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【兵庫・達人と巡る角打ち】神戸長田・森下酒店の噺

【兵庫・達人と巡る角打ち】神戸長田・森下酒店の噺

2022,11,11 更新

11月11日は立ち飲みの日。「1111」が人が集って立ち飲みをしているように見えることから制定されたそうなのですが、立ち飲みといえば酒販店の片隅でさっとお酒をいただく「角打ち」を思い浮かべる方も多いのでは。今回は地元の人が愛する、地域の角打ち店の魅力を達人・芝田真督(しばた・まこと)さんと探索していくシリーズです。

第7回目の今回訪れたのは神戸市にあるJR鷹取駅。
大小さまざまな工場が点在する、どこか懐かしさを感じる下町です。まだ昭和〜平成初期の面影を残す、こういう街には良い酒場・良い角打ちがあるもの。今回訪れた森下酒店も昔ながらを大事にする名店です。

大盛況で、居住区画まで店にした昭和期

JR鷹取駅から歩いて3分ほど。緑色のオーニング(日よけ、雨よけ)が目印の森下酒店は一見すると、こぢんまりとした酒販店のようですが、ガラスの引き戸を開け、目の前に立つ大きな冷蔵ケースの脇をすり抜けると、30人は入れるかというような広い酒場が現れます。

高い天井から落ちる柔らかな光、飴色の壁板、レトロなショーケースの上には、おつまみ系の駄菓子の瓶がずらり。一瞬にして昭和に立ち返ったノスタルジーが感じられます。
これぞ角打ちという趣のこの店を切り盛りするのは、森下貴央(もりした・たかひさ)さん。
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「父親の代からの店で、もう53年になりますね。創業当初から、立ち飲みをしていたのですが、そのころのお店の広さは今の半分以下だったんです。それが、昭和の頃はこの辺りも活気に満ちていて、お客さんがどんどんと来てくださった。時には入りきれないなんてこともあったんです。それで、酒販店の奥にあった私たちの住まいの部分まで広げて今のような形になったんです。」

なるほど、確かに店内の中央部分に立つ柱は言われてみれば住居のもの。
よくみれば店舗の土間床も、多くの人が行き来したため、所々すり減り、小さなひび割れがありつつもつるりとした質感に変わって、この店の歴史を物語っています。

時間によって、客層が変わる角打ち

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「もともと、地元で働く人がお客さんになっていたんだけど、今は少し減ってしまいましたね」と森下さん。

「時代の流れでしょうか。昔現役だった地元の方は、リタイアされて時間ができたのかお昼にいらっしゃることが多くなりましたね。変わって5時以降にいらっしゃることが多いのは、大阪・神戸で働く、明石や垂水にお住まいの方々。仕事帰りに、途中下車して一杯飲んでいってくださいます。その後、地元の方々やちょっと長居してお酒を楽しむ方々が来店されます。最近ではSNSでお店のことを発信してくれる方も多くなって、女性同士やお一人でいらっしゃる方も多くなりました。みなさん、自分達が居心地の良い時間帯や、利用しやすいタイミングを知ってらっしゃるんですかね」。

時間によって変わる客層。生活スタイルによって訪れる時間は異なるものの、それぞれが心地よく過ごせる魅力がこの店にはあるのでしょう。

おつまみは日替わりの手作り料理

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森下酒店には、おつまみの値札がありません。それは、森下さんの奥様が日替わりで、毎日異なる手作りの料理を提供しているから。

「毎日メニューが変わるから、お客さんによっては“今日は〇〇はないの?”なんてがっかりされてしまうこともありますが、その分、他のメニューが登場しますからね。毎日来てくださる方にも違う料理を出し続けたいですしね。それにメニュー表がないと、店の中を歩いてカウンターの前で、今日のメニューを確認するしかない。そうなると、自然と店の中で会話が弾むんです。常連さんが、初めてのお客さんに“今日は〇〇がうまいからそれにしとき”なんてね」。と森下さん。

