺【前編】

2025,1,17 更新

飲み物、つまみ、店構えからお客さんの特徴まで、同じようで実は異なる「関東」と「関西」の酒場事情。その内実を、関東出身・関西在住のスズキナオさんと、酒の可能性を追求するユニット「酒の穴」のパートナーであるパリッコさんが、実体験を交えて語り合います。

前編となる今回は「お店の違い」について。お邪魔したのは、東京・東向島の「丸福酒場」。以前は大阪で営業していた同店の店主・福永晴行さんも交え、「関東・関西のお店の違い」について探っていきます。

パリッコさんとスズキナオさんが出会ったのは、ライターになる前の会社員時代。「20年ぐらい前かも」というほど交流は長く、初対面は音楽関連のイベントだったとか。

ともにお酒好きであるなど意気投合したふたりは、以後個別に飲み交わすことも増え、一緒に酒場巡りにも行くように。そしてこれまた運命的にお互いライターとして独立し、ふたりでユニット「酒の穴」を結成。「チェアリング」を生み出し提唱するなど業界内でも存在感を示していきます。

スズキナオさんは2014年に奥様の実家がある大阪へ移住し、その後は関東と関西それぞれのカルチャーを知るライターとしても活躍。こうした経緯から、パリッコさんと東西の酒場の違いについて語ってもらいました。

そもそも酒場に東西の違いがあるのか?

まず伺ったのは、そもそも「東西で酒場に違いはあるのか?」ということ。
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●パリッコ(左)/東京出身の酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』などがあるが、漫画家/イラストレーター、DJ/トラックメーカーとしても活動し、多才な顔を持つ。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動し、共著に『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』などがある。
●スズキナオ(右)/東京出身、大阪在住の酒場ライター。酒噺で「関西食文化研究」や「関西チューハイ事情」連載を担当。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』などがあるが、テクノラップユニット「チミドロ」のリーダーとしても活動する。パリッコとは同い年であるほか、酒場や音楽などライフワークの共通点が多い。
スズキナオ 関西に住んで10年以上経ちましたけど、関東とはメニューも雰囲気にも違いがありますよね。

パリッコ わかりやすいところで例えると、関西は関東より串カツ屋が多くて、逆にもつ焼き屋はあまりない。ほかにも業態の違いはたくさんありますけど、要は食文化が違うんですよ。
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東京を代表する大衆酒場のひとつ「宇ち多゛」(葛飾区・立石仲見世商店街内)。「宇ち多゛」のもつ焼きを求める行列が絶えることはない
スズキナオ お酒にも特徴がありますね。特にチューハイ。関西はあらかじめ甘酸っぱい味に調整されたものが主流ですが、関東は味も飲み方も多様的です。東京下町の秘伝のエキスで割る焼酎ハイボールがあったり、バイスのような個性派割り材が豊富だったり。東京には「酎ハイ街道」(※)と呼ばれる通りもありますよね。

※京成押上線「八広駅」と東武伊勢崎線「鐘ケ淵駅」を結ぶ鐘ヶ淵通りは、下町大衆酒場に欠かせない酎ハイの名店が多いことから名付けられた。


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そのほかに客層や雰囲気などの違いはあるのでしょうか(※)?

※お酒やおつまみの違いに関しては、後編でより深堀していきます


スズキナオ 関西のほうが、安価な大衆店と小料理屋的な居酒屋が明確に分かれていると思います。特に安さを売りにしているお店が多い印象です。

パリッコ 確かに。特に大衆酒場の存在感は関西のほうが大きいかも。お店の絶対数に対する割合でいえば、関西のほうが多いイメージがあります。

スズキナオ そうそう、角打ちとか立ち飲みも含めてね。関西のほうが短い時間でサッと酔いたい人が多いからという気がしますね。特に大阪は。
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パリッコ 関東にもクイックに立ち寄って飲んで、足早に帰るか次の店に行く、というスタイルの人はいますけど、関西のほうがその割合は多いかもですね。

スズキナオ ええ、ゆっくり飲みたいときはもう少し高級なお店に行くというか。

パリッコ お客さんの性格も、関西はサラッとした感じの人が多い気がしますね。ただ、人懐こいというか距離感は近いんです。遠慮せず話しかけてくるし。

スズキナオ それも、大阪のおじさんたちに顕著な気がします。

パリッコ でも、深追いはしなくて。例えば標準語で話してると「お兄ちゃん、どっから来たの?」って声かけられて、「東京からです」って返すと、「じゃあ、あそことあそこに行ってみ? ほな楽しんでな」で会話が終わるみたいな。

スズキナオ わかるわかる!

パリッコ 偏見かもしれませんけど、関東はもうちょっと自分語りが多かったり、質問攻めになったり。そもそも、誰かと話したくて飲み屋に来てる人も一定数いる気がするんですよね。でも、大阪は相手に合わせるというか、人との距離感をつかむのがうまくて。僕はいまのところ、ちょっとめんどくさかったり、嫌な思いをしたようなことはないです。
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東西味付けの違いはペアリングにも差が出る?

