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発酵食のスペシャリストが語る味噌と日本酒の噺

発酵食のスペシャリストが語る味噌と日本酒の噺

2023,2,3 更新

京都を拠点に第一線で活躍されている匠が、お酒の楽しみ方を語るシリーズ。今回は、「発酵食堂カモシカ」を拠点に発酵文化の普及に取り組む関恵(せき・めぐみ)さんに、味噌をはじめとした発酵食とお酒の楽しみ方についてお聞きしました。

発酵食は、日本が世界に誇れる文化

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京都市右京区、JR嵯峨嵐山駅から徒歩約2分の場所にある、発酵食を取り入れた料理やスイーツを提供する「発酵食堂カモシカ」。
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2階には、味噌やぬか床などオリジナルの発酵食を販売するショップ「発酵マルシェ」があります。
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「発酵食堂カモシカ」「発酵マルシェ」を運営する関恵さんは、京都府出身。
北海道大学・経済学部在学中、スウェーデンのヨーテボリー大学・政治経済学部に交換留学。そこで福祉や医療の現場実習を経験したことでヘルスケアの世界に興味をもち、卒業後に医療マネジメントの修士号を取得されました。

「実家は薬局で、両親ともに薬剤師。その影響もあり、20代は東京で医療コンサルタントなどをしていました。でも、医療に携わっているはずなのに、どうしても自分が健康に寄与している実感が湧かないままでいたんです。

そんな折に長女を妊娠。愛知県にある “医療を使わない自然出産”を実践する吉村医院という産婦人科と出合いました。そこで目の当たりにしたのは、妊婦さんが自ら薪を割って体を鍛え、自然なお産にむけて食生活を整えていく実践の姿。そこには当たり前のように発酵食を仕込む人々の姿がありました。そのような発酵食をとり入れた生活の中で、健康でいられる一番の秘けつは『予防』なのだと考えるようになり、そして予防の要は『食』だと、実感するようになりました」。

それ以来関さんは、家族の健康のために、味噌や梅干しなどの発酵食をせっせと手作りするようになり、段々と発酵の世界にはまっていきます。
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「菌は目に見えないけれど、ちゃんと生きている。0か1かと割り切ることのできない点は、日本人の心に根付いている宗教観にも通じているように思います。また、味噌やお酒を含めこれほど発酵食が多い国は珍しい。日本には世界トップクラスの発酵技術があり、日本にしか存在しない菌もあります。発酵は、日本が世界に誇れる文化だと思います」。

また関さんは、「発酵食品は腸内環境を整えるということも科学的に明らかになってきました。腸がスッキリすると気分もよくなりますよね」とも語ります。自身の経験から、発酵食は心身に良い影響を与えているのだそうです。

そして、関さんが第2子を出産してすぐの2011年3月、東日本大震災に見舞われたことをきっかけに、当時住んでいた千葉から生まれ故郷の京都に移住しました。

「味噌を手作りし、ぬか漬けを作っていたかつての日本のように、発酵文化を台所に取り戻したい。そのためにはまず、発酵食の美味しさを多くの人たちに知ってもらう必要がある」と、2014年5月に『発酵食堂カモシカ』をオープンしました。 “醸し家(かもしか)”には、「醸す人」という意味が込められています。
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「かつての日本では、発酵食を自宅で手作りしてきましたが、現在は味噌やぬか漬けを作る人が少なくなっています。それでも、人には誰しも、自分の手を動かして何かを作りたいという欲求があると思うんです」と関さん。

関さんが増やしたいのは、「プロシューマー」なのだとか。
「プロシューマー」とは生産活動を行う消費者のことで、プロデューサー(生産者)とコンシューマー(消費者)を合わせた造語です。

カモシカの店舗を訪れるのは「自分が作ったものを自分で食べたい」というプロシューマー予備軍。女性の比率が多いそうですが、コロナ禍で自炊や手作りに目覚めた男性も増えているそうです。
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「発酵食を手作りするのは、実は簡単!」そう話す関さんのおすすめは、
 ①発酵食を食べて興味をもつ
 ②実際に作ってみる
 ③美味しかったから誰かにおすそ分けする
 ④また作ってみる
というステップで発酵食の手作りの良さを体験することだそうです。

