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行列の絶えない人気立ち飲み店オーナーが語る、京都の立ち飲み文化と酒の噺

行列の絶えない人気立ち飲み店オーナーが語る、京都の立ち飲み文化と酒の噺

2023,4,7 更新

京都を拠点に第一線で活躍されている匠が、お酒の楽しみ方を語るシリーズ。今回は、「たち呑み しゃーぷ 四条木屋町」オーナーの井上智之(いのうえ・ともゆき)さんに、立ち飲みの魅力についてお聞きしました。

京都で話題の立ち飲み店「しゃーぷ」

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京都の繁華街、四条木屋町を南に下がると見えてくる「たち呑み しゃーぷ 四条木屋町」。
2020年10月のコロナ禍にオープンしたにもかかわらず、たちまち大人気となり、「外で座って待ち、店で立って飲む」と京都で話題の立ち飲み店です。
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オーナーの井上智之さんは、京都の老舗料亭で修業を積んだ経験のある料理人。
清水焼の器で提供される上質な料理が、品揃え豊富な酒とともにリーズナブルに味わえる!と評判になり、老若男女から支持されています。

たとえば、うなぎの肝の天ぷらは320円、鴨ロース煮480円と格安です。自家製のポテトサラダに至ってはなんと80円! お酒2杯と料理2〜3品をオーダーしても、約1800円ほどで収まるというから驚きです。

「ハイクオリティな料理と酒を、立ち飲み価格で楽しめるようにしたい」という井上さんの思いが、店の人気を不動のものにしているのです。

そんな奇跡の店を実現した井上さんを、「小箱のプロフェッショナル」と呼ぶ人もいるのだとか。

老舗料亭出身のオーナーだからできる店

オーナーの井上さんは大阪の出身。
自営業の父親が多忙だったため、子供の頃から土曜日の昼食は近所の洋食店でいただくのがおきまりでした。
大きなボウルでマヨネーズを手作りするシェフを見て「料理人ってカッコいいな」と感じたことがきっかけで、高校卒業後は京都の有名料亭で働き始めます。

6年勤めた料亭では、日本料理のいろはを学びました。
当時、森喜朗首相(当時)とプーチン大統領の会食も手がけたそうです。
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その後は居酒屋やダイニングバーといったカジュアルな飲食店の調理場も経験し、さまざまな料理の技術を習得した井上さん。
中央市場での魚の仕入から、カクテル作り、カウンターを挟んでのお客さまと会話など、独り立ちに必要な多くのことをこの期間に学んだそうです。

なかでも印象深かったのは、京都の立ち飲みの名店「すいば」でした。
井上さんは、人気立ち飲み店のリーズナブルな価格帯に衝撃を受け、「自分にしかできない立ち飲み店とは何か」について考えはじめます。

「自分の特長は、料亭出身の腕で料理を作れること。そのスキルを活かし、上質な料理をリーズナブルな価格帯でお客さんにお出しできるのではないかと思いました。そんな立ち飲み店は他にないから、やってみようと思ったんです」。

いかにして、そんな夢のような店を実現するか。
悩んだ末、井上さんは、1品1品の料理の量を調整することで価格を抑えることにしました。
こうして2020年10月、『たち呑み しゃーぷ 四条木屋町』がオープンしました。

京都の立ち飲み文化を盛り上げたい

ふらりと立ち寄ることができる気軽さと、リーズナブルな価格設定。
今や立ち飲み店は、20代からシニア層まで、老若男女に浸透しつつあります。
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「大阪にはさまざまなジャンルの立ち飲み店があるけれど、京都は立ち飲みが盛り上がってきてまだ5年ほど」と井上さんは語ります。

京都の立ち飲み店は、どこも似たような居酒屋メニューが中心で、酒も料理もまだまだバリエーションが少ないそうです。

「京都で立ち飲みをひとつの『文化』にしたいんです。中華やイタリアンの立ち飲み店があってもいい。多くの人にいろんな立ち飲み店に足を運んでもらって、お酒を立って飲む楽しい雰囲気を知ってほしいです」。
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「ウチは料理とお酒だけでなく、器にもこだわっています」と井上さん。
その理由は、「若い人たちにも本物を経験してほしいから」。

「一般的に本格的な料理や器に出合えるのは格式の高いお店ばかりで、特に若い世代には敷居が高く、足を運びにくいのが現状です。
だから「しゃーぷ」では、料理を盛り付ける器も、清水焼をはじめとした上質なものにこだわり、若い人たちにも気軽に非日常のひと時を楽しんでもらいたいと思っています」。

美味な料理や楽しい話題がすぐ「共有」できる。これが立ち飲みの面白さ

立ち飲みの魅力について、井上さんは「お客さんと店主、お客さん同士でリアルタイムで『共有』できること」だと語ります。

ひしめく店内で和気あいあいと飲み、語り合う。
ある日は井上さんの笑い話で場をなごませたり、またある日は珍しいお酒やメニューが話題になりお客さんとの会話が盛り上がったりと、狭い立ち飲みの空間では、さまざまな「共有」が繰り広げられます。
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見知らぬ客同士でも自然と生まれる「それ、何飲んでるの?」「美味しそう! 私も注文しよう」というやりとり。