ここで「丸福酒場」の店主・福永晴行さんにも、東西で酒場に違いはあるのかを聞きました。福永さんは宮崎で生まれ、高校卒業後に大阪で飲食業のキャリアをスタート。板前修業ののちに独立して約10年働き、2012年に上京してお店ごと移転し「丸福酒場」を東京・墨田区に開業しました。
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「丸福酒場」の店主・福永晴行さん。大阪から移転したきっかけは、東京に遊びに来た際にいまの店がある下町の雰囲気が気に入ったから
福永 東西の違いで特に印象的だったのは味付けです。簡単に言うと全体的に東京は味が濃くて、大阪は東京ほど濃くない。しょうゆは、関西で主流の薄口のほうが塩分は強いんですけど、コクは濃口のほうが強いですし、関西ダシは昆布主体で関東ダシはかつおというのもあると思いますね。

福永さんは、ホッピーとペアリングしたときに、特に東西の違いを実感したと言います。

福永 東京で飲んだホッピーがおいしかったので、大阪の自分の店でも試したんです。でも、「あれ、なんかちゃうなぁ」って。いくつかの料理と合わせて気付いたのは、大阪の味付けとホッピーはビシッと合わないというか、ホッピーはやっぱり東京の味付けありきで生み出されたんだろうなということです。
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「丸福酒場」には関西のご当地つまみもあり、こちらは「とん平焼」400円。ソースは福永さんが慣れ親しんだ味にするべく、独自にブレンド
続く話題は昼飲みについて。スズキナオさんは、関西のほうが昼飲み文化が日常に馴染んでいると言います。
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スズキナオ もちろん東京にも昼から飲める店はたくさんありますし、そういう酒場が多い街も点在しています。ただ、関西は昼から飲める店や街に対する特別感が薄く、いい意味で普通なんです。

パリッコ 後ろめたさがない感じですよね。定食屋とかファミレスぐらいの空気で当然のように、平日の昼間から老若男女が楽しそうに飲んでいる。僕はそれが心地いいなって思います。


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関西酒場のお客さんは団結力がある

関西だけ、関東だけで展開している代表的なチェーン店について語ってもらいました。

スズキナオ 僕がよく行く関西ローカルチェーンは「赤垣屋」「正宗屋」「丸一屋」「得一」ですね。東京にいたときは「酒蔵 駒忠」とかによく行ってました。

パリッコ 「駒忠」好きです。ほかに東京だと「加賀屋」「ニュー加賀屋」「加賀廣」「かぶら屋」「春田屋」とか。「かぶら屋」は池袋で働いてた当時、最初の1、2号店しかない草創期によく通ってましたね。それがいつの間にか数十店舗に増えて。

スズキナオ 多店舗展開だと一括仕入れなどのメリットを生かせるので、より価格帯が低めのチェーンが多い印象です。でも、近年は大阪から東京へ、東京から大阪へと進出するケースも増えてますよね。関西進出した有名店だと「立呑み晩杯屋」とか「四文屋」とか。
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関西初となる「立呑み晩杯屋 十三店」。関西でも人気を集めている
パリッコ 関西から東京へというケースだと、2022年7月、有楽町(千代田区)に東京1号店を開業した「徳田酒店」は話題性が大きかったですね。でも東西の有名店が各地に進出することで、例えば東京のホッピーとかバイスとかも各地に広がっていくわけであって、重要な役割を担ってる気がします。

スズキナオ そうですね。ひと昔前だと「村さ来」が東京で人気だったカクテルスタイルのチューハイを全国に広めたと聞きますし。

「村さ来」のように全国展開されているチェーンの場合、東西で違いはあるのでしょうか?

パリッコ 企業ごとに違うと思いますが、例えば「餃子の王将」は店舗によって独自のメニューがあったり、地域によって価格を変えたりしてますよね。全国で統一しているチェーンもあるかもしれないですけど、やっぱり地域によって食文化が違うので、個々で変えているほうが多い気はします。

スズキナオ 企業ごとの方針や、直営店なのかフランチャイズなのかでも変わってくる気がしますね。自由度が高い企業なら各店独自のメニューもあっても不思議じゃないし、フランチャイズはもっと自由でしょうし。

では、立ち飲みや角打ちで東西の違いはありますか?

