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新年を“ますます”めでたく飾る、酒枡の噺

新年を“ますます”めでたく飾る、酒枡の噺

新年を祝う席で飲みたい日本酒。せっかくならば、新しい年の門出をいつもと違う酒器「木枡」で楽しんでみるのはいかがでしょうか。

新年のおめでたい食卓で色とりどりのおせち料理とともに楽しみたいのは、やはり日本酒。グラスやお猪口もいいのですが、枡で楽しんでみるのも乙なもの。
日本酒をとくとくと注げば、ほのかにヒノキの香りが立ち上がって、なんとも風雅な趣が楽しめるだけでなく「益々(ますます)繁盛」「福が増す(ます)」と、語呂合わせの縁起もかつげる枡。
年初めのおめでたい席に活躍する枡を求めて、今回酒噺スタッフは枡づくりの現場を訪れました。

枡についてちょっとだけお勉強「そもそも枡って?」

枡の工場へ出かける前に、まずは枡の歴史のおさらいを。

酒器としても使われることの多い枡は、本来ものの体積を計量するための器。
古代から日本で、年貢米の量などを計るために使われていました。しかし、いつの時代にもよろしくないことを考える人はいるもので、米を徴収する際や買い取る際には大きい枡を使い、支払いや販売の際には小さい枡を使うという悪しき慣例が長い間行われていたそう。
時の権力者は、国の財政の元となる年貢の石高を正確に計るため、枡の大きさの統一に尽力しました。かの織田信長や豊臣秀吉、徳川家康もこの枡の統一を行った為政者です。

次第に枡の規格は統一され、現代では一般的に一升(1.8L)、五合(900ml)、一合(180ml)などの枡が使用されています。これは、日本酒や醤油などを売る時の瓶のサイズと同じ。
今から数十年前までは酒屋に空瓶や大徳利を持って行って、店先で酒樽から一升枡に酒を注ぎ、持参した瓶に入れてもらう光景が見られたものです。
また、近年人気を博している酒販店の片隅でお酒を飲む「角打ち」も、酒屋で枡に注がれた酒を持って帰るのが我慢できず“枡の角から飲んで”しまうことが語源とされています。
枡は、お酒と切っても切れない関係なのですね。

殺菌作用に豊かな香り、枡の魅力とは?

今回私たちが訪れたのは、大阪・高石市、住宅街の一角にある三協興産株式会社。
40年ほど前から枡づくりを開始し、個別の注文はもとより、数々の酒造メーカーへも枡を納入しています。
私たちが訪れた年末はまさに、年末・年始に向けた枡づくりの最盛期。
忙しい合間を縫って、営業部の味村拓郎(みむら・たくろう)さんが、枡づくりのお話をしてくださいました。

「当社の枡に使われているのは、吉野のヒノキ。枡酒を口にすると、鼻先にふんわりと木の良い香りがしますよね。これはヒノキのもつ“ヒノキチオール”という成分の香りなんです。この“ヒノキチオール”には、殺菌・防虫の効果があります。さらにヒノキには油分も豊富なため耐水性が高く、穀物はもちろん、調味料・お酒などを計る素材としてうってつけなんです。枡酒というと、居酒屋や結婚式、神事などに使われるように思われていますが、最近では一般の方がご家庭で使うために、一合枡を購入されることも多くなってきました」(味村さん)。

良い枡の選び方&扱い方って?

一般家庭でも利用できるという枡。
しかし、普段使い慣れていない私達からすると、白木の枡は扱いが難しそうに思えます。また、一般的に売られているヒノキの枡を買う時には、何か選ぶ基準があるのでしょうか。
こうした疑問にも、味村さんが答えてくださいました。

「まずは、選ぶ基準から。枡の内側に、接着剤がはみ出ていないもの。さらに表面に木材のヤニが出ていないものがいいですね。これらは不良品や体に影響があるというものではありませんが、大切に使っていく上でより愛着を持っていただくなら、こうしたものは避けた方が良いかもしれません。その上で枡の底に使われている板材をチェックしてみましょう。縦方向に綺麗な年輪の筋が入っているものは“柾目(まさめ)”と呼ばれ、反りにくく水に強い良質な木材です。当社では使用している木材の半数以上が柾目です。お店などで、枡を選ぶ際はこの柾目のものを見つけられたらラッキーですね」。

底板の断面。左が板目、右が文中にある柾目(まさめ)
「次に、お手入れの方法ですが、使い始めにまず表面の埃を払って、軽く水洗いをしてください。使用した後は再び水洗いをして、しっかりと水気を切ったら布巾の上などに逆さまにおいて、乾燥させてください。くれぐれも水に濡らしっぱなしにはしないように。大切に使えば半年~1年はゆうに使えますよ」。

枡づくりの工程を拝見!

