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【兵庫・達人と巡る角打ち】神戸長田・永井酒店の噺

【兵庫・達人と巡る角打ち】神戸長田・永井酒店の噺

2022,12,2 更新

酒販店の片隅でさっとお酒をいただく「角打ち」。地元の人が愛する、地域の角打ち店の魅力を達人・芝田真督(しばた・まこと)さんと探索していくシリーズです。

ハイカラなイメージのある神戸市の中にあって、下町の趣が深い長田区。今回訪れた角打ちも、今なおレトロな商店街が並び、こどもたちが遊ぶ声が響く下町の一角にありました。

第8回となる今回は、大正時代から100年以上続くという老舗角打ちの「永井酒店」。すてきなお惣菜とお酒、そして常連さんとの和やかな会話を楽しめる名店です。

常連に愛される角打ち「永井酒店」

神戸市営地下鉄、駒ヶ林駅。その周辺の駒ケ林の街は、現在は埋立てが進んでいるものの、駅から続く六間道と本町筋商店街には、かつて港町として栄えていた時代の名残が見て取れます。

この駅から、徒歩で5分ほどの場所にあるのが今回訪れた永井酒店。昭和以前、まだスーパーやコンビニエンスストアが少なかった時代には、1つの商店がいくもの商材を扱っていました。
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この永井酒店も酒店の名をもちながら、かつては神戸三宮をはじめ数々の飲食店にお米を卸していた米穀店でもあり、レトロな店構えの外壁には今も「水晶米 神戸 六甲 味じまん」と描かれた看板が掲げられています。
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芝田さんに連れられて、からからと音を立てる引き戸を開いて入店。一歩足を踏み入れると、まず目に入ってくるのはお皿や鉢に盛られた酒の肴の数々。それを覗き込む私たちに「こんなもんじゃなくて、前はもっとあったんやで」と声がかかります。
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(写真左:前田さん 右:藤田さん)
カウンターの中から声をかけてくださったのは、この店のスタッフの前田さんと藤田さん。
「以前はね、このおかずももっとたくさんあって、それが飛ぶように売れていった時代もありましたよ。今は人も少なくなってきて、コロナもありますやろ。だからこの程度なんです。お店もね、前はもっと大きかったんやけどね」と昔を懐かしむように話してくれました。

とはいえ、カウンターに並ぶ料理は15品ほど。季節ならではの限定メニューもあるそうで、これだけあればお酒と一緒に楽しむのも、お昼や夕食を楽しむのにも十分なように思えます。

工場や造船所で働く人々が支えた活気

「この辺りには昔、三つ星ベルトの工場や三菱の造船所があってね、地域のみんなはもちろん、沖縄や徳之島からも働きに来る人がいて、それは賑やかなもんやった。仕事が終わる時間になると、店はいっぱいになって毎日ワイワイとして、誰もが気持ちよくお金を使ってた。いい時代やった」(前田さん)と語ります。

聞くところによれば、永井酒店は大正期に誕生し、現在は3代目となる大嶋栄子さんが切り盛りしているそう。今は米穀店は止めて角打ち一本で営業されています。

周囲の造船所や工場は少しずつ姿を消していってしまいましたが、今でも当時の活気を知る常連さんの中には、平日12時の開店と同時にこの店を訪れるという方もいるようです。
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ちょうどこの日も、店の奥で常連さんが和やかにお酒を酌み交わしています。
「終業時間になるとすぐに作業服姿で入ってくる人もいて、すごく賑やかだったよ。女性客は少なかったけれど、その当時から数人はいたね。常連はその時の楽しい酒場が良くてここにきているから、初めての客でも、“どれを食べたらいい?”って聞けば、常連がみんな教えてくれる。まぁ、おすすめがありすぎるから、かえって困らせちゃうかもね」と、一人の常連さんが笑いながら話してくれました。

芝田さん&常連さんおすすめのお酒と酒の肴

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常連さんのお話を聞いたところで、私たちもちょっと一杯いただくことに。
せっかくですから、芝田さんと常連さんのおすすめの肴を注文してみます。

懐かしい食感と香りが楽しめる「おばけ」

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これは鯨の尾羽や皮のついた脂身を塩蔵したもの。一度湯がいて余分な脂を落とし、水にさらすことから別名「さらし鯨」とも呼ばれます。「昔ながらの角打ちでは、今も見かけることが多いですね。思わず頼んでしまいます。ちょっと甘めな酢味噌がよく合います」と芝田さん。おばけには、ちょっとクセのある香りがありますが、これが慣れてくると心地よく、柔らかいのに弾力がある食感と合わせて、酒の肴にぴったりです。