スズキナオ なんとなく角打ちに関しては、主役は完全にお酒で、おつまみはあくまで脇役というオールドスタイルのお店は関西のほうが多い気がします。大阪や兵庫の老舗は特に。
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神戸御影・榊山商店。100年以上続く老舗の角打ち。おつまみは、缶詰や乾き物が中心
パリッコ そうですね。関東の角打ちは、本当に簡易的なテーブルしかない昔ながらのところもあれば、まるでバーのようにおしゃれなお店も増えているし、どんどん多様化している気がします。

スズキナオ 立ち飲みに関しては、関西のお客さんの間は連帯感のようなものがある気がします。例えばお店が混んで来たら詰め合って次のお客さんのための場所を空けるとか。

パリッコ ダーク(※)とか。

※ダークダックスとも。立ち飲み店で、テーブルに対して斜めに立ちスペースを詰めること。往年のコーラスグループ「ダークダックス」が斜め立ちして歌っていたことに由来

スズキナオ そう。「ダークしよか」という言葉はよく耳にしますね。ほかの人も嫌な顔せず協力的で、関西は団結力がスゴいなって思いました。

パリッコ その距離感に最初は躊躇してしまうかもしれませんが、とにかくみんな人がいいので、最後は居心地が良くて抜け出せなくなってしまうんですよね。

スズキナオ それに、関西に来る前は標準語を話したら嫌がられると思ってましたが、全然そんなことないです。

パリッコ むしろやさしいですよね。「ここあいてるで」とか「この店初めてならこれオススメや」とか、積極的に共有してくれるイメージ。


【関連記事はコチラ】
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「会館飲み」や「ビニシー」は他の地域ではどう?

関西独自の酒場文化として知られる、「会館飲み」の現状についてはどうでしょうか。まずは改めて、その特徴から解説してもらいました。
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西院(右京区)の「折鶴会館」
スズキナオ 「会館飲み」が根付いている地域は、基本的に京都です。西院(右京区)の「折鶴会館」や中京区富小路の「四富会館」とかが有名で、これら会館と呼ばれる建物のなかで複数の飲食店が営業しているスタイルですね。

パリッコ 京町屋を再利用した商業形態がルーツといわれており、それもあって基本的には各店が狭く、小箱の飲み屋さんをハシゴする楽しさがありますよね。2010年以降ぐらいからの新世代大衆酒場ブームとともに、「会館飲み」も人気になってきた印象です。


【会館飲みについてはコチラ】
京都で注目を集める「会館飲み」って何だ!? の噺
会館飲み実践編① 四条大宮・新宿会館の噺【前編】


同じような楽しみ方ができる施設やカルチャーは、関東にはないのでしょうか?

スズキナオ 似たような場所は関東だけじゃなく、全国的にあると思います。例えば大阪の「大阪駅前ビル(北区梅田)」、東京の「新橋駅前ビル(港区新橋)」なら「会館飲み」っぽい楽しみ方ができますよね。ただ、会館があるのは基本的に京都なので、「会館飲み」といえるのは京都だけかなと。

パリッコ 会館の成り立ちは戦後の風営法とかが関係してると言われていて、関東で近しい有名なスポットは「新宿ゴールデン街」ですかね。ほかには新宿西口の「思い出横丁」とか、横浜の「野毛都橋商店街ビル(中区・宮川町)」とかもありますけど。
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新宿ゴールデン街。近年では観光スポットにもなっている。写真提供:PIXTA
もうひとつ、関西独自の酒場文化「ビニシー」についても特徴から伺いました。

スズキナオ 出入口に、ビニールシートやビニールカーテンと呼ばれるものを設えた飲食店のことです。「ビニシー」と略されることが多いです。これも2010年以降ぐらいから、特に大阪の天満(北区)を中心に増え、いまでは「ビニシー通り」と呼ばれるスポットもあります。
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大阪・裏天満ちょうちん通り。写真提供:PIXTA
パリッコ もともとは市場周りのちょっとした立ち飲みとか、簡素なつくりの飲み屋さんみたいなものだったんだと思うんですけど、その雑多な雰囲気が大衆酒場ブームとマッチして流行ったんじゃないかな。

スズキナオ 東京にも、寒さ対策で冬だけビニシー仕様にするお店は昔からありますけど、ビニシーとカテゴライズされるほど定着しているのは大阪特有かもしれませんね。

パリッコ ちなみに、多いのは居酒屋系ですけど、ワインバルみたいな洋業態もあります。最近だと中華、ベトナム、タイ、メキシカンなどもありますし、その辺は自由ですね。

最後に、東西における接客の違いについて教えてもらいました。

パリッコ つい先日、ふらりと入ってみた東京下町の居酒屋が、ものすごく素っ気ない感じの接客だったんですね。

スズキナオ 傾向として、大阪は積極的にコミュニケーションを取り合うような接客が多いかもしれないですね。お客さんも、そういう会話を楽しみに来ている節がありますし。もちろんそういうお店ばかりではないんですけど、割合的には多い印象ですね。
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前編はここまで。後編では、「お酒やおつまみの違い」をテーマに東西の酒場を語っていただきます。


撮影/鈴木謙介


<取材協力>
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