「その場で写真がSNSにアップされたり、料理や酒の味、会話の内容が、お客さん同士でどんどん共有されていくのが楽しいですね」。

店と客との距離が近い小さなスペースだからこそ生まれるコミュニケーションが、「立ち飲み」のほかならぬ魅力なのでしょう。

「松竹梅 豪快」は、どんな料理にも合う懐の深いお酒

「立ち飲みといえば、やはり日本酒」と、井上さん。
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「しゃーぷ」の日本酒のラインアップは、約40種類。京都ではなかなかお目にかかれない銘柄も、全国の酒蔵から取り寄せています。

とはいえ、「立ち飲み店には、スタンダードな日本酒があるという安心感も必要」。そこで選んだのが、松竹梅「豪快」です。
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「『豪快』は、シメサバにも煮物にも合う。むしろ、合わない料理は無いんじゃないですかね。本当に懐の深いお酒です。熱燗にしても旨いので、真夏でも熱燗を飲むお客さまも多いんですよ」と、井上さんは心底惚れ込んでいます。

しゃーぷ自慢の究極の板わさを「豪快」とともに

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コップになみなみと注がれた「豪快」。
「相性が最高」と、出されたのは「究極の板わさ」(200円)です。

一般的な板わさは、カマボコにわさびを挟んだものですが、「しゃーぷ」の板わさは一風変わっています。
チーズのように見えるふわふわの白い粉の正体は、北海道産の山わさびを削ったもので、「『豪快』との相性抜群!」と井上さん。
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ふんわりした山わさびを箸でつまんでいただくと、まろやかで上品な辛さが口の中に広がります。

続けて、鹿児島産の甘いたまり醤油を少しかけて、かまぼこと一緒に一口。

山わさびとかまぼこのバランスが絶妙で、一層お酒が進みます。

焼酎のシンプルな美味しさを楽しむなら断然「プレーン」

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次なるお勧め料理は、カラスミ・キャビア・辛子明太子・オクラ・青じそを巻いた、その名も「痛風手巻き」(580円)。
豪華な食材の組み合わせと “映える”ビジュアルで、リピート率の高い一品です。

「痛風手巻き」に合わせる井上さんおすすめのお酒は「プレーン」。
「プレーン」とは、甲類焼酎を炭酸水で割っただけのシンプルなチューハイです。

「焼酎のうま味がはっきりとわかるのが、プレーン。逆にいうと、焼酎の質がチューハイの美味しさを左右します」と、井上さん。
そう語る井上さんが選んだのは、定番のロングセラー品「宝焼酎」。
ピュアなアルコールに樽貯蔵熟成酒をブレンドしたまろやかな味わいの甲類焼酎です。
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「痛風手巻き」をガブッとほおばり、複雑に絡み合った食材の旨みが一気に口に広がったところに「プレーン」を流し込むと、焼酎のほんのりコクのある香りが鼻に抜け、食材の濃い味わいを包み込んでくれます。

また、お酒の濃さは一人ひとり好みが違うもの。
だから「しゃーぷ」では割って出さず、焼酎が入ったグラスとビン入りの炭酸水を提供することで、お客さん各自の好みでお酒を楽しんでいただいているのだそうです。
炭酸水が余ったら、焼酎を追加で注文できるのも嬉しいですね。

酒の楽しさが広がる、立ち飲みの醍醐味

サクッと食べて飲んで、おしゃべりして…「しゃーぷ」でのひと時はあっという間に過ぎていきます。

井上さんは会計時、お客さんに「いってらっしゃい」と声をかけて送り出しているのだとか。
つかの間の時間を「しゃーぷ」で過ごし、心地よくなった来店客は、そんな井上さんの声に背中を押されながら、次なる店へ、あるいは自宅へと歩みを進めていきます。
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お客さんに楽しんでもらうことはもちろん、井上さん自身も、お酒の場を共有できる立ち飲みが好きでたまらないそう。

「夜布団に入った時に『今日は、なんか楽しかったな』と思ってもらえるといい。それが立ち飲みの醍醐味なんですよ。見知らぬ人たちとひしめき合って飲む立ち飲みだからこそ、座って飲む店とは違ったお酒の楽しさが広がるはず。立ち飲みに行ったことがない人も、気軽に立ち寄ってみてほしいです」。

井上さんは今宵も「いってらっしゃい」と声をかけて、お客さんを送り出します。
そんな声に背中を押され、「なんだかリフレッシュできた。明日も頑張ろう」と思える。それが立ち飲みに行きたくなる理由なのかも知れません。

<取材協力>

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たち呑み しゃーぷ 四条木屋町
住所:京都市下京区斎藤町140-17
URL:https://www.instagram.com/sharp_tachinomi/
(取材日:2023年3月14日)

▽料理と一緒にご紹介したお酒はこちら
●松竹梅「豪快」
https://www.takarashuzo.co.jp/products/seishu/gokair/

●宝焼酎
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/takarashochu/


▽そのほか、『ハンケイ500m』コラボ記事「匠×酒シリーズ」はこちらから。
『ハンケイ500m』ホームページ(https://www.hankei500.com

・京都の老舗菓子司・末富の4代目が語る新しい京菓子に合うお酒の噺
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