2月は味噌仕込みのベストシーズン

味噌は、大豆を茹で、塩と麹(こうじ)を合わせて容器に詰めて約1年弱寝かせてできあがります。麹を多めにすると、1ヶ月ほどで白味噌になります。

味噌仕込みのベストシーズンは2月。寒い時期は雑菌が増えにくいためです。
暖かい春から暑い夏にかけて発酵熟成が進み、気温が下がる秋に味が熟成して味わいが落ち着いていきます。
手作り味噌の材料を詰め合わせた「手前味噌キット」

手作り味噌の材料を詰め合わせた「手前味噌キット」

「味噌を自分で作ってみたいけど、難しそう」「材料の選び方がわからない」という味噌づくり初心者のために、カモシカでは手作り味噌に必要な材料を詰め合わせた「手前味噌キット」を販売しています。

その中には、滋賀県産の青大豆、米麹(一般的な量の倍量)、京丹後の夕日が浦の海水を浄化し手作りする天然海塩、発酵マガジン(手前味噌編)が入っています。

また、関さんは、カモシカのぬか床購入者向けに、ぬか床の悩みを解決する「ぬか床クリニック」というアフターサービスも行っています。
その理由は、ただ自社商品が売れたらいいというのではなく、「自宅で発酵食づくりを続けてほしい」というカモシカ創業当初からの変わらぬ想いがあるから。
「暮らしの中に発酵食を手作りする習慣をとりいれることで、身体が整うだけでなく、生活も豊かになる」と関さんは語ります。

2階にある物販店「発酵マルシェ」では、食堂で食べたものを「台所で楽しむための商品」を販売しているのです。

発酵文化の象徴・日本酒は発酵おかずと好相性

関さんは大のお酒好きで、特に好んで飲んでいるのが日本酒です。
仕事を終えて自宅に戻ると、子どもたちやお酒好きの旦那さまとおしゃべりを楽しみ、料理を作りながら日本酒を飲むのが日課なのだとか。
調理中にお酒を飲むと全身の感覚が研ぎ澄まされ、テンションが上がっていくのだそう。

関さん宅のメニューは和食が中心で、その理由は「日本酒に合うから」。
関さんは、「ごはんをおいしくいただくために、日本酒は必要!」とも語ります。

「日本酒は発酵文化の象徴的な存在です。発酵によって造られる日本酒は、発酵食と相性も抜群! 昔から日本人が慣れ親しんできた発酵同士が呼応し合う味わいは、日本人のDNAが喜ぶというか。例えば鮒寿司と日本酒を一緒にいただいたときなど、“しみじみとおいしい”という何とも言えない幸福感に包まれますね」。

そんな“しみじみとおいしい”という感覚を味わうために、今回は、日本酒と味噌を合わせていただきます。

「特選松竹梅<純米大吟醸>は、香り高くきれいな味わいの日本酒。飲んでみると、キリッと濃い味わいの、おかず味噌が合うと思いました。おかず味噌とは、その名の通り、そのまま食べてもおかずのようになる味噌のこと。カモシカオリジナルの『柚子味噌』と『中華風ピーナッツおかず味噌』を酒のお供に選びました。
この綺麗な味わいのお酒に、いろいろ合わせてみたくなり、カモシカの看板商品『手前味噌』もセレクトしてみました。お味噌汁にも使いますが、この味噌はそのまま食べても美味しいんですよ」。
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特選松竹梅<純米大吟醸>は、精米歩合(※)45%まで磨いた贅沢な造りのお酒。
りんごを思わせるフルーティな香りと、純米ならではの旨みがありながらもすっきりとした味わいが楽しめます。
※精米歩合(せいまいぶあい):日本酒造りに使用する玄米を磨いて残った割合

3種の味噌それぞれの滋味と甘味が口の中に広がったところで、特選松竹梅<純米大吟醸>をいただきます。

「柚子味噌」は、柚子の皮も実も入れ、麹で仕上げた期間限定の味噌。フルーティな吟醸香と柑橘のさっぱりとした香りが合わさり華やかな味わいが楽しめます。

炒り落花生と火入れしない味噌、ニンニク、ショウガ、ごま油で作った「中華風ピーナッツおかず味噌」は、おかず味噌の旨味に、スッキリとしたお酒の香りが重なります。

そして、生産量の限られている貴重な青大豆と通常の倍量の麹を使って仕上げる「手前味噌」。やや甘めの味噌の味と特選松竹梅<純米大吟醸>の丸味のある芳醇な飲み口がマッチします。