早速、芝田さんと私たちもカウンターに向かい、今日のメニューを確認します。

芝田さんもおすすめ!刺激的な紅生姜天

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「大阪ではメジャーな紅生姜の天ぷらですが、神戸ではあまり見かけないんです」と芝田さん。というのもある調査では、紅生姜天を食べる人は大阪に比べて兵庫は圧倒的に少ないみたいです。そんな話を聞きながら、からりと揚がった串を頬張ります。薄めの衣の中からピリッとくる刺激。目が覚めるような味わいの紅生姜天は、やはり関西大衆酒場における主役のひとつ。その刺激に、タカラcanチューハイの炭酸の刺激が加わると、心地よさに思わず「ハーッ」と声が漏れてしまいます。

ピリ辛の特製麻婆春雨

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続いては、麻婆春雨。森下さんのお話を伺っている時から、奥様が隣で美味しそうな香りを立てながら調理されているのをみていたものですから、思わず「これを!」と注文した一品。しっかりと味の染み込んだ春雨はもちもち、辛さは控えめのなんとも優しい味。大きめのキクラゲが抜群の歯応えでアクセントを加えてくれます。

ピリ辛の麻婆春雨に合わせるのは、タカラ「焼酎ハイボール」<シークヮーサー>。シークヮーサーのほろ苦さと料理の酸味が意外にも絶妙な取り合わせで、口の中をさっぱりとリフレッシュしてくれます。

ふんわりとジューシーな焼き鳥もおすすめ

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焼き鳥専門店以外の大衆酒場で、出来合いの、カチコチに固くなった焼き鳥に出会ってがっかりしたという経験のある方も意外と多いのではないでしょうか。

そんな心配は、森下酒店では不要です。しっかりと串打ちされた焼き鳥はふんわりとジューシー。肝はとろりとクリーミーで、香ばしいタレと噛むほど味が広がる身の詰まったモモ肉も、「おっ」と思わせる美味しさ。この店の料理にかける力の入れようが、ここからもわかります。焼き鳥といえば、合わせたいのはタカラ「焼酎ハイボール」<レモン>。言わずもがな王道の好相性。期待を裏切らない取り合わせです。

古き良き時代を楽しむ場所

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「この店はね、古いものを大切にしているんですよ」と芝田さんが指差す方向には、トイレの看板。「手洗所 LAVATORY」と書かれたそれは、JR鷹取駅でかつて使われていたものなのだそう。そのほかにも、カウンターの上のショーケース、提供されるコップ、店のテーブルや椅子まで、現在ではなかなかお目にかかれない年代ものがいくつもあります。
「古いものですが、この店の雰囲気が好きで足を運んでくださる方がいる限り、いつまでも残していきたいですね」と森下さんは笑って答えます。

時代を感じられる、懐かしい空間。古いのではなく、時を重ねた風合いがそこには満ちています。心から落ち着く場所でお酒を楽しみたいなら、JR鷹取駅近くの森下酒店へ、ぜひ足を運んでみてください。


芝田真督さん

日本ペンクラブ会員。神戸の下町に古くからある大衆酒場や大衆食堂、純喫茶などの魅力を伝える文筆家。
著書『神戸ぶらり下町グルメ」『神戸立ち呑み八十八カ所巡礼」『神戸懐かしの純喫茶』(以上神戸新聞総合出版センター)のほか、『兵庫下町まちあるき(兵庫図書館)」『純喫茶で学ぶ食のルポルタージュ( KAVC )」『下町グルメのススメ(下町芸術大学)』などの案内役など精力的に活動する。
現在、サンテレビWebサイトにてコラム「神戸角打ち巡礼(https://sun-tv.co.jp/column/kakuuchi)」 を連載中。

【書籍】「神戸角打ち巡礼」(https://sun-tv.co.jp/column/kakuuchi
【Webサイト】 http://msibata.org/
【神戸立ち呑み巡礼】 http://msibata.org/tachinomi/
【ブログ】 https://ameblo.jp/msibata/

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<取材協力>
森下酒店
兵庫県神戸市長田区長楽町3丁目8−8
営業時間:10:00〜21:45(酒屋)
     12:00〜21:45(立ち飲み)
     ※料理の提供は16:00~

▽記事で紹介したお酒はこちら
タカラ「焼酎ハイボール」
タカラcanチューハイ

▽達人・芝田さんと巡る兵庫の角打ち
<第1回> 垂水・フジワラ酒店
<第2回> 神戸西元町・須方酒店
<第3回> 苅藻・飯田酒店
<第4回> 神戸東川崎・石井商店
<第5回> 神戸魚崎・濱田屋
<第6回> 神戸東灘・美よ志
   

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