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【日本酒を知る】白壁蔵②:知っていたら自慢できる?日本酒造りの噺

【日本酒を知る】白壁蔵②:知っていたら自慢できる?日本酒造りの噺

「ほんとうに旨い酒を造る」――白壁蔵では、杜氏の技術と科学的アプローチを融合することで、再現性の高い、高品質な日本酒を製造しています。今回の酒噺は、そんな酒造りのこだわりが詰まった現場で日本酒の造りを知る噺です。

神戸市東灘区にある宝酒造の白壁蔵。
前回の【日本酒を知る】白壁蔵①:今更聞けない、日本酒の基本の噺に続いて今回も、2001年に「旨い酒を造る」ため、造り手のこだわりを徹底的に盛り込んで生まれたこの製造拠点で、日本酒造りの基本を学びます。
白壁蔵で工場長を務める碓井規佳(うすい・のりよし)さんから日本酒の基本を伺った後、白壁蔵の内部へと足を踏み入れました。

日本酒造りの工程とは?

伝統的な酒造りで使用していた各種道具
白壁蔵では、年に200回ほど日本酒を仕込む中で、手造りの伝統的な技術を進化させた業界屈指の設備を使用し、純米酒、吟醸酒、大吟醸など高品質のお酒を再現性高く生産しています。

工場に入ると、壁面に大きなパネルが掲げられています。

「これは昔ながらの酒造工程を描いたものです。伝統的な手法であっても、近代化された設備を用いた製法でも、酒造りの基本工程は同じなんですよ。それでは、実際に酒造りの工程を見ていきましょう」と碓井さん。

古来と現代、日本酒造りの今昔

白壁蔵での酒造の工程は以下の通り。この順に従って工場内を見学していきます。

精米:はじまりは、米を磨くことから

白壁蔵の精米機
精米とは、酒造好適米の玄米の表面を削り、脂質やタンパク質の多い表層部や胚芽を取り除く工程のこと。
白壁蔵では、酒噺でも特集した兵庫の山田錦などの酒造好適米を使用しています。

かつては臼で米をついたり、水車で精米をしていましたが、白壁蔵では巨大な精米機を使用し、専用の砥石を使って米を磨いていきます。
多い時では米の7〜8割を削ることもあるため、精米時に気をつけなければいけないのは、摩擦熱や力の加えすぎにより、米が割れてしまうことです。
割れた米は麹にも、もろみ造りにも悪影響を及ぼすので、できる限り熱や力を加えず丁寧に、球を磨くようにして精米を行います。

「この工程で失敗したら、もういい酒はできません。米の出来や硬さなど、季節ごとに状態を見ながら丁寧に米を磨きます。白壁蔵では、7割以上の精米を行う場合、100時間以上かけて精米することもあるんですよ」(碓井さん)。

こうして磨かれた米は非常にデリケートなもの。
白壁蔵では、次の工程へ運ぶ最中に米が破損しないよう、エアーなど使って一気に運ぶことはせず、ベルトコンベアを使って大切に米を運搬します。

洗米&浸漬:1%の水分が酒の出来を左右する

米の給水量をコントロールする浸漬タンク
精米した米は炊飯時と同じように糠(ぬか)を除くために洗った後、水に浸すことで水分を吸収させます。
精米歩合の高い米は非常に割れやすく、また、水分の吸収も早いのが特徴です。
洗米と浸漬時に米が吸収する水はわずか1%多いだけでも酒質に大きな違いが出るため、秒単位での時間のコントロールが必要になってきます。
白壁蔵では、デリケートな米を傷つけないよう低速回転のネットとシャワーで丁寧に洗米した後、短時間でタンクの上下から給排水できる専用の装置によって、吸水量をコントロールしています

蒸きょう&放冷:素早く冷やすスピード勝負

蒸米機
米に水を含ませたら、蒸し、最適な温度まで冷まします。蒸すことによって米のデンプンが変化(α化)し、麹菌が繁殖できるようになるだけでなく、熱による殺菌も可能となる工程です。蒸米の出来も酒の品質に大きく影響します。
白壁蔵では、和釜の原理を再現した蒸米機で50分かけて蒸しあげた後、すぐさま放冷機と呼ばれる装置に入れ、冷風によって掛米や麹米に適した温度に冷やしていきます。

「かつての伝統的な酒造りでは、酒を仕込むために、冬の冷たい外気を利用して放冷していましたが、現在の白壁蔵では徹底的に温度管理された設備内で適切に放冷することで、どのような季節でも安定して最適な蒸米を作ることができます」(碓井さん)。

麹造り:酒造りにおける最も重要な工程

麹造りの様子
酒造りにおける大事な作業は「一麹、二酛、三造り」​と言い表されます。
なかでも、第一に挙げられる麹造りは酒質を固める重要な要素であり、細心の注意を払って作業します。
麹とは、麹菌の胞子を蒸米に散布し育てたもので、この麹の作る酵素は、蒸米のでんぷんをアルコール発酵に必要となる糖へと変えてくれます。

伝統的な製法では、杜氏が自らの経験をもとに匂いや温もり、香りを確かめ、時には味をみながら2日間つきっきりで麹を作り上げていきました。
「白壁蔵でも、麹造りには特にこだわっています」と碓井さんは語ります。

白壁蔵の自動製麴機
「伝統的な麹の造り方に蓋麹(ふたこうじ)というものがあります。これは麹を作る際に温度や湿度が均一になるように、米を小分けにして細かく移動させながら作る方法。麹は生育する際に熱を発するのですが、蓋麹はその熱をうまく逃がしてあげることができるのです。もちろん、これは非常に手間のかかる方法ですから、近代ではこの熱を冷ますために強制的に風を送っていたのですが、白壁蔵では、送風する方法ではなく昔ながらの蓋麹と同じ、麹に風を当てずに冷やすための設備環境を整えています。これによって、きめ細やかで均一な麹造りを実現しているんですよ」。

酒母(酛)づくり:酒母はアルコールを生み出す酵母のゆりかご

酵母が生育し、発酵し始めた酒母
酒母とはその名の通り「酒の母」とも言えるもので、この工程では日本酒のアルコール発酵がスムーズに行えるよう、酵母を増やします。

麹・蒸米・仕込み水に乳酸菌を加えて増やしたものに、酵母を加えるのが酒母造り。酒母造りではまず、麹が蒸米のでんぷんを糖に変え、さらにその糖を乳酸菌が食べて乳酸に変えます。この時、強い酸性を持つ乳酸が酒母の中の雑菌を死滅させます。その後に酵母を加えると、酵母は酸に強いため増殖し、アルコールを生み出します。このアルコールが今度は乳酸菌を殺菌し、最終的に酒母の中は大量の酵母が繁殖することになります。
この期間はおおよそ半月〜1ヶ月ほど。酵母は1ccあたり数億個まで増えていきます。

「日本酒の造り手はこの工程を“酒母を育てる”とも言い表します。酒母を育て酵母を増やしていくためには、お湯を入れた暖気樽を酒母に入れて温めたり、氷をタンクに巻いて冷やしたりと、それこそ子どものように面倒を見ながら造っていました。また伝統的な酒母造りでは、酒蔵に住み着いた天然の酵母や乳酸菌を利用していましたが、白壁蔵では温度管理を行えるタンクで、純粋に培養された複数の酵母を日本酒の酒質に合わせて選び、使用しています」(碓井さん)。

仕込み:酒を醸す酒造りのクライマックス

仕込みの櫂入れ
「酒母ができたら、酒造りはいよいよ大詰め。仕込みタンクに麹と蒸米、仕込水と酒母を入れたものを醪(もろみ)と呼びます。これも発酵させていきます」と、碓井さん。

タンクの中では米が溶けて糖になり、その糖がアルコールへと変わっていきます。また日本酒の個性を決定づける、酸味や甘みなどの味わいと、吟醸香が生まれるのもこの醪仕込みの時なのだそう。
この発酵にもおよそ1か月ほどかかり、かつては杜氏(とうじ)が醪の様子を毎日観察しながら適切な温度を調整するため櫂(かい)入れ(櫂と呼ばれる棒で、樽の中を撹拌し温度のムラをなくす作業)を行っていました。

仕込みタンクの攪拌
「現在白壁蔵では、常にタンクの温度を見ながら冷却水を使って、温度調整をしています。また、タンクに関しても、横回転・縦回転での撹拌ができる2つのタンクを使い分けていますよ」。

上槽:私たちの知っているお酒の姿がいよいよお目見え

圧搾機で上槽から酒粕を取り出す
発酵が終わった醪を搾る工程を上槽といいます。酒袋に醪を入れ圧力をかけると、私たちのよく知る日本酒が現れます。この時、袋の中に残ったものが酒粕となります。

白壁蔵の工場内には、2mほどの高さに醪を搾るための布をかぶせた板状の機械がずらりと並んでいます。それを眺めながら、碓井さんは「白壁蔵では、現代の多くの酒造会社が使用しているフィルタープレス式の圧搾機を使用しています。ただし、大きな違いはその数。清浄な環境で酒を造り、搾るとはいえ、設備やフィルターにはほんのわずかな雑菌が残ることがあります。設備の数を増やしローテーションさせることで、2週間に一度、圧搾に使用する布をはずして、徹底的に洗浄できるように配慮しています。安全で衛生的なお酒を提供できる環境を作るためのこだわりですね」と誇らしげに話してくださいました。

熟成:こだわりの酒は寝かせることでよりその魅力を増す

タンク貯蔵による熟成
搾られた新酒は、さらに酒の中に残る微細な固形物をろ過し、残った酵素を破壊するために加熱後、熟成されます。
米と水で仕込み、酒を搾るまでが酒造りではなく、その後、貯蔵・熟成させ、壜詰めをして、飲んでいただくまでが酒造りなのです。

白壁蔵の旨い酒造り、その秘訣は「再現性」にあり。

碓井さんに連れられ白壁蔵を巡る中で、たびたび「再現」という言葉を聞きました。
白壁蔵は旨い酒を造るためにこだわり抜いて建造された製造拠点。その「旨い酒」を導くために大切なのが再現性だったのです。

「かつて酒造りは、杜氏の経験と勘に頼っていました。その酒造りは、気温や湿度、米や蔵付きの酵母の状態などによって左右されることも多かったのです。また、こうした伝統的な酒造りは気温の低い冬の間しかできませんでした。白壁蔵は多くの方に常に高いレベルで美味しいお酒を、季節を問わずお届けするため、杜氏が生み出す最高基準の酒造りをあらゆる角度からデータ化し、同じ環境・条件を再現しています」(碓井さん)。

「経験や勘ではなく、確かなデータで100%美味しいお酒を造る。かつて宝酒造の灘工場が白壁蔵へと生まれ変わる際、設備づくりやノウハウを提供してくれたのは、灘工場で酒造りを行う但馬杜氏(たじまとうじ)さんでした。それまでの酒造りとは違う白壁蔵のあり方を前にして、伝統として守り継いだ知識や技術を惜しむことなく、また余すことなく伝えてくれたその心意気には本当に感謝しています。白壁蔵はただ効率的な酒造りを目指す拠点ではなく、伝統に敬意を払い、古くからの知恵を受け継ぎ、そこに私たちの試行錯誤や挑戦を付け足しながら、本当に美味しい酒を次代へ残していくための拠点なのです」(碓井さん)。

白壁蔵では今日も、伝統的な酒造りを踏まえた新しいアプローチで、美味しい日本酒が造られています。
みなさんも酒販店や飲食店で、「白壁蔵」で造られた日本酒を購入されたり、飲まれる機会があれば、ぜひその豊かな味の中に込められた造り手の思いを感じてみてくださいね。


▽「白壁蔵」について

白壁蔵 公式Webサイト「shirakabegura.jp」
https://shirakabegura.jp/ 

▽日本酒を知る シリーズ

白壁蔵①:今更聞けない、日本酒の基本の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat2/sake-shirakabegura1 

▽日本酒造りに関するその他の噺

・自然と人の努力が生んだ、酒造好適米・山田錦の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat2/a82EE

・改めて見直す、お酒と氷の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat2/ua1CR

・秋に円熟する日本酒「秋あがり」と灘の名水の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat2/2VQmN



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