関さんが日本酒を飲むときに愛用しているのが、漆の高杯です。
福井県の漆作家・山岸厚夫さんの作品で、漆塗りのやさしい口当たりがお酒の味をまろやかにしてくれるのがお気に入りだそうです。
「麹納豆」と「手前味噌」

「麹納豆」と「手前味噌」

続いて紹介するのは、レタスの上にこんがりと炙った油揚げと「麹納豆」を乗せた「麹納豆あん」。こちらはお店の定食メニューにも登場します。
「麹納豆」は、納豆と麹、みりんや料理清酒とともに熟成させるという、発酵素材をふんだんに使った「手前味噌」と並ぶカモシカの看板商品です。

「みりんや料理清酒は、発酵による甘みをさらに足したいときに使います。和食は淡い味付けのイメージがあるかもしれませんが、発酵食堂カモシカの発酵料理は濃いものは濃く、甘いものは甘めに仕上げています。その理由は、まず『おいしい!」と思っていただきたいから。最初においしい印象を持っていただければ、手作りしてみたいという次にステップの繋がっていきやすいと思うんです」。
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濃い味付けの「麹納豆あん」に合わせるのは、全量芋焼酎「ISAINA (イサイナ)」の炭酸割りです。

ロックならほっこりとした焼き芋のような香りが楽しめますが、こちらの炭酸割りはりんごのような瑞々しい香り。
カリカリの油揚げに乗せた「麹納豆あん」をいただいた後、「ISAINA」の炭酸割りをキュッと流し込むと、スッキリと爽快な気分が楽しめます。

「ISAINAは芋焼酎とは思えないほどきれいな香りで、クセがないのが好みです。ギョウザのような濃いおかずにもぴったり合うと思います。実は、カモシカの料理に焼酎を合わせるのは初の試み。この新しいマッチングを、皆さんにも試していただきたいですね」。
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次にご紹介するのは、玄米甘酒のアイスクリームです。
玄米もち米を発酵させた自家製甘酒は、砂糖を使っていない自然な甘さ。豆乳と合わせることで、甘酒の甘みが引き出されています。

そんなデザートのお供に選んだのは、スパークリング日本酒「澪」です。
「澪」は、玄米甘酒と同じくお米由来。米・米麹だけで生み出されたやさしい甘みと酸味が特長の、爽やかな泡が心地よいスパークリング日本酒です。

「ほんのりとした甘さはお米と麹から来ているのですね。香料を使っていないのには驚きです」。
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関さんのおすすめは、玄米甘酒のアイスクリームに「澪」をかけたアフォガードです。

「玄米甘酒のアイスクリームは玄米もち米を使っているため糖度が高いのですが、食べ終わると舌の上の甘さがさっと引きます。澪も同じく、甘さがいつまでも口に残りません。お米由来の発酵食の共通点を発見し、試しに澪をかけてみたところ、意外にあうことを発見しました」。


味噌をはじめとした“発酵食”と、同じく発酵の力で造られた“お酒”との相性は抜群です。

まずは、私たち日本人の心と身体が喜ぶ発酵食づくりにチャレンジしてみませんか?
手塩にかけて作った発酵食の“しみじみとおいしい”味わいに感動するに違いありません。

手作りの発酵食が、オリジナリティあふれる晩酌タイムにしてくれることはもちろん、日々の暮らし豊かに彩ることでしょう。

<取材協力>

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発酵食堂カモシカ
住所:京都市右京区嵯峨天竜寺若宮町17-1
営業時間:11:30~17:00(ランチL.O.15:00)
定休日:日曜・月曜
URL:https://kamoshika.kyoto.jp


▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら

●特撰松竹梅<純米大吟醸>
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/junmaidaiginjo/

●全量芋焼酎「ISAINA(イサイナ)」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/isaina/

●松竹梅白壁蔵「澪」スパークリング日本酒
http://shirakabegura-mio.jp
▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「匠×酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・専門家が語るおせちのアレンジ料理とお酒の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat2/osechi_230106

・専門家がおせちのポイントを伝授!新年を彩るおせち料理とお酒の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/osechi_221209

・京都の老舗料理旅館「八千代」の支配人が語る和食と日本酒の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat2/japanesefood_221104

・10月1日は「日本酒の日」―北野天満宮と日本酒との深い縁の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/sakeday_220930

・京都の和菓子職人が語る、和菓子と酒の噺
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・京都の老舗豆菓子屋主人が語る「京都の節分と酒」の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat1/setsubun_220203
   

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