「下町の定番の肴には、定番のお酒」ということで、一緒に楽しむのはタカラ「焼酎ハイボール」<ドライ>。鯨の香りや酢味噌の風味を邪魔せず、強炭酸のクリアな喉越しで口の中をさっぱりとしてくれる良い引き立て役です。

出汁と葱がふんわり香る、おふくろの味「だし巻き玉子」

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次は常連さんおすすめのだし巻き玉子。永井酒店の料理はほぼ全てが、パートで来ている地域のお母さんの手作り。そのため常連さんが「どこか懐かしい」というのも頷けます。

だし巻き玉子は葱入りと、葱なしの2種類。今回は特別に2種盛りにしていただきました。提供前に、一度電子レンジで温めてくれるので、あつあつをいただけます。出汁の香りと、柔らかな玉子の焼き加減。薄味の飾らない味付けに気持ちがほっと安らぎます。遠く離れた沖縄や徳之島からきていた工場の職員たちも、きっとこの味に故郷を見ていたのでしょうね。

柔らかな甘さのだし巻き玉子には、タカラcanチューハイ<レモン>がぴったり。出汁の香りにふわりと重なるレモンの香りが好相性です。

ジューシーな味わいとシャキシャキの歯ごたえの「ホルモン炒め」

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続いては常連さんおすすめの「ホルモン炒め」。近隣の商店街には肉屋さんも多く、新鮮なホルモンが味わえるのもこの店の魅力。ジューシーで歯応えのあるホルモンと、シャキシャキの野菜。しつこくない甘い脂と噛むほどに味わいが広がるホルモンは、飲み込むのをためらうほど。

こちらもやはりタカラcanチューハイ<レモン>と合わせてみます。炭酸の刺激とレモンの香りが口をリフレッシュしてくれるので、次のホルモンの一口がまた楽しみになります。

米穀販売の目利きがなせる、〆の名物「おにぎり」

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お酒の〆は、芝田さんも絶賛の「おにぎり」。永井酒店は長らく米穀の販売を行っていたこともあって、その目利きは今も健在。お米一粒一粒が立ってふっくらと炊き上がったおにぎりは絶品。お米の香りがはっきりとわかります。塩梅の抜群な手塩の振り加減にしっとりと掛かった海苔の香りも相まって、思わず唸る美味しさです。

初めてでも「またおいでよ」と言ってもらえる角打ち

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「もう長いことやってますから、顔馴染みのお客さんも多いですね」と前田さん。地域の方の中には、親子3代でお店に通う方や、お父さんと娘さんが連れ立って夕飯やお酒を楽しみに来られることもあるそう。永井酒店は、それほどに地元に根ざして愛され続けているのですね。

「寒い時季には、おでんと粕汁が出るから、またおいでよ、おいしいよ」と常連さんに声をかけられ、後ろ髪を引かれる思いで店を後にします。これからも、ずっと街のオアシスであってほしい角打ち。皆さんも、長田を訪れたらぜひ永井酒店へ。



芝田真督さん

日本ペンクラブ会員。神戸の下町に古くからある大衆酒場や大衆食堂、純喫茶などの魅力を伝える文筆家。
著書『神戸ぶらり下町グルメ」『神戸立ち呑み八十八カ所巡礼」『神戸懐かしの純喫茶』(以上神戸新聞総合出版センター)のほか、『兵庫下町まちあるき(兵庫図書館)」『純喫茶で学ぶ食のルポルタージュ( KAVC )」『下町グルメのススメ(下町芸術大学)』などの案内役など精力的に活動する。
現在、サンテレビWebサイトにてコラム「神戸角打ち巡礼(https://sun-tv.co.jp/column/kakuuchi)」 を連載中。

【書籍】「神戸角打ち巡礼」(https://sun-tv.co.jp/column/kakuuchi
【Webサイト】 http://msibata.org/
【神戸立ち呑み巡礼】 http://msibata.org/tachinomi/
【ブログ】 https://ameblo.jp/msibata/

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<取材協力>
永井酒店
神戸市長田区庄田町2丁目4-11
TEL078-611-0860
営業時間
    ①12:00~19:00(月・火・木)
    ②12:00~20:00(金・土)
    ③10:00~20:00(日)
定休日 水曜

▽記事で紹介したお酒はこちら
タカラ「焼酎ハイボール」
タカラcanチューハイ

▽達人・芝田さんと巡る兵庫の角打ち
<第1回> 垂水・フジワラ酒店
<第2回> 神戸西元町・須方酒店
<第3回> 苅藻・飯田酒店
<第4回> 神戸東川崎・石井商店
<第5回> 神戸魚崎・濱田屋
<第6回> 神戸東灘・美よ志
<第7回> 神戸長田・森下酒店
   

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