お話を伺った後は、実際に枡づくりの現場へと足を踏み入れることに。
作業所に入った瞬間、鮮烈なヒノキの香りが漂います。

作業場には、すでに板材となったヒノキが届けられています。
最初の工程では、の板材を枡に使用する形に加工。
“ほぞ”と呼ばれる組目の溝を、慎重かつ精密に機械で掘り上げていったら、組み上げるための糊付けを行います。

糊付けしたパーツを、井形に組み上げていきます。
作業員さんの素早い手際であっという間に組み合われたパーツを、今度は機械にかけプレスすることで密着。

素早い動きで、いとも簡単に行われているように見えますが、季節や天候によって微妙に圧力を調整する必要がある繊細な作業なのだそう。

井形にパーツが組みあがったら、枡の上下を回転する刃物でカンナがけし、口のあたりや側面の接着性が良くなるように滑らかにしていきます。

養生時に浮き出たヤニ
上下のカンナがけの後、出荷直前に枡の形を仕上げていくまで、温度・湿度を保った倉庫で保管。
この時、ヒノキの状態によっては表面にヤニが浮かんでくることもあり、そうした場合はヤニの部分をカンナがけして、見た目を美しく保ちます。

出荷前、保管していた井形のパーツにごく薄く接着剤を塗り、底板を貼り付けます。
この接着剤の薄さも三協興産の腕の見せ所。製品となった時に、接着剤の漏れ、はみ出しがほとんどなく美しい姿となるよう、極力まで薄く塗り上げて、接着します。

接着したパーツと底板の密着を高めるため、機械に挟み、万力のように圧力をかけて圧着します。

最終工程では、枡の側面にカンナをかけ、ささくれなどのないツルツルとした手触りに仕上げていきます。その後、枡の四隅を同じくカンナで面取りしたら、枡の完成です。

枡づくりは一旦終了しましたが、お客様のご要望によっては焼印やプリンターで側面に名前や絵柄を加えていきます。これで全ての行程は終了。香りを保つようしっかりと箱詰めして枡は出荷されていきます。

酒器以外にも活躍の場は多数!?素晴らしき枡の可能性

三協興産では、枡以外に、ぐい呑みやコースターなど、さまざまな用途に対応した商品を試作しています
いくつもの工程を経て出来上がる枡。改めて見ると、柾目の美しい見た目はもちろん、艶やかな触り心地や、口をつけた時に優しく唇をうけとめてくれるよう面取りされて四隅まで作り手の気配りが感じられます。

用の美を兼ね備えた三協興産の枡は、先ほど味村さんにお話しいただいたように、酒造メーカーなどはもちろん、一般の家庭でも重宝されています。
さらに近年では海外の方のお土産として使われたり、思いもつかない方法で利用されることもあるそう。

「クッキーやティラミスを入れるお菓子の容器として利用されることもありますし、サボテンなどの水やりの少ない多肉植物の鉢や、針山として使うなどというアイデアもあるようです。私たちも従来の枡に加えて、高級感のある漆塗りのもの、コースターのように加工した枡とぐい飲みなど新しい形の枡の模索を続けています。古くから日本にある枡という器が、新しい文化スタイルを生み出してくれるといいですね」。

三協興産の商品は、インターネットサイトから購入可能。
みなさん、今年はヒノキの香り漂う枡で新年の乾杯をしてみませんか?
使い終わった枡は、日常の晩酌のお供にも生活を楽しくするアイテムにもなるようです。さて、あなたが考える枡の使い道は?

<取材協力>

三協興産
大阪府高石市取石5-5-34
通販サイト:ヒノキオショップ
https://www.hinokio.com/